腐り目悪魔のダンタリオン   作:silver time

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第二話目でございます。
引き続きsilverの迷走ワールドをお楽しみください。


PS:サブタイトルに付けた曲名分かりますかね?


月光校庭のエクスカリバー
super driver


「·········待て親父。今なんて言った?」

 

「だから、明日からお前も人間界に行くんだよ。リアスちゃんやソーナちゃんと同じ駒王町にな。何度も言わせんなメンドクセェ。」

 

 

 

 

ダンタリオン邸の一室。古びた品々に彩られたその薄暗くも威厳を感じさせる部屋。ダンタリオン卿の自室には今現在、二人の悪魔が居た。

 

片や椅子の背もたれを前にして、腕と頭を上に乗せてだるい雰囲気を垂れ流すおっさんと、つい先日大立ち回りをしたばかりの目の腐った悪魔が、そのおっさんが口走った言葉にポカーンとしていた。

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔でしばらく固まっていると、眼前のおっさんから軽めのチョップを食らい強制的に再起動させられる。

 

この二人、未だに言葉を発せないハチマン・ダンタリオンとその親、ダンタリオン卿ことガミル・ダンタリオンである。

まずは、何がどうなっているのかという話だが、表にするとこうなる。

 

呼び出されるハチマン。

自室に入り次第本題に入る。

明日から人間界行ってきて。

フリーズ。←今ココ。

 

 

······理由は?

 

 

 

「···何で俺が行かなきゃならねぇんだよ。」

 

「ずっと家に篭ってちゃ勿体ねぇだろお前の人生。コミュ力ゼロなのは知ってるがな、ずっとその力(家の血)に頼ったままじゃ根本的な解決になりゃしねぇよ。

要は対人スキルを身に着けてこい。」

 

「ぐっ······だ、だが契約の事がまだ終わって無ぇんだ。時間を空けるわけには――」

 

「契約遂行なら問題無ぇよ。必要な研究道具一式ぐらい持って行け。

向こうに人間界用の家もあるからな、後はそこで自由にやっていいからよ。

工房に改造するなりなんなり好きにやっちまいな。

契約にもしっかりと専念できるだろう?」

 

「······なら俺の――「言っとくがこれは俺だけの話じゃなくてな、サーゼクスとセラフォルーの嬢ちゃん達からの命令でもあるんだ。理解したか?」

 

 

逃げ道を、すべて塞がれた。

 

理由は正当に片付けられ、契約の遂行も問題無く行える環境を手配された。

 

オマケに魔王達からの強制命令。

 

 

 

うん、詰んだ。

 

「つー訳で、行け☆」

 

 

引き篭もり超越者候補は、親から実に憎たらしい笑顔で送り出された。

 

慈悲がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········ひ、比企谷八幡です······よ、よろしくお願ひしまひゅ·········」

 

 

 

そして、自己紹介という彼からしたら一種の拷問という試練で盛大に噛みまくり、見事に大爆死を決めたハチマン・ダンタリオンこと比企谷八幡。

人間界生活の初日から前途多難であった。

 

 

尚、これにクラスメイトとなる人間の同級生達は大笑い。

見知った顔の幼馴染達三人は笑いを噛み殺す様に顔を俯かせていた。

 

帰りたいと思った彼を責められる者はいるだろうか·········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰りたい······」

 

「初日からなに弱音吐いてるのよ。」

 

「初日からこの有り様だから言ってるんじゃねぇか······」

 

「まあ、あれがきっかけですぐに馴染めましたから······きっと必要な犠牲だったと思えば。」

 

「恥ずかしすぎる·········誰か、スコップ貸してくれ。穴掘って地面に埋まるから···」

 

「凄い落ち込みようですね······これがつい先日大立ち回りを演じた人と同一人物だと思えません。あ、羊羹食べますか?」

 

「······貰う。」

 

 

······部室に入れば、こんな状態。

余りにもカオスな空間。

そして知らない人物が増えていた。

脳に叩き込まれる多くの情報。

 

いっせいはこんらんした!

 

 

「えっと、部長?何故彼がココに?というか何でそんな落ち込みオーラを放ってるんですか?」

 

一誠と同タイミングで入ってきた木場が尋ね、一誠も嵐に掻き乱されている思考の海から緊急浮上し、その返答を待つ。

ついでに誰ですかその男何で部長が頭撫でてるんすか今すぐそこ変われという感情があったりなかったり。

 

 

「えっとね、今日から転校してきたんだけど例の如く自己紹介で噛みまくっちゃって······」

 

「······お察しします。」

 

「えっと、ドンマイ···ですよ。」

 

部長が説明した。

木場が納得した。

アーシアが慰めていた。

体操座りの男が放つオーラがさらに淀んだ。

 

まあとにかく。

 

 

「あの部長、結局そいつ誰なんすか?」

 

いい加減その辺りを把握しておきたい。

自分以外の全員が知っているというヤムチャ状態から脱したいという切実な願いがあった。

というか何故にアーシアまでその男を知っているようなのかが気になったのだ。

 

これは嫉妬ではない、親心なのだ!

というのは本人の弁。

 

「そうね、紹介するわ。

彼はハチマン・ダンタリオン。私の大切な(・・・)幼馴染で、この前の婚約を白紙に戻してくれた功労者よ。」

 

「······へーそーなんすかー······」

 

 

部長の大切な幼馴染···

 

大切な幼馴染······

 

() () () 幼馴染·····

 

 

(コイツ、敵か!)

 

激しく、嫉妬の炎が燃え上がる。

 

(種蒔鳥野郎の次には······コイツが部長を···)

 

ハーレム王目指している目の前の思春期の少年(世界一馬鹿な生き物)はそれはもう嫉妬の炎を燃え上がらせた。

 

というか、自分たちの主を窮地から救い出した恩人に向けて発していい感情じゃないだろうに。

 

 

「――俺は兵藤一誠。ハーレム王になる男だ!」

 

と、一端心の奥に嫉妬の炎を閉まっておいて、手を差し出しながら自己紹介。

実に健全な少年だ。うん。

 

言ってることは健全ではないが。

 

「···························ハチマン・ダンタリオン。人間としての名は比企谷八幡。まあよろしく頼む。程々に。」

 

握手には応じなかったが、そう彼は返す。

 

赤き龍(ウェルシュ・ドラゴン)を宿す兵士(ポーン)緑の蛇(ヨルムンガンド)を宿す(キング)が、初めて邂逅した瞬間だった。

 

「さて、なんで呼ばれたのか聞いてもいいか?」

 

「それなら······もうすぐ分かるわよ。」

 

「······?」

 

説明などする暇がなかったが、ハチマンが此処オカルト研究部に居るのは呼ばれたから、というのが理由だ。

あの落ち込んだテンションの状態だったので空返事しか返しておらず、此処まで引き摺られて連れてこられたという経緯がある事をここに記しておく。

 

さらに言えば今回ハチマンが連れてこられた理由を本人は説明されていないのだ。

 

······ハチマンセンサー(頭頂部のアホ毛)が嫌な予感を感知した。

 

······なんか見知った魔力の固有波が近づいてくる。

 

「······悪いリアス、家に帰るわ。まだ引越しの片付けやら終わってねぇし。自分の眷属(かぞく)と水入らずで楽しんでくれ。という訳で比企谷八幡はクールに去るぜ――「悪いんだけど、そういうわけにもいかないのよっ、だから大人しくしててもらえるかしら!」なっ、何をするだァー!はっ、離せェ!嫌な予感しかしない!近づいてくる魔力の波長がめっちゃ見知った奴のなんだけど!しかも嫌な臭いがプンプンするヤツが!」

「私だって悪いと思ってるわよ!だけど後でなんて言われるか分かったもんじゃないし!ハチマンには色々と聴いておかなきゃいけないことがあるってスゴイ笑顔で言ってたし!」

「それヤベェやつじゃねぇかよ!アイツ唯でさえ生徒会長なんて役職で書類やら何やら捌いてるって聴いてるけど!仕事が終わらないって何度も愚痴言うために執務の最中でも構わず通信掛けて来たんだぞ俺宛に!絶賛不機嫌真っ只中のアイツのストレスの捌け口にされるのがオチだ!勘弁してくれよタダでさえそのストレス発散方法がアレだっつうのに、そこまでぶっ飛んでる訳じゃねぇけど俺にはキツいんだよ!」

 

全力退避を試みるハチマンとそれを後ろから両脇に腕を通して抱き着く形(つまり羽交い締め)で引き留めようとするオカ研部長。

一誠とアーシア以外の面々はそれを微笑ましく見ていた。特に副部長の朱乃は恍惚の顔で眺めていた。このドSめ。

 

そして天使の様な笑顔を見せてくれる元シスターの眷属悪魔、アーシアでさえもどうしていいか分からず、オロオロとしていた。こんな惨状を目の当たりにすれば当然ではある。

兵藤の方はというとパルっと嫉妬の炎が燃えかけたが、二人のその必死の形相に、あっ······本当にヤバそうと何かを察した。

 

 

二つの騒ぎ声が木霊する部室に、失礼します。という凛とした声が響くと同時に扉が開く。

ピタリと、喧騒は止まりその発生源だった二人は開かれた扉へと目を向ける。

 

 

「···生徒会長?」

 

入ってきたのはこの駒王学園の生徒会長。

支取蒼那だった。

その外見、真面目な立ち振る舞いからなにまで正にいいんちょ属性な彼女が、自然な笑みを携えてそこに立っていた。

世の男どもならば誰もがやられおっふと呻くことだろう。

実際兵藤と彼女の後ろにいる付き添いの少年にはクリティカルヒットしたようだ。

 

だが、幼馴染たちは知っていた。

その笑顔の裏、さっきまで騒いでいた二人にはそれが貼り付けられた笑顔で、物凄い黒いオーラが可視化する位に滲み出てゴゴゴゴという擬音が付属してきそうな、そんな風に彼らには見えた。

 

「い、いらっしゃいソーナ。」

 

「よ、よう。久しぶり···だな。」

 

「ええ、失礼しますよ、リアス。それと久しぶり······本当に久しぶりですね、ハチマン君?」

 

さっきまでは不穏な魔力の波動だったが、現在は如何にも私不機嫌ですな黒いオーラが垂れ流れており、なるべく地雷を起爆させないように発する言葉を厳選していく。

これ以上不機嫌さが天元突破したら黒を超越した何かに変化しそうで恐ろしいのだ。

 

「えーと、それでソーナ?今回来たのは何でなのかしら?」

 

「······お互いに眷属が増えたようなので、その挨拶に来たんですよ。

それに近いうちに球技大会もあるので、その宣戦布告に。」

 

「そ、そうなの。私も近いうちに紹介しようと思ってたのよ······うん。丁度いいわね······」

 

「ええ、そうですね。リアス。

 

 

 

所でいつまでそうしてるんでしょうか二人共?」

 

「「············あっ。」」

 

今気付いたらしく、慌てて離れる赤と黒の男女。

それを見届け、小さなため息を吐くと目に見えていたオーラが霧散したように感じた。

······危ない所だった。

 

「んんっ、それじゃあ改めて紹介するわね。新しく入ったアーシアと一誠よ。」

 

「えっと、よろしくおねがいします···」

 

「よ、よろしく、おねがいします!」

 

なんか知らないが流れに任せておこう。

とにかく危機は脱したようだ。と一誠は二人の表情が安心したものへと変わった事に心の中で息を吐く。

 

 

 

·········あれ?なんか引っかかって······

 

 

「え?あの部長、今お互いの眷属って、それってまさか······」

 

「ええそうよ。ソーナも私と同じ悪魔よ。それも純血の。」

 

「え?···············えェェェェェェェェ!!」

 

初耳な情報に一誠はただただ驚愕した。

だって学園の生徒の中枢が悪魔である事に驚きを持たない方がおかしいだろう。元人間として。

 

「それで······ソーナの眷属はそこの子かしら?」

 

「ええ、新しい眷属の匙です。匙、挨拶なさい。」

 

「わかりました会長!生徒会所属、ソーナ・シトリー会長の下僕になった、匙 元士郎です。よろしくおねがいします。」

 

匙と名乗った少年は自己紹介を終えると深々と頭を下げ一礼する。

その角度はジャスト45°と徹底されたおじぎだった。

この徹底されっぷりにはリアスも驚きを隠せないでいた。

生徒会長は当然だと言っているが、新人悪魔が此処までしっかりしているのはなかなかないと言っていい。

 

その賞賛されるべき本人はその頭を上げると、一誠を注視するように視線を送る。

 

「···ん?なんだよ、俺の顔になにか付いてるか?」

 

「まさかお前がリアス先輩の下僕になっていたとはな、兵藤!」

 

「えっと···」

 

「何でリアス先輩がお前を下僕にしたかは分からないが、精々足を引っ張らないようにな。」

 

「なんだよいきなり!なんでお前にそんな事言われなきゃならないんだよ!」

 

なんか知らんが一触即発、というか既に引火し始めた両者。

 

同期同士の確執か、というか匙が一方的に忌避していると言った方がしっくりくるか。

来たばかりのハチマンには知る由もないのだが、兵藤一誠という神滅具(ロンギヌス)所有者は駒王学園の全生徒から目の上のたんこぶに近い、というかそのまんまな扱いをされている。

その原因が日頃の行い故の事なので自業自得としか言いようがないのだが······

 

「俺は兵士(ポーン)の駒を四個使ってるんだ。つまり普通の兵士よりも兵士四人分の強さを持っているんだ!」

 

今度は使用した駒の数の話になったようだ。だがそれを言ってしまうと······

 

「フッ、甘いな!俺は八個全部の駒を使ったんだぜ!」

 

「はっ?はあっ!?嘘言うな!何でお前が、というか八個全部使ってようやく転生したっていうのか!?そんな話聞いた事も無いぞ!」

 

······まあこうなる。

まあその疑問はもっともだろう。

 

「匙、彼の言っている事は嘘ではありませんよ。実際に兵藤君は神滅具の一つ赤龍帝の籠手を所有しています。」

 

「なっ!?······コイツが赤龍帝って·········」

 

なんとか沈静化したようだ。

匙と言った少年はまだ若干認めきれていないようだが。

 

「·········納得できませんが、取り敢えず分かりました。それと、そこにいる男子生徒は一体誰ですか?見たところ悪魔の気配は感じられませんが······」

 

「匙、彼も悪魔よ。それも純血の貴族。」

 

「······えっ?」

 

匙少年、本日二回目の驚愕。

 

「いやでも、悪魔の気がまったくしないんですが。」

 

「······ハチマン君、ここではソレを外しても構いませんから。」

 

「······分かった。」

 

ハチマンは委員長属性持ちの幼馴染からの司令通りに、ソレと指さされた眼鏡を外す。

 

「――――っ!?」

 

するとどうだろうか、さっきまで自分の目の前に居たのは普通の人間の男子生徒だった筈が、凄まじい悪魔の気と膨大な魔力が瞬く間に部室を支配していく。

 

一瞬で膨れ上がった、ではなく押さえつけられていた魔力が一気に飛び出てきたかのように、その膨大な魔力は恐ろしい速度で部屋の空気に混じり、かれらの肺すらも満たすだろう。

 

「す······凄い。」

 

一瞬にして部室を満たした魔力の奔流に、新人悪魔の匙は圧倒されていた。

おおよそ個人で、これだけの魔力を持つことが出来るのだろうかと。

魔王、そう呼ばれる者達でなければ至れない領域。

その魔道の極地に、彼は居る。

手札の数と、あらゆる魔術や魔法、魔道を究めた者。

故の、超越者候補。

故に付けられた、千の魔術を携えし者(グランドキャスター)という渾名。

 

 

 

「·········ハチマン・ダンタリオン。人間としての名前は比企谷八幡だ。そこまで懇意にする事は無いだろうが、まあ宜しく。」

 

「······よろしくおねがいします。」

 

気だるげな雰囲気からは想像出来ない程の威圧感。

 

匙は目の前の目腐り悪魔に畏れを抱いた。

そして同時に、憧れを抱いた。

 

自分もこれ程の強い悪魔になれるだろうか

 

並大抵の努力ではその頂きにまで至れないだろう。

だからこそ、匙はいつかこの人と同じ景色を見れる事を夢見て、こう誓う。

 

今よりも強くなって、自分の主に振り向いて貰えるように、誰よりも強くなる。

 

そんな青臭い夢を、目標を、突き進むと胸に誓う。

恐れを抱き憧れをも抱いた、その悪魔の腐ったように見える無機質(・・・)な目を見ながら。

 

 

 

「それじゃあリアス、コレ借りていきますね。」

 

 

「·········は?ちょっと待ぐげっ!?」

 

ソファに腰を下ろし深く座っていたハチマンの制服の後ろ襟をガッシリと掴み、猫の首根っこ摘んでプラーンさせるように持ち上げると、そのまま部室を後にしようとする。

 

ついでに補足しておくと、持ち上げられた後に床へと尻から着地することになり、そのままズルズルと引き摺られて連行される憐れな上級生がいた。

 

「おい、ソーナ?ちょっと待って、何で連行されてんの俺は。」

 

「リアスから聞きませんでしたか?ハチマン君には色々と聴いておかなきゃいけないことがあるって。」

 

「·············································」

 

「ついでに書類の整理も手伝ってください。」

 

 

 

腐っている彼の目が一段とさらに腐ったように、オカ研の面々は見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、やっぱり着いてきて正解でしたね。」

 

「本当ですね、姉さん。私達がいなかったらあっという間にゴミ屋敷の完成でしたね······」

 

「············なんでお前らが居るの?」

 

「ガミル様から様子を見てこいとの命令です。というか、ハチマン様がだらしないおかげで私達が駆り出される事になったんですから。」

 

「····生活能力自体は悪くは無いのに、それを振るおうとしませんから、ハチマン様は······本当にもったいないですね······」

 

「······一人暮らしなら一人暮らしなりに楽しもうと思ってたのに······」

 

「「そう言って、どうせ引き篭もって研究三昧だったでしょう?」」

 

新しき活動拠点となるそれなりの大きさの一軒家へと帰還した家主は、ゲンナリとした様子で玄関を開ける。

あの後たっぷりと愚痴を聞かされたり今までの空白の三年近くを根掘り葉掘りと聞かれたり書類整理を手伝わされたりetcetc·····今朝の事も含めてそんなストレスオンパレードな内容の濃い一日から家主が帰還してみれば既に上がり込んでいた二人の小人(瓜二つの容姿から双子の妖精)が玄関を漂うように浮かんでいた。

 

それぞれ茶色の割烹着とメイド服を身に纏い、一際目立つ赤の髪を彩るのはそれぞれ青のリボンとホワイトプリムと呼ばれるフリル付きのカチューシャ。

 

格好が違う以外では後は瞳の色でしかどっちがどっちか判別出来ない位な程そっくりな双子の妖精がジトーっとした視線を向けている。

 

「·········分かった、分かったよ。お前らには隠し事なんざできねぇんだな····じゃあ頼むわ。琥珀。翡翠。」

 

「ええ!琥珀さんに全て(・・)任せてください!」

 

「······頑張る。」

 

その双子、名を琥珀、そして翡翠といった。

快活な笑顔で胸を張っているのが姉の琥珀。

大人しめで両手を胸の辺りでぐっと握っているのが妹の翡翠。

ダンタリオン邸でもそれぞれ給仕として仕えている姉妹妖精。

ダンタリオンのブラウニーというそのまんまな渾名を賜ったブラウニーという妖精の姉妹だ。

 

この二人、給仕もといメイドの仕事ぶりは申し分なく、評価も高いのであるが····この姉妹は共に両極端な厄介さを持っていた。

 

 

「それじゃあ琥珀は掃除禁止、翡翠は台所だけには立つな。本当に頼むから。」

 

「「·········はーい。」」

 

この姉妹、それぞれの腕はかなりいいと評判ではあるが、それぞれの得意分野と反対が壊滅的にひどいのだ。姉の琥珀が掃除をすれば逆に散らかる所か物品を破壊しまくる。

翡翠曰く「姉さんが箒を持つと館が壊れていく。」という散々な評価を頂戴し、琥珀が初めて掃除の仕事を請け負いいざ掃除を始めてみれば、その結果ダンタリオン邸の30%が機能停止し、ダンタリオン家秘蔵のインシデントファイルの一つとして、お掃除クライシスという事件名で登録されて以降、琥珀には箒を持たすな!というか掃除させるな!と厳しく通達がされた。

 

そして妹の翡翠はというと、料理の腕が壊滅的を通り越してもはやメシマズをも超越したナニカへと至っている。

その代表的にして一番の要因である彼女の自称自信作、梅サンドなるものを知ってもらえれば分かるだろう。

 

何もかもが赤赤赤。

梅酢の強烈な匂いと色彩が初手から視覚と嗅覚を刺激(劇物的な意味で)し、口にした者を食卓のヴァルハラ(物理的な意味で)へと誘う、翡翠以外には再現できない唯一無二の料理。

一度口にすれば二度と忘れることの出来ないその味は、味覚のパラノイアへと陥ることだろう。

 

ぶっちゃけた話、翡翠は料理が苦手だ。

しかも本人は自覚しているのだが、その酷さが翡翠自身の認識を軽く上回っているのだ。

 

結論、琥珀には掃除を、翡翠には料理をやらせるな。なんとしても。絶対に!

というのがダンタリオン家の総意だ。

 

取り決めが終わり、しっかりと役割分担を取り決めてから、荷をまだ箱から出し終わっていないのでその作業をするべくリビングへと向かおうとし――

 

チャイムが鳴った。

 

「はて、早速来客ですか?」

 

「·····ハチマン様のお友達?」

 

「あははー、翡翠ちゃんその冗談は面白いですねー。ハチマン様にお友達と呼べる人なんて皆無でしょうに、幼馴染を除いてですけど。」

 

「·········そうでしたね、姉さん······」

 

「その通りなんだけど止めてくれない?」

 

踵を返して、ハチマンは扉へと向かい取っ手に手をかける。

妖精であるブラウニー姉妹は一般人に今の姿を見られるわけにはいかず、ハチマンの背中に一時的に隠れた。

 

「······誰だ?」

 

気だるそうに、嫌そうに扉を開けてみればそこには――――――

 

 

「人間界の住み心地はどうかしら?ハチマン。」

 

 

見知った緋色の髪の幼馴染がいた。

 

 

「·········間に合ってるん「勝手に閉めないの。接客の態度としては最悪よ、それ。」·········いや待て、何できたんだよ······」

 

「あれ?リアス様じゃないですか!お久しぶりですね!」

 

「·····本当だ。お久しぶりです、リアス様。」

 

聞きなれた声に反応した二人の妖精メイドが少年の肩から飛び出し、緋色の少女の(もと)へと飛んでいく。

 

「あら、琥珀に翡翠じゃない。二人も来てたのね。」

 

「ええ。ガミル様からの命令でして、こうして人間界に参りました!」

 

「私達、ハチマン様のお世話係。」

 

「あー······そういえばハチマンって極端に面倒くさがり屋だったわね。」

 

「ところで、リアス様は何故こちらへ?

その大荷物と関係が?」

 

「引越し祝いですか?」

 

······ハチマンセンサーに再び反応。嫌な予感······

 

 

「折角だから私もお邪魔しようと思って。身の回りの物とか持ってきたの。いいかしら?琥珀、翡翠。」

 

 

ハチマン は にげだした!

 

しかしまわりこまれて(琥珀と翡翠に縛られて)しまった!

 

「良いですね!幸い家も広いですしどうぞお邪魔してください。」

 

「名案。ハチマン様を学校に連れていく牽引役、お願いします。」

 

「任されたわ。」

 

「任すな!というか良くねぇだろ!」

 

「それでは案内しますね。ついでにハチマン様の荷解きを手伝って貰えますか?」

 

「良いわよそれくらい。それじゃあ始めましょうか。」

 

「それではお願いしますね。翡翠ちゃんはハチマン様を連れてきてください。」

 

「了解。」

 

「いや待て!家主差し置いて勝手に決めんな!こっちにも話し通せあぢッ!?翡翠待て、引き摺るな!制服背中の方がめくれて肌が直に擦れてるから!」

 

「この大きさですので、引き摺るしか移動方法がありません。ご容赦を。」

 

「それ省エネモードだろ!仕事モードになれば良いだろ!人間大の大きさに!分かった、分かったから!認めるからせめて普通に運んでくれあぢぢぢぢぢぢッ!?」

 

 

 

 

 

一人暮らし、初日から終了。

厄介な同居人、三人追加。




お疲れ様でした。
初っ端からぶっ飛んでるんで理解し難いと思いますが、もうそこは考えるんじゃない、感じるんだ理論で受け止めて下さい。

これからも本作品をお願いします。
本赤?·····················まだ1割も復旧出来てませんぜ······泣きたい。

さあ果たしてこれからどうなるのか?ハチマンは平穏を掴み取れるのか?そして迫り来る厄介事をどう捌くのか?次回をお楽しみに。




琥珀と翡翠のキャラ、あれで大丈夫かしら?

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