〈11〉
祝賀会が終わり、参加していた極東帝国の軍人や外務省の職員達は馬車に乗り彼らが滞在している迎賓館に向け帰宅の途についていた。そして同じ馬車に乗る東堂と松田大佐、海中から呼び出された千早、近藤大佐の4人は先程刀夜達がアルセルフ国王ウーサーに打診された話について話していた。
「……とんでもない札を切ってきたもんだな、あの王様は。まさか婚姻とは……」
「ですが最もよくあり更に分かりやすい手段でもあります。血縁関係になればその相手の国を無下にはできませんし裏切らないという証明の人質みたいなものにもなります。それに現在でも大企業などではそういった事をして会社間の関係を取り持ったり吸収合併が行われたりしており今でも行われる分かりやすく且つ反故にしにくい契約ですね……引き合いにだされる本人の意思を無視すればですが」
王族同士の婚姻、言い方を変えればただの政略結婚であるがこれのもたらす利点は大きい。
「アルセルフと帝国の結び付きが強くなればこの1ヶ月で極秘にだが調査していた資源の開発と輸入、こちらもインフラや国産製品の輸出が可能になり一先ず最悪の事態は避けられる。ただ問題は……」
「帝国が
実際アルセルフに眠る地下資源を開発すればある程度帝国は全力で行動がとれるようになる。つまり下手すればアルセルフは周辺国全てから縁を切られてもおんぶ抱っこになるが存続が可能になるのだ。
「それにアルセルフは領土が大きはない割に気候と地質が良く豊穣、北には高い山脈があり西には大河、南にはかなり深い森林があって国土防衛上においては難攻不落。民が飢えにくいから僅かな常備軍でもかなり精強、特に『王宮騎士団』と呼ばれる精鋭部隊は傭兵上がりとか兵隊から『剣聖』と呼ばれる団長に能力を評価され勧誘されてるから群だけでなく個でもかなり強い、らしいよ」
「歩兵は機械化されていない先込め式のマッチロック式ライフルの
「よく調べが付きましたね」
「街中の噂と来る前に見た城の詰所、あと貴族と話してたら情報が集まった」
防諜意識低すぎね?あ、近藤大佐の情報収集能力が高過ぎるのか。
噂と詰所と話だけでそこまでたどり着いた近藤大佐に藤堂と千早は軽く引くがそもそも彼女は調査、情報収集を主任務とする調査艦隊の司令官である。そんな艦隊の司令官であり、常にいる深海において情報が命綱ともなる
「そうでもないぞ?私はただ用心深いだけさ。ホントに私より情報関連強いのは今は陛下の補佐官になっている桐咲元陸軍大佐の方だ」
「深雪さん、実家の関係上情報関連の扱いには長けてるからね。帝国内で情報に関しては彼女の右に出る者はいないんじゃないかな?だからこそ補佐官に成れてる訳なんだけど」
「深雪補佐官の実家って一体…………」
「知りたい?」
「……いや、なんだか聞いてはいけない気がするので遠慮します」
「……本当に?」
「本当に」
「…………」
「本当ですよっ⁉︎」
じぃーと松田大佐に見つめられた千早は慌ててそう言う。彼の直感が告げていたのだ、『聞いては絶対にいけない』と。
それを見て一応信用したのか彼女は目線を外すがその時ぽつりと零された千早にだけ聞こえた言葉に千早はその直感が間違ってはいなかったのだと知る事になる。
「……知りたいと言ってたら多分本国に帰るまでに殉死してるかもしれなかったね……ぽつり」
……深雪補佐官、貴女どんなヤバイ秘密持ってるんですか⁉︎
そう千早はできれば全力で叫んでやりたかったそうな。
そして話の内容は深雪補佐官繋がりで再び今回の婚姻話に戻って来ていた。
「今回の件でやはり1番驚いてるのが刀夜皇帝で、焦ってるのがあの補佐官二人組だろうな」
「そうでしょうね……、刀夜陛下はまだ17だった筈だ。いきなり婚約、しかも政略結婚と言われれば驚くだろう……。まだ高校2年生だしな」
昔なら17など婚約結婚当たり前の年齢ではあるが、生憎と天城含めて転移者組は現代出身である。よって婚約結婚は20歳以上だと考えている為知識では理解できても納得できるかは別である。更にその相手がひとつ歳下の16と言われれば普通なら婚約とかでなく告白では?と言うレベルである。
つまり断じて婚約結婚とかは考えられないのだ。しかし問題はそこではない、いやそれも問題ではあるのだがもっとヤバイ問題がある。それは、
「あの2人、陛下にぞっこんですからね。トチ狂って寝込みを襲ったり(意味深)しなければ良いんですが……」
刀夜LOVEの深雪・千冬両名が刀夜を襲わないか(意味深)であった。
「「「「(ヤバい、有り得る)」」」」
その結構ヤバイ予想の呟きに馬車の中は痛い沈黙に包まれたのだった。
♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎
そしてあの4人に心配されていた張本人達、天城、深雪、千冬の3人は沈黙を保ったまま迎賓館に向かう馬車の中で揺られていた。
「……………」
「………………」
「…………………」
無言、席に着く3人それぞれが互いに後悔を悔やんでいた。
天城(ミスった……深雪さん任せにしていたばっかりに……。確かに利は互いにある、だけど……この歳で結婚て……)
深雪(私がもっと注意を払っていればいきなり
千冬(くっ……不覚だ。陛下にドレスを褒められた事で舞い上がっていた所為で私は補佐官の「ほ」の字すら為す事ができなかった!なんの為に私は補佐官になったのだ!私は陛下を……陛下……)
天城は自分の慢心を、
深雪は自らの不甲斐無さを、
千冬は自分の無力さを悔やむ。
しかし客観的に見れば
「……深雪さん、千冬さん」
「「っ⁉︎は、はい‼︎」」
天城の言葉に深雪と千冬はビクリと身を震わせる。叱責されるのではないか、そう2人は思ってしまったのだ。しかしその先に待っていたのは叱責なのではなく……
「済みませんでした……俺は……慢心をしてたんです。だから……済みませんでした」
深く頭を下げた
「そんな⁉︎陛下だけの所為では‼︎」
「そうです‼︎補佐官としての役目を果たせなかったのは私達の方です‼︎」
2人の心の悲鳴が口からも漏れる。本当に謝らねばならないのは、罰せられねばならないのは自分達であると。しかし刀夜はそうではないと言った。
「深雪さんも千冬さんも自分をそんなに責めないで下さい。俺は貴女達に救われた、救われてきた。だから……ありがとう、2人共」
救われた、何も知らず放り込まれた勝手の分からぬ地で自分は今までずっと彼女達に救われてき続けたのだ。だからこそ、感謝はすれど責める謂れなど刀夜には全くなかったのだ。
「ああ、ああああ、ああぁぁぁっ‼︎」
「ああああ、あうあああぁぁぁっ‼︎」
深雪と千冬は刀夜の胸の中で耐えきれなくなった涙を流す。きっとこの涙はこれから先の大切な糧となる、だから今は、今だけは泣いて欲しい。2人が明日を真っ直ぐに迎える為に。
涙流す2人の大切な女性を抱えた
♦︎ー♢-♦︎-♢ー♦︎
翌日、国王と皇帝の立会いの元無事友好条約は締結され、アルセルフ王国・極東帝国間には正式に国交が樹立されたのであった。
タイトルの割に関係ない事しか書いてないな……(調印式ついては僅か3行しかない)。まあ、いっか。調印式描写してもつまらないだけだろうし(多分)……。
次回、『同盟交渉、彼女達のリベンジ』です。