〈9〉
港町のとある少年side
その日はいつになく晴れた日で船出日和だった。
「今日もいい天気……ん?あれはなんだ?」
そう、ソレがやって来るまでは。
はじめは水平線上に黒い点が幾つかあるようにしか見えなかった。しかしソレらが近付くにつれソレらが船、それもただの船じゃない。この辺りではあり得ない規模の黒い船がこちらに向かっている事が分かった。
「あれはなんだ⁉︎」
「分からん、しかし住民に避難を、警備隊は配置につけ!」
海賊か、はたまた何処かの国の軍隊か、しかしあんな巨大な船を建造出来る国なんてこの大陸にはなかったはずだが………
「おい、ボウズ!お前も避難しろ。連絡用の早馬も街に出したがこの港町がどうなるか見当も付かん、だから逃げろ」
「あ、ああ、分かった」
「不明船との距離2500!なんて速さだ!もう2000を詰めたのか‼︎」
発見から僅か数分で2000mを進んで来た驚異の船速に誰もが驚愕し浮き足立つ。帆船ではその半分でればいい程度の風しか吹いていないにも関わらず更にあの巨大な船でどうしてそんな速度が出せるのか全く分からないが更に距離が残り1500を切った時点で誰かが信じられない事を叫んだ。
「お、おい!あの船
「馬鹿な⁉︎ならどうして前に進めているんだ‼︎」
「知るか‼︎あとなんか煙も出てるぞ‼︎火災か?」
「いや、なら炎が見えるはずだ。だがそんなのは確認できんぞ?」
目の良い奴が口々にそんな事を言い始めるがどれもこれも到底船を知る者、船乗りとして信じる事など出来ない事しかない。
ならもっと近くで確認してやると俺は漁に出る予定だった船に飛び込み舫綱を放つ。
「おいボウズ‼︎何するつもりだ⁉︎やめろ!」
「もっと近くで見る!」
制止も聞かず俺は三角帆を張り全速でソレ、漆黒の船達を目指した。
「これは……凄い‼︎」
丁度深度が浅くなるその手前で停船し錨を投げ込んだその船を見て俺はそう叫んだ。木製でなく鋼鉄により造られたらしい巨大な船体に遥か高い艦上構造物、帆は無いが代わりに天まで届きそうな柱、そして其処にはためく国旗らしき旗には見た事もない『太陽』をあしらわれていた。
「こんなの……まるで鋼の城じゃないか、それにこんな旗見た事もないぞ」
余りのショックに呆然としているといつの間にか目の前の船を護衛するかのようにそれより幾分か小さいが十分巨大な船が自分を取り巻いていた。
「な、なんだこれ⁉︎」
「そこの君、動かないように」
「誰だ⁉︎」
どこからかかけられた声に反応するが周りには誰もいない、いや、いた。目の前の船、その高い甲板上に白い軍服らしき服に身を包んだ1人の女性が立っていた。
「これは忠告だよ、君が我々に向け危害を与えようとした場合周りに展開する駆逐艦もしくは巡洋艦から君に向けられている砲門が火を吹く事になるから」
「駆逐艦?巡洋艦?それに砲門って」
「ん?大砲って分からない?それなら警告に使う意味がなくなっちゃうんだけど?」
「大砲は知ってる、でもこの船は戦列艦じゃないだろ。それに大砲なんてこんな小さな奴には当たらないんじゃないか?」
「当たるよ、駆逐艦に積んでる連装砲でもこの艦の副砲でも、流石に主砲は仰角の問題で狙えないけど」
そう言って彼女は周りに展開する駆逐艦と巡洋艦、最後に自分の乗る戦艦の副砲と主砲を見る。取り敢えず抵抗すべきではないという事がありありと分かった。
「……分かった。俺はどうすればいい?」
「んー、これから我々が上陸しに港に向かうって事連絡してきて。1時間後にこっちも向かうから」
「それだけで良いのか?」
「それ以上は求めないよ、私達は友好を求めてきたからね」
「友好?あんた達はどこの国の人間なんだ?」
俺は興味本意にそう聞く、彼女は少し芝居掛かった
「私達は旭東帝国、ここから2,000Kmは東に離れた所に転移して来た転移国家さ」
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大陸派遣艦隊side
先程まで話をしていた少年が乗った小船が港へ戻って行く姿を暫く見つめ、踵を返した彼女は第1艦橋に戻っていた。そしてそこには転移者の1人である東堂特務少佐とこの戦艦金剛の艦長である伊藤大佐がいた。
「さて、これで第一次接触はまずまず成功、なのかな?」
「十分そうでしょう。とにかくすぐに軍事行動には出ない、そういうポーズだけでも取っておけば向こうの混乱は比較的マシに済むでしょう。問題はこれからです」
「ですな、空母天城と葛城は更に後方で駆逐艦 磯風、浜風、雷、電と重巡洋艦 伊吹、鈴谷の護衛の元いつでも艦載機発艦可能状態にて待機中。強襲揚陸艦秋津、冬津では陸軍の大発が緊急時に備え発進準備中です」
昨日近藤司令に渡された海図にそれぞれの艦を表す駒を置き3人は考える。基本地図作成に使われたデータは特殊攻撃機晴嵐とそれを偵察用に改造された特殊偵察機雲嵐の航空写真がメインの為内陸部となると尺が微妙になり信頼度は下がる、とはいえ今必要なのは海岸部のみの為そこはあまり気にしなくても良かった。
「海域調査も完璧じゃないから安全航路が少ないね、この辺りの調査も完璧とは言えないから暗礁がどこにあるかも殆ど分からないし」
「それとやはり深度がかなり浅い為駆逐艦ですらぎりぎりの為このままだと入港できませんね」
「……やはり上陸には短艇か内火艇しかつかえない、みたいだね」
3人の話し合いは続く。
「こちらから向こうに出向く者ですが外務省の職員と松田司令官、あと数名の護衛でどうでしょうか?」
「その数名の護衛の中に東堂特務少佐を入れておく訳ですな」
「相手に警戒されない為には軍人は最小限の方が良いだろうし、妥当だね」
「決まりですな」
この他にも幾つか些細な決め事を行い必要な物を揃えたりしているといつの間にか約束の1時間が迫っていた。そして甲板、内火艇の吊るされたクレーンの前には港へ向かう人間、松田司令官と外務省職員の男性、東堂特務少佐と操船手兼船番と護衛の水兵が2人が集まる。
「では、行こう」
「ハッ、内火艇降ろせ」
「内火艇降ろします」
5人の乗った内火艇は海面にゆっくりと降ろされる。エンジンが始動するとそこそこの速さにて港を目指し出発した。
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港町のとある少年side
あの鋼鉄の船に乗っていた女性と話した後、俺は言われた通り港に戻り他の人達に彼女が言っていた事を話した。
「友好……ねえ、確かにそう言ったんだよな?」
「ああ、そう言ったさ。それに今から1時間後にその連中が来るともな」
「ふむ……」
万が一に備え応戦準備を整えていた警備隊の隊長のおっさんはそれを聞き考え込む。確かにアレを実際に見てもない彼には即断できはしない事案ではある。と、そこに町の人が全員避難仕切るまで残っていた街の市長が何事かとやって来た。
「何があったんだね?」
「それがですね……かくかくしかじか……という事があったんですよ」
「……ふむ、確かにこれは難しい問題ですな。……取り敢えず今度は王都に早馬を出しましょう。そうすれば国の役人が来てくれるでしょうし、なんとかなるのではと思いますが」
「……それしかありませんか」
現状取れる最も正しい最善策を取る事にした市長と警備隊隊長は王都に向け早馬を出し、あの艦隊から来る人々を出迎える為の準備を始める。
「来たぞ!あの艦隊からの使節だ‼︎」
そして1時間後、またもや帆の無い船でやって来たあの船からの使者はあの時甲板にいた女性軍人だった。
「お初にお目にかかります。旭東帝国より派遣されてきました派遣艦隊司令官、松田千秋大佐と申します」
「これはこれは、ご丁寧に。私はこの港町の市長をやっている者です」
「こちらこそ、それで私達がここに来た理由ですが……」
「存じております、只今我が国の王都に向け早馬を送りました。数日もしない内に国からの使者が参られるでしょう」
「ありがとうございます、お手数おかけします」
「いえいえ、将来のご友人となられるかもしれないお方々なのですからこれくらいどうという事ではありません。なのでそれまでは何もありませんがごゆるりとお待ち下さい」
「感謝します」
この後2日後飛んでやって来た政府の役人と使節団は会談、その後役人は一時停泊を許可し一度話上を持ち帰った。
また後日事務方で色々オハナシ合いがあったり王国政府中枢の方で一悶着二悶着あったそうだがなんとか友好条約締結の目処が付き、この1ヶ月後アルセルフ王国首都にある王城にて条約締結式に旭東帝国皇帝が招かれる事となった。
これで一気に1ヶ月進むぞ!
あとなんか転移者が空気な気がする……気のせい?
次回、皇帝王城にイン