紫炎.2の短編集   作:紫炎.2

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私は生きてるぞー!

色々なことがあって投稿が出来ませんでした。休みだってのに……。

それではどうぞ。


休む彼女の夢の理想郷

「起きろ」

「ふぎゃ!?」

 

何者かの衝撃により、私は目を覚ます。後頭部から叩かれたかのような痛みが走る。どうやら何かで頭を叩かれたらしい。

 

「人に仕事を任せておいて自分はのんきにお眠りか? 良いご身分だな」

「あ、あぁ、済まない。少しウトウトしていた」

「めだかさんでも疲れるんですね」

「自分から仕事を持ってきたんだぞ? 俺達に押しつけないでちゃんとやるんだな」

「ちょっとアキ、少し言い過ぎよ」

 

こちらを責めるように言う明久に対して、高貴先輩がフォローを入れながら、明久の言葉に対して美波が咎める。私はその光景を見てほほえましく思う。

 

「いや美波、明久の言うとおりだ。私の方から仕事を持ってきたんだ。持ってきた張本人が一番頑張らないとな」

「おーおー頑張れ、頑張れ。その分俺の仕事が減る」

「明久君。君は一人の女性に対してそんな言い方をしてどうも思わないのかい?」

「別にどうも思わないね」

「ちょっとアキ!」

「いいのだ二人とも」

 

明久の物言いに二人がいきり立つのを私が押さえる。全く、コイツは敵を作るような発言しかしないな。だが、知っているぞ明久よ?

 

「なら明久。お前がバックの中に隠している飲み物を私たちにくれないか?」

「はぁ? 何で俺がわざわざ……」

「きっちり人数分持ってきてくれて私は嬉しいぞ。お前が他人を思いやれるまでに戻ってくれているなんてな」

「べ、別にあれは……!」

「あ、本当に人数分ある」

「本当だ。助かるよ明久君」

「だぁー! てめぇらも勝手に人のバックを漁るんじゃねぇ!」

 

私の言葉に乗って美波と高貴先輩が明久のバックを漁ると、私の言葉通りにジュースが5本出て来た。そこから焦る明久に高貴先輩と美波がからかい始める。私は美波からジュースを受け取り、その光景を笑いながら眺めた。

 

その光景を見ながら私はふと違和感を感じた。何というか喉に魚の骨が突き刺さったかのような違和感である。何というか、今のこの光景は本来あり得ない光景のハズ……?

 

「……そういえば高貴先輩。あなたは確か箱庭学園に進学したのでは?」

「おや、お忘れですか? この阿久根高貴、めだかさんが文月学園に転校したと聞いて、自分も転校してきたんですよ?」

「本当、バカだよな。箱庭学園なら将来が約束されたのも同然だってのに」

「いいじゃない。一人の女性を追いかけて来るなんて、すごく男の前よ」

「好かれるのは悪くないが……そんな風に言われると恥ずかしいものだ」

「自信満々に言うんじゃねぇよ。それに美波、“男の前”じゃなくて“男前”だ」

 

言葉とは裏腹に自信満々に言い切る私に明久が突っ込みを入れる。美波もいいなぁ……とわかりやすい表情でこちらを見る。そういえば、高貴先輩は転校してきたのだったな。最初は明久とも啀み合っていて……あれ?

 

そう言えば明久と高貴先輩が啀み合っていたのはいつの話だ?

いや、そもそも……明久と高貴先輩が出会ったのはいつだ?

 

何かがかみ合わず、だんだんと記憶が混濁し始めて来た。そもそもここはどこだったか分からなくなってきた。見る限り生徒が何かしらの作業をする場所のようだが……。

 

「本当、最初はアキとめだかの“目安箱”が始まりだったのに、今では生徒会役員になって沢山の生徒の悩み相談とか引き受けるようになったわよね」

「その分どうでもいいようなことまで引き受けるしな、コイツは」

「まぁまぁ、それがめだかさんの美点だからね」

「そうか? 俺はよってたかって一人の女に群がるバカにしか見えねぇよ」

 

明久は呆れ返るような表情で高貴先輩のフォローをはね除ける。まぁ、確かに案件の中には「めだかさん、好きです!」とか「アキちゃん、ハァハァ」、「みなみんは俺の嫁」、「ウホッ、いい男(阿久根高貴)」なんてよく分からないものがあり、そのたびに明久と高貴先輩がその紙を思いっきり破いて、どこかに行くのだが。

 

って、そうではなくて!

私は頭を横に振り、現在の状況を整理する。恐らくここは文月学園の生徒会室で、私たちは生徒会役員として働いているところだ。そして私は仕事の最中に居眠りをしたのだろう。

 

「やはり可笑しいところなど何処にもないが……」

「どうした? ぶつぶつ独り言を言って?」

「いや、何でもない」

 

挙動不審の私を見て、明久が気遣ってくれる。こうやって気遣われると嬉しいものだ。あの少しばかり人間不信な明久が……明久が?

 

明久と私は再会してまだ、一ヶ月しかたっていないはずでは……だが、私は今は二年生で5月の中旬ぐらいで……さらに混濁する私の記憶にさらなる混乱が舞い込んでくる。突如、生徒会室のドアが開く。

 

『いやー、参ったよ。売店が混んでいて遅れちゃったー!』

「そうか、帰れ」

『あれ、いつにも増して明久ちゃんが冷たいよ。僕、何かした?』

「ッ!? 球磨川!?」

『うん? そうだけど……どうしたんだいめだかちゃん?』

 

バカな、球磨川だと!? な、なぜ奴がここに!?

 

『どうしたんだよめだかちゃん。いつぞやの時のように身構えちゃってさぁ』

「お前の存在が気に入らないんだろう」

「明久君、いくらなんでもそんなことは…………………ない……じゃないかなぁ?」

『美波ちゃ~ん、二人が僕をいじめるよ~』

「日頃の行いですよ、球磨川先輩」

 

今の一連の動きに私は目を疑う。高貴先輩はまだ分からなくもないが、明久と美波が仲が良いなどあり得ない。だって二人と球磨川は出会ってすらいないのだ。それこそ夢でしか……夢?

 

「……そうか、そうだったのか」

『めだかちゃん! 何に納得しているか知らないけど、助けて! 明久君が攻撃してくる!』

「うるせぇ! くたばれ球磨川!」

『僕はジュースちょうだいって言っただけじゃないか! 僕は悪くない! いや、本当に!』

「やれやれ、また始まった」

「本当、飽きないわよね」

 

明久と球磨川がじゃれて、美波と高貴先輩がそれを苦笑気味に見守っている。あぁ、本当に夢のような光景だ。私にとってこの光景は夢であり、理想である。

 

ひねくれ者の明久と理解しがたき球磨川、私を崇める高貴先輩に好きな人との接し方が分からなくなった美波。この四人がこうやって普通に笑いあったり、ふざけあったり、一緒に仕事したり……

 

「なんて素敵な“夢の理想郷”だ」

 

パキィ……

 

 

 ***

 

 

「起きろ」

「ふぎゃ!?」

 

額に鋭い痛みを走り、私は目を覚ます。痛む額を押さえながら前を見ると、シャーペンを構えた明久がいた。どうやらウトウトしていた私を、明久がシャーペンで突き刺したらしい。こいつ、女の子の扱いが本当にぞんざいになったな。

 

「眠り込んだ私も悪いのは分かる。だが、何もシャーペンを額に突き刺すことはないだろう?」

「眠り込む方が悪い。大体、休みにも関わらず押しかけてきたお前が言うか」

「放っておいたら、また賭博に行くだろう、お前は」

「他にやることがないし、仕送りも必要最低限しかねぇから自分で稼ぐしかないんだよ」

「なぜそこでアルバイトするという考えが出て来ないのだ」

 

私と再会した時も賭博場から出て来たところだったからな、こいつ。だから休みの日もコイツに目を光らせなければならない。明久は顔をそらし、時計の方を見る。釣られて私も見ると時間はもう昼食の時間になっていた。

 

「もうこんな時間か……じゃあ、今日の勉強はこれくらいにしよう」

「やっとかよ……毎度毎度ご苦労なこった」

「それほどでもない」

「褒めてねぇし……」

 

そう言うと明久は立ち上がり、台所の方に向かう。私は机の勉強道具を片付け、同じく台所に向かう。明久は冷蔵庫から何か適当にものを取り出している最中だった。

 

「ついでだからこっちで喰っていけよ」

「いいのか? 私の部屋の方が食材は豊富だが……」

「一々部屋を移動するのも面倒だろう? どうせお前のことだからこの後も何かするだろうし」

「うむ、昼食の後は目安箱に入っていた投書の処理をする予定だ」

「あっそ(今度こそ逃げ切ってやる)」

 

明久が空返事で答えるところ見て、コイツまた逃げる気だなと思うのと同時に逃げても捕まえてやると密かに決意する。その時、ふと寝ている時のことを思い出す。

 

「そう言えば明久、先程寝入ってしまった時に私は夢を見た」

「お前が? 年がら年中人助けしか頭にないお前が?」

「酷い言われようだがまぁいい。その夢はな、とても幸せな夢であった」

 

言うのと同時にさきほどの夢の中で感じた充実感が溢れてくる。球磨川がいたことは予想外だったが、それでも先程の夢はとても良い夢だった。

 

「そのまま夢の中で満足しとけばいいのに……」

「だがな、夢は所詮夢でしかないのだ。砂上の楼閣のように、目が覚めてしまえばそれは消え失せてしまうのだ」

「ふ~ん。じゃあそのまま諦めれば?」

「否! 私は夢を夢で終わらせる気はない! 現実にして見せようではないか!」

「はいはい、御託はいいから飯にするぞ」

「うむ!」

 

そうだ、夢で終わらせるものか。明久が普通に人の輪に入り込み、美波も同じように一緒にいる。高貴先輩も加わり、私にとってトラウマとも言える球磨川とも仲良くなれる。そんな光景が実現できたら、どれだけ良いことなのだろう。実際の現実は甘くないと言うことも分かっている。高貴先輩や球磨川が文月学園に来るという保証もない。

 

それでも、そんな何てことのない日常を明久と共に過ごしたい。

 

「……何一人で頷いていやがる」

「うむ! 明久よ、私は頑張るぞ! 夢に向かって!」

「はいはい、アホ言ってないで飯を食うぞ」

「うむ!」

 

出来たての焼きそばを台所から持ってきた明久と共に机に座り、お互いにいただきますと言って食べ始める。今日の焼きそばはソースの味が少し薄めだったことに気づくと、私は明久に味が薄いぞと私は文句を言った。

 




……う~む。やっぱりわざわざめだかボックスとクロスさせる必要ないな。
でも、めだかと明久の絡みが見たかったので、後悔はない。

今度は入れ替えネタとかやってみようかな?

投稿は相変わらずいつになるのやらですが。

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