◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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操祈イジメ

 能力者と無能力者には、上下関係があるという話を以前しただろう。今度は能力者の中での分類の話をしてみよう。

 能力者には、能力に頼り切りな能力者と、能力と身体能力を合わせる能力者がいる。前者は強力な能力者であるほど、後者は能力の効果が余り著しくない能力者であるほど、その数が多い。例を上げるとすれば、能力に頼り切りな能力者として、一方通行(アクセラレータ)が、能力と身体能力を掛け合わせる能力者として、珱嗄が挙げられる。

  当然の様に、能力と身体能力を掛け合わせた方が、いざという時強いのは分かるだろう。

 

 

 ―――では何故、能力に頼り切りな能力者がいるのか?

 

 

 理由は単純。身体能力等必要ない位、その能力が強力だからだ。一方通行は自分で動くまでも無く、相手に好き勝手やらせておけば、『反射』でどうにでも出来る。だから肉体による戦闘技術は必要ないのだ。故に、こうして能力に頼り切りな能力者が出来上がる訳だ。

 逆に、珱嗄や御坂美琴の様に、攻撃力に欠ける能力や、防御に欠ける能力というのは、やはり自身がある程度動けないと話にならない。攻撃力に優れていても、所詮それを扱うのはただの人だ。ナイフ一本で死んでしまう様なか弱い肉体なのだ。故に、こうして身体能力を併用する能力者が出来上がる。

 これが、能力者の中にある、一つの分類だ。戦えばどちらが強い、というのはやはり能力の相性によるものが大きい。一方通行の『ベクトル変換』に対して、珱嗄は『触れる』能力で勝利を収められたし、御坂美琴の『電撃』に対して、一方通行は『反射』で圧倒する事が出来た。

 やはり、そこは対峙する相手によってまちまちなのだろう。

 

 さて、ここまで話した内容を鑑みて、超能力者(レベル5)の序列第五位、食蜂操祈をこの二つに分類すると、彼女は『能力に頼り切りな能力者』に分類される。

 相手の精神を乗っ取れば、最早勝敗は決定的だ。そのまま相手を操って気絶させる事も、殺すことも可能なのだ。故に、彼女は能力に頼る能力者で、身体能力的には小学生にすら劣る運動音痴だ。

 

 つまり、何が言いたいかというと―――

 

 

「はぁっ……はぁっ……ひゅー……はぁっ……ひゅー……げほっごほっ……!」

 

 

 レベル5の第五位、最強の精神干渉系能力者の食蜂操祈は現在、体育の授業で屍と化していた。

 

「わはは、どうしたしいたけ。もうバテたか? まだ100mも走ってないんだけど」

「ぅ………る…………さぃ……!」

 

 最早掠れた声で地面に横たわる食蜂操祈は、その身体を汗だくにして、荒い息を必死に整えようと周囲の酸素を精一杯吸い込む。ただこれでまだ100mも走っていない所を見ると、やはりその身体能力はゴミの様だ。

 

「……食蜂操祈、体育の成績だーいげーんてーん!」

「うぐぐ………! ぜぇったい……仕返ししてやるぅ……!」

「頑張れ頑張れし・い・た・け! ファイトファイトし・い・た・け! わぁ~!」

「悔しいぃ~……!!」

 

 珱嗄がリズムに合わせて応援する。それもとてもウザイ顔で。見下す様な視線に、この常盤台で最高の派閥の頂点で女王気取ってるお嬢様が悔しそうに歯噛みした。しかも、未だその四肢は地面に投げ出されたままである。

 

「―――隙ありっ!」

「はい残念」

「ああっ……!?」

 

 寝っ転がりながら珱嗄に向けてリモコンを向け、能力を発動させる操祈。だが、珱嗄は操祈の腕がリモコンを取る時点でその行動を先読み、『逸らし』能力を発動していた。再度操祈の能力は見当違いの方向へ飛んで行き、屋上に居た生徒Aに当たった。勿論直ぐに解除されたが。

 

「なんで……なんでそう都合よくバリアー発動出来るのよぉ……!」

「実は昔人の気持ちを理解して言葉を届かせる技術を習得しててね」

 

 めだかボックスのスタイルの事だが、珱嗄は今でもスタイルの基本の部分なら使えるのだ。そう、それは『人の気持ちを理解し、行動を先読みする』というモノだ。まぁそれ以上の、言葉を届かせて別次元の力を発動させるのは無理なのだが、それはただの技術なので、出来るのだ。

 故に、珱嗄は操祈の隙を衝きたいという気持ちを先読みしたのだ。

 

「チート! チートずるい!」

「うるさいしいたけ」

「しいたけじゃないんですけどぉ!」

「操祈ちゃんうるさいよ」

「ぇ………下の名前呼んじゃう? ちょ、ちょっと早くなぁい……?」

「意外と純粋だなオイ」

 

 珱嗄が下の名前を呼ぶと、照れ照れと頬を赤くしてもじもじと身体をくねらせた操祈。珱嗄はそんな操祈の頭に手刀を落として黙らせ、ゆらりと笑った。

 

「いたぁ……え?」

「まだ授業は終わってないぞ? ほら、とりあえず―――走れ」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 放課後。珱嗄は一通り食蜂を走りまわせた後、学び舎の園から早々に出て街の中を闊歩していた。実験が中止になったという事は、曰く情報収集力だけは高いのぉ。という食蜂から聞いたので、知っているのだが、当の本人達はそれを知らないらしい。

 なので、珱嗄は一方通行達にそれを知らせるべく彼らを探していた。メールを送ればいいのだろうが、一方通行が素直に見てくれるとは限らないので、直接言いに行く判断をしたのだ。

 

「そういえば俺ってアイテムの一員だったなぁ……麦野ちゃん達は今頃何してんだろうね」

 

 珱嗄は歩きながらそう呟いた。あの第四位からの呼び出しは、今のところない事を見れば、おそらく仕事が入っていないという事なのだろうが、しばらく会ってないと少しだけ気になってくる。とはいえ、今はレベル5巡りという遊びがあるので、優先順位は低いのだが。

 

「さて、時間は……18時57分か……そろそろ19時だな。常盤台中学って中学校なのに学校終わるの遅くねぇ?」

 

 教師としての事務処理もあるが、それでも終わり時刻が随分と遅かった。流石はお嬢様校、他の学校とはそういう部分でも格が違った。

 

 そんなこんなで、ぶらぶらと歩き回りながら街を散策する珱嗄だが、進行方向から走ってきた人影に足を止めた。ツンツンしたウニ頭の少年。珱嗄と先日ぶつかって卵が護られた少年だ。名前は、上条当麻。その右手に異能を殺す能力を秘めた、この世界の主人公である。

 

「はぁっ……はぁっ……! アンタ、たしか珱嗄だったっけ?」

「そうだよ。久しぶりじゃん上条ちゃん」

「小萌先生に聞いたけど……アンタ、常盤台の教師になったって本当か!?」

「まぁね。周囲が女子ばっかで羨ましいか」

「聞きたい事があるんだ!」

「おお、スルーか。まぁそういうのも悪くない。それで? 何が聞きたいんだ?」

 

 珱嗄はなにやら必死の形相の上条当麻に向けてゆらりと笑う。上条当麻はそんな珱嗄に対して、強い意思の籠った瞳をして、息切れ混じりにこう言った。

 

 

 

「ビリビリ……御坂美琴の居場所を教えてくれ!!」

 

 

 

 既に止まった実験を止めるべく、上条当麻(イマジンブレイカー)は立ちあがった。

 


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