日本帝国 彼の地にて斯く戦えり   作:神倉棐

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【Ⅵ】演説と出航

〈7〉

 

派遣艦隊出航当日、大陸派遣艦隊旗艦 金剛

 

「全艦総員に告げる。私は旭東帝国皇帝 天城刀夜だ。先の戦争の終結から僅か10日しか経ってはいないが未だこの国は重大な危機に瀕している事は君達も理解できているだろう」

 

金剛の全部甲板に並ぶ多数の将兵、そして途中下船する1人を合わせた転移者2人を前に艦首に仁王立ちし厳かに告げるのはこの帝国の最高意思決定機関、即ち皇帝である。

 

「故に、この派遣任務がどれだけ重要なものがも理解できている筈だ。この派遣を持って新たに発見された大陸に存在する国家と友好関係を得られなければ、遠く無い内にこの国は滅亡する」

 

皇帝からの包み隠さぬ事実の宣言に僅かではない揺らぎが将兵の間に広がる。しかし、

 

「しかし!この派遣任務が成功すればこの国は、国民は救われる‼︎」

 

皇帝たる少年の言葉にその揺らぎを消し去られる。

 

「我々が守るべきは国家であり国家とは民だ。だからこそ私は重ねて派遣艦隊総員に告げる!」

 

迷いはあるか?

 

否、それが我らが為すべき事ならばこの生命、この身が守るべきこの国、この国民、家族の為に捧げよう。

 

僅か時間にして数十秒、ただそれだけで艦首に立つこの皇帝たる少年は全艦の将兵達の心を掴み意思を束ねて見せた。

 

「帝国臣民の命運はこの任にあり。各個。奮励、奮起せよ‼︎」

 

『ハッ‼︎』

 

全将兵がただ1人の少年に敬礼を捧げる、その胸に個々それぞれ守るべきものを抱きながら。

 

「出航‼︎」

 

旗艦である戦艦『金剛』を先頭に大陸派遣艦隊、空母『天城』『葛城』、重巡『伊吹』『鈴谷』、軽巡 『夕張』『香取』『鹿島』『天龍』『龍田』、駆逐『菫』『雪風』『島風』『陽炎』『不知火』『黒潮』『磯風』『浜風』『雷』『電』、揚陸『秋津』『冬津』、艦隊補助 『間宮』『伊良湖』『秋津洲』の24隻が横須賀軍港を出航、旧太平洋の海原をその漆黒の舳先を持って切り裂き進む。

新設航路、九州を周り旧日本海を西進する片道3日の海路に、白波を立て暁の水平線上にもうひとつの太陽(旭日旗)をはためかせ進む艦影を軍港の埠頭で2人の補佐官を従え眺めるのは先程金剛の艦首で演説を行っていた皇帝である少年、天城刀夜である。

 

「陛下、やはり陛下も派遣艦隊に同行したかったのでは?」

 

彼の後ろ姿を見ている情報担当の補佐官、桐咲深雪は自らの君主()にそう尋ねる。何時ものように帝国海軍第二種軍装を着た上に外套と軍帽、短剣の代わりに同じ装飾をした銃剣を剣帯に差した完全な正装に身を包んだ彼は振り返りながら少し笑う。

 

「やはり深雪補佐官にはバレバレですか……流石エスパーですね……」

「え、エスパー?深雪補佐官、なんだそれは?」

「私と陛下の内緒です、千冬補佐官」

「なっ⁉︎」

 

ニヤリとしてやったり顏を見せた深雪に千冬は驚く。

 

「ま、待て、詳しく話せ‼︎いつの間に陛下とそんなに親しくなったんだ⁉︎」

「さて、いつなったんでしょう?分かるかな千冬ちゃん?」

「なんだとっ⁈深雪!」

「まあまあ、そこまでにして下さい2人共。この服装、まだ涼しく朝だからマシだけど日が昇ったらキツイんだよ?だから早く戻ろうか、それにまだ仕事が残ってるし」

 

大分始めの頃からすれば打ち解けてきた2人との間に入りながら刀夜はそう言う。結果的に自分達の王に迷惑をかけた事に気付いた2人は恥ずかしげに目を伏せた。

 

「済みませんでした陛下」

「私もご迷惑をお掛けました陛下」

「お互い様だよ、私……俺だって2人に助けて貰ってるからね」

「「陛下……」」

「さあ、戻ろうか。少しでも早く終わらせたらもしかしたら俺も向こう(大陸)にいけるかもしれないしね?2人と一緒に」

「「はい!喜んでお供させて頂きます‼︎」」

「こちらこそ」

 

3人は踵を返し彼らは彼らの戦場(為すべき事)に向け歩き出す。残された埠頭には朝日を受けるもうひとつの太陽、旭日旗がはためいていた。

 

 

 




あれ?これだけで1話の起承転結の起だけの筈だったのになんか1話になってる?

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