◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
とある廃れた劇場跡地に、インデックスはいた。その場にはインデックスを攫った赤髪の魔術師、ステイル=マグヌスと、ローマ正教の修道女であるアニェーゼ=サンクティスが居た。
彼らの目的は、『法の書』と呼ばれるアレイスター・クロウリー著書の魔導書の奪還だ。ちなみに、『法の書』は難解不読の暗号で書かれた魔導書であり、その解読方法は何千通りとある。そしてその全てが正解にして不正解。つまり、誰にも読めるけれど、誰にも読めない魔導書という訳だ。
だが、そんな『法の書』の『解読方法』を見つけ出した修道女がいるという情報が現れた。その修道女の名前は、オルソラ=アクィナス。彼女もまたローマ正教に所属していた修道女だった。
だがしかし、彼女は法の書の解読方法を目当てに寄ってくる欲深い者達から逃げた。国から出て日本の学園都市へと逃亡したのだ。
そして、『法の書』も何処かの魔術組織によって強奪された。解読者と暗号本が同時にローマ正教から失われたのだ。焦ったローマ正教は今慌てて回収しようとしているという訳だ。
そこで、学園都市に伝手があるイギリス清教にも協力を要請し、巡り巡って魔導書の歩く図書館である禁書目録にも協力を仰ぐために、誘拐されたという訳だ。上条当麻はそのついでである。保護者という役を担っている以上、彼にも居て貰わないといけないのだ。
「……卑怯者、ロリコン、ヤニ神父、ヘタレ、痴漢、セクハラ野郎……」
「待て、君その言葉の意味分かってるのか?」
「………死ね、喉にお餅詰まらせて死ね、もしくは焼かれて死ね、いっそ死ね、今死ね、すぐ死ね、早々に死ね……」
「うん待とうか、少しその言葉を教えたクソ野郎に付いて話し合おうじゃないか」
インデックスがステイルに対してぐちぐちと呪詛の言葉を呟くと、ステイルは珍しくうろたえながらそう言った。実はこれは珱嗄の影響だったりする。彼は基本呼吸をするように嘘を言い、日常である様に暴言を吐く。故に、インデックスはその言葉を学び、自身の語彙と組み合わせてとんでもない暴言口撃を仕掛けているのだ。
「……別に良いかも。どうせとうま来ちゃうし、おうかもこの事を知れば来るだろうし、そうしたら秒読みで解決しちゃうかも」
「上条当麻は分かるが……おうか、というのは誰かな?」
「私に暴言の吐き方を教えてくれた人だよ」
ステイルはよし、そいつ殺そうと心に決めた。元々、彼はインデックスの同僚であり、彼女を救う為に長年生きて来た人間だ。しかも、彼女の為なら相手がだれであろうと燃やし尽くすと心に誓った程の意思の強い少年である。
「ところで、その保護者の方は何時きやがるんですかね?」
「さぁね……でもま、そろそろ来るんじゃないかな?」
とんでもなく高い厚底のサンダルを履いたアニェーゼがそう言うと、ステイルは煙草の煙を吹かしながらそう言う。すると、
「あ、いたいたインデックスちゃん。元気?」
男の声が響いた。ステイルは魔術を使うのに必要なルーンの刻まれたカードを取り出し、アニェーゼも銀色の杖を構えて警戒する。
だが、二人が視線を向けた先には誰もいなかった。何故なら、その存在は既にインデックスの目の前でしゃがんでいたからだ。
「なっ……」
「何時の間に……!」
「おうか、やっぱり来たんだね。誰から聞いたのか教えて欲しいかも」
「風斬氷華ちゃん」
「ひょうか!? 嘘っ!?」
珱嗄の言葉にインデックスは目を見開いて驚く。そして更に言及しようとすると―――
「はぁ!!」
「ん?」
しゃがんでいる珱嗄の頭上から、ステイルが炎の剣を魔術で生み出し、切り掛かってきた。会話が中断され、珱嗄とインデックスは迫る熱気に視線を迫る炎剣に向ける。
そしてその炎剣は珱嗄の頭を焼き切るかと思われた―――が、
「えい」
「あっつぁ!?」
珱嗄はインデックスの腕を取って盾にした。ギィン! という音と共に『歩く教会』が炎剣を防いだ。だが、インデックスは炎剣による空気の温度の上昇で、飛び散ってきた油に当たった様な反応をした。
「おいおい、お前。いたいけな幼女シスターに攻撃するとかマジ鬼畜じゃん謝れよ」
「おうかの方が鬼畜かも!!」
「『歩く教会』が復活している……? まぁそれは後でいいか……君に言われたくは無いね。というか普通切り掛かられたら後ろの彼女を庇う位するもんじゃないのかな?」
「ごめんね、俺はこの子が死のうが死ぬまいがぶっちゃけどうでもいいんで」
「酷い! おうか酷い!」
インデックスが騒ぐが珱嗄は無視する。そんな珱嗄に対してステイルは嘲笑し、髪を掻き上げた。そして、殺気の籠った瞳を向けた。
「ふざけるなよ、素人が」
「なんでそんな怒るのかねー。この子になんか思い入れでもあんのかロリコン」
「……うるさい。僕は僕の信念に従って、邪魔する奴は誰であろうと燃やし尽くすと決めたんだ。ずっと昔にね」
「モヤシ、作る?」
「骨も残さず燃やし尽くしてやろうかお前!!」
珱嗄はステイルの誓い的な物を聞いて尚、だから? と茶化した。正直どうでもいいのだ、彼の想いなど。インデックスが好きであろうが無かろうが、何を護りたいのか知らないが、珱嗄にとっては特に取るに足らない道端の草みたいなものだ。
「ははは、さてはお前モヤシ知らないな? 仕方ないな……ほら、これがモヤシだ」
珱嗄はポケットからモヤシを一本出してそう言った。
「知ってるわ!! というかなんで都合よくモヤシ持ってるんだ! しかも一本だけ!!」
「ほらインデックスちゃん。食べろ」
「私はダストシュートじゃないんだけど!?」
「食べないの?」
「……あむ」
「生だけどな」
「ぶふっ!?」
珱嗄の差し出したモヤシをインデックスは食べた。そして珱嗄の言葉を聞いて吐いた。汚いことこの上にない。
「吐くなよ汚ねーだろ」
「誰のせい? 誰のせい!?」
「あ、上条ちゃん来た」
「話を聞けぇぇぇ!!」
珱嗄に弄られるステイルとインデックス。アニェーゼはいつのまにか置いてけぼりを喰らっている事に気付き、折角キャラを濃くするために銀の杖とか厚底とか用意したのに珱嗄のキャラの濃さには勝てなかったと膝から崩れ落ちた。
そして、そんなカオスな状況を目の当たりにした上条当麻は、
「何コレ……」
とうんざりした様な顔で呟いた。