日本帝国 彼の地にて斯く戦えり   作:神倉棐

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【Ⅻ】アルセルフの思惑そして動き出す闇

 

〈13〉

 

 

「ふむ……、飲んだか」

「はっ、条件付きではありますが旭東帝国側はこちら側の要求を飲みました」

 

交渉会議終了後、アルセルフ側で会議に出席していた外務卿ラシアン・ロームと内務卿ダグラス・カールの2人は文官達を下がらせ王の執務室にてその結果について国王(ユーサー王)に報告していた。

 

「これで我が国の安寧はほぼ確実と言えよう……ユミエル()には悪いとは思うがこれも政治、割り切らねばならないな……」

「はい、陛下が御子息達を大切に思われている事は民までも知る周知の事実ではありますがこれは今後の国運を左右する一大転換点、ここは私情をお捨てになり王として決断して頂きたい」

「無論だ、それにユミィ……いやユミエルもまた否定的ではないようでな。「王家に生まれた娘として役目を果たします」と言われてしまった……その後「優しそうですしそれにイケメンですから」と言われねばあのお転婆姫がと感動の涙も出そうだったのだがな……」

「ユミエル様らしいですな……その優しさもまた」

「うむ……明るく振舞ってはいるがいきなりの婚約に確かにショックは受けておる。それに“例”の組織……だからこそ婚姻を早く済ませ帝国本国に連れて行って(保護して)貰いたかったのだが………無理だったな」

 

アルセルフが皇帝と第一王女の婚姻を急いだ理由、それは彼女が持つ事情(特異性)が理由であった。せめて彼女の身柄だけでも預ける事ができたなら彼女はこの世界で最も安全な場所(旭東帝国本国)にいる事が出来たのだがこの案は帝国の法律により失敗してしまった。

しかしまだ重要な事はある。

 

「しかしトウヤ皇帝はあの様子では女性には余り慣れておらんようだな」

 

そう、婿の女性関係についてだ。

 

「はい、諜報兼監視者(メイド)からの報告ではわざと美人の女性を配置し少々大胆に誘ってみたところ恥ずかしそうにしながらもしっかりと断ったそうです」

初心(ウブ)だな」

初心(ウブ)ですね」

 

報告を聞いた王と内務卿は思わずそう呟く。王族かつ思春期であり更に顔も良い方の彼ならば1人2人女性と関係を持ったりして“色”を知っていたりするものかと考えていたが、予想外にもそんな事は全くなかったらしい。

 

「反応から見て女性に興味がない訳ではないようですが、勇気がない(ヘタレ)のかはたまた恥ずかしがり屋なのかもしくはその両方か、女性に手当たり次第手を出すつもりはないようです」

「ではあの2人、補佐官のあの2人の女性とはどうなのだ?傍目に見て明らかにあの2人は皇帝に思慕しているようであったが……」

「それについては皇帝本人がそれを感じ取れていないようで……まるでフェリオ殿下レベルの鈍感さだとか」

「あ〜〜、うん、成る程」

「それは……気の毒ですな」

 

ならば見ているだけで口の中がジャリジャリして甘くなってくるあの2人組(補佐官)との関係は?と尋ねてみるものの、その答えは向けられている本人が好意に気付かず無自覚にあんな風にしているのだと聞いてしまった(ユーサー)内務卿(ダグラス)は例えられた昔からの悩みの種の顔を思い浮かべそれ程鈍感なのかと思わず同情してしまったくらいである。更には、

 

「それに諜報兼監視者(メイド)の内何人かが既に被害に遭い骨抜きにされています。誑し度合いで言えばその辺りは殿下より上手ですな……」

「それはかなり不味いのではないか?万が一諜報員から我が国の機密が漏れれば……」

「落とされた諜報員の大半は重要な機密までは知らされていない一般隊員で、その中で重要機密を知る隊員は2人しか居ません。それに万が一彼女達から機密が漏れようと向こうとて彼女達がこちらから諜報兼監視者だと理解しているでしょうからそれを簡単に信じたりしないでしょう。それにもし彼女達が「行きたい」もしくは向こう(旭東帝国)が彼女達を「連れて行きたい」と言うなら連れて行かせましょう……旭東帝国本国に合法的に諜報員を送り込む良い機会です……まあ内容は期待できませんが」

「それは……そうだな」

「多少我が国の機密が漏れようとも帝国本国の情報を得られるなら安いもの……ですか、理解は出来ますが内政者としてはやるせないものですな」

「それを言うなら私は外交官として諜報部隊がまともに機能していない時点で泣きたいくらいですよ……。それに帝国の防諜能力が高過ぎて余り情報が手に入れられませんし」

 

諜報活動が全く活躍しておらず寧ろ逆に仕掛けている自分達の方が苦しめられている事に彼らの胃は痛い。

 

「唯一手に入れられた情報は帝国が極秘裏に資源調査団を派遣している事と簡易的ではあるが王国全土に及ぶ地図をほぼ完成させている事だけとは……重要な情報ではあるものの1ヶ月掛けて手に入れることができたのがこれだけとはなんとも……はぁ」

「……この後の進行に注意を払うべきであろうが……先に外務卿の胃に穴が空きそうだな……」

「帝国から良い胃薬を融通して貰いますかな?」

「……頼んでおこう。私も必要になりそうであるし他の大臣達も胃が痛いであろう……」

「私も頼んでおきます」

「うむ……」

 

なんだかじんわりと胃が痛くなってきた3人であるが後日、外務卿(ラシアン)の予想通り諜報兼監視役であった諜報員(メイド)5名(機密持ち2名含む)が帝国に引き抜かれ(引き抜かれる条件に諜報員達に報告を義務化)皇帝帰還時に本国まで同行、その後皇帝付きの従者になるが彼女達は帝国の機密事項には一切触れず帝国のごく普通な様子を逐次報告し王国は念願の帝国本国の情報を手に入れる事となったがその自国との圧倒的差(それでも一般公開されている国力、軍事、医療など)についての内容に外務卿と内務卿の胃が更に痛くなり帝国産胃薬が手放せなくなったりと色々あったのだが、後年人々が当時のこのときの事をアルセルフ最大の成功でありそして歴史上最も大臣や役人達の胃に大ダメージ()を与えた『旭ア同盟が生んだ悲劇(笑)』と呼ばれる一大転換点となる事を今はまだこの3人は露程にも思ってはいなかった。

 

 

♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎

 

 

アルセルフ王国某貴族邸宅、夜半、カーテンが引かれ月明かりすら入らぬとある部屋にある1つの蝋燭の灯った燭台が置かれる円卓には幾人かの人間が席に着いていた。

 

「……旭東帝国との友好……これはまだ良い」

「左様、我々が関与すべきは彼の(・・)国との取引内容の遂行について、それと彼の『血』を手にする事のみ」

「しかし同盟、第一王女との婚約は認める事はできぬ」

 

光源が円卓の中心にある蝋燭の明かりのみの為顔は見えず唯一見えるのは光の届く卓上に乗せられた手の甲のみ、他に判別できそうなものなど声くらいしかないそんな暗闇に会合が始まってからずっと沈黙を続けていたその中の中心人物が口を開く。

 

「我々の目指す(願う)目的は血族の継承し利益を得、そして我等が悲願を達成する事にある。それが例え我が手で祖国を売り払う事となろうとも」

『然り』

「今のこの国では我等が悲願は達成できぬ、しかし彼の(・・)国の協力(援助)とチカラさえあれば悲願達成にまた一歩と近付くであろう。故に我々は彼の(・・)国との取引通りこの国の弱体化及び『第一王女』暗殺の遂行に障害となりうる帝国との同盟はなんとしても排除せねばならぬ」

『然り、然り』

 

部屋に揃えられた賛同の声が響く。彼らはアルセルフ(この国)、いやヘルダーティア大陸に潜む闇、悲願達成の為ならばどんな犠牲をも厭わぬ欲深き(欲亡き)モノ、太古の亡者。いつから存在したかなど誰ひとりとして知らぬ巨大なその闇は、僅かでも闇に通ずる者達の間ではこう呼ばれている。

 

 

亡国饗団(ファントムタクス)

 

 

無辜の民(人々)を踏み潰し、国を売り滅ぼして尚悲願を追う狂気(無垢)の集団、そんな闇は数少ない平和を手にしているアルセルフを掻き乱し戦火の火種を燃え上がらせる為に動き出す。

 

 

 

 

 

その先に帝国の逆鱗を叩き割る事となる事すら気付かぬまま

 

 

 

 

 

数多もの想い(欲望)を巻き込んだ戦乱の時は近い、大陸全土(平穏)を焼き尽くす事になるかもしれない火種が、確かにアルセルフ(そこ)にて燻り始めていた………………

 

 

 

 

 

 

 




ユミエルについて

ユーサー王は親バカ
外務卿(ラシアン)は親(?)バカ
内務卿(ダグラス)は親(?)バカ

結論

アルセルフ王国政府はユミエルに甘い、つまりユミエル可愛い








……なんでさ?それにフェリオは?

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