とりあえず、一言では言えないほどの色々な出来事があった半年でした。ですが、小説を書く気力はあり、投稿いたしました。
今回は今までとは違う趣向になっています。簡単に言うと「とにかくシリアス書きたい!」という謎の欲求に駆られた結果の小説です。ですので、ちょっとした謎設定が入っています。
時系列はバカテス4巻の最後の部分です。
それでは、どうぞ。
「・・・・・・きろ、起きろ」
・・・・・・?
「いい加減起きんか、吉井」
誰かに呼ばれ、目が覚める・・・・・・覚める?
「やっと起きたか。いつまで寝ているつもりだ」
厳しそうな声に呼びかけられ、体を起こしながら起き上がる・・・・・・?
「・・・・・・?」
「どうした? 何かあったのか?」
「いえ、何も・・・・・・」
そう、大丈夫・・・・・・なはず・・・・・・?
「そうか・・・・・・まぁ、お前のことだから大丈夫だろう。それより、戦死者はどうなるか・・・・・吉井?」
「・・・・・・そう、僕は・・・・・・吉井・・・・・・吉井?」
あれ・・・・・・おかしい・・・・・・僕? それとも、俺?
「おい、本当に大丈夫か?」
「えっと・・・・・・たぶん・・・・・・」
「さっきから様子がおかしいぞ? 何かあるのか?」
「大丈夫です。うん、大丈夫・・・・・・」
何だ・・・・・・? この“違和感”は・・・・・・?
「確か・・・・・・戦死者は補習ですよね・・・・・・早く行きましょう」
「・・・・・・」
「・・・・・・先生?」
とりあえず、これ以上先生に迷惑をかけまいと立ち上がり、補習に向かおうとする。しかし、どうゆうわけか、今度は先生が動かない。
「どうしました?」
「・・・・・・吉井、先に保健室に行くぞ」
「なんで?」
「いいから、来い」
そう言われ、腕をつかまれて強引に連れて行かれる。一体何故・・・・・・?
◇◆◇
寂れたFクラスの教室のドアが開き、今回の騒動の中心人物が戻ってきた。ずいぶんと遅かったが、あれだけやられてからの鉄人の補習だ。まぁ、時間は掛かるだろう。
「よぉ、遅かったな。明久」
「・・・・・・あ、うん。そう、だね」
「どうしたのじゃ、明久。浮かない顔をして・・・・・・」
「何でもないよ・・・・・・うん、何でもない」
何か妙な雰囲気だが、とりあえずおいておくことにした。何せ、これからがメインイベントなのだから。
「えっと・・・・・・三人は何をしているの?」
「ちょっと気になることがあったからな」
「気になること?」
「うむ、何でもムッツリーニが面白いものを聞かせてくれるらしいのじゃ」
何かあったのかと首を傾げる明久を眺めながら、ムッツリーニは卓袱台の上に小型レコーダーを置く。
「・・・・・・明久も聞いていくといい」
「・・・・・・あぁ。うん、わかった」
何も疑う様子もなく明久は卓袱台の前に座る。というか、さっきから何か反応が悪いなコイツ。殴られすぎて、さらに頭が悪くなったのか?
「中身は何なの?」
「・・・・・・とある男女の会話」
「ムッツリーニ自身も聞いてないらしいが、面白いことには違いないらしい」
「聞いてもいないのに面白いって分かるの?」
「まぁ、録った本人が言うのじゃ。とりあえず聞いてみても損はなかろう」
とりあえず第一段階は成功。さて、どんな反応をするのやら・・・・・・。ムッツリーニはおもむろにレコーダーの再生ボタンを押す。
『この話し合いに何の目的があったかは知りませんが、美春はもう貴方を恋敵として認めるようなことはありません。お姉さまの魅力に気付けず、同姓として扱うだけの豚野郎に嫉妬するなんて、時間の無駄ですから。・・・・・・お姉さまの魅力がわかるのは美春だけです』
「あれ、これって・・・・・・」
「Dクラスの清水の声じゃな」
再生したレコーダーから清水の声が聞こえてくる。さらに首を傾げる明久を見て、俺はしてやったりと思い、秀吉に目配せをする。秀吉もそれを受け、明久に気づかれないように明久の後ろに移動する。
『・・・・・・なんです? 美春に何か言いたいことでもあるのですか?』
『うん、一つだけ。清水さんの誤解を解いておきたいんだ』
教室に清水と明久の会話が流れる。そろそろ明久の奴でも察せられるだろうと思い、明久を方を向く。しかし、アイツは真剣に聞き入っているだけで全く動こうとしない。
『誤解? 何がです? お姉さまと付き合っているというのが演技だという話なら既に知っていますけど?』
『いや、そうじゃなくて・・・・・・その・・・・・・美波の魅力を知っているのは君だけじゃないってこと』
『何を言っているのですかっ! いつもお姉さまに悪口ばかり言って、女の子として大切に扱おうともしないで!』
『うん、それは清水さんの言う通りかもしれ「ブツッ!」』
「・・・・・・」
「・・・・・・明久?」
微動だにもしなかった明久が急に動いてレコーダーを止めた。あまりにも急だったため、俺も秀吉もムッツリーニも動けなかった。
「おい、明久?」
「・・・・・・趣味が悪いよ、三人とも」
それだけ言うと明久はレコーダーをかっ攫い、さっさと荷物をまとめて教室を出た。その時、一瞬だけ動きを止めたが、とっとと出て行った。アイツらしくない急な行動に驚いてしまい、しばらく身動きがとれなかった。
「・・・・・・あ、島田」
「えっ・・・・・・あ」
「・・・・・・」
ムッツリーニが廊下で立ち尽くしている島田を見つけ、声を上げる。それまで俺も呆然としていたため、少々間抜けな声を出た。とりあえず立ち上がり、島田に声をかける。
「島田、どうした?」
「あっ・・・・・・坂本・・・・・・」
開けっ放しのドアに寄りかかりながら、島田に声を掛ける。島田は驚いているのか怒っているのか分からない複雑な表情をしていた。
「本当にどうした? 何か変な表情をして?」
「・・・・・・今のってアキ・・・・・・吉井なのよね?」
「あぁ、ちょっと様子が変だが・・・・・・」
いつも読んでいる愛称ではなく、名字で呼ぶところを見るに、島田はまだアイツのことを許していないらしい。だが、何故か歯切れが悪い。
「・・・・・・本当に吉井なの?」
「はぁ? どうゆうことだ?」
「さっきウチを見た時の吉井の表情・・・・・・」
口ごもりながらも、島田ははっきりと口にする。
―――ウチを初めて見るような感じだった・・・・・・―――
◇◆◇
夕焼けもほとんど沈み、本格的に暗くなり始めた町並みを車の窓から眺めてみる。スーツを着た人や、集団で行動する学生、自転車で移動する若者などが所狭しと街道を歩いて行く。“初めて”見る景色に少し驚きながらもその景色を見入ってしまう。
「・・・・・・家に帰った後は大丈夫だな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そうか・・・・・・何かあれば先ほど登録した番号に掛けるといい。俺に繋がる」
「ありがとうございます、えーと・・・・・・鉄人?」
「西村先生と呼べ」
そう言うと隣で運転していた西村先生が頭を軽く小突く。そこまで痛くないので問題ない。
「これからどうする?」
「とりあえず・・・・・・彼と俺は別物ですし、これまで通りにはいかないと思います」
「そうか・・・・・・他の奴らには?」
「家族には自分から話します。他の人たちには・・・・・・先生から、お願いして良いですか?」
「かまわんが・・・・・・良いのか?」
「良いんです。彼とは友達であり、悪友ですが・・・・・・俺とは違いますから」
いくら俺が彼のように振る舞おうとしても限界がある。特に“彼の記憶”では秀吉相手にごまかせる自信がない。いつかはばれるだけだ。ならば、いっそ最初からばらした方がいい。
「わかった・・・・・・どうした、そのレコーダー?」
「これは・・・・・・」
手に持ったレコーダーを眺めながら、先ほど病院で医者に言われたことを思い出す。
『極めて稀な・・・・・・というよりも見たことのない症状です』
「最後の彼の声です。偶然手に入れた」
『おそらく強いショックによる記憶障害の一種だとは思いますが・・・・・・』
「これから俺は、この声の持ち主と同じ名前になる」
レコーダーを壊さないように握りしめながら、今の気持ちを話していく。だが、話して行くにつれてだんだんと不安になっていく。
『記憶が欠如しているというよりも剥離している』
「でも・・・・・・それはこの声の主の名前で俺の名前じゃない」
『そして、剥離した意識が別の意識として生まれてしまった』
「だから・・・・・・結局、俺は“名前のない何か”なんでしょう」
躊躇しながらもはっきりと告げた医師の内容は、酷く辛い現実であることを突きつけられるものだった。
『そして、生まれた意識が主人格として固定されている。つまり、“吉井明久君の記憶”を持つ別人が生まれたと・・・・・・そうゆう状態だと思います』
『それは・・・・・・元に戻るんですか?』
『・・・・・・元に戻ることはありません。というよりも、病気とかではなく、全くの正常な・・・・・・言うなれば健康体そのものです。精神病とかそうゆうのは関係ない』
『記憶障害だったじゃないですか!?』
『申し訳ありません・・・・・・先ほども言いましたが、極めて異例な事態だけに、原因自体が分からないです』
その後、怒れる西村先生を宥め、病院を後にした。運転する先生は平静そのものだが、実際はどう思っているのだろうか。
「・・・・・・怒っています?」
「何故だ?」
「言うなれば、俺が貴方の教え子を・・・・・・」
「それ以上言うな」
事実を告げようとすると、有無を言わさぬ口調で止める。やっぱり、怒っているのではないだろうか?
「・・・・・・正直、俺もどうすれば良いのか分からん。だから、自分の気持ちを整理したい」
「・・・・・・そうですか」
「だがな」
丁度赤信号で止まると、ハンドルを握る手を離し、俺の頭に置いて撫でた。少々乱暴だが、少し安心する。
「安心しろ、お前も俺の教え子だ。お前のことをとやかく言うつもりはない」
「・・・・・・はい」
乱暴に撫でながら言われた言葉に、俺は安心した。そして、青信号になり、車は彼の家に向かって行くのであった。
◇◆◇
これは生まれるはずがなかった少年の物語。一人の少年の記憶を持つ、名前のない少年の物語である。
どうでしたか?
ほとんど勢いで書いた作品で、少々詰めが甘い部分が多々あると思います。言い忘れていましたが、これは別にアンチとかじゃありませんので。
次の投稿は・・・・・・相変わらず不明です。リアルの方の問題が片付けば、もっと集中できるのですが。現実はそう甘くない状態です。
それでは、またの機会に。