日本帝国 彼の地にて斯く戦えり   作:神倉棐

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【Ⅺ】同盟交渉会議

 

〈12〉

 

友好条約締結後、アルセルフは締結前の祝宴会にて宣言した通り帝国皇帝天城 刀夜と王国第一王女ユミエル・アルセルフの婚姻を前提とした同盟交渉へと乗り出してきていた。そしてここはそれについて話を進める為の交渉会議、帝国側は皇帝補佐官である桐咲 深雪と神ヶ浜 千冬、他には本国から新たに来た外務大臣吉田 茂(よしだしげる)が、アルセルフ側の外務卿ラシアン・ロームと内務卿ダグラス・カール、他数人の文官が席に着いていた。

今回の交渉はあくまで事務方がつけるもの、故に当事者と発案者である皇帝と国王の姿はここにない。

 

「ではこれより『旭ア同盟』交渉会議を開始します」

 

交渉の始まらんとする部屋の空気が一気に引き締まった。

 

「本日の交渉の進行は私、ラシアン・ロームが務めさせて頂きます故ご容赦を」

 

ラシアン卿がそう言い一礼したのに揃え帝国側も礼を返す。

 

「では早速ですが同盟内容のすり合わせを行いましょう。我が国、アルセルフが貴国、旭東帝国に求める条件は以下の通りです」

 

 

 

 

同盟締結条件(アルセルフ側)

 

1つ、軍事同盟の締結

 

1つ、通過為替の設定

 

1つ、通商条約の締結

 

1つ、関税同盟の締結

 

1つ、両国大使館の設置

 

1つ、以上の条件の無事締結を保証する為旭東帝国皇帝とアルセルフ王国第一王女との婚姻を行う

また結婚式典は条約締結より3ヶ月後に開催するとする

 

 

 

 

渡された羊皮紙に書かれ掲示された条件に深雪達は目を通す。大体は予想通りの内容でありこちらも願ったり叶ったりのものが多いが唯一、最後の項目については旭東帝国側全員が若干眉をひそめるものだった。

 

『条約締結より3ヶ月後に結婚』

 

決定から実行まで僅か3ヶ月、というのは明らかにおかしい。どう考えても早過ぎる(・・・・)。いつの時代であろうが結婚、特に式を行うにはには時間がかかる。場の準備、料理の食材の準備、人の手配、式の準備、花嫁の準備……etc、とにかく時間がかかるのだ。現代ならばネットを見て電話をするだけで済む事もここ(中世)では馬を出したり鳩を飛ばしたり人を使ったりと手間暇がずっとかかる、それに王族同士の結婚式ならば国中の貴族に招待を送らねばならない為普通なら1年以上前から通知せねばならないのだ。

 

何かきっと裏がある

 

そこからそう読み取った深雪は隣に座る千冬と吉田に目配せし唾を飲む。2人も同意見のようだ。

 

「……ではこちらが我々旭東帝国が掲示する条件です」

 

 

 

 

同盟締結条件(旭東帝国側)

 

1つ、軍事同盟の締結

 

1つ、通商条約の締結(為替の設定含む)

 

1つ、一部資源開発権の購入

 

1つ、関税同盟の締結(関税自主権を認める)

 

1つ、両国大使館の設置

 

1つ、婚姻はするものの結婚を行うのは我が国皇帝が満20歳となってからとする

 

 

 

 

目配せののち深雪は手元にあったファイルから条件の書かれた紙を取り出し机の上を滑らすようにして渡す。それを受け取ったラシアン卿は目を通し、隣に座るダグラス卿に渡した。

 

「……では帝国は我が国(第一王女)との婚姻を了承との事ですな?」

「はい、後は本国にある貴族及び衆議院の議会の承認を待つのみとなります」

「なるほど」

 

どれだけ吉田達外務省の人間と話し合ってもこの『皇帝と第一王女の結婚(政略結婚)』だけはアルセルフの条約締結条件からは外せない事が分かった深雪と千冬はせめて、皇帝である刀夜が王女との婚姻を受け入れられるよう時間を稼ぐ事に決めていた。それ故に現代にて結婚がまだあり得ると認識できる3年後の20歳を目処としていた訳だが、今回はそれが功を奏したらしい。この彼女2人の僅かばかりの足掻きがこの場に来て生きてきていた。

 

「しかし……この満20歳とは?これはつまり結婚を行うのは『3年後』、という事ですかな?」

「その通りです。我が国がこの世界に転移して未だ1ヶ月、皇帝たる陛下は未だ忙しく議会もまた早急に解決すべき事案も多くあります。そんな中国家最高意思決定機関である陛下が結婚を行うとなるとそれらが全てストップしてしまいます、それは現在の我が国にとって大変由々しき問題ともなってしまうのです」

「ふむ、それで」

「更に我が国において男女間の結婚に関しては明確に法によって定められており結婚が可能になるのは男女共(・・・)に満18歳となっています。これは我が国に属する者、また属する事てなる者もまた法律の対象となり、これには王侯貴族つまり皇帝(陛下)や婚姻関係を結ぶ事となる貴国の第一王女殿下もまた同じ事です(・・・・・)

「ほう、王が法に縛られる……と?」

「いいえ、王は法の元で民を治め導くのです。我が国に『立憲君主制』を国家体制としておりますので」

 

ダグラス卿の言葉に深雪は不敵にも微笑みつつそう答える。しかし実際は内心かなり冷や汗を流している。責任然り、経験不足然り、今の彼女にはかなり重い問題でもある。しかし今彼女は笑う事が出来ていた。

 

陛下……私は……貴方には支えらればかりだと言われますが私からすれば私の方こそ支えられてばかりですね

 

あの夜、泣いた彼女達を最後まで抱きしめてくれたのは彼だった。それがどれだけ嬉しく、恥ずかしく、そして愛おしかった事か、おそらく今までで一番だっただろう。そして彼は彼女達を信じてくれているのだ、彼女達の手腕を、強さを、ならばそんな自分が信じてくれる人に応えずしてどうするというのか。

無条件の信頼であるがそれは根拠の無い都合の良い信頼ではない、彼女達なら必ずできるという確かな根拠があるからこその無条件の信頼である。伊達にゲームが始まってからずっと(長年)付き合っている訳ではないのだ。

 

「……ふむ、分かりました」

「ラシアン卿、もしやこの条件を飲むので?」

「その通りです、この同盟(婚姻)はこちらが持ち掛けたものであり旭東帝国にはこれを拒否する権利がある。帝国が同盟(婚姻)を承認したということだけでも有り難いことですからな」

 

ラシアン卿は1度目を瞑りそれからそう言って深雪達の事を見る。

 

「ではよろしくお願い致します、キリサキ補佐官殿」

「こちらこそありがとうございます。ラシアン卿」

 

2人は立ち上がり握手を結ぶ。同盟締結の前段階、内容交渉が成立した瞬間であった。

 

 

 

こうして同盟交渉会議は無事終了し、深雪達のリベンジは成功したのだった。

 




学校が始まるとやはり前までのようにはいかないなぁ……。

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