紫炎.2の短編集   作:紫炎.2

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現実は斯くも厳しい現在・・・・・・息抜きがてら書いてみたのがこの小説です。これまでのシリーズものとは全く違うお話で、文字通り短編のような出来上がりになっています。

それでは、どうぞ。


その他短編
バカなアイツと憂鬱な優等生のお話


(ここなら見つからないよね)

 

いつものようにFFF団に追いかけられている僕、吉井明久は新校舎裏の草むらの中に身を潜めていた。いつもは女子更衣室とか、Aクラスとかに逃げ込むんだけど、今回は雄二が指揮を執っているため、いつもの場所では危ないと判断し、あえてここに逃げ込んだ。

 

(ここなら気づかれないし・・・・・・)

 

隠れる場所の多い文月学園だが、大抵のところはムッツリーニが全部把握しているため、完全に隠れることはできない。雄二も然りだ。あの野郎、どうゆうワケか僕の隠れそうな場所を大体把握している。だから、うかつなところには・・・・・・

 

ザッ・・・・・・ザッ・・・・・・

 

(ッ!? 誰か来た!?)

 

考え事していると人の気配を感じ、念入りに隠れた。まさか、ここがバレたのか?

警戒していると、二人の男女がやってきた。一人は見たことない普通の学生だ。少々緊張した面持ちである。もう一人の方は・・・・・・

 

(あ、アレは秀吉・・・・・・じゃなくて・・・・・・木下さん?)

 

もう一人の方は秀吉の双子のお姉さんで、優等生として有名な木下さんである。彼女には何回か試召戦争や日常生活で助けてもらっている。こんなところで、しかも男子学生と二人っきりで一体どうしたんだろう?

 

「・・・・・・それで、用事って?」

「えっと、あの・・・・・・」

 

木下さんが口火を切ると、名前も知らない男子生徒が口ごもる。よく見ると片手に何か手紙のような物を持っている。

 

(もしかしてこれって・・・・・・)

「あ、あの! これ!」

 

様子を見ていると、男子生徒は意を決して手紙を木下さんに差し出した。この場面、どう見ても・・・・・・。

 

(告白!?)

 

まさかの告白の場面である。こんな場面に遭遇するなんて驚きだ。僕の人生の中で今までなかった出来事だ。

 

「こ、これ!」

「・・・・・・」

(あ、あれ?)

 

告白の現場を見ている僕だが、何か違和感があることに気づいた。男子生徒は緊張しつつも、一生懸命手紙を木下さんに差し出しているが、対する木下さんは至極冷静な態度で、まるで脈なしのような感じだ。それに「またか……」というような諦観した雰囲気を醸し出している。どうしたのだろうと思っていると、その答えがすぐに分かった。

 

「これを弟の秀吉君に!」

「・・・・・・」

(って、秀吉にー!?)

 

まさかの秀吉である。この告白は木下さんではなく、秀吉に対するラブレターのお願いだったようだ。秀吉に対する告白やラブレターが多いって聞いたことはあるけど、まさか木下さんからの間接ラブレターもあるなんて・・・・・・これは今後のFFF団の会議に取り上げる必要があるな・・・・・・。

 

「これを秀吉に渡せばいいのね?」

「は、はい!」

「・・・・・・わかったわ。任せてちょうだい」

「あ、ありがとうございます!」

 

木下さんが手紙を受け取ると、男子生徒が礼を言って校舎の方に戻っていく。残された木下さんは手紙を眺めたまま、動かない。できれば早く動いて欲しい。このままでは先程の男子生徒に制裁を下すことができない。

 

「そこの草むらに隠れている人、出て来なさい。いるのは最初から分かっているのよ」

(ビクゥッ!?)

 

突然木下さんに呼びかけられ驚く。まさか、この完璧な擬態を最初から見破っていたというのか!?

 

「たぶん完璧じゃないわよ、それ」

「バカな!? どうして僕の考えていることが分かったんだ、木下さん!?」

「カマかけただけよ・・・・・・本当に出てくるとは思わなかったけど」

 

さすが吉井君ねとため息混じりに木下さんが呆れていた。まずいぞ、僕の評価が下がったかも知れない。

 

「これ以上にない程下がっているから、意味ないわよ」

「さっきから心を読まれている!?」

「口に出ているのよ」

 

さらに呆れる木下さん。何だかだんだん情けなくなってきたし、これ以上追求されたら僕にとってロクなことにならないと思い、僕は話題を変える。

 

「そういえば、何かラブレターもらっていたよね」

「まぁ、覗いていたから知っているわよね」

「いや、あの、別に覗こうと思って覗いていたワケじゃ・・・・・・」

「別にいいわよ。気にしてないし」

 

そう言って木下さんはもらったラブレターをヒラヒラとさせていた。仮にもラブレターなんだから、もうちょっと丁寧に扱ったほうがいいのでは・・・・・・

 

「ねぇ、木下さん。それってラブレターだからもう少し丁寧に扱ったほうがいいんじゃ・・・・・・」

「だから、別にいいのよ。どうせ、秀吉宛でアタシ宛じゃないし」

「だったらなおのこと・・・・・・」

「それにいつものことだし」

「いつものこと?」

「そう、いつものこと」

 

いつものことと言う木下さんはどこか憂鬱そうに空を見上げる。空は青いが、ちょうど日陰になっているため、照っているだろう太陽は校舎に遮られて見えない。そのせいか、晴れているのに太陽が見えないという、どこかスッキリしない空模様だった。

 

「いつものことって・・・・・・?」

「まぁ、見られちゃったし、吉井君なら大丈夫かな?」

 

そういうと木下さんは場所を変えましょうと言って、校舎のほうに戻っていく。僕はずっと隠れていた茂みから出て、木下さんの後を追った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「失礼します」

「あら、木下さんと・・・・・・吉井君じゃない。これはまた珍しい組み合わせね」

「あ、どうも。先生」

「えぇ。また関節が痛いの?」

「いえ、違います」

「吉井君、ここの常連だったの?」

 

保健室に来て、そうそう木下さんに怪訝そうに僕に尋ねる。その通りなので「まぁね」というと「よくはち合わなかったわね・・・・・・」と木下さんが呟いた。それを聞いて、僕は木下さんも常連なのかなと思う。

 

「木下さんが来たってことは・・・・・・そういうことね」

「すみません・・・・・・お願いしてもいいですか?」

「えぇ、適当に誤魔化しておいてあげるから休んでいきなさい」

 

そう言うと保健室の先生は立ち上がって、部屋の鍵を木下さんに渡すと部屋を去っていった。途中、僕の耳元で「頑張ってね」と言ったけど、どういうことだろうか?

 

頭にはてなマークを浮かべていると、木下さんが「こっち」と言ってベットの方に行く。その瞬間、僕の心臓はひとさわ大きくはねた。

 

ま、まさか・・・・・・これは保健室であんなことやこんなことをする気じゃ・・・・・・

 

「変な事したら関節を増やすわよ」

「やだなぁ、誠実がモットーの僕がそんなことするわけないじゃないか」

「そう? まぁ、あったとしても吉井君にそんな度胸はないか・・・・・・」

「僕だってやるときはやるよ! 今だってちょっと期待して・・・・・・」

「・・・・・・へぇ~」

 

しまった!? 思わず本音がポロリしてしまった!?

勢いで肯定してしまい、頭を抱える。本当、何でこんなときに限って僕の口はこんなに素直なんだ!?

 

「吉井君ってそんな人だったんだ」

「違うんだ、木下さん! 僕は木下さんが魅力的な女の子だから考えただけであって、邪な気持ちで見ていたわけじゃないんだよ!」

「吉井君、それって口説いているの?」

「へっ? いや、違うけど?」

「そう・・・・・・何だか吉井君が鈍感な理由が分かった気がするわ」

 

そういって保健室のベッドに座り、向かい側にあるもう一つのベッドのほうに座るよう促してくる。僕は木下さんに言われた通りに、ベッドに座った。

 

「それで・・・・・・何だっけ?」

「木下さんが“いつものこと”についてだけど」

「あぁ、そうだったわね」

 

何の話をしにきたのか忘れかけていた木下さんに僕が先ほどのことを言うと、思い出したと木下さんは頷いた。そして木下さんは話し始めた。

 

「アタシの弟の秀吉のこと、吉井君はよく知っているでしょ?」

「うん、秀吉のことならよく知っているよ。でも木下さん、秀吉は弟じゃなくて妹じゃ・・・・・・」

「お・と・う・と♪」

「はい、秀吉はまごうことなき男です」

 

秀吉に対する間違いを訂正しようとしたら、木下さんが笑顔で手をグーにして言ってきたので、僕は木下さんの言うとおりにした。まさか姉である木下さんまで欺くとは……秀吉は早急に自分の性別にふさわしい服を着るべきだ。僕の懸念を他所に木下さんの話は続く。

 

「知っていると思うけど、秀吉は異性同性問わず、人気があるわ」

「うん、知っているよ。秀吉がよく言っていたからね」

 

まぁ、FFF団の誰かだったら問答無用で異端審問にかけているけどね。

 

「それでまぁ、ラブレターとか告白とか、直接するのが怖いのか、アタシを経由してすることが多いのよ」

「そうなんだ?」

「えぇ。アタシとしては告白もラブレターも直接本人にしろって話なんだけどね」

 

そう言うとそこまで話していないのに、疲れたかのように木下さんはため息をつく。これは僕と話すと疲れるというあれなのだろうか?

だとしたら悲しい。

 

「中学でもちょくちょくあったけど、あくまで異性からだったのよ。それが高校になってからは異性同性問わず増えてね」

「まぁ、秀吉は人気があるからね」

「そう。悔しいけど、女のアタシ以上に人気があるし」

「そりゃ、木下さんは小学生以下の少年にしか……」

(ギロ!)

「ハッハッハッ、ボクハナニモイッテナイヨ?」

 

一瞬、木下さんから心臓を掴まれるほどの殺気を感じた。あの殺気は姫路さんや美波から感じる殺気と同等か、それ以上だった。あれ以上不用意なことを喋っていたら死んでいたかもしれない。

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・・

 

「あれ、チャイム?」

「当たり前よ。もうすぐ昼休みが終わるもの」

「えっ!? それってまずいよ!?」

「何が?」

「何がって・・・・・・木下さんはいいの? 授業出なくて?」

「別に・・・・・・時々保健室に篭って休んでいるし」

「そ、そうなんだ」

 

優等生として知られている木下さんの意外な一面に驚く。木下さんでも授業をサボることがあるなんて。

 

「正直疲れるのよ、優等生を演じ続けるのって」

「えっ、演じているの?」

「そうよ。家では結構ずぼらなんだから」

 

そう言って木下さんは意地悪っぽく笑った。さっきから木下さんの意外な一面ばかり見ている気がする。今だって、いつもの毅然とした態度ではなく、どうでもよさげにしているし、憂鬱そうな表情も晴れていない。本当にどうしたんだろう。

 

「それで・・・・・・そうそう、秀吉のことよね。まぁ、この高校に入ってからは本当に増えまくってね」

「人気だもんね、秀吉って」

「えぇ・・・・・・本当に・・・・・・ぐらいに」

「えっ?」

「何でもないわ」

 

一瞬、何か不穏なことを木下さんがつぶやいたような気がしたけど、すぐにはぐらかされてしまい、何を言ったのか分からなかった。

 

「とにかくラブレターやら告白の代行とかをお願いされるのよ。もうウンザリするほどに」

「じゃあ、いつものことって・・・・・・」

「えぇ、さっきみたいにこっそり人気のない場所に呼び出されて、告白の返事とかラブレターの受け渡しとか頼まれるってことよ」

 

そう言うと木下さんは話しきったとばかりにため息をつきながらベッドに方に倒れた。その際に手に持っていたラブレターも一緒にベッドの上に落ちる。いつも秀吉はこういうことで大変だと言っていたけど、お姉さんも大変だったとは。

 

「その・・・・・・大変だね」

「本当よ。告白やラブレターぐらい自分でしろっての・・・・・・」

 

そう呟くと木下さんは右腕で目のあたりを覆う。急にどうしたのだろうかと、木下さんの方をよく見てみると、いきなり涙が目尻を伝っていった。

 

「ちょ!? どうしたの、木下さん!?」

「うん? あぁ、ごめんなさい。ちょっと昔のこと思い出して・・・・・・」

 

僕の叫びを聞いて目の周囲を拭いながら起き上がる木下さん。昔を思い出してって言ったけど、何かあったのだろうか?

 

「今話した“いつものこと”についてなんだけどね・・・・・・やっぱりいいわ」

「いいって・・・・・・そう言われたら余計に気になるんだけど・・・・・・」

「そう? でも教えてあげない」

 

意地悪く笑いながら木下さんは涙を流した理由を話さなかった。すごく気になるけど、本人が言わないって言うのなら無理に聞くわけにはいかないかと思い、僕もそれ以上の追求をするのをやめた。

 

「ふぅ・・・・・・何か話したら少し気が楽になったわね」

「そう? それなら良かったけど」

「やっぱり吉井君だからかしら」

「えっ?」

 

首をかしげながら驚くべき発言をする木下さんに一瞬ドキリと心臓が高鳴る。僕だから話せるって・・・・・・それってどういうことだろうか・・・・・・?

 

「き、木下さん。それってどういうことなのかな・・・・・・?」

「うん? 何も考えてなさそうだから、余計な心配する必要ないし」

「ですよねー・・・・・・」

 

ほんのちょっと期待してしまったけど、やっぱりかと落胆する。まぁ、そんな簡単に春が来るわけないよね。

 

「じゃあ、そろそろ教室に戻りましょう」

「あ、うん・・・・・・でも、今戻っても授業は終わっているんじゃ・・・・・・」

「今ぐらいの時間に戻れば、次の授業に入るぐらいに戻れるからいいのよ」

 

そう言って木下さんはベッドから降りて保健室を出ようとする。僕もそれに続いて出ようとすると、ちょうど保健室の先生が帰ってきて、木下さんがお礼を言っていた。僕もお礼を言って出ようとする。

 

「今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとね」

「えっ?」

 

逆にお礼を言われ戸惑ってしまうが、先生はさっさと保健室に入っていったので追求はできなかった。しょうがないので僕は木下さんを追う。木下さんはそう離れていないところで待っていた。

 

「今日はありがとね、吉井君」

「ううん、別にかまわないよ」

「そう? じゃあ・・・・・・」

 

そう言うと、木下さんはこちらをしっかり見据え、微笑む。

 

「また機会があれば今日みたいに、お話ししてもいいかしら?」

 

微笑みながら言われた一言に、少し呆然としながらもしっかりと返事をする。

 

「うん、僕で良ければ」

 

僕の返事に木下さんは満足そうに頷く。

 

「・・・・・・うん、ありがとう。じゃあ、またね?」

「うん、また今度」

 

そう言って木下さんはAクラスに戻っていった。僕は木下さんが行った後、一息ついて心を落ち着かせる。

 

さっきの木下さん・・・・・・すごく綺麗だったなぁ・・・・・・。

 

今まで見たことがなかった木下さんの笑顔がとても鮮明に残り、今でも胸が高鳴る。

 

何だか今日はすごい一日だった気がする。今まで知らなかった木下さんの一面を知ることができた。特に先ほどの木下さんの笑顔はとても良かった。

 

あんな笑顔を見ることができるなら、木下さんとの今後のお話もいいかもしれない。

 

そう思いながら、僕も教室へと戻っていった。

 

 

その後、鉄人に授業をサボった罰として補習が一時間増えたのは、また別の話だ。

 




どうでしたか?

文面通り、明久×優子です・・・・・・いや、ちょっと違うかな?

現在、色々とアイディアがあるのですがリアルの方が忙しいため、積極的に執筆することができない状態です。

様々なキャラクターによるSAOのようなダンジョン攻略ストーリーや、正義の味方や悪の組織とか・・・・・・ちなみに悪の組織の名前は「水銀の蛇」です。これで誰が首領なのか分かる人は分かるはず・・・・・・まずい、愚痴が止まらない。

長くなりましたが、とにかく現実が忙しいため文章の方に手がつかない状態なので、下手したら来年も指で数える程度しか投稿できないかも・・・・・・。

それでも、見捨てないでくれればとても嬉しいです。

それではメリークリスマス! そして、来年もよいお年を!

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