◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「それで、小萌ちゃん。これは何処に向かってるのかな? さっき検問的な所を通った気がするんだけど」
「はいー、実際は私の勤務している学校に通わせたい所なのですが、どうやら珱嗄ちゃんは学生よりは私と同じ側の方がいいだろうとのお達しなのですよー」
「へぇ」
月詠小萌に連れられて、珱嗄が連れて来られたのは『学び舎の園』。御坂美琴の通っている常盤台女子中学校等の所謂お嬢様校が集まって共同開発を行っている学園都市内のもう一つの街。この中では多くの有名菓子店やジュエリーショップ、ファンシーショップなどなど、THE・お嬢様な雰囲気漂う店が立ち並び、学園都市の中でも多くの生徒が羨望の眼差しを向ける上流街だ。
中に入る為には学び舎の園内に通う学生達からの招待が必要で、教員や警備員、バスの運転手でさえ女性という女性の為の街。別に男子禁制というルールが有る訳では無いものの、上層部のそういう女性への配慮が男性の入園を必要以上に敬遠させ、男子禁制というイメージが付いてしまっている。
珱嗄もまた男性なのだが、ここは月詠小萌の先導があったからこそ入れたという物だろう。
というより、何故月詠小萌は自分の学校ではなくお嬢様学校の立ち並ぶ此処へ連れて来たのだろうかと疑問を抱く珱嗄。
実の所、学園都市内の教師達は別々の学校といっても十分過ぎる交流の場が多々存在する。教師達で組織された警備部隊、『
また、教師という役職から、別の学校へ講義に駆り出される事もあるし、学園都市全ての学校を上げての大運動会『大覇星祭』では全学校の教師が集まって会議を開いたりもする。
こうしたことから教師達は嫌でも顔が広くなるのだ、
つまり、月詠小萌もその一人。教師として他の学校にも多少顔が利くのだ。しかも、身長が130cm代という超ミニサイズの小学生並教師という目立つ風貌からも、その顔の広さと認知度は学園都市でもトップクラスだ。故に、珱嗄を連れて他の学校へ案内する役目というのも、案外ぴったりの人選なのだろう。
「で、ここか?」
「はいー。ここが珱嗄ちゃんが『教え導く側』として勤務する学校、お嬢様校としては学園都市でも有数の有名校! その名も―――」
――――常盤台女子中学校なのですよー。
月詠小萌は、その小さく慎ましい胸を張りながら、誇らしげにそう言った。
◇ ◇ ◇
常盤台女子中学校、それは学園都市でも能力開発において五本の指に入る超選りすぐりのお嬢様校だ。入学している生徒の全てが全員
とまぁこれほどの優秀な面を数多く持つ常盤台中学に、珱嗄は教師として務める事になった訳だ。女子中学校に男が入るのは中々抵抗があるものだが、珱嗄は特に気にしなかった。それもその筈、珱嗄からすれば中学生など総じて赤ん坊の様なものだ。何処の世界に赤ん坊に対して緊張する大人がいるのだろうか。
「という訳で、今日から此処に努める泉ヶ仙珱嗄ちゃんです。それじゃあ後はよろしくお願いしますね!」
「はい、案内、ありがとうございます。月詠先生」
「では、またなのですよー」
そう言って、小萌は珱嗄を常盤台中学に勤務する教師に引き渡して去って行った。
「よろしくお願いしマス」
「ええ、貴方には今後二年生の体育を担当して貰います。勉強を教えるにはここは些かレベルが結構偏差値の高い大学並みなので、少し荷が重いでしょうとの判断ですが、気を悪くはしないでくださいね」
「いやいや、面倒臭い座学を教えるのはかったるいので、そっちの方が気が楽でいいっすわー」
「といっても、この学校には体育教師の先生が既に居ますので、その先生の手の回らないクラスを教えてくれれば結構ですけどね」
常盤台の教師はそう言って苦笑した。珱嗄はその苦笑に対してゆらりと笑って返した。
「そういえば、珱嗄先生は―――」
「ああ、もう先生扱いなんだ」
「ええ、この学校に入ったからにはもう立派な一教師ですよ」
「成程、悪くない」
珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。
◇ ◇ ◇
その後、珱嗄は教員免許的な物を預かっていると言われ、暗部の方で偽の免許証が発行された物を受け取り、それに準じて学び舎の園内に入るIDも貰い、今日の所は常盤台中学から帰る事になった。
とりあえず、学び舎の園内に点々とある菓子店の中から適当な所を選んで、アイテムのメンバーのお土産を買う。一応は女子だし甘いものなら選択は間違っていない筈だと思ったのだ。
「むぐむぐ……にしても、随分とまぁ注目を浴びるなぁ」
珱嗄は周囲の生徒からの視線が多く、少しだけうっとおしく思っていた。というのも、この学び舎の園に招待者も連れずに男一人で歩いているとなると、いやでも注目を浴びる。元々お嬢様校は男性にあまり免疫が無い。故に、男性に対して興味津津なのだ。
「うん、さっさと出ようかな。こんな所」
珱嗄はそう呟いて、来る時も通った検問を通って、普通の学園都市の空気の中へと戻る。ため息を一つ吐き、歩きだす。すると、目の前に立ち止まった『御坂美琴』がいた。
「……いや、違うな」
「貴方は……第9985号実験の際、実験途中で巻き込まれた人物ですね。と、ミサカは確認をとります」
御坂美琴では無いミサカ。御坂美琴の二万体のクローンの一人、ミサカだった。軍用ゴーグルを頭に付け、常盤台中学の制服を身に纏った姿はどうみても御坂美琴だが、その佇まいと雰囲気は全くの別物で、御坂美琴がお転婆娘だとすれば、ミサカはクールビューティーと言ったところか。
「やぁ、俺の認識ではお前は確か死んだ筈なんだけど」
「貴方の見たミサカとこのミサカは別の個体ですので、ミサカはまだ生きています。と、ミサカは貴方の認識を訂正します」
「成程、クローンって奴か。へぇ、みこっちゃんが駆けまわってんのはお前らの為か。で、お前は何番目な訳?」
「ミサカの検体番号は10039号です。と、ミサカは自身の検体番号を伝えます」
10039号。この番号のクローンが外をうろついているということは、実験は既に一万台を超えたという事だろうと珱嗄は予測する。御坂美琴のやっている事はほぼ無駄に終わっている事も理解した。
「で、お前はなにしてんの?」
「研修中です。と、ミサカは正直に答えます」
「研修ねー……まぁいいや。ほら、コレ餞別だ」
珱嗄はミサカ10039号の手に買ったお菓子の内の一つ、水饅頭を手渡してその場を去る。そして、何かを思い出したかのように首だけ振り向いてこう言った。
「そうそう、お前らが相手してるあの第一位、【
「そう、ですか。まぁ頑張ってください。と、ミサカは命知らずな行動に対して見て見ぬふりをします」
珱嗄は今度こそ振り向かずに去っていく。ミサカはその後ろ姿を見送りつつ、手渡された水饅頭に視線を送りながら歩きだした。
「水饅頭、ですか。どんな味なのか楽しみです。と、ミサカは初めて食べるお菓子に期待を膨らませます」
ミサカはそう言って、少しだけ歩くペースを速めたのだった。
◇ ◇ ◇
その後、珱嗄は一旦アイテムの拠点に戻ってきた。だが、中にいたのは滝壺のみ。他のメンバーはぬいぐるみや爆弾集め、映画鑑賞、鮭弁の買い出しなんかで出払っているようだ。
「ほい、コレお土産」
「お帰り珱嗄。そしてありがとう」
珱嗄はお土産を滝壺に渡し、皆で食べる様に言ってからもう一度外に出る。時刻はまだ昼頃だ。時間はたっぷりある。
「いってらっしゃい」
滝壺はそう言って、またぼーっと虚空を見つめた。
◇ ◇ ◇
外に出た珱嗄は、とりあえず第一位を探す事にした。先程も言った通り、レベル5全員と会ってやろうと思いついたので、唯の興味本位だ。現在知り合いなのは第三位、第四位の二人だけ。第五位は常盤台中学にいるのだから直ぐに会えるだろうと考えたのだ。となると、居場所が分からないのは第一位、第二位、第六位、第七位の四人だ。といっても、第六位に関しては情報すらないので、会うつもりはないが。
「あっくせっられーたはど~こっかな~♪」
妙にリズミカルな歌を歌いながらゆらゆらと歩く珱嗄。白髪に紅い目のちょっと変なTシャツ来た少年だ。目立つ事この上ないのだから直ぐに見つかるだろうと考える珱嗄。いざとなれば暗部利用して住所つきとめてやろうとも思っている。
「さっきのミサカちゃんに聞いといた方が良かったかね?」
珱嗄は少しだけ後悔した。
「さて、それじゃあ気を取り直して……探しに行こっかな―――と?」
バチヂィ! と叩く様な音が珱嗄の右側から迫り、珱嗄はとりあえず『逸らす』能力で迫ってきた『電撃』を逸らした。珱嗄の身体から逸れて、電撃はあらぬ方向へ飛んで行き、地面を焦がした。
「……今日は良く見る姿だねぇ、丁度いい」
珱嗄は右方向へ視線を向けて、ゆらりと笑う。その視線の先、そこには怒りの形相を浮かべ、殺気を振りまく―――レベル5、御坂美琴が立っていた。