◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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風斬氷華編
第二位への足掛かり


 さて、打ち止めとの一件が終わった珱嗄は、アイテムの拠点へと戻って来ていた。そこには珍しく全員揃っており、仕事が無くて暇なのかぐでーっと脱力して寛いでいた。

 そして、拠点のドアから入ってくる珱嗄に視線を向けて、久々とばかりに少しだけ笑みを浮かべた。

 

「おかえり、珱嗄。もう厄介事は終わったのかしら?」

「ああ終わった終わった。見てくれ、携帯買ってきた」

「携帯買うのに一週間以上掛けたのかよ!」

「んな訳ねーだろ。ほら見ろ、アドレス帳だって既に五件程登録されてんだぞ」

「五件………少ないわね」

「え、でもそれぞれのネームバリューは凄いぜ。ほら、第一位に第三位に第五位、あと第一位を倒した奴、あと統括理事長」

「馬鹿じゃねーの? 馬鹿じゃねーの!?」

 

 珱嗄のアドレス帳を見ると、そこには確かに上から『アセロラ』『みこっちゃん』『しいたけ』『ウニ頭』『ストーカー』と五件登録されている。しかも最後の『ストーカー』については3000件程の電話番号がまとめられていた。それは全てアレイスターの持つ3000件程の回線番号だった。まぁ例によって適当打ち込んだだけの番号だが。

 

「相変わらず超とんでもない事を超平然とやってのけますね、珱嗄さんは」

「結局、私達じゃ理解の追い付かない所に居るって訳よ」

「……でも、珱嗄さんらしいよ」

 

 絹旗達もそれに同意する。珱嗄はその反応に対してただゆらりと笑った。そして、珱嗄のその笑い方が久々で、麦野達も自然と呆れながら笑った。

 

「ま、取り敢えず……無事な様で良かったわ。ドリンクバーのジュース汲み係が居なくなっちゃうもの」

「今度地獄巡り茶御馳走してやるよ」

「………それはなんだか遠慮したい所ね……」

「残念」

 

 麦野は本能で危機を回避した。

 

「さて、と。学生は本来夏休みを終えてうだるような熱気の中学校に行く訳だが……」

「そういや貴方は常盤台の教師になったんだっけ?」

「なんか知らんけどそうらしいよ。あの学校ぶち壊して来て良いかな」

「止めてマジで」

「正直女子中学生の相手するの疲れんだよね。張り合い無いし、話し掛けた時点で犯罪になる世の中だぜ?」

「まぁあの空間じゃ男性である貴方はやり辛いかもね……」

 

 珱嗄は麦野の言葉を背に拠点を出る。常盤台に向かうのだ。

 

「それじゃ、また行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 麦野が代表して珱嗄を送りだしたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 珱嗄は歩きながら3000件の電話番号の一つをコール。ワンコールで理事長が応答した。

 

『……君は何故私に電話を掛けられるのかな? 一回話し合ってみないか?』

「ははは、ごめんね」

『全然気持ちが伝わって来ないのはまぁ良いとしよう。それより登録名がストーカーとはどういう意味だ?』

「いや都市規模で盗撮してんだろうが」

『で、何の用かな?』

 

 アレイスターは話を逸らした。珱嗄は苦笑して用件を伝える。

 

「ちょっとさ、あの常盤台中学教師とかいう立ち位置面倒だから辞退したいんだけど」

『……仕方ない、ならばそう手配しよう。今回はこちらの不手際だ、対価は求めない、が……やってくれたね』

「何が?」

『君は私のプランを動くごとに悉く潰して行ってくれる。正直、これほど厄介な存在は見た事が無いよ』

「それはまた、良い事を聞いたね」

『それに、君は――――『聖人』だろう?』

 

 珱嗄は凶悪に笑った。アレイスターは言った。珱嗄が『聖人』だと。

 だが、その条件を珱嗄は確かにクリアしていた。人間離れした身体能力、神から与えられた特典(チカラ)、そして決して悪いとは言えない幸運。まさしく『聖人』の特徴ではないか。

 

「さぁ、どうかな?」

『だがそうなると、君が超能力を使えている事がそもそも矛盾している。超能力を使えながら、魔術的なテレズマを行使する存在など、見た事が無い』

「そうかい。まぁ確かに言える事は、俺は『聖人』ではないってことかな」

『……そうか。だが、君はあの幻想殺しよりも興味深い存在だ。そのあらゆるものに『触れる』能力、超能力でも無く、魔術でも無い。幻想殺しと同じとも言えないその理解出来ない力、それが今後の展開にどのように影響を与えるのか、楽しみだ』

 

 珱嗄の『触れる』能力は、神から貰った力であり、超能力や魔術では無い。この世界において、絶対に解明できない力なのだ。本来なら、レベルなんかで測定出来るものではない力なのだから。

 珱嗄も気が付いていないが、この力はもっと大きな力であり、珱嗄はその力を未だ1割程しか引き出せていない。そもそも、この能力の本質は別の所にあるのだ。

 

「ま、俺にもよく分からないからね。期待には応えよう」

『それでは、手続きは此方でやっておく。電話番号は通話が終わった後に全て変更するからアドレスにある番号は全て使用出来なくなるぞ』

「あいよ」

 

 そう言って、通話が切れる。珱嗄は携帯をポケットに仕舞い、適当に数歩歩いた後、思い付いた様に携帯を取り出した。そして適当に番号を押して掛ける。ワンコールで相手は応答した。

 

 

「そうそう、言い忘れてたんだけど、第二位って何処に居る?」

『おかしいな番号変えたんだが?』

 

 

 アレイスターは珱嗄の問いに対して逆さのまま首を捻った。

 

 

 


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