◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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能力開発と仮入学

 アイテムに依頼された、御坂美琴の件が終着を見せた翌日の事。珱嗄はアレイスターから寄越された案内人と居た。

 この場にアイテムのメンバーは居らず、各々自由行動をしている。アレイスターの方で手を回したのか仕事はなかったので、幸いなことに暇なのだ。

 

「ここよ」

「ありがとさん。名前なんだっけ?」

「慣れ合うつもりはないわ。それじゃ、後の事は引き継ぎの研究員を用意してあるから、そいつの言うとおりにして頂戴」

「まぁ知ってるんだけどね。それじゃねあわきん」

「初めて呼ばれたわそのあだ名!?」

 

 珱嗄を案内していた少女、レベル4の空間移動能力者である、結標淡希は珱嗄の言葉にそう突っ込んで去って行った。まぁ当然の如く、空間移動だが。

 そして、一人となった珱嗄は目の前に佇む研究所の中へと足を進めた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数時間後、珱嗄は頭に付けていた機材を外して冷たいベッドから身を起こした。そして、自分の中に芽生えた力を確認する。

 まず、これまで使用していた『触れる』能力は現存。そして、新たな能力も自身の中に芽生えていた。つまり、この時点でレベル1だろうがレベル5だろうが、計二つの能力を持っている訳だ。それは暗に珱嗄が複数の能力を持つ能力者、『多重能力者(デュアルスキル)』である事を示している。

 

「……ふーん、こういう能力か」

「おめでとう珱嗄君。AIM拡散力場の計測した結果、暫定的だけど君のレベルは4よ。いきなり能力開発しろなんて上からの要求が来たから少し困惑していたのだけど、素晴らしい才能ね。修練次第ではレベル5にも至れるかもしれないわね」

「ああそう。つっても、この能力も戦闘で相手にダメージを与えられる能力じゃなさそうだ。手から風とか炎出すとかちょっとやってみたかったんだけどなぁ」

「あ、あはは。そればかりは素質次第だからね……」

 

 珱嗄と話しているのは、白衣を着た女性の研究員。珱嗄の能力開発の全てを担当した人物だ。名前は芳川桔梗といい、珱嗄から見れば優しそうな面持ちの人物であった。

 

「ま、都合よく使っていくとしよう。ありがと、桔梗ちゃん」

「まぁ君がレベル5になれば、私も鼻が高いし、頑張ってね」

 

 珱嗄はその言葉を聞いて立ち上がる。そして、首をコキっと鳴らしながら部屋を出て行った。後に残った芳川桔梗は、嘆息して椅子に座る。そして、テーブルの上の珱嗄の開発結果が書かれた用紙を見る。

 

「……こんな能力、聞いた事も無いわ。原石の能力もそうだけど、『触れる』能力に加えて、この能力……何か関係が有るのかしら……?」

 

 彼女の持つ用紙の右上、そこには簡単に彼女が名付けた能力名が表示されていた。

 

 

 ―――【逸化精神(リヴァリアススピリット)

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 さて、面倒な覚醒シーンはつつが無く終わり、珱嗄も能力の実験をしながら街を歩いていた。時折、そのせいで何度か人とぶつかったのだが、それは能力が正常に作動している事の証明なので、珱嗄としては不満を抱く物では無かった。

 

「うん、便利だな。戦闘でも使えそうだ。ただ案の定攻撃系じゃねーのが残念だけど」

 

 珱嗄の新たな能力は、『逸らす』能力だ。簡単に言えば、あらゆるものを逸らす事が出来る能力。強力な所では事象に対しても効果を発揮する。

 簡単な例として、人の意識や認識を『逸らす』事が出来たり、自身に降りかかる災厄や能力、事故を『逸らす』事が出来たり、ダメージや衝撃の行き先を『逸らす』事も出来るという訳だ。便利な使い方としては、雨を全て『逸らす』事で傘要らずな雨の日を過ごす事が出来ちゃったりする。

 

 今の珱嗄は、行きゆく人々の珱嗄に対する視線を『逸らす』事で珱嗄は人々の視界から姿を消しているのだ。故に、気がつかない人々は珱嗄にぶつかる訳だ。

 

「さてさて……能力実験も済んだ所で……『触れる』と『逸らす』の組み合わせを考えてみようかな?」

 

 珱嗄が能力の発動を解いて、そう呟くと、

 

「あのー、貴方が泉ヶ仙珱嗄ちゃんで合ってますです?」

「ん?」

 

 珱嗄の視界の更に下の方から声が聞こえた。高く幼い声は、それだけで小学生位の年齢を感じさせた。試しに下へ視線を向けてみると、そこには珱嗄を見上げる、全体的にピンク色の少女がいた。

 

「………誰?」

「あ、私の名前は月詠小萌といいます。今日から私の勤めている学校に編入してくるという話だったはずなんですが……」

「え? あー………なるほど」

 

 珱嗄はなんとなく理解した。アイテムという暗部にいる以上、学校に通う必要はないのだが、やはり学園都市の生徒である以上、学校への編入手続きは必要なのだと。故に、アレイスターが能力開発ついでに珱嗄を入れる学校を用意したというところだろう。

 また、珱嗄はアレイスターがなんの面白みも無い学校に通わせる事も無いだろうと思い、その学校にはなにかしらの主要キャラがいるだろうと察した。

 

「そうそう、そうですよー。で、小萌ちゃん」

「私は先生なのですよー?」

「知ってるよ。年齢はそうだな……25歳位か?」

「初対面で先生の年齢を20以上と見たのは珱嗄ちゃんが初めてですよ!」

 

 凄く嬉しそうな顔で小萌はそう言ったのだった。

 

「それじゃあ学校に案内するですよー」

「ていうか俺の居場所なんで分かったんだ?」

「実は此処先生の通学路の途中なのですよ。そこでつい見かけたのです」

 

 珱嗄と小萌は何気なく会話しながら、通学路を歩き始めた。

 


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