◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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絹旗最愛はお年頃

 絹旗と珱嗄のじゃれあいを帰ってきて早々に見せつけられた麦野達は、普段とは大きくかけ離れた同僚の姿に唖然としていた。珱嗄と絹旗の身長差は確かに大きく、珱嗄の腕にぶら下がれば足がつかなくなるのも分かる。が、問題は何故こんな状況が生まれてしまっているのかということだ。

 

「……あの、絹旗?」

「はっ……む、麦野……フレンダに滝壺さん……こ、これは」

「大丈夫だよ絹旗、私はそんな絹旗を応援してる」

「応援されても!? 違うんですこれは超誤解があります!」

 

 絹旗は弁解を始める。

 まず、絹旗と珱嗄は軽い準備運動的な戦闘を終え、待機する事を決めた後、暇潰しになにかする事にした。だが、この部屋は特になにかしらの娯楽品が有るわけではないのだ。遊びも何も、特に何か出来る訳ではない。故に、珱嗄と絹旗はとりあえず腕相撲をすることにした。勿論能力ありだ。

 そこで、珱嗄は能力を使わずに、絹旗は能力を全開にして対決。結果は珱嗄の勝ちだった。だが、その結果に満足する絹旗では無く、なんどもなんども連戦を繰り返す。結果は珱嗄の全戦全勝。

 

 珱嗄の腕力に手も足も出ない絹旗は不審気な顔をしながら、ぺたぺたと珱嗄の腕を触り始めた。これが発端。珱嗄の筋肉に触れた絹旗は、殺し以外で異性の身体に触れたという状況に没頭。興味津々な様子で珱嗄の身体に触れていた。

 珱嗄が立ち上がれば絹旗も同様に立ち上がり、珱嗄が歩けば同様に歩く。絹旗は最早男性の身体への興味に意識を奪われていた。

 

 いい加減うっとおしくなってきた珱嗄は振りほどくべく腕を上げたのだが、持ち前の能力を使ってしがみつく絹旗。ゆらゆらと自身の身体がぶら下がり、絹旗を持ち上げた事で若干膨らんだ筋肉が絹旗のテンションを向上させた。そしてそこへやって来たのが麦野達な訳だ。

 

「………それって結局、絹旗が子供だった訳よ」

「ち、違うんです!」

 

 弁解しようとして墓穴を掘る絹旗。最早言い訳の程も無かった。

 

「まぁ絹旗の思わぬ一面が見れた訳ってことでもう良いわ。まずは貴方よ」

「やぁ麦野ちゃんお帰り。俺のご飯ある?」

「フレンダの缶詰でも分けて貰いなさい」

「分けてくれ、フレンダちゃん」

「嫌よ! 結局、この鯖缶は全部私の物って訳よ!」

 

 珱嗄の言葉に麦野もフレンダも食料を渡してくる事はなかった。珱嗄はまぁそうだろうなと頷いて食事を諦めた。別段腹が空いている訳でも無いので、別にどうしても食事が欲しいという訳でも無いのだ。

 

「で、何?」

「私達はこの学園都市の暗部の組織、通称アイテム……まぁ早い話が侵入者である貴方を保護しろって依頼が来た訳」

「ふーん……侵入者か。まぁそうなるか」

「貴方のこれから先の選択肢は二つあるわ。このまま学園都市の暗部を知ったという事で抹殺されるか、私達アイテムの一員として暗部で働くか………この二つよ」

 

 そんなもの選択肢とは言わない。珱嗄は嘆息して、絹旗を見た。視線を向けられた絹旗は絹旗で首を傾げる。

 珱嗄の考えは、レベル4の能力者である彼女であの程度なら、レベル5も大したことないのではないか、というものだ。ならば、この場で全員叩きのめして脱走するのも良し。

 

 だが、珱嗄は敢えてその考えを実行にはうつさない事にした。

 

「じゃあアイテムに入れて貰おうか」

「賢明な判断ね。改めて自己紹介するわ……学園都市の内、7人のレベル5の一人、第四位【原子崩し(メルトダウナー)】の麦野沈利。アイテムのリーダーよ、ヨロシク」

「昨日言った通り、俺の名前は泉ヶ仙珱嗄。面白い事が大好きな男だ。よろしくレベル5(バケモノ)

 

 珱嗄と麦野はしっかりと握手を交わした。珱嗄のアイテム入りはこうして果たされる。そして、珱嗄がアイテムに加入した事で、この先の未来が少なからず、変化する。それは小さな変化となり、積み重なって大きな変化を引き起こすことになるのだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 場面変わって御坂美琴は憔悴しきっていた。毎晩の様にとある『実験』に関わる施設を破壊して回り、その度に体力と能力を使っているのだ。寝る間もなく、その身体は疲労によって満身創痍だった。

 その実験というのが、珱嗄が最初に出会った白髪の少年を中心として行なわれている―――

 

 

 ―――絶対能力進化(レベル6シフト)計画

 

 

 この学園都市には7人のレベル5が存在する事は知っての通りだが、彼らはその能力の実験価値や戦闘による単純な強さなどの統計から順位付けされている。麦野沈利は第4位、御坂美琴は第3位といった具合にだ。

 そしてこの順位付けで第1位に君臨する、学園都市最強のレベル5。それがあの白髪の少年。その本名は不明。現在は能力名を持って彼の呼称となっている。その呼称が、

 

一方通行(アクセラレータ)

 

 能力の詳細は、ベクトル変換で、触れたあらゆる力の方向を操作出来るという凄まじい能力だ。故に、彼に攻撃した物はその攻撃力の分己に帰ってくる結果となり、逆に怪我を負う破目になる訳だ。

 そして、そんな彼をレベル5から、絶対にして無敵、神の領域にまで足を踏み入れた存在、レベル6へと成長させるのが、この実験の内容だ。

 

 では、なぜそんな利益しか生まない様な内容の実験に関わる施設を御坂美琴は破壊しているのか。それは、その実験の方法に問題があるからだ。

 学園都市には、【樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)】と呼ばれる世界最大最高峰のスーパーコンピューターがある。1ヵ月先の天気を、空気中の水分量などを全て演算して予言する程の計算を可能とするコンピューターで、普段は宇宙の衛生上に漂っている。

 このコンピューターで演算した結果、第1位のレベル5【一歩通行(アクセラレータ)】がレベル6に到達する方法は、同じレベル5の第三位御坂美琴を128回殺害する事だった。勿論、彼女は128人もいない。そんな方法を達成するのは不可能だった。

 

 そこで、彼女が過去提供していたDNAマップを手に入れた研究者達は、彼女のクローンを作り、その代替品にする事にした。とはいえ、レベル5の品質を持ったクローンは出来上がらず、最大でもレベル3程度の欠陥品しか生まれなかったのだ。

 なので、そのクローンを使った場合を最演算。クローンを使えば、2万通りの戦闘環境を整え、2万通りの戦闘を行ない、2万回クローンを殺害すれば、【一方通行(アクセラレータ)】はレベル6に至る事が出来るという演算結果となったのだ。そしてその演算結果の通りに第1位と研究者達、そして2万体のクローンは実験を開始した。

 

 御坂美琴がこの実験を知ったのは、9982回目の実験が終わった時だった。つまり、彼女のクローンが9982人殺された後という事だ。レベル5とはいえ、人の命の重要さを知っている彼女は、DNAマップを提供したせいでそれだけの命が死んだと責任を感じたのだ。

 だから、こうして実験を止める為に施設を破壊し続け、こうして満身創痍に憔悴している。周囲の心配を顧みず、ただがむしゃらに走り続けているのだ。

 

「はぁっ……はぁっ……まだ、こうしている間にもあの子達は……!」

 

 彼女の通う学校。常盤台女子中学校の寮。自室のベッドに倒れ込みながら荒い呼吸を整える。

 

「それにしても……あの男は……」

 

 御坂美琴は、寮に帰る途中で遭遇した実験関係者と思われる男、珱嗄の事を考えていた。仮にもレベル5の電撃を弾き飛ばし、視認出来ない速度で姿を消した。

 考えてみれば、瞬間移動能力か、また別か……学園都市でもまだ存在しない多重能力保持者(デュアルスキルホルダー)なのか、分からないがあのレベルの実力者がいるとなると、御坂美琴でも勝てるかどうかは分からなかった。厄介にも程がある。

 

「でも、大方の施設は潰した……あと少し……!」

 

 御坂はそう呟いて、力なく笑う。後少しで残っているクローンを助ける事が出来る。そう思えば力が湧いてきた。

 

「頑張らないと」

 

 御坂はそう言って、ほんの少しの仮眠を取る事にしたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「それにしても、珱嗄の能力って結局なんな訳?」

「ただいろんな物に触れるだけの、大したことない能力だよ」

「ふーん……てゆーか、私の鯖缶1個取ったでしょ!」

「ほら、いろんな物に触れるから無防備な鯖缶にも触っちゃった感じ? みたいな?」

 

 珱嗄は現在、フレンダと共に拠点で待機していた。それというのも、この二人以外のメンバーが依頼をこなす為に出て行ったからである。二人は鯖缶を突きつつ、雑談をしていた。フレンダはそうしながらそこら中の人形に爆弾を詰めていた。

 

「何が、みたいな? よ。もう………あーあ、麦野達はいないし鯖缶は取られるし……結局散々な訳よ」

「頑張れ、フレンダちゃん」

「誰のせいだと思ってるのよ!?」

 

 珱嗄に噛みつくフレンダ。実の所、アイテムに珱嗄が入ったと言っても、まだ認められている訳ではない。暗部とは、信頼した瞬間裏切られる闇の世界だ。フレンダとしても、珱嗄はまだ会ったばかりの人間で、信用するに値するとは思っていないのだ。

 だが、それでいい。珱嗄もそう思って貰っていて結構だった。無条件の信頼ほど、薄っぺらい物はない。

 

「さて、それじゃあ暇潰しにモノマネでもしようか?」

「………どんな?」

「あーあー……こほん! 『フレンダって超可愛いですよね。凄く羨ましいです』」

「今のって………絹旗の声!?」

 

 声帯模写。珱嗄の持つ特技の一つである。フレンダは珱嗄のその特技に目を丸くする。

 

「まぁ暇つぶし程度に色々やれるし、今度は麦野ちゃんのモノマネでもしようかねー」

「わ、わ、凄い!」

 

 珱嗄とフレンダは、結局、麦野達の帰ってくる時まで、そうして共に暇を潰すのだった。

 

 

 




フレンダのターン

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