◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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休日のほのぼの

 珱嗄は実の所、アイテムに加入したとはいえ、未だに学園都市の中では侵入者という肩書きを払拭出来ていない。学園都市に住むのなら暗部といえど何かしらのIDは登録せねばならないし、追々改竄するが、自身のプロフィールを学園都市の全学生のプロフィールが登録された書庫に登録しなければならない。

 とはいえ、その辺は暗部ということで、理事長のアレイスター・クロウリーが片手間で済ませてしまった。今の珱嗄は一応表向きは高校三年生で、能力もレベル3の【危機処分(ディスパーサルシステム)】となった。

 そして、アイテムとして学園都市の闇の足を踏み入れた珱嗄は、そこそここんな立ち位置も悪くないと笑ったのだった。そして現在、アイテムの麦野沈利と絹旗最愛、滝壺理后は共に依頼をこなして拠点に帰る所だった。

 

「ところで麦野。何故珱嗄さんを超同行させなかったんですか? 今日の依頼は比較的超簡単でしたし、連れて行っても超問題なかったのでは?」

 

 道路を走る黒いボックスカーの中で、絹旗は麦野にそう尋ねる。すると、麦野は薄く笑みを浮かべながら答えた。

 

「ええ、絹旗をあしらう彼の実力なら今回連れて行っても問題なかったでしょ。でも、物には順序が有るわ。まして、彼はまだ経験が足りない。私達位の年頃は普通、殺しや施設破壊なんか経験した事はないわ。だから、今回も連れていかなかった。大した仕事じゃなかったけど、それでも数人殺したでしょ?」

「成程、超納得しました」

 

 珱嗄の経歴を知らない彼女達は、珱嗄には未だ殺し合いの経験はないと思っているのだ。故に、今回の様な殺しを伴う依頼にはまだ連れて行かなかった。

 だが、その思惑は大きく外れる。珱嗄には十分過ぎる程の経験と殺しの経験がある。殺してきた数で言えば、彼女達は足元にも及ばない。

 

「……ま、追々経験させていくとしましょう。あの分だと即戦力になりそうだし、ね」

「ところで……フレンダと珱嗄さんは仲良くやってるかな?」

「さぁ……でもフレンダは超感情的な面がありますから。きっと珱嗄さんに超遊ばれてるんじゃないですかね?」

 

 絹旗の言葉に麦野と滝壺は苦笑した。ただ純粋にありそうだと考えたのだ。実際、この頃フレンダは珱嗄の声帯模写の虜になっていた。

 

「ま、あまり気兼ねしなくても良い様な性格してるし、苦労はしなさそうじゃない」

「超そうですね」

 

 滝壺はそんな二人のなんとなく楽しそうな雰囲気に、くすっと笑った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 翌日

 

 

 暗部といっても、仕事の無い時は基本フリーだ。ずっと一緒にいなければならないという訳ではない。普通の学生と同じく、ファミレスで屯する程度には自由な行動をする事が出来る。故に、珱嗄はアイテムのメンバーと行動を別にして、学園都市を散歩する事にした。

 未だに何処に何があるかも分からない状況だ。少しでも都市内の構造を把握した方が良いだろうとの考えだ。

 

「さて、さっき俺の口座を調べてきたらそこそこお金も入ってたし……当分生活には困らないかなっと」

 

 珱嗄はそう呟きながら街を飄々と歩く。過去に着ていた着物の格好は目立つので、黒いタンクトップに青黒いパーカー、そして七分丈のズボンにサンダルという比較的現代風な服装に変わった事には感謝していた。色的に神様が着物を現代風に改変したのだろうと予想は普通に付いていたので、その感謝は神様にすることにした。

 

「そういえば、この世界って魔術師いたよな。魔術師」

 

 とある魔術の禁書目録、というタイトルからして超能力都市内だけで済む物語構造はしてないだろうと思う珱嗄。魔術と行っているからには魔術を行使する魔術師もいるという事だ。

 となると、原作に関わるのなら主人公に関わる必要がある訳だ。だが、今の珱嗄は特にそれに興味はなかった。今は散歩である。

 

「っと」

「うわっ……す、すいませんぼーっとしてて」

 

 とそこに、珱嗄にぶつかって来た少年がいた。かなり勢い良くぶつかったのだが、珱嗄にはなんのダメージも無い。逆にぶつかって来た少年の方が地面に尻もちをついていた。

 珱嗄としては、素直に謝れる所を見ると、この少年は少なからず良い部類の人間なのだろうと思う程度だった。

 

「いや、いいよ別に――――っと」

 

 珱嗄は上空から落下してきた卵パック10個入りを衝撃を逃がす様にキャッチした。珱嗄が見逃せば地面に落下し、ぐちゃぐちゃに割れていただろう。

 これはぶつかった時に少年の持っていた買い物袋の中から飛び出したものだ。

 

「あ、それは俺の! 良かった! 割れずに済んだ!」

 

 珱嗄は涙を浮かべて心底安心した様に息を吐く少年に、卵を手渡した。少年は助かりましたと何度も頭を下げた。

 

「えーと、俺の名前は上条当麻って言います。本当、ありがとうございました!」

「ああうん。俺は珱嗄だ、良かったね」

 

 珱嗄はそう言って、彼の横を擦れ違う。そして、後ろから聞こえるお礼の声を聞きながら、苦笑気味に散歩を再開するのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「あれ、また会ったねお嬢ちゃん」

「アンタ……!?」

 

 それから、しばらく歩きまわった先で、珱嗄は御坂美琴に遭遇した。少し一休みしようと公園に入ってボロボロの自動販売機からジュースを買おうとしたら、普通に120円飲まれた時に御坂美琴がやって来たのだ。

 取り敢えず珱嗄は120円飲まれたのが気に食わなかったので、自動販売機の側面をコンッと叩いて衝撃をジュースを固定しているバネに伝えた。結果、珱嗄の入れた金額の、珱嗄の飲みたかったジュースがガコンという音と共に排出された。ちなみに出てきたのは、ガラナ青汁。いちごおでんと双璧を並べて不味いと評判のゲテモノジュースである。

 

「……それ美味しいの?」

「地獄巡り茶の外れよりは美味い」

 

 珱嗄はそう言ってガラナ青汁をぐいっと口に含み、飲んだ。

 

「ふぅ、で? そんな険しい表情でどうした?」

「……アンタ、あの実験の関係者でしょ?」

「実験?」

「え、知らないの?」

「知らないよ。ただ、この前通った路地裏で白髪の少年とお嬢ちゃんに良く似た子が激しいプレイの真っ最中だったのは見かけたかな。いやぁ、良い所で見つけちゃったもんだから気まずかったね」

 

 珱嗄の言葉に、御坂美琴はただ実験を見かけた一般人である事を理解した。理解して、彼に問答無用で電撃を浴びせた事を思い出した。彼女の顔が青褪める。

 

「あ、あの……! この前はいきなり攻撃してすいませんでした!」

「ああ、いいよ別に。特に問題なかったし」

 

 仮にも自分のレベル5である自分の攻撃がなんの問題も無いと言われ、少し苛立ちを感じる御坂だが、非は彼女にあるので、引き攣った笑みを浮かべながら頭を下げた。

 

「それにしても、お嬢ちゃんは随分とまぁ忙しそうだね。やっぱり中学校は忙しないのか?」

「いえ……ちょっとやらなきゃ行けない事があるので」

「ふーん……ま、何かは知らないけど、精々頑張ると良い」

「はい」

 

 御坂は真剣な面持ちで短く返事をすると、そのまま行く所があるのか走って去って行った。とことん急いでいるようだ。というより、何かに追われる様だった。周りが見えておらず、焦りと罪悪感から精一杯逃げている様な、そんな感じだった。

 

「――――ま、どうでもいいか」

 

 珱嗄はぱっと切り替えて、御坂美琴から興味を消し去った。正直、誰が死んで誰が生きて誰が戦って誰が負けようが、どうでもいい。珱嗄からしてみれば全て二つの事に絞られる。

 

 

 とどのつまり、面白いか、面白くないか、それだけだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「おーっす」

「早かったわね、珱嗄」

 

 珱嗄は散歩の途中で仕事用にと持たされた携帯からメールが来て、麦野からファミレスに集合という内容だったので、切り上げてファミレスにやってきたのだ。到着したころには麦野しかいなかったので、まだ他の三人は向かっている途中なのだろう。

 

「とりあえず人数分ドリンクバー頼んどいたから」

「そう思って既に飲み物持ってきといたから」

「うん、対応おかしいわよねソレ!?」

「とりあえず紅茶でいいよね」

「出会ってまだ24時間も経ってないのになんで私の飲みたい物が分かったのかはこの際聞かない事にするわ……」

 

 麦野は珱嗄のゆらりとした笑みを見て、紅茶を受け取りながらため息を吐いた。気兼ねしなくても済む性格とは言った物の、この人を食った様な性格には多少苦労しそうだと考えを改める事にした。

 

「そういえば、フレンダから聞いたけど……貴方は声帯模写がかなりのレベルで使えるんだってね」

「いやいやそんな……精々学園都市の音声認識ロックを騙す位のレベルだよ」

「あれ、謙遜してる様でしてなくね?」

 

 アイテムのリーダーである麦野も、珱嗄の前ではかなり押され気味だった。やはり。レベル5といえど、出来ない事と出来る事があり、珱嗄は人間の出来ない事を己が身一つでやってのける。その点がやはり人を驚愕させるのだろう。しかも悉く高レベルの出来なのだから、なおさらだ。

 

「そういえば、俺もフレンダちゃんから聞いたけど……麦野ちゃんは寝る時にボロボロのぬいぐるみを抱いてるんだってね」

「フレンダぁぁぁぁぁ!!!」

「ひっ………」

「………フレンダ」

 

 珱嗄は麦野の背後から大量のぬいぐるみを抱えてやって来たフレンダを見つけてそんな話題を振ったのだが、麦野とフレンダはまんまと珱嗄の掌の上で転がされている。

 

「む、麦野? ここはファミレスで、騒がしくするのはちょっとどうかなって私思うんだけどぉ……!」

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

 

 フレンダは店外へ逃げ出し、麦野はそれを追って行った。珱嗄はそんな二人の姿をガラスの向こうから眺めつつ、紅茶と共に持って来ていたコーラを飲んだ。

 

「元気だなぁ」

「いや黄昏られても超困るんですが……」

「おや絹旗ちゃん。フレンダちゃんと一緒に来たのか? はい、オレンジジュース」

「……超何処から取り出したんですかそのオレンジジュース」

「何言ってんだよ。今汲んで戻ってきたんだよ」

「私はいつから時間を超跳躍できるようになったんでしょうか!?」

 

 麦野に続いて絹旗も珱嗄に対して突っ込む。この一瞬で珱嗄は席を立ち、ドリンクバーに移動し、ジュースを汲んで、戻ってくる、という動作を行なって見せた。やはり人間超えている。

 

「ま、座んなよ。どうせ、少ししたら皆やってくるさ」

「……超不本意ですが、疲れるのでそうしときます」

 

 絹旗はいつもの定位置に座ってオレンジジュースに刺さったストローに口を付けた。ちゅーっと吸いながら外を走るフレンダと追い掛ける麦野を眺める。やはり暗部やレベル5という事もあって目立つ事は避けたいのか能力は使わない麦野。

 

 そして、彼女達が戻って来た頃には、さり気なく滝壺も座っているのだった。

 

 


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