◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄への難題

「まぁそう気を落とすなよ」

「……」

 

 珱嗄達は現在、道に設置されたベンチで落ち込む食蜂を慰めていた。その理由は、木原幻生がやってくると言っていた施設に木原が来るのは、今日では無く明日であることが分かったのだ。よって、気合を入れて歩きだした食蜂は出鼻をくじかれたという訳だ。

 とはいえ、何の手かがりも得られなかったという訳ではないのだから、食蜂は落ち込むより誇るべきなのだが、珱嗄が信頼を寄せると言ってからというもの、どうも調子が狂いっぱなしだった。

 珱嗄が話し掛ければ挙動不審になり、しいたけと呼ばれても反抗的ではなくなった。また、何処か珱嗄と若干距離を取っている節があるし、かといえば珱嗄の近くに寄ろうとする事もある。珱嗄と会話する時はなんとなく頬を紅潮させているし、珱嗄が打ち止めと話し始めると寂しそうに眉をハの字に歪める。

 

 どうみても好きな人に対する乙女の態度だが、食蜂自身、それがどういう感情なのか分かっていなかった。過去で本当に友達だったドリーに感じていた感情と似通っているものの、少し違う違和感。かつて安心院なじみが感じていた様なもどかしさを、食蜂操祈もまた感じていた。

 とはいえ、この場合は両者別の原因だ。

 安心院なじみは恋愛という概念がない時代から生きていたから恋愛を良く分かっていなかったのに対し、食蜂操祈は人を信じられなかった状態からいきなり恋愛感情が生まれてしまった故に、戸惑っているのだ。

 

 まぁ、どちらにせよ結果は同じことなのだが。

 

「しいたけ?」

「えっ!?」

「どうしたよ」

「な、なんでもないわぁ! 木原幻生が来るのは明日みたいだし最初に言った通り大覇星祭でも案内しましょうかしらですよ!?」

「落ち付け」

 

 おどおどと慌てる食蜂は、わたわたと身振り手振りで捲くし立てる。だが、まったく正しい言語になっていない言葉だった。

 そして、それに対して珱嗄が嗜めながらデコピンを一撃放つ。

 

「あたっ!?」

「全く、お前俺の記憶覗いた割には能天気だな」

「き、記憶を読んだって言ってもかなり端折ったのよ? 記憶の量が膨大過ぎなのよぉ」

「3兆年あるからね」

「だから貴方の中に強く印象に残っている記憶だけ読んだの………あ!?」

 

 食蜂操祈は思い出した。珱嗄の記憶の中、覗いた記憶の中、つまり珱嗄が歩んできた過去には、食蜂の恋心を確実に阻む強大な壁があった。それも、幾つか。

 

 

 珱嗄の恋人―――――安心院なじみ

 

 

 珱嗄の義娘―――――泉ヶ仙ヴィヴィオ、帯刀靱負

 

 

 珱嗄の義妹―――――八神はやて

 

 

 珱嗄の愛猫―――――ネフェルピトー

 

 

 大きな壁を挙げればこの5人。この全員が珱嗄に対して少なからず恋愛や親愛以上の好意を抱いており、その全員が珱嗄の家族という立ち位置を獲得している。もっと言えば、『恋人』のポジションが埋まっている。これはとんでもなく不味い事態だった。

 

「………何この無理ゲー……」

「何が?」

 

 食蜂は、珱嗄を手に入れるということが如何に難しいかを思い知った。しかも、上記のメンバー以外にも、珱嗄が作ったアイドルグループや、親友等、おそらく現時点で自分以上の絆で繋がる存在は多く存在していた。珱嗄の『妻』というポジションは安心院なじみが法的に手に入れられず、未だ空き枠となっている。つまり、食蜂は少なくとも安心院なじみ以上に珱嗄を魅了してみせなければならないことになる。

 そう、たった十幾つの年齢しか生きていない自分が、約3兆の時間を生きて来た人外の男を惚れさせなければならないのだ。手にするには条件が鬼畜すぎる賞品だった。

 

「ま、明日まで暇になったんだし……祭を楽しもうぜ?」

「ねぇねぇ! あっちにたこ焼きあったよ! 食べようよ! ってミサカはミサカは提案してみる!」

 

 肩を落とした食蜂にそう言う珱嗄。そこへ屋台を見に行っていた打ち止めが駆けて来た。珱嗄はそんな打ち止めを見てゆらりと笑う。少しまでにたこ焼きで痛い目みたいのにまだ懲りていないと見た。

 

「わはは、また舌を焼くぞ?」

「それは嫌だ!!」

 

 珱嗄の言葉に、打ち止めは語尾を忘れて全力で拒否の体勢を取った。

 

「ぷっ……ふふふ……」

「おや何笑ってんだしいたけ?」

「いや……さっきのたこ焼きの時のこと思い出して……ふふふ……!」

 

 食蜂は笑う。道のりは厳しいが、挑戦するにはもってこいの難題じゃないか。

 立ち上がり、珱嗄の手を取った。

 

「ん?」

「さぁ行きましょう☆ 大覇星祭を案内してあげるわぁ!」

 

 そう言った食蜂の顔は、本当に楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 


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