◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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憂い

「で、結局何がしたかったのお前ら」

 

 それから。

 珱嗄とフィアンマの戦いは当然の様に珱嗄の勝利で収拾した。禁書目録を奪われ、右腕も機能しないときては降参するのも当然の結果だろう。

 決着がついた後は、珱嗄はフィアンマを引きずってアレイスターのいる窓のないビルへ向かった。当然の様に破壊不可能な程強固なビルの壁を壊しながら侵入し、嘘だろとでも言いたげなアレイスターの表情を無視しながらその隣にフィアンマを正座させたのである。

 

 そして現在、今回の事件の主犯であるアレイスターとフィアンマを前に、珱嗄は呆れた様な表情で問い質している最中だ。

 

「いや、何がって……それは」

「俺様、予想はしていたけれど生きていたことが驚愕な存在が隣にいるって事実にリアクションも取れてないんだが」

「それを言ったら私だって破壊不可能な此処の壁を壊して入って来たことにリアクション取れてないんだ、余計なことは言わない方が良い」

「なんでそんなちょっと慣れた感じなんだ?」

「お前ら仲良いな」

「「初対面だ」」

 

 珱嗄という人外の被害者という共通点は、本来敵同士であり、各サイドのトップ的存在である二人に対し、初対面であるにも拘らず仲間意識が生まれてしまう程の強烈さが与えられるらしい。

 というか、世界最高の魔術師や世界を救う力を保有する神の右席を前に尋問まがいなことができるのは、後にも先にも珱嗄のみだろう。この状況自体、あらゆる策や技を物理一極で突破されて出来上がっている。

 

 正直、流石の二人でもどうすりゃええねん状態だ。

 申し開きがあるかと問われたら、意味分からなすぎるから逆にお前が申し開けと言いたかった。

 

「俺を殺そうとしたみたいだけど、ぶっちゃけ何がしたかったの?」

「俺様は世界を救おうとしました」

「理不尽な現実を無くそうとしました」

「結果は?」

「「クソゲーだった」」

「ハハッ」

「「ハハッじゃねぇよ」」

 

 原作ではあれ程までに強大な存在として強烈なインパクトを残した稀代の魔術師二人に、此処までツッコまれる珱嗄。

 結局二人の計画は全て頓挫し、今後も珱嗄が生きている内はどうしようもない上、珱嗄が半永久的に生きられる可能性があるという事実がどうしようもなく二人を打ちのめしてくる。

 

 最早尊大な態度を保つ余裕すらなかった。

 

「で、こっからどうする? とりあえず殴られとく?」

「君は鬼だ」

「あれだけ俺様で遊んだろうが」

「ほら、俺って衝動で生きてる所あるじゃん?」

「いや知らないが」

「でもそうだろうなって思ってるよ」

「お前ら多分ラスボスじゃん?」

「どっちかというとラスボスは君だがな」

「お前がラスボスなら人類全員勇者でも足りないけどな、クソゲー野郎」

「フィアンマから殴る」

「ごめんって」

 

 最早尋問というよりただの男子会のようになっているが、珱嗄の前で正座していたフィアンマが段々投げやりになってきた。もうどうにでもなれというような目をしている。

 そんな彼を見ていると、アレイスターもそんな気分になってきたのか、ぽやーっとした表情になってきた。

 

 稀代の魔術師二人が、揃ってぼけーっとした表情で空を見ている光景が出来上がる。

 

「幼稚園かここは」

 

 関係なく拳骨は落とされたが。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 窓のないビルから出て、珱嗄はフィアンマおよび侵入した魔術師全員を学園都市の外へと放り出した後、一人アイテムの拠点の屋上で街を眺めるように立っていた。

 既に空は夕方を少し過ぎた頃独特の、赤と青と黒の混じったような色をしている。冬も近くなっているからか、この時間になると少しだけ涼やかな風が吹いていた。

 

 珱嗄はなんとなく、この転生の人生を始めてからのことを思い返していた。

 

 直感しているのだ。

 この禁書目録の世界に来るまでに何兆年も生きて、妻も、親友も、娘も、妹も、ペット(?)も、生徒も、仲間も、沢山出来た。自分が紡いできた人との縁の数を数えれば、最早百や二百では足りない。

 この世界では珱嗄と対等な目線で話せる存在こそいないが、馬鹿騒ぎをするには十分な学生や魔術師がいっぱいいる。

 

 楽しいと思うし、面白いことばかりで人生は常に充実している。

 

 だからこそ、珱嗄は直感してしまっている。

 

「そろそろ飽きるだろうな」

 

 転生して、別の世界、別の原作を楽しみながら生きる。

 それはきっと楽しいし、一度は誰しもが望むようなファンタジー。でも何兆年も生きるということは、原作が終わってしまった後の時間は退屈な時間も多かったということだ。

 

 思い返してみれば、辿ってきた各世界での珱嗄の様子を見ると、それぞれ何処か違った。

 最初のハンターの世界。

 最強クラスとはいえまだ他を圧倒する程ではなかったから、戦いの緊張感や頂点を目指す充足感があり、まだ等身大の年齢であったが故の青さがあった。

 次のなのはの世界。

 既に完成した強さと特典によるチートあって、苦戦はしなかったものの、娘や妹と呼べる存在を得たことで、大切なものを守るために激怒したこともあったし、それを経て精神的にも大人になった。

 次のめだかボックスの世界。

 心身ともに完成した珱嗄は、此処で娯楽主義者としての本質を獲得した。何兆年という時間を生きるには、人間の精神ではいられないからだ。生物としても、能力にしても、精神的にも、彼は此処で人外となった。

 それでも精神崩壊を起こさなかったのは、ひとえに同じ時を生きる同じ人外が妻として一生添い遂げてくれたからだ。

 次の問題児の世界。

 彼は人外として初めて、人間以外の種族や存在が多く存在している世界にやってきた。ある意味、自分と同じ人外が普通に存在している世界に。妻と離れたのは思うところはあっただろうが、お互い人外故に時間が経てば会えると確信していたから、珱嗄はその世界を心置きなく楽しんだ。

 なのはの世界でも、めだかの世界でも、問題児の世界程積極的に行動してはいなかったのは、周囲が簡単に殺してしまえる人間ばかりだったから。同じ人外ばかりの世界で生きた珱嗄は、思い切り全力を出せたわけではないが、ある程度はしゃいで動くことができたのだ。

 そう、眠っていた娯楽主義者としての本質が目を覚ましたかのように。

 そして妻と再会を果たしてしまえば、彼はもう止まらない。自分をセーブしてくれる妻がいるということは、彼自身が意識して制限する必要がないという安心感を与えてしまったからだ。

 

 そうして楽しんだ彼は、不幸なことに禁書目録の世界にやってきてしまった。

 

 ――人外らしき人外が少ない世界に。

 

 この世界に来てから、珱嗄は積極的に事件に介入しては滅茶苦茶をやらかしてきた。

 それは問題児の世界での感覚が消えていなかったからだ。ましてこの世界にはセーブしてくれる妻もいない。

 やりすぎなほどの手加減と、この世界を楽しみたい娯楽主義者としての本質の矛盾が、知らず知らず珱嗄にとってフラストレーションになっていたのだろう。

 

 だから、珱嗄は今の自分の状況に飽き始めているのだ。

 

 好きで始めたこの転生生活だが、あまりにも強過ぎる自身の力がそれを十分に楽しませてくれないようになってしまった。

 

「煩わしくなってきたな、この特典も」

 

 思い返せば、最初の自分の選択をぶん殴りたくなる珱嗄。

 何が『人類の習得出来る技術全て』だ、出来ないことがあるから面白いのに。

 何が『強靭な肉体』だ、限界を超える楽しみを手放してどうする。

 何が『チート』だ、そんなものがあっては逆境なんてありえないではないか。

 特典もチートも最強も、娯楽主義者には必要ない。

 それで楽しめるのは見ている側だけだ。それを羨むのも見ている側だけだ。

 

 そうつまり、娯楽主義者が世界を楽しむ為には、

 

 ―――最強になっては(・・・・・・・・)いけなかった。

 

「最強だから娯楽主義に(こうやって)生きられるんじゃない」

 

 珱嗄は知らず知らず見失っていた。目を逸らしていた。

 自分は楽しんでいる、自分は面白いと思っている、そう思い込んで、力があることに不満はないと無意識に思っていたのだ。

 

 そうしなければ、珱嗄が今まで生きてきた世界を否定してしまう気がしたから。

 

 今までの世界を自分が楽しんでいなかったとしたら、その全てが嘘になってしまう。自分の理解者は誰一人いなかったことになる。やはり珱嗄も、それだけは嫌だったのだ。

 だが、珱嗄はこの世界におけるラスボスともいえる二人を簡単に打倒できてしまったことで、直感してしまったのだ。その事実に。

 

 娯楽主義者は恐れない。

 認識してしまったのなら、そこに向き合うことに恐怖はない。だから少し考えればそれを受け入れられたし、見失っていたことにもすぐに気づくことができた。

 

「いつからだったかな、娯楽主義者とか言い出したのって」

 

 珱嗄は屋上の手すりに背中から寄り掛かり、空を仰ぐようにして目を閉じる。

 そうして思い返すのは今までの人生。

 

 娯楽主義者とは、珱嗄が勝手に創った造語で、本来存在しない主義だった。

 今までの長い人生で、ソレに影響されてか色んな場所で珱嗄のように生きる人間も数多く出てきたが、本来それはチートなくしては成立しないようなものではない。

 チートを振りかざして、好き勝手に振る舞い、自分のやりたいようにやる生き方が娯楽主義者ではないのだ。

 

 珱嗄は目を開け、ゆらりと笑う。

 

「娯楽主義者ってのは生き様だ」

 

 そして、すぅっと片手を空へと伸ばし何かに触れるように何かを摘まむ。

 

「生き様を貫くことに、力は必ずしも必要じゃない」

 

 それはまるで、本の一ページを摘まむような仕草。

 そこに本があるわけではないが、珱嗄は本当にページを摘まんだような様子で、それを捲っていく。

 

 すると、

 

「いつか誰かが言ってたな、めだかちゃんだっけ?」

 

 捲られたところから空間が裂けていく。

 

「『世界は平凡か、未来は退屈か、現実は適当か、安心しろ。それでも、生きることは劇的だ』―――全くその通り、俺の人生は俺が生きる。そして、」

 

 世界を壊している訳ではない、けれどそこには別の空間が広がっているのが分かった。

 白く、何処までも白い空間。珱嗄にとってはなじみのある空間だった。

 

「娯楽主義者は、面白いことに飢えている」

 

 珱嗄は跳躍し、開いた空間へと入り込む。

 すると、その空間は閉じ――珱嗄は禁書目録の世界から消えた。

 

 




間違ってなければ、娯楽主義者って珱嗄さんから生まれた言葉なんですけど、今ではいろんな所で使われていて、勝手に嬉しさを感じています笑
感想お待ちしています!

次回最終回です。


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皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。

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