◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄の罠

「でも良かったのぉ?」

「何が?」

 

 食蜂操祈は珱嗄に問う。つい先ほど、午前中に珱嗄と食蜂は早めに合流してあることを行なった。それは、御坂美琴の友人である白井黒子らの記憶を改竄する、ということだ。食蜂としては珱嗄の指示だったが、今でも何故そんな事をしたのか理由を知りたかった。

 

「ああ、まぁ大した理由じゃないんだ。昨日会った第四位の事覚えてるか?」

「ああ……あの」

「俺は訳あってアイツとチームメイトなんだけどな、アイツに言われてんだよ。一般人を暗部に関わらせるのは控えてくれってさ」

「ああ……なるほどねぇ」

 

 本当の理由は特にないのだが、珱嗄は取ってつけた様にそれらしい理由を述べた。

 まぁ言われているのは本当だし、一般人を暗部に関わらせると後々厄介なのも知っている。御坂美琴が白井達を頼ってあれこれ無駄に動きまわると非常に面倒なのだ。

 

 だから記憶を消したという意味もある。

 

「つっても、どうやら敵さんはみこっちゃんにご執心のようだからね。みこっちゃんを味方を付けずにフリーで放置しとけばホラ……一気に芋づる式で釣れるかもよ?」

 

 珱嗄はゆらりと笑った。御坂美琴が欲しいなら、御坂美琴を餌にすればいい。ミサカネットワークが欲しいなら、ミサカネットワークを餌にすればいい。つまり、そういうことなのだ。

 敵の情報が少ないから、強制的に敵の方を釣り上げる。

 

「それに、みこっちゃんにはアセロラを付けてる……今頃、敵さんとよろしくやってんじゃねぇか?」

 

 食蜂は珱嗄の考えがどこまで本当で、どこまで嘘か分からなかった。珱嗄は行き当たりばったりで辿り着いた展開に、それらしい理屈と理由を後付けする。自分の行動にはこんな理由と意味がある、と辿り着いてから考えて話す。だから珱嗄がどんな行動をとるのかは予測出来ないのだ。

 

 今まで心を呼んで全てを知って来た食蜂としては、信頼しているとはいえその珱嗄の不明さが少しだけ、怖かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 一方通行が現れて、意表を衝かれた御坂美琴だったが、すぐに我に返って行動を開始する。目の前で同じ様に呆気に取られているフードの少女の近くにいる初春が座っているベンチを、磁力で手繰り寄せ、それによって我に返って初春を攻撃しようとした少女のナイフは、一方通行が小石を蹴ってぶつけることで阻止した。第一位と第三位の連携は、実験でお互いの情報を知ったからこそ出来たものだった。

 

「おっとっと? これは不味いカナ? 流石に第一位とはやり合いたくないしねっ」

 

 少女はそう言うと、元々そういう物で出来ていたのか、金属の様な色になったあと、どろどろと溶けて消えた。どうやら、能力で操っていた液体金属だった様だ。

 

「初春さん! ………はぁ、とりあえずは大丈夫みたいね」

 

 御坂は初春の脈拍や呼吸が正常であることを確認し、ひとまず胸を撫で下ろした。そして、次に自身の母親の近くにいる一方通行を見た。彼は御坂美鈴の首元に触れ、同じ様に身体に異常が無いことを視線で伝えて来た。

 その事は一旦安心したが、何故一方通行が助けに来たのか分からなかった。あの実験以来、自分は彼を許していないし、助けて貰う程の何かをした訳でもない。

 

「よォ、とりあえずお前の抱いてる疑問やらなにやらに答えてる暇はねェ……今は誰かに連絡してこの二人を安全な場所に移動させるこった」

「……分かったわ……でも、後でちゃんと教えて貰うから」

 

 御坂美琴はそう言うと、とりあえず疑問を置いておいて白井達へ電話を掛けた。今現在において自分の記憶を失っている白井黒子達だが、初春が絡んでいるのだ、言えば力になってくれる筈だ。

 

「さて……こっちは言われた通りに第三位を助けたが……珱嗄の奴、何考えてやがンだァ?」

 

 一方通行は、珱嗄に言われて御坂を見張り、場合によっては助けに入ってくれと言われたから一応助けた、が……その後どうすればいいのかは聞いていない。周囲には誰もいないようだし、一旦合流した方が良いのかと考え、珱嗄に電話を掛けた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 電話が鳴る。珱嗄はポケットから電話を取り出して、応答する。

 

「もしもし? ………へぇ、そうか。うん、ありがとう一旦戻って良いよ」

 

 珱嗄はそう言って、思惑が成功したらしい笑みを浮かべた。

 

「じゃあね、滝壺(・・)ちゃん」

 

 電話が切れる。

 実は、珱嗄は昨日の麦野が言っていた、協力が必要なら言え、という言葉を思い出して、一方通行とは別に滝壺を御坂に付けていた。そして、敵を釣るという思惑通りに、敵が現れてくれた訳だ。しかも、都合よく『能力者』が。

 そうなれば後は簡単。滝壺の『AIM追跡(AIMストーカー)』を使ってAIM拡散力場を記憶、敵のトップでなくとも、敵の一員を追跡する事が出来るのだ。

 

「さて、多分此処で襲撃掛けてくるようなのは敵の中でも下っ端だろうけど……何かしらの情報があればいいなぁ」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。敵は少しずつ、珱嗄の手中へと手繰り寄せられていた。

 

 


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