◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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閑話 後日談

 さて、実の所、まだ状況が分からない人もいるかもしれないので、珱嗄の行動を公開しよう。まず、珱嗄は天井亜雄を気絶させた後、美容専門店を尋ねた。そして、そこにあった機材一式を借りて、天井亜雄の顔マスクを作ったのだ。そして、気絶中の天井亜雄の服を剥ぎ取り、パンツ一枚にした後、縛りあげて車の後部収納スペースに詰め込んでおいたのだ。拳銃はその際改造させて貰ったのだが。

 まぁ一方通行に突っ込んで車が大破した時、その衝撃で天井は右足の骨を折り、左足にもひびが入っていた。逃げられはせず、結局闇の世界の方で始末される事になった。どうなったかは分からないが。

 

 で、珱嗄はその後一方通行を待ちつつウイルスの進行を管理していたのだ。そして、アクセラレータの電話を車の中で応対し、メールはハンドルにもたれかかっている時にこっそり打ったのだ。

 

 これが珱嗄の行動にして、一方通行の教育だ。結果、一方通行は人を救う事が出来たし、それによって自身の目指すものに近付けた訳だ。そしてなにより、救う事の恐怖に立ち向かう勇気を持つ事が出来た。ここで珱嗄が感謝の言葉を貰ったとしても、

 

「俺は何もしてないよ。面白そうな方に動いてたらお前らが勝手に救ったりしてただけだ」

 

 というだろう。しかも、心の底からそう思っているのだから本当になにもした覚えは無いのだろう。一方通行の教育だの言ってても、具体的にどうしようとか考えていなかったし、ただただ面白そうだなぁと思った方向へと進んだらこうなっただけなのだ。

 

 とどのつまり、珱嗄はどこまでいっても、珱嗄だった。

 

 

 ◇

 

 

 という訳で、見事に全員無傷で帰って来られた訳だ。

 打ち止めは芳川の紹介で、信頼出来て一番の実力を誇る病院に連れて行かれ、培養機で身体の調整を行なう事が出来た。まぁ身体はちんまりしたままだが。

 ちなみにその病院は上条当麻も良くお世話になる病院で、カエル顔の医者が務めている場所だ。そして、その医者は生きていれば必ず治す、という信条の下、執刀する。その実力は極めて高く、業界では『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』とまで言われる医者だ。

 

「あはは! いえーい! って、ミサカは過去一番の元気で走りまわってみたり!」

「うるせェよ、クソガキ」

 

 そして今、その病院から調整を終えた打ち止めと一方通行が出て来た。駆けまわる打ち止めはちゃんと全快したようで、その身体からは漲るエネルギーを感じさせる。一方通行は今まで着てた黒地に白い線の入ったTシャツでは無く、白地に灰色の線が入った服を着ていた。心境の変化だろうか?

 だが、そこに珱嗄の姿は無い。一方通行は知らないが、打ち止めには自分を救ったのは一方通行だと伝えられており、珱嗄の事は一切聞かされていない。故に、三人でファミレスに入った事も、三人で一晩同じ部屋で寝た事も、一切覚えていない。一週間前の状態に戻されているのだから。

 

 また、ミサカネットワークの方は丁度居合わせたミサカ妹、つまり実験中止の際にドッキリに付き合った個体に頼み、打ち止めの調整中、共有されていた打ち止めの一週間の記憶を非公開にしてもらった。故に、上位命令文を打ち止めが出さない限りは、その記憶は永遠に彼女に戻される事は無いだろう。

 

「―――良い顔するじゃないか、アセロラも」

「よろしいのですか? と、ミサカは尋ねます」

「やぁミサカ10032号だったか、なにが?」

「あの件では貴方も少なからず上位個体との思い出があった筈です。それを隠して彼らと離れてもよろしいのですか? と、ミサカは丁寧に説明つきで問います」

「いいんだよ。別にアセロラとはいつでも連絡取れるし、なによりそっちの方が、面白い」

 

 珱嗄はそう言ってゆらりと笑う。打ち止めとの記憶は自分が持っていれば良い。それに、また初対面を行なうのも中々面白い体験だろう。こっちは知ってて向こうは知らない。一方通行の怪訝な表情が眼に浮かぶようだった。

 

「それに」

 

 珱嗄は一旦区切って一方通行達を見る。ミサカ妹も珱嗄に並んで彼らの背中を見た。

 

「アイツらはなんだかんだで良いコンビだからね。邪魔者はいらないよ」

「……そうですか。と、ミサカはこれ以上の追及を控えます」

「さて、俺はそろそろお仲間の所に顔出さなきゃ。一週間位ほったらかしだからなぁ」

「ちなみに男性でしょうか? と、ミサカは興味本位で聞いてみます」

「いや、女性が四人だね」

「ハーレム構築済みですか、わかります。と、ミサカは少しだけ距離を取ります」

「ハーレムかぁ……そんな感じじゃねーなぁ……仕事仲間だし」

「そうですか……と、ミサカは少し期待外れ感に肩を落とします」

 

 珱嗄はそんなやり取りをすると、踵を返してその場から去る。

 

「それじゃ、また縁があったら会おうか。案外、すぐに会う事になるかもしれないけどね」

「はい、それでは」

 

 珱嗄とミサカ妹はそう言い合って別れる。

 

 こうして、打ち止めを巡る戦いは一旦結末を見た。だが、近い未来、打ち止めと一方通行は更なる闇へと足を踏み入れる事になる。学園都市の闇の底では、囚人の様であり聖人の様であり女の様であり男の様であり、人間の様に笑う化け物が、待ちかまえていた。

 

 

 


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