最初はバカとテストと召喚獣×めだかボックスです。
それではどうぞ。
『捻くれた彼と一直線な彼女の少し変わった学園生活』
『捻くれた彼と世話焼きな彼女の少し変わった学園生活』
太陽が燦々と照りつける昼休み。一人の少年が屋上で寝そべっていた。茶色髪に中性的な顔立ちの彼は何も考えずに、ただ寝ころんでいた。辺りは風が吹いており、心地よい昼下がりの風を運んでくる。時々鳥のさえずりが聞こえてくるだけで、昼寝をするのにはもってこいの場所だった。
そんな場所に一人の乱入者が現れる。屋上のドアを開けて、辺りをキョロキョロと見渡し、彼を見つけると、その乱入者は一直線に彼の元に向かっていった。無論、彼も乱入者には気づいており、その者が近づいてくるのに応じてどんどん不機嫌になっていく。
そうして彼と乱入者である彼女の距離が後一歩となった時、彼は目を開けて上からこちらを覗き込んでくる彼女の顔を見る。
「何の用だ?」
「貴様を連れ戻しに来た」
「何でお前が?」
「私以外に誰がお前を連れ戻しに来るのだ?」
「あーはいはい、そうですねー、『黒神めだか』」
「そうだぞ、『吉井明久』」
面倒くさそうに彼女に答える彼と凜とした声で咎める彼女。
今日も口調と顔立ちがアンバランスな彼、『吉井明久』は、完成されたとも言える美貌と気高さを持って話しかけてきた『黒神めだか』に対してどうでもよさげに応えていた。
◆◇◆
「私が連れ戻しに来なければそのまま授業に出ないつもりだっただろう」
「別に出たところで聞く気がないからどうでもいいだろう?」
「いーや、駄目だ。授業にはちゃんと出てもらうぞ」
「まったく……お前は俺のお母さんか?」
「お母さん? 私とお前は血縁関係じゃないだろう?」
「時々思うが、何でも出来るのに変なところで天然だよな、お前って」
軽口を言い合いながら廊下を歩く二人。昼休みなのでまだ、多くの生徒達は教室を出て、別のクラスの友達や部活仲間と喋っていたり、悪ふざけをしている時間帯である。そんな中、彼ら二人が通ると周りの生徒達は異質な組み合わせに少々戸惑いながら二人を眺める。
当然と言えば当然、この二人はいわゆる『劣等生代表』と『優等生代表』である。劣等生の方は吉井明久で優等生の方は黒神めだかである。世間一般に見てもあり得ないし、ましてや文月学園ではなおさらである。文月学園では学力に応じてクラス分けが行われており、その分けられたクラスごとに設備の差が大きく広がっている。学力によって一年間の生活環境が決まり、成績優秀者は優遇されることが多い。これにより、自然と教師や生徒の中で学力格差を意識するようになり、学校内の雰囲気もそれに準ずるかのように学力が高い者が低い者を見下すようになっている。
そんな学校において彼、吉井明久は劣等生代表とも言える称号『観察処分者』というこの上なく不名誉な称号を持つ人間である。これにより彼は悪印象を持たれ、積極的に関わろうとは誰も思わない。さらに彼には優秀な弟がおり、その弟の足を引っ張る最低な兄という悪印象しか浮かばないどうしようもない人間である。実際ある時までは事あるごとに兄の後始末をさせられていたので、文句のつけようがないのだが。
「ちゃんと午後からの授業の教材は持ってきているのだろうな?」
「持ってきてないと言ったら?」
「私の教材を貸してやる」
「そしたらお前のがないだろう?」
「大丈夫だ。教科書の内容は全部覚えている」
「お前の頭の良さの一割でも俺は欲しいよ」
「何てことはないぞ? ただ読めばいいのだからな」
さも当たり前のごとく言い放つ彼女、黒神めだかは『優等生代表』と言える人物である。転校してきてすぐのテストで、学園最高得点を叩き出し、運動神経も他の追随を許さない程だ。困っている人も見過ごせない性格で、彼女曰く「私は困っている人を助けるために生きている」と言わせる程のお人好しでもある。実際彼女は独自に“目安箱”というものを設置し、誰にも言えない悩みに真摯に取り組んでいる姿が多々見られる。これを優等生と言わずして何になるだろうか。
「放課後も目安箱を確認するぞ」
「頑張れよ~。俺は先に帰るからな」
「え?」
「え?」
「「……」」
お互いの言葉に二人して固まる。吉井明久は「嫌な予感が……」という引きつった表情で、黒神めだかは「何言っているんだコイツ?」という戸惑った表情で互いに硬直した。僅かな静寂が流れた後、予鈴のチャイムが鳴る。
「……ハッ!? 不味い! このままでは遅刻する!」
「グオォ!? き、貴様!? え、襟をひっぱ……!」
チャイムを聞いた黒神めだかは吉井明久の襟を掴んで慌てて走り出す。吉井明久は引っ張られるのと同時に首が絞まり、息が出来ず苦しんだ。この後も、走りながら吉井明久は離せと文句を言うが、教室に着くまで解放されることはなかった。
◆◇◆
時間はあっという間に過ぎ、空は夕焼けに染まっていた。社会人も学生も家に帰ろうとしており、携帯を弄りながら歩く者がいれば、友達と話ながら歩く者もいた。吉井明久と黒神めだかの二人も彼らと同じように、夕焼けの街を歩いていた。
「全く、今日はお前のせいでロクな目に遭わなかった……」
「そうか? 私は今日も充実感溢れる一日だったぞ」
「へぇへぇ、そうですか。良かったですね~」
「うむ! こうして人のために役立つというのは良い物だ!」
「俺は犬に噛まれまくっただけだけどな」
「犬……わんちゃんか……」
犬という言葉が出た途端、黒神めだかは急に落ち込んだ。よく見ると吉井明久の服には至る所に破れた後があり、まるで猛獣と取っ組み合いをしたかのような有様であった。対する黒神めだかは傷一つない制服を着こなしていた。今回の目安箱の悩み相談で『ペットの犬を捕獲して欲しい』という依頼があり、その依頼を果たそうとしてこの有様になったのである。
「半分野生化していたから手こずったぜ」
「お前はまだ良いだろう? 私なんか……」
「全力で避けられていたもんな。傑作だったぜ、アレは」
「うぅ……なぜあんなに可愛いわんちゃんは私を避けるのだ……」
「知るかよ」
落ち込む黒神めだかを慰めるつもりも一切なく淡々と感想を言い切る吉井明久。傍から見て、この二人は本当に仲が良いのだろうかと疑いたくなる光景である。しばらくして黒神めだかが立ち直ると、二人はまた歩き出した。この後も二人は今日あったこと、目安箱のこと等を話ながら歩いていった。しばらくして、二人の目の前に年季の入ったアパートが見えた。二人はそのアパートに入っていき、二階に上ると吉井明久は一つのドアの前で止まる。
「それじゃあ、また後でな」
「後でって……お前、俺の部屋にはいるつもりか?」
「隣同士だから良いだろう?
「まぁ、別に問題ないが……ま、いいか。後でな」
「あぁ、また後でな」
そう言ってお互い吉井明久は202号室と書かれた部屋に入っていった。黒神めだかもそれを見送ると、隣の203号室に入っていった。
◆◇◆
部屋に戻った黒神めだかはまず、靴を脱いで上がり、手洗いうがいをして、私服へと着替え始めた。着替え終わった後、学校用のバッグとは違うバックに今日やる分の教材と筆箱を詰め込み、いざ明久の部屋に、と意気込んだところに、タンスの上に飾ってある写真を見る。写真の中には小学生の頃の自分と笑顔の明久が居た。それを見て、黒神めだかは懐かしいのと同時に寂しい気持ちが溢れてくる。
この頃の自分はなぜ生きているのか、どうしてこんなにも退屈なのだろうかと考えていた。自分は他の子供達よりもずっと聡明で、世界というものを理解していた。最初は子供ながら「選ばれた存在なのだ」とかそんな事を考えていたが、多くの大人が自分と会う度に絶望していく様を見て、自分自身にも絶望していった。あの頃はどんどん諦観していく自分がいるのがよく分かる気がする。
しかし、小学生の頃明久と出会った。誰にでも明るく人が良い彼は、白けた目で世界を見つめる私に一生懸命話しかけてくれた。一緒に遊んでくれたり、思いも寄らない方法で笑わせてくれたりといった事であったが、それでも私には十分であった。そうして私の世界は広がっていったのだ。彼のようになりたい、誰かを救える力が欲しい。そう願って、中学に進学する時に別れ、それを実践していった。最初は戸惑うことがたくさんあったが、相手を理解していくのが嬉しくなっていき、どんどん誰かの力になっていった。いつしか感情を素直に表に出すことが出来るようになっていた。
そうして再会した高校一年のある日、彼は豹変していた。いつも明るかった笑顔が冷めた表情に、太陽のような暖かい雰囲気も冬の冷めきった雰囲気になっていた。何でも弟と派手に喧嘩をして、観察処分者として認定され、周りから見下されるようになり、さらに両親からも別の住居が与えられ、半分勘当状態になってしまったという。本人は改める様子がなく、誰も彼の味方をしなくなったのだ。そこからどんどん性格も変わっていき、いつしか誰も信用しなくなった少年が一人、生まれた。
そんな彼を見て、私は絶対に彼を、明久を助けたいと強く、想った。それを考えた時にはすでに実行に移し、明久と積極的に関わっていった。何度も拒絶されたが、それでも私は関わり続け、今では観察処分者の仕事をちゃんとやるようになり、勉強にもちょっとは前向きな態度を取るようになった。隙あればサボろうとするところは変わらないが。
……正直、これが正しいかどうかは分からない。これが彼のためになっているのかどうか不安でたまらなくなることもあり、心細くなることもある。だからといって、彼と関わるのをやめれば、それこそ私の心に、何よりも彼の心を裏切ることになる。それだけは駄目だ。そんなことをすれば、彼は二度と人を信じない。だから、関わることはやめない。それに……
「おい」
「ハッ!?」
あの時のことを思い出し、そこからずっと考え事をしていた黒神めだかに後ろから声がかかる。驚いて振り向くと、そこには私服に着替えた吉井明久がいた。彼はだるそうにリビングへの扉にも足りかかりながら、こちらを見ていた。
「いつになったら来るんだよ」
「す、済まない。少々懐かしいことを考えていてな」
「そっ。で、今回は何処やるんだよ?」
「う、うむ。今日はな……」
考え事を中断して、バックに入れた教材を取り出す。吉井明久はせっかくこちらに来たのだから、ここで勉強しようとリビングのテーブルの前に座り込む。黒神めだかも教材を取り出しながら、今日やる分を説明する。説明を受けながら吉井明久は勉強を始め、黒神めだかも問題の解き方などを教えていく。
夕焼けもなくなり、夜空が世界を包む。空には無数の星々と月が輝き、多くの家では家の明かりがつく。彼ら二人も例外ではなく、電気をつけて勉強を続けた。勉強を続ける中、黒神めだかはこう思う。
彼も元はとても優しく明るい人物だった。それがふとした拍子にこんな事になってしまったのだ。だからと言って、今の彼を私は否定しない。今の彼にも、あの時の優しさが戻るであろうことを信じ続ける。
黒神めだかはいつもそのことを考えて、不安を打ち消し、彼と向き合い続けた。そんな彼女の頑張りに応えるかのように、吉井明久はまた一つ問題を解いていった。
◆◇◆
これは沢山のもしもが重なった物語、二人の少し変わった学園生活を描いた物語である。
読んでみて思ったけど、別にめだかボックスとクロスされる必要はないような気が……。
でも、何て言うかこういう絡みが書きたかったんだ!
次回はあるかどうか分からないけど、お楽しみに。
諸設定
吉井明久 ♂
文月学園の劣等生代表。初の観察処分者でもある。
ある時をきっかけに彼の人生は最底辺にまで落ち込み、その結果相当捻くれた性格になった。転校してきた黒神めだかにいつも振り回される人物でもある。ちなみに小学生の時に出会っているのだが、彼は全く覚えていない。
黒神めだか ♀
文月学園の優等生代表。学園からは明久の監視役と勝手にされている。
孤立している明久のことを放っておけず、彼を連れ回して目安箱の依頼を解決していっている。何があって明久がああなったのか、断片的なことしか知らないが、そんなことを気にせず、明久に関わっていっている。