日本帝国 彼の地にて斯く戦えり   作:神倉棐

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【Ⅶ】洋上での転移者達の会話

〈8〉

 

大陸派遣艦隊転移者side

 

艦隊が横須賀軍港を出航して2日、今24隻は対空対潜警戒陣形を取りつつ大陸を目指し西進していた。そしてその艦隊旗艦たる金剛の一室には転移者2人、東堂祐也と千早郡像が簡素な据え付け机を挟んで座っていた。

 

「いよいよだな」

「はい、大陸まで残り1日。俺はその手前で下りて潜水艦隊(伊-401)に乗り換える事になるのでこの艦(金剛)に乗っていられるのも残り数時間です」

 

2人は船室にある小さな覗き窓の外に広がる青い空と青い海、そして白波を立て突き進む黒き巨大な艦影、正規空母天城を見る。金剛の両脇を固める正規空母天城と葛城は定期的に偵察機(景雲改)を上げ対空警戒並びに艦隊の先導を行っていた。

 

「全く……前まではまさか自分がこんな『男の浪漫』の塊な戦艦とか正規空母とかを直に見れるどころか乗れるとは考えもしなかったな」

「ははは、俺もです。未だに信じきれませんよ、俺達が生まれる半世紀も前に沈んだ筈の国家の威信を賭けた大戦艦達が今ここに存在するなんて。でも……皆んな昔の人はこんな艦影を見てきっと誇りに思ったんだってのは分かりますね」

「ああ、こんなのが海に浮いてるなんてきっと誇りになった筈だ。俺だってこいつに乗ってるだけでもかなり心強く思えるんだ、昔の、今この艦に乗る人々だってそう思うだろう」

 

2人は自らの乗る巨大な鋼鉄の城への思いを語りふと、出航時にあの少年が見せたあの演説について話は流れていった。

 

「しかし……あのカリスマは凄いですね……俺もアレを聞いて一瞬確かに胸が熱くなりましたから」

「俺もだ、前に会った(前話)時とは見た目こそあまり変化はなかったが雰囲気がまるっきり違った」

 

僅か数十秒で陸海将兵数千の心を掴み意思を束ねてあげた自分よりも歳下の少年の手腕、しかも技術でなく自然にそれをやってのけたそのチカラは特典か、それとも……?

 

「……ここだから得たものか、はたまた元からその素質があったか……後者かもしれんな」

「天性の才、王の資質ですか?」

「だからこそあの(駄)神はあの少年にこの国を与えたのだろうよ、いやはやなかなか、気に食わんが良く見抜いている。あの(駄)神め……一体何をするつもりだ」

 

東堂はあの憎たらしい(駄)神の姿を脳裏に思い浮かべ爪を噛む。アレは聖者ではない、寧ろアレの無垢の善意(悪意)は悪魔に近い。この手の奴は何も考えてなさそうで1番何か目的為に冷酷になれる、しかし反対に寧ろ何もない場合もない訳ではない。簡単に言えばクソ面倒くさい『分からない』なのだ。

 

「失礼します、千早特務大尉。調査艦隊旗艦伊-401との会合点に到達しました。松田艦隊司令官が第1艦橋に来るようにとの事です」

「分かりました」

「あと、東堂特務少佐にも同行して欲しいとの事です」

「了解した、今行く」

「はっ、ご案内します」

 

どうやら時間が来たらしく呼びに来た水兵について2人はこの大陸派遣艦隊の司令官を務める女性、帝国海軍大佐 松田千秋(まつだ ちあき)のいる第1艦橋に向かった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

金剛第1艦橋

エレベーターを使って上がって来た東堂と千早が先ず目にしたのはこちらに背を向窓の外を双眼鏡で見ている身長が大体160㎝くらいの1人の女性とそこから少し離れた位置で同じく双眼鏡を覗いている170㎝後半の男性だった。

 

「司令官、艦長、特務大尉と特務少佐のおふたりをお連れしました」

「ん、ありがと」

「……司令、はぁ」

 

返事はするものの未だ双眼鏡を覗いたままの姿でいる司令官の姿を見て振り返っていた艦長の男性がため息を吐く、上官ではあるので一応注意はしないようだ。

 

「取り敢えず呼び出した張本人(司令官)がアレなので代わりに言うがよく来てくれた」

「いえ、お気にせずに」

「済まないな、来て貰った訳はご存知だろうが千早特務大尉が乗り換える伊-401との会合予定海域に到達したからだ。今潜航中であろう信号ブイを探している最中なのだが……今司令官はこうなっている」

「…………」

「この子……彼女は昔からゲームというか賭け事というか遊ぶものが好きというか傾向があってな……見張り員達と「誰が一番早く伊-401の信号ブイを見つけられるか」と競い合いを始めたらしくさっきからこの調子なんだ」

 

1度彼女に目線を向けて戻した彼、この艦隊旗艦 金剛の艦長をつとめる伊藤 整一(いとう せいいち)海軍大佐は再びため息を吐いた。

 

「伊藤艦長は松田司令とはどういった?」

「昔教官をやっていたのですよ。栄光の新陸海空統合軍学校第1期生、その中でも上位10名は栄冠のエリートと呼ばれもしたがその実態はある意味問題児の集まり、主席の山本は博打好き、同率次席だった桐咲と神ヶ浜は唯一まとも、これから来る調査艦隊司令官は水上艦の上手く操艦できない生粋の潜水艦乗りで、彼女はゲーム好き。他にあと5人については……あまり思い出したくもないですなぁ……」

「「お疲れ様です」」

「分かってくれるか……」

 

やたら苦労をしているような伊藤艦長にシンパシーを感じた2人はガッチリと手を握り合う。……話の中に山本とかいう名が出ていたような気がしないでもないが気にしない、気にしたら負けなんだ!

 

「あ、見つけた。操舵手、取り舵15。両舷減速、50m先で両舷微速。浮上してくるだろうから水面下に注意」

「ヨーソロー」

「は〜い、みんなゲーム終了〜。私の勝ちだね、みんなは普通の仕事に戻って良いよ」

『了解』

「終わったようですな、司令」

「なに?」

「おふたりが来られておられています」

「おお、早いね。じゃあ早速だけど甲板に行こうか」

 

少し袖が余るように作られている海軍第2種軍装に身を包んだ彼女は2人を連れ甲板に向かう。

 

「そろそろ浮上かな?」

 

右舷前部甲板上にて待っていると松田司令がそう呟きその瞬間海面を突き破るようにして1隻の黒い艦影が姿を現した。潮吹雪が3人に降り注ぎ甲板を僅かに濡らす、他の水兵達が待ってましたとばかりに手際良く2つの艦の間にタラップを降ろした。

 

「久しぶり、信乃さん。元気?」

「ええ、元気よ、貴女もね。あと千秋大佐、今は仕事中ですから近藤司令か大佐と呼んで下さい」

「ん、分かった近藤大佐。じゃあ早速用事を済ませよう。潜水艦はあまり海上に出るべきじゃないし」

「違いないわね、って事はこの2人のどちらかが千早特務大尉かしら?」

 

海中から現れた女性、近藤 信乃(こんどう しの)海軍大佐はそう言って甲板に立ち伊-401を見ていた2人を見る。

 

「紹介する、こちらが東堂特務少佐でその隣が今回そちらに乗艦する事になる千早特務大尉」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いするわ。特に乗艦を歓迎するわね千早特務大尉」

「ありがとうございます。知識だけは十分にあると思いますので司令官のお役に立てられれば幸いです」

「期待しているわ」

 

2人と握手した彼女は最後に最初から左手に持っていた黒のトランクを目の前に持ち上げる。

 

「あと松田司令、これを軍令部にお願いします。司令に渡したのと同じ大陸の最新版の簡易地図がはいっていますので」

「確かに受け取った、責任を持って送り届ける」

「では」

 

黒のトランクを手渡した近藤司令官は敬礼し千早特務大尉と共に伊-401に乗り込むと再び潜航を開始する。それを最後まで見届けた松田司令官と東堂特務少佐は艦内に戻る為踵を返す。

 

「さて、いよいよ明日だよ東堂特務少佐。今日は早めに休むようにね」

「了解です司令」

「じゃあね」

 

そして彼女と彼は艦橋と船室の二手に分かれて進んでいったのだった。

 

 

 

大陸上陸まで、あと1日。

 

 

 




松田千秋のモデル、誰かわかりますか?ヒントはゲーマーさんです。(史実において存在する松田千秋は男性です)

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