◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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小萌先生の魔術サイド入り

 さて、月詠小萌もとい珱嗄は現在、海にやって来ていた。メンバーはとりあえず上条当麻、インデックス、上条家御一行だ。姿形が全くの別人に見えるからと言って、とりあえずは本人達なようなので、戸惑いながらも上条当麻は海へと連れて来られたのだ。

 という訳で、現在インデックスの姿をした上条母と御坂美琴の姿をした上条当麻のいとこ、龍神乙姫、そして上条当麻の同級生である青髪ピアスの姿をしたインデックスがそれぞれ女物の水着を着て遊んでいた。

 

 まぁいい。インデックスや御坂美琴の姿をした上条母と乙姫は良い。だが、180cm程の大柄な男性がインデックスの持ってきたとても可愛らしい子供用水着を着ていれば、とんでもない醜悪な姿になる事はご理解いただけるだろう。

 また逆として、小萌先生の姿をした珱嗄が、男物の水着―――つまりはトランクスタイプの水着を着た場合、どうなるか分かるだろうか?

 

 

 つまり、『ロリ』な『女』教師が『男物の水着』を着る訳だ。当然、上半身に付ける水着などありはしない。

 まぁ言ってしまえばつるぺたおっぱい絶賛露出中という状況が生み出される訳だ

 

 

「上条ちゃん、日差しが眩しいな!」

「すいませんホント申し訳ないんですがパーカー着て下さいお願いします!!!!」

 

 

 上条当麻はそんな月詠小萌の姿を見て顔を真っ赤にした後全力で土下座をし、そう懇願した。珱嗄としては特に羞恥心を抱く様な場面でも無いので大々的に上半身を開放していたのだが、姿の入れ替わり現象に対して何故か認識出来ている上条当麻からすれば、その姿はあまりにも刺激的すぎたのだ。

 

「とはいえ、俺や上条ちゃん以外の奴らは認識出来てないんだな。この現象は」

「はぁ……どういう事かは分からないけど、何かが起きてる事だけは事実だな」

「ふむ……まぁ俺の姿が小萌ちゃんなのは面白いと思うけどね」

 

 珱嗄はパーカーを着て上半身を隠す。が、前は閉じないので風が吹けば普通におっぱいが晒される。上条当麻のドギマギは未だに続いていた。

 

「いっそのこと成りきってみようかな。んんっ! あーあー、上条ちゃんおーけーですかー?」

「やべぇ! 小萌先生だ!! さっきまでは珱嗄さんの声だったのに小萌先生だ!」

「声帯模写は一般教養なのですよー」

「いや絶対違うでしょ!?」

 

 珱嗄は声帯模写を利用して、声まで小萌先生になりきっていた。ちょっとした仕草や口調まで完璧に真似ることで、上条当麻には目の前に本当に小萌が居る様に感じられた。

 

「さてさてー、それじゃあ上条ちゃん。この現象の犯人ちゃんを探しに行くのですよ」

「あ、はい。小萌先……珱嗄さん」

「ふふふ、別に小萌先生と呼んでくれてもオーケーですよ?」

「いや、ここで呼んでしまったら俺は何かに負ける気がするんで良いです」

 

 珱嗄と上条当麻は遊んでいる父親達に一言告げて、海辺を離れるのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「夕日がきれいですねー上条ちゃん」

「ああ、なんの情報も得られなかったけどな」

 

 珱嗄の言葉に、上条当麻は肩を落とした。あの後、珱嗄と当麻は周辺を歩き回って何か無いかと情報収集をしていたのだが、なんの情報も得られなかった。現在、海辺近くの坂道を登りながら一望できる夕日を横目にそんな会話をしていた。

 相変わらず珱嗄は小萌の真似をしている。小萌の容姿を利用したおねだりの結果、上条当麻は食べ歩きの代金を全て払わされてしまったのだが、やはり少女の綺麗な眼差しには弱いのだった。

 

「んむ?」

「どうした―――って……あれは……?」

 

 珱嗄と上条当麻の視線の先、そこには一人の少女がいた。金髪の髪をウェーブにして、真っ赤な防災ずきんの様な被り物に、腰に下げた鋸や金槌等の工具、明らかにおかしな格好だった。

 だが、記憶喪失の上条当麻はその姿を見て、知り合いなのではないかと考え、考えなしに声を掛ける事にしたらしい。

 

「よっ! ひさしぶ――――りっ!?」

「駄目ですよー、そんな凶器を振り回しちゃ」

「っ!?」

 

 その少女は鋸を上条当麻の首筋に宛がおうとして、珱嗄に捻りあげられた。上条当麻の視界には、拘束具を身に付けた凶器装備の金髪少女をロリ教師が踏みつけている光景があった。なんだこの珍百景は。

 

「あれ? もしかして知り合いでしたか? 上条ちゃん」

「い、いや―――」

「いやぁ、間に合ってよかったぜ―――よっ!? なんで此処に小萌先生が!?」

 

 上条当麻の言葉を遮って聞こえてきた男の声が、驚愕の声に染まった。珱嗄と当麻はそちらへ視線を向ける。すると、そこには上条当麻の同級生である土御門元春が一人の女性と共に佇んでいた。ツンツンした金髪にサングラス、更にはアロハシャツという奇抜な格好は、やはりというか怪しかった。また、隣に佇む女性も白いTシャツをへそが見えるほどにめくって結び、履いているジーパンは片足が脚の付け根の辺りでバッサリ切られている。やはり怪しい。

 

「土御門!? お前なんで此処に!?」

 

 上条当麻が驚愕の声を上げた。そして、上条当麻の言葉から名前を知った珱嗄は小萌の声でこう返した。

 

「奇遇ですね土御門ちゃん。お隣の女性を見るに、デートですかー? 不純異性交遊は先生認めませんよ?」

「い、いやあの先生? これはデートとかではなく、なんというか……!」

「うん? そんなに慌ててどうしたのですか土御門ちゃん。先生は別に怒ったりしてませんよ? ただなんでこんなところにいるのか理由を聞いているのです」

「や、はい、そうなんですがにゃー……言いづらい理由があってその……!」

「成程ー、つまり土御門ちゃんは不良になっちゃったわけですね……先生悲しいのです……ぐすっ」

「あああ! 泣かないで欲しいにゃ小萌先生! 別に俺は何もやましいことはしてないぜよ!」

 

 珱嗄の演技に土御門はダッシュで駆けよって弁解を始める。上条当麻は珱嗄の演技力の高さにただただ脱帽していた。

 

「まぁいいのです。とりあえずくたばれ生徒T」

「ぐはっ!? もはや名前すら呼んでもらえないとは……!!」

「ほらほら、道の途中で項垂れられても通行の邪魔なのです。クズ野郎は肥溜めにでも突っ込んで出くださいねー」

「うげっ……! せ、先生に踏まれる時が来ようとは思いもしなかったにゃー……! しかも結構力強い!? めっちゃ痛いぜよ!」

「あ、あの……すいません。私はその金髪の彼女とかではないので、放してあげてくれませんか?」

 

 珱嗄が項垂れている土御門を、今はすべすべの小さな足で踏みつけていると、女性の方が居たたまれずそう話しかけてきた。

 彼女の名前は神裂火織。かつて、上条当麻、ステイル=マグヌスと共に暴走したインデックスを救うべく共闘した最後の一人である。しかも、その実力は世界でも指折りの物で、神の力を一時的に使用出来る人間、『聖人』である。その力を使えば、膨大な力を振るう事が出来る程だ。

 

「そうなんですか? じゃあ放してあげます。ほら起きやがれゴミ」

「先生の俺への扱いが酷過ぎて心が折れたにゃー……」

「で、この変態集団は何処の何宗教なのですか?」

「我々はそこに居る少年。上条当麻に用があって来たのです。現在、世界規模で起こっている大規模魔術の影響を解決するのが我々の目的です」

 

 大規模魔術。それも世界規模の魔術だ。

 彼女と土御門は一旦珱嗄が捻りあげた少女を落ちつかせ、なんとか交渉の場を作りあげ、その説明を行なった。

 

 要約すると、現在世界規模で魔術が発動しており、その影響で全世界の人間の姿と中身が入れ替わっているということ。辛うじて土御門と神裂は結界を張ってその魔術を防ごうとしたらしいが、珱嗄と同じで外見は入れ替わってしまっているらしい。そして、周囲の人の外見も入れ替わっている様に見えているようだ。

 そして、この魔術の中心に上条当麻の存在がいたらしい。つまり、彼女達は上条当麻が術者ではないかと疑っているのだ。その証拠に、上条当麻は姿が入れ替わっておらず、入れ替わっている筈の神裂と土御門の姿がちゃんと認識出来ている。証拠だけなら揃っていた。

 とはいえ、彼には魔術の知識は無く、幻想殺しもある。幾ら証拠が揃っていても、術者には足りえないのだ。

 

「我々はこの魔術を便宜上、『御使堕し(エンゼルフォール)』と呼んでいます」

「この魔術は、通常人間が干渉出来る筈の無い天使や神の居る世界、天界に干渉し、天使をこの世界に堕とす。その結果、堕ちてきた天使は自身の入る器を見繕うんだ。結果、天使が堕ちてきた影響で全世界の人間の中身が入れ替わったって訳だ」

「……なるほど、それで術者を探してへーこら頑張ってるって訳か。わはは、精々頑張れば?」

「なぁかみやん……小萌先生なんでこんな毒吐くの? 俺内心ボロボロぜよ」

「いや、こいつ小萌先生の姿をした別人だから。中身男だから」

「なにっ!? 男だと!? 俺は男に踏まれてちょっと喜んじゃった訳か!? うわー……死にてぇ」

 

 土御門はそう言って崩れ落ちた。珱嗄はそんな土御門の頭に再度その小さな足を落とした。

 さて、ここで状況を整理すると、まずインデックスが何故入れ替わり現象を受けたのか? 『歩く教会』が復活している以上、この魔術の影響は受けないはずなのだ。だが、彼女は昨夜、旅館の浴衣を着て過ごしたのだ。つまり、運が悪かったというべきか。

 そして、珱嗄が何故中途半端に影響を受けたのか。それは珱嗄の危機察知が自身に迫る魔術に気付き、咄嗟に『触れる』能力を無意識に発動させたのだ。結果、5秒間だけその入れ替わりの性質を無効化された『御使堕し(エンゼルフォール)』は中途半端に珱嗄を入れ替わせたのだ。上条当麻は言うまでも無く『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で打ち消したのだ。

 

「まぁともかく、上条当麻が術者である可能性は極めて低いでしょう。何せ、彼には異能の力を打ち消す力、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が宿っているのですから」

 

 神裂は当麻を疑って襲い掛かって来た拘束具の少女、ロシア正教の殲滅白書のメンバー、ミーシャ=クロイツェフに対してそう言った。

 対して、ミーシャはその言葉に少し考えた後、水を操る魔術を行使し始めた。

 

 

「数価、四十・九・三十・七、合わせて八十六―――」

 

 

 彼女がそう唱えると、後方にある海から水が猛り狂い、蛇の様に動いた。

 

 

「照応。水よ、蛇となりて剣の様に突き刺せ(メム=テト=ラメド=ザイン)

 

 

 そして、その水は勢いよく鋭い剣となって上条当麻へと迫る。

 

「―――くっ……!?」

 

 だが、その水は上条当麻の右手に触れ、甲高い音と共に消し飛ばされた。

 

「回答一、これを持って容疑消失の証拠とする。少年、疑惑の念を向けた事を此処に謝罪する」

「あ、ああ……」

幻想殺し(イマジンブレイカー)を体験するために攻撃か……ま、いいか」

 

 珱嗄はその光景に対してそう呟いたが、小萌の姿ではジト目幼女になるだけだった。

 

「さて、容疑も晴れた所で。この魔術を止める方法は二つ。術者を倒すか、またはこれほどの大規模な魔術を発動する為に必要な儀式場を破壊すること。これだけです。今だこの魔術は未完成の様ですし、今ならばまだ間に合います」

「かみやんがこの魔術の中心であることには間違いないぜよ。だから、これからはかみやんの近くでしばらく行動を共にする。いいな?」

「いいですよー。ただ私には近寄らないでくださいね、ゴミが」

「かみやん……なんか俺ちょっと小萌先生に貶されんの癖になってきたにゃー……コレ大丈夫かな?」

「駄目だろ」

 

 上条当麻はそんな土御門元春にたいして、冷たくそう言い放った。

 

「しかし……上条当麻が我々を正しく認識しているのは分かるのですが……彼女、いえ中身は彼ですか、彼が我々を正しく認識しているのは気になりますね」

「ああ、それはまぁあれですー。私にも上条ちゃん程じゃないけど魔術云々を無効化出来る能力があるんですよー。ただ完全には防ぎ切れなかったみたいですねー」

「なるほど……」

 

 神裂は珱嗄の言葉に少し考えつつも、とりあえずは納得するのだった。

 

 

 

 小萌珱嗄

 

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