◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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しいたけフラグ

「木原幻生?」

 

 その後、珱嗄達は歩きながら食蜂の知る情報を聞いていた。その中出て来たのが、木原幻生という名前の科学者だ。

 

「そう、木原幻生という科学者が、私の心当たり。年齢的にはもう年寄りなんだけれど、腹に何を抱えてるかそこの知れない奴よ。そして、妹達の実験を発案した人物でもあるわ」

「へぇ……怪しいね」

「そして、その木原幻生は私を中心に行なわれている実験の当事者でもあるの」

「実験?」

「『エクステリア』……私の大脳新皮質の一部を切り取って、培養した強大な大脳を使った実験よぉ。簡単に言えば私の能力を誰にでも使えるようにするっていう実験」

 

 食蜂操祈は幼少の頃からレベル5の力を行使できた。その精神干渉の力は絶大で、多くの研究者から期待と試験価値を見出されていた。故に、彼女に寄って来る科学者は多い。それが良い科学者であろうと、悪い科学者であろうと、なんでもかんでも寄って来るのだ。

 その寄って来た科学者の中で今現在も食蜂に絡みついているのが、『エクステリア』という大層素敵な玩具を作った科学者達。

 元々は『才人工房(クローンドリー)』という名前で『偉人を造る』のを目的としていたのだが、食蜂の能力を誰でも使えるようにすれば『偉人を造る』より簡単な、『偉人を洗脳する』という方向性を築いたのだ。

 

「成程、しいたけはしいたけで面倒な実験に巻き込まれてんだねぇ………でもさ、一つ気になることがあるんだよねぇ」

「何?」

「お前、どうしてそこまで俺に情報を漏らすんだ?」

「!?」

 

 食蜂操祈は精神感応系最強の能力者であり、人の心を読み取ることなど呼吸をするように簡単に行うことが出来る。だが、それはつまり幼いころから人の心の中を覗いて生きて来たという事だ。

 

 今までずっと見えていたものが、突然見えなくなったら―――人は恐怖する。

 

 珱嗄は今まで食蜂に心の中を覗かせた覚えは無い。食蜂の能力は全て届く前に『逸らし』て来たからだ。だから、食蜂には珱嗄の心の中は分からない。心を覗ける他人とは違い、何を考えているのか分からない珱嗄に、どうしてそこまで情報を公開するのか。珱嗄はそれを聞いている。

 

「それは……分からないわ………ただ、貴方は強い……あの第一位よりも、強い。だから、貴方に情報を集めれば、どうにかしちゃうんじゃないかと思ったのは確かよ……」

「へぇ……それで、お前は何考えてんだか分からない俺を、どう思う?」

「……正直、貴方が私を敵に売るとか、裏切るとか、そういう事を考えてはいるわねぇ」

 

 食蜂は全てを疑って生きている。能力者、科学者、赤の他人、自分に関わる人間は、全て心を覗いてきた彼女は、全ての思惑を把握していないと不安なのだ。

 協力、信頼、友情、正義、そんな安っぽい言葉より、その人間そのものを覗いた方が何百倍も安心できる。

 

「ふーん……よし、なら此処で少しばかり覗いてみるか?」

「え?」

 

 だから、珱嗄はこう提案した。

 

 

 

 

「俺の――――頭の中を」

 

 

 

 

 覗いてみろと。覗いても良いと。珱嗄はそう言った。珱嗄が能力による抵抗をしなかった場合、食蜂操祈は珱嗄の頭の中を覗くどころか、珱嗄を操ることだって出来る。洗脳、記憶改竄、感情操作、敵意や善意の方向性、なんでも操作する事が出来る。

 それを分かった上で、珱嗄は言った。俺の頭の中を覗いてみろと。俺の過去、全てを覗いてみろと。そして思い知るといい、俺が、珱嗄という人間が、どういう過去を歩いて来て、どういう人間で、どういう存在なのかを。

 

「さぁ、覗け」

 

 食蜂操祈は、珱嗄の瞳に吸い込まれる様な感覚を覚えた。今まで、自分の心の中を読んでみろと言った人間はただ一人としていない。自分の能力を忌諱しなかったのは、自分の能力を防ぐ術を持っている能力者や、科学者だけ。それにしても、御坂美琴の様に防ぐ術を持っていながら自分の能力を下種なものと吐き捨てた者だっている。

 珱嗄の様に、自分の能力を防ぐ術を捨ててまで、食蜂の能力を受け入れようとする者はいなかった。これまでも、これからも、その筈だった―――――今この、瞬間までは。

 

「な、何……言ってるの? 私がその気になれば、貴方の記憶を覗くどころか、洗脳だって……できるのよ……?」

「それも、また面白い……お前が俺をどの位操って見せるのか、見物だな」

「怖くないの!? 私の能力が! 大事な記憶を消す事も、大事な感情を消す事も、大事な人を傷つけさせることだって出来るのよ!?」

「俺の大事なものは、お前の能力程度じゃ壊せねーよ」

 

 珱嗄は両手を広げて、能力を解除した。

 

「それに……」

「?」

「俺はお前がそんな事をするとは思ってないからね」

「!?」

 

 食蜂操祈はその言葉に、今まで中身が無く、信じられないと吐き捨てていた『信頼』という言葉を思い出す。これが本物の信頼。自分の武器や護る物を全て投げ捨てて、生身一つでぶつかってくる。心の底から他人を信じた人間の、本物の『信頼』。

 食蜂は、心の内から何か温かいモノが湧き上がるのを感じた。じわじわと身体に染みわたる様に、どんどん溢れてくるこの感情を感じた。久しぶりの感情だった。

 

 食蜂操祈はエクステリア計画以前、『才人工房(クローンドリー)』計画の時期に一人の少女に出会った。名前はドリーといい、身体に機械を埋め込んでいないと生きていけない中学生位の少女。当時の食蜂は小学生だったが、ドリーは食蜂にとって最初の『友達』だった。

 自身の凶悪な能力を、『大好き』と言ってくれた。その上で、食蜂自身も『大好き』と言ってくれた。そして、彼女自身もドリーが大好きだった。研究所という狭く堅苦しい環境の中で、食蜂とドリーは仲良く過ごしていた。

 

 だが、それは幻想だった。ある日、ドリーは倒れた。彼女は人間の手で造られた製造人間(クローン)だったのだ。肉体は直ぐに寿命を迎える。結果、彼女は死んだ―――いや、処分された。食蜂操祈は、唯一信じられる友達を失った。処分された。殺された。馬鹿な科学者たちの手の上で、ドリーの命は弄ばれた。

 その日から、彼女の心は閉ざされた。誰も信用しない。誰も信頼しない。そんな彼女が出来上がった。そして、彼女はその日からエクステリア計画、ひいては『才人工房(クローンドリー)』を乗っ取った。ドリーが『大好きだ』と言ったその能力で、実験を乗っ取った。

 

 ドリーと楽しく遊んで、心の底から笑顔を浮かべていた食蜂操祈という少女は、ここで姿を消した。心のずっと奥、暗い闇の中に、消えて行った。

 

「……良いの?」

「何が?」

「私は……貴方を信じても………良いの?」

 

 だが、珱嗄はその少女を引き摺りあげた。邪魔な盾や武器を投げ捨てて、悠々と、飄々と。本当の彼女に迫った。彼の能力がそうであるように、珱嗄は食蜂の心に『触れた』。そして彼女の凍て付いた心の壁を壊して、ぶつかったのだ。

 だから、食蜂操祈はもう一度歩み寄る。ドリーがそうだったように、珱嗄の差し伸ばした手に向かって歩み寄る。珱嗄はその問いに対して、ゆらりと笑ってこう返した。

 

 

「ごちゃごちゃうるせぇ―――俺を信じろ!」

 

 

 力強いその言葉が、トリガーだった。食蜂操祈は、珱嗄を信じてみることにした。

 

「じゃあ、覗かせて貰おうじゃないの……貴方の心を!」

 

 差し出されたその手を取った。リモコンを向けて、ボタンを押した。能力は珱嗄に届き、珱嗄の過去を食蜂操祈に開示する。

 差し出すのなら、受け取ろう。それが信頼の証なら、こちらも信頼で返そう。

 

「!」

 

 食蜂は見た。珱嗄の過去全てを。

 

 

 

 ―――――俺と一緒に、世界を見て回ろうぜ。面白そうだろ? ピトー

 

 

 

 ―――――ああ……待ってろヴィヴィオ、すぐに助けに行く――――お前の父親は最強だからな

 

 

 

 ―――――俺もお前を愛してる。世界の誰より、大好きだ

 

 

 

 ―――――ふぅ、さて休憩は此処までだ。さぁ続きを始めよう。Bメロの部分とサビの部分、少し動きが合ってないから練習しようか。ほれ、ポジション付いて

 

 

 

 ―――――次の世界では俺が与えた力の他に、もう一つ別の力が手に入るかもね

 

 

 

「これは……!? これって……!?」

 

 食蜂操祈は知った。珱嗄の過去と、珱嗄の存在の意味、そして珱嗄が一度死んで、転生した者だということを。

 

「貴方は……神に出会ったっていうの!?」

「そうだよ、俺は神様に会った」

「そんなの……! この学園都市が目指しているSYSTEM研究の到達点みたいなものじゃない……!」

 

 SYSTEM研究。それは、『神ならぬ身で天上の意思に辿り着く者』、レベル6を生み出し、世界の真理に辿り着こうという研究の事だ。

 それはつまり、珱嗄が出会った神の考えを読み解き、世界の真理を知ろうということであり、珱嗄は現時点で最もその目的の達成に近い場所にいるのだ。いや、もう辿り着いているかもしれない。『神ならぬ身で天上の意思に辿り着く者』、珱嗄は神では無いが、神の下に辿り着いている。学園都市も吃驚仰天な事実だろう。

 

「まぁそうだね」

「そんな呑気な……! っはぁ……まぁいいわぁ……どちらにせよ、貴方が私を信頼してくれてるのは分かったから」

 

 食蜂は珱嗄の過去を知っても、その程度だった。実際、転生したからと言って、別段何か変わっている訳じゃない。珱嗄の強さの原因が明らかになった程度の事だ。正直、他の世界の事は少し驚きだったけれど、此方から干渉出来ないのであれば、知った所で意味は無い。

 

「わはは、そいつはどうも」

 

 珱嗄は食蜂の頭をぽふぽふと撫でた。食蜂は年不相応に成熟したスタイルを持っているが、珱嗄的に言えばまだまだ子供だ。年齢的にも、見た目的にも。

 

「な、撫でるんじゃないわよぉ……!」

 

 珱嗄を信じたからか、少しだけ態度が緩和した様な気がする。頭を撫でるなという割には振り払おうとしない。どころか、若干頬が紅潮している気もする。

 

「ねぇねぇ、ところでミサカはいつまで空気なのかな? ってミサカはミサカは口を挟んでみたり」

「うわきゃああ!?」

「うおっと……」

 

 若干良い雰囲気を醸し出していた所に、打ち止めの介入が入ったので、頭を撫でられているという状況が恥ずかしくなったのか、高速で珱嗄から離れた食蜂操祈。そして照れ隠しに咳払いをしながら、話を逸らそうと饒舌に話し始めた。

 

「そ、それじゃあ木原幻生がいる場所へ行きましょうか! 私の情報収集力によると、神出鬼没な木原幻生がとある研究施設を訪れることが分かってるわ! さぁ行きましょう! 今すぐに!」

 

 すたすたと歩き始める食蜂に対して、打ち止めと珱嗄はにやにやと生温かい瞳で彼女を見た。

 

「素直じゃない所はお姉様と一緒だね~ってミサカはミサカは内心ウキウキしてみたり!」

「まぁまだ中学生なんだし、仕方ないよ。ミニミサカ」

「その呼び方なんか気に入らないんだけど!? ってミサカはミサカは反論してみる!!」

 

 このチームは、なんだかんだでやっていけそうだ。

 

 


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