◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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大覇星祭 木原幻生編
大覇星祭


 大覇星祭

 

 学園都市で行われる最大最高の大規模イベントだ。普通の学校で言われる、所謂体育祭なのだが、その規模は大きく異なってくる。

 まず、普通の学校の行なう体育祭とは、学校内の生徒をチーム分けして行なうスポーツ勝負の事を言う。だが、学園都市は全く規模が違う。『学校同士』で戦う学園都市という大きなフィールドで行う体育祭なのだ。この場合、参加する学校は学園都市内の全ての学校。そして一番特徴的なのは、一週間という長い期間で行われるイベントということ。

 

 各学校の生徒達は例年優勝候補と言われている学校を調べ、対策を練る。ちなみに、優勝候補の学校は、常盤台中学の様に能力開発に関してかなりの力を持った学校なのだが、その理由は大覇星祭の一つのルールにある。

 

 

 ―――つまり、『超能力』の使用制限解禁

 

 

 このイベントの競技の中であれば、生徒達は普段研鑽してきている能力を使っても良いのだ。つまり、パン喰い競争で吊り下げられたパンを念動力で取っても良いし、徒競走で道を土流操作でぬかるみにしてもいい。あらゆる能力を駆使して短い間の競技を勝ち抜いた学校が、大覇星祭を制すのだ。

 

 今日はその初日。開会式も執り行われ、第一競技までの間、生徒達は今か今かと開始を待っていた。ちなみにこのイベント中は学園都市の外から両親や友人を呼んでも良いことになっている。だからこそ、大規模と言っている訳だ。

 

 さてさて、そんな中珱嗄は賑やかな雑交の中鼻歌交じりに歩いていた。青黒いパーカーと、七分丈のズボン、手に入れたiphone89sに入れた音楽を付属のイヤホンを使って聞きながら、楽しそうに歩いていた。眼を閉じながら音楽にノッている珱嗄。普通の人ならば眼を閉じながら音楽を聞いて歩くと、普通に人にぶつかる。しかし、珱嗄は人の気配を察知して軽快に人を避けながら歩いていた。

 

「~♪ ~~♪」

 

 だが、そこで珱嗄は一人の少女と遭遇した。金色の髪を背中まで伸ばし、若干癖のあるふんわりとした髪型にし、服装は大覇星祭らしく体操着。キラキラと大きい瞳が特徴的で、年齢不相応に身体付きも良い。まるでモデルの様な容姿をしているが、それに反して彼女は幾分性格が子供っぽいので、雰囲気的には大人びている子供というのが珱嗄の印象だった。

 

「あらぁ?」

「お、しいたけじゃん」

 

 つまり、学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人、第五位の精神感応系最強の能力者、食蜂操祈だ。キラキラした瞳は生まれつきらしく、珱嗄を視界に捉えてぱちくりとさせた瞳は、少しびっくりしているようだった。

 

「こんな所で常盤台をクビになった人に会うなんてねぇ」

「こんな所で常盤台のしいたけに会うなんてなぁ」

「しいたけじゃないんですけどぉ!!」

「で、なにしてんの体操着なんて着て」

「見れば分からない? 大覇星祭だから体操着着てるんですー」

 

 拗ねたのかぷくーっと頬を膨らませながらそういう食蜂操祈。だが、珱嗄はそんな食蜂の頭をガッと掴んで引き寄せた。

 急なことで驚く食蜂。文句を言おうと珱嗄を見て、何も言えなかった。

 

「な……」

「オイ、俺は怒ってるんだ」

「な、なんでよぉ……?」

「俺が怒っている理由、分からないのか?」

「な、理由って………そんなの………えぇ……?」

 

 訳が分からない。珱嗄の怒りの表情に食蜂操祈は怯えるばかりだ。かつて多くの戦いで生き抜いてきた珱嗄、その威圧感はちょっとの怒りだけでも十分女子中学生を怯えさせることが出来る凄味がある。

 

「――――るか……」

「え?」

「お前にイベントに参加出来ない奴の気持ちが分かるか!!!」

「…………はい?」

 

 珱嗄は大きな声でそう言った。

 

「周りを見やがれしいたけ。見ろ、あの子供の楽しそーな顔と周囲の生徒全員がそれぞれ体操着を着ている光景を。俺は生徒でもねーから競技にも参加出来やしねぇよ。音楽を聞いて気を紛らわそうとしたらお前と会っちまった。全くふざけんじゃねぇよ大覇星祭潰すぞ物理的に」

「うんちょっと待ってくれるかしらぁ?」

「だが断る」

「少しは余裕持って会話しなぁい!?」

 

 つまり、珱嗄はこんなに大規模なイベントがやってるのに全く参加出来ないこの状況に腹を立てていたのだ。普通の体育祭なら流しているのだが、能力使用有りの大規模な体育祭なんて面白そうなイベント、見逃せる訳が無い。そして、参加出来ないのなら潰してしまえという考えに至った。

 

「あーもう……仕方ないわねぇ。それじゃあ私が大覇星祭を案内してあげるわよぉ……競技に参加しなくても楽しむ事なんて幾らでも出来るわよ」

「例えば?」

「観客参加型の競技があるの……まぁ宝くじみたいなものなんだけどねぇ」

 

 食蜂操祈は一つの売店を指差した。そこには大量の行列が出来ている。どうやら有名で人気の何かを打っているらしい。

 

「あれはレベル3以上の能力者だけが購入出来るとある競技の参加券を売っているんだけどぉ……参加出来るのは買った能力者の内、一人だけ。抽選で選ばれるの……あれなら能力者であることが条件だから、貴方でも参加できるんじゃない?」

「じゃあ買ってみるか」

 

 珱嗄と食蜂は行列に1時間近く並んで、その参加券の抽選券を購入したのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 それからしばらくして、第一競技が開始された。第一競技は『棒倒し』で、上条当麻の学校の面々も参加しており、かなり白熱した勝負が繰り広げられた様だ。

 食蜂操祈と珱嗄も、その競技の様子は至る所に設置されている大型液晶で見ている。そんな中、一緒に大覇星祭の露店を見て回っている途中で、ちょっとしたイベントが起きた。その後、現在取り行われている競技、『借り物競走』で指定された物を探している生徒がやってきたのだ。

 

「あ、そこのお二人! ちょっとよろしいでしょうか!?」

「ん?」

「え?」

 

 おそらく小学生だろう。この大覇星祭の競技において、年齢は全く関係無い。中学生と高校生が戦う事もあれば、小学生が高校生と戦う事もある。基本的に能力を見られるのだから。

 

「どうしたお嬢ちゃん」

「えと、その……借り物競走で指定された条件の人を連れていかないと行けなくて……その、一緒に競技場まで付いて来てくれないでしょうか!?」

「あらぁ、どうするの?」

「よし、行くぞ。掴まれ二人とも」

「え」

「ん?」

 

 珱嗄は小学生の女の子を肩に座らせるように担ぎ、食蜂を荷物を持つように抱えた。

 

「よしお嬢ちゃん、競技場はどっちだ?」

「え、えと……あ、あっちです!」

「よしきた」

 

 珱嗄は指差された方向へ―――――跳び上がった。一瞬で地面が遠くなる。少女と食蜂は一瞬で変わった景色と、吹き抜ける風に、少しだけ感動を覚えた。空を踏んで駆ける珱嗄は、二人が気持ち悪くならないように進み、競技場の真上まで直ぐに移動した。そして、見れば競技場に上条当麻を連れた御坂美琴が入ってきている。放っておけばゴールテープを切るだろう。

 だがしかし、

 

「一位は俺らだ」

 

 珱嗄は空を蹴った。猛スピードで急降下する。『逸らす』能力で空気抵抗を逸らし、音速を超えて尚ダメージ無く競技場に落ちていく。

 

「「きゃああああああああああああ!!!!?」」

 

 少女と食蜂はジェットコースターで落下する様な感覚に叫び声を上げた。そして、珱嗄はその叫び声をドップラー効果で空に残しながら、競技場の地面に着地した。

 

「なぁっ!?」

『おーと!? 何やら空から落ちてきました! 御坂美琴選手の足が止まった!』

「走るぞ、お嬢ちゃん!」

「え、あ、はい!」

 

 珱嗄は食蜂をおぶる体勢に変え、少女を地面に下ろし、手を繋いで走りだす。あくまで少女が珱嗄を連れてくるという体を取らねばならないのだ。砂煙に立ち止まっている御坂美琴と上条当麻を放置して、少女と珱嗄は走りだし、見事ゴールテープを切った。

 

 

『これは大番狂わせ! ゴール直前で常盤台の超電磁砲(レールガン)、御坂美琴選手を抑え、平莱(へいらい)小学校の長峰美紀ちゃんが勝負を制しました!!』

 

 

 その実況の言葉に会場が湧いた。大きな歓声が上がる。

 そして、長峰美紀と紹介された少女は指定カードと持ってきた品が一致するかを確認するべく、大覇星祭実行委員の生徒にそのカードを渡した。

 

「………ふむ、『美男美女のカップル』か……誰だこれ入れたの……えーと、そちらの二人は恋人同士なのですか?」

「ん?」

 

 珱嗄達はそういえば指定された品の事を聞いていなかったなぁと考え、目配せをした。食蜂が少し照れ臭そうにしながら頷いたので、珱嗄は答えた。

 

「そうだよ。もうあんなこともこんなこともしちゃった仲だよ」

「なっ……そ、そんなことまで言わなくても良いです! とにかく、条件はクリアですね……はぁ、それでは競技が終わるまでしばらくお待ちください」

 

 その言葉に、珱嗄と食蜂と長峰美紀ちゃんは一緒に待機場所へと移動していった。その際、周囲の眼を紛らわせるために食蜂と珱嗄が腕を組んでいたのだが、それを映像で食蜂の派閥のメンバーに見られ、後々問い詰められる破目になるのは、別の話。

 

 


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