佐々木龍一の日常は非日常   作:ピポゴン

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バレてない…バレてない…。前回から本当に2年経ってるなんてバレてない…。こっそりとひっそりと投稿して隠れて仕舞えばバレない…。



語られる伝説

『ねえ知ってる?新学期からうちに転校生が来るって話。しかも集団で』

 

夏休みも終わりに近づき、新学期まで後1週間をきった頃、聖石矢魔学園の生徒達は各々メールなどでその話題で持ちきりだった。

 

『ああ知ってるよ。親に一斉送信でメールが回ってきたってやつでしょ?詳細は追って連絡するって言われてるらしいけど』

 

きっかけは聖石矢魔学園から生徒達の親に出されたメールによる連絡。曰く、新学期から一時的に1クラス分程の生徒達が転入してくるとのこと。それだけのことならば多少希有な例であってもそこまで騒がれはしない。問題は

 

『それでさ、その生徒達っていうのがあの石ヤバの生徒達らしいんだよね』

 

『え!?マヂ!?ちょーやばいじゃん!』

 

そう。これである。石ヤバ——正式名称を石矢魔。都内でも有名な天下の不良高である。学校はもちろんのこと、その周辺の治安もお世辞でも良いとは言えず、誰も寄りつこうとしない。一度足を踏み入れれば本当にここは日本かと疑いたくなるよう法外ぶりである。

そんな高校の生徒達を、一時的とは言え受け入れるという。学校側はクラス、果てはフロアすら聖石矢魔生とは分けて隔離すると言ってはいるが、生徒の親からしたらそれは安心する材料に足り得ない。

当然である。同じ学園で生活するならば接触は必須。法も倫理もない世界から来た生徒達とトラブルが起きない訳もなかった。

が、しかし。

 

『でも学校側は安心してくださいって。なんか特別に教師をつけるらしいよ』

 

『それうち知ってる。佐渡原でしょ?うちあいつ好きじゃないからやったーって感じ』

 

学校側は受け持つ教師が責任を持って石矢魔生を管理するとのこと。

 

『いやそれがね、違うらしいよ』

 

ただ、その教師の名は生徒の親には見慣れないものだった。

 

『なんか、超やばい先生がつくんだって』

 

 

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「木戸先生!どういうことですか!」

 

生徒が夏休み中だろうが、教師は部活の顧問なり事務作業なりで学校に在籍している。その職員室で声が響き渡った。

 

「落ち着いてください佐渡原先生」

 

「石矢魔生徒は私が受け持つという話では?」

 

声の正体は佐渡原 巧。石矢魔が転入してくることが確定した段階で担任を受け持つことになっていた教師だ。

 

「連絡が遅れたことについては謝罪します。しかしこれは決定事項です。石矢魔生徒については他の先生に担当してもらいます」

 

「んなっ!お言葉ですが木戸先生。うちには素晴らしい先生方はいらっしゃいますが、相手は石矢魔です。普通の教師では扱いきれない!それどころか身に危険が及ぶ可能性すら!」

 

佐渡原は優秀だ。それは学歴のこともあるが、問題児を扱うことに関して彼は聖石矢魔1を自負している。それは驕りではなく、確かな実績に裏付けされた自信であった。が、それでも、佐渡原の言う通り石矢魔の相手は普通では無理なのだ。その程度では、まだまだ"普通"の域を出ない。

 

「承知の上です。だから、"彼"なんですよ。普通とはかけ離れ、ましてや異常なんて言葉では収まり切らない"彼"がね」

 

木戸の言葉に、佐渡原は一瞬詰まり、次いで思考する。彼の知る聖石矢魔の教師に、そんなものがいただろうかと。

 

「何者なんですか…?その"彼"は」

 

「そうですね。何から話しましょうか。まず、彼の名は…」

 

 

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まさか夢にも思わなかった。あの馬鹿どものことだ。いつか何かやらかすだろうとは思っていたが、まさか校舎全壊だとはな。幸い死人は出なかったらしいが、それでも以前通りに授業を行うことは校舎的に不可能だ。そこで石矢魔は生徒達を何分割かし、それぞれ別の学校に一時的に転入させると言う判断をした。

まあ、何人かはかなり通学距離が伸びたらしいが、当事者は自業自得だ。問題は石矢魔でも数えるほどしかいない真面目な生徒達だ。そいつらからしたら傍迷惑もいい所だ。学校にしっかり学びにきている奴らを害するなんて、許されることじゃねえ。今回の事を起こした主犯格はしっかり再教育する必要がある。

だが幸いにも、その主犯格は纏まって転入しているようだ。ならば話は早い。俺もそこに行くだけだ。問題児を一斉に集められるなど都合が良い。今までが生温かったんだ。これからはより一層厳しく行かせてもらうとしよう。

 

 

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さ い あ く だ。

石矢魔に入学した日。俺の学園生活は儚く散ったと思ったものだ。法も倫理も存在しない石矢魔高校。そこに、自分みたいな平凡な生徒が入学など、そこらの不良にボロ雑巾のように扱われ、最終的にはポイと捨てられるのは目に見えていた。

だが、この日、それを更新する最悪があるとは思わなかった。

 

古市は不自然に静まり返った教室を見渡して思う。聖石矢魔学園に転入して初日、腐れ縁の男鹿が同じ転入先ということで多少の安堵はあったが、それを込みでもえらい教室に迷い込んでしまったと古市は思った。

なんせこの教室。

烈怒帝瑠元総長にして東邦神姫 邦枝 葵。

烈怒帝瑠現総長 大森 寧々。

東邦神姫 神崎 一。

東邦神姫 姫川 竜也。

東邦神姫 東条 英虎。

と、石矢魔でも屈指のヤバいやつを集めて煮込んだような教室なのだ。それ以外にも一度は顔を見たことがある問題児ばかり。当然、教室を渦巻く空気は最悪なものになっていた。古市は堪らず前の席の男鹿に話しかける。

 

「お、おい男鹿。どうなってんだこのクラス!右見ても左見ても問題児!おっと、前もだった。って馬鹿か!お前が校舎をあんな風にしちまったせいで俺まで化け物の巣窟に放り込まれたじゃねえか!」

 

「んだようるせえな。捲し立てるんじゃねえよ」

 

「ダブ〜」

 

一気に喋る古市に対して、男鹿はダルそうに対応した。ベル坊も睡眠の邪魔とばかりにヤジを飛ばしていた。

 

「お前が黙れボケ!噂によるとここ聖石矢魔には、石矢魔でも特に名前の挙がる問題児が集められたってよ!ふざけんな!」

 

「じゃあお前も問題児筆頭なんだな。ハハ」

 

「んな訳あるか!!こちとら学校の隅で縮こまって過ごさせていただいてたわ!こんなクラス冗談じゃねえぞ!」

 

男鹿と話している内に目が血走ってくる古市。この状況が死活問題の古市に対して、男鹿はどこまでも楽観的だ。この男、基本的にドラゴンヘッドが絡まないと真面目にならない。

ドラゴンヘッドが佐々木とわかってからというもの、男鹿はどこかスッキリした面持ちで、前と比べ少しだが成長が感じられた。それは、話だけだがドラゴンヘッドと男鹿の出会いを知っていた古市だからこそ得心がいった。たとえ一撃で終わろうとも、あの日、あの時、飛び出せなかった後悔をやっと清算することができたのだ。

 

なのに、

 

「ふぁー」

 

この男ときたら、相も変わらずこれである。ベル坊と欠伸をしながらまた寝る体勢に入る男鹿を見て、古市は青筋を浮かべる。なるほど、確かに問題児クラスだ。男鹿だけでなく、クラスの大半は周りに牽制するなり、寝る体勢に入るなりと統率の取れなさがえぐい。

時刻は8:26

授業開始まで5分を切った。後5分こいつらは耐えられるのか。元々この異常集団が定刻前に来れていることが奇跡なのだ。

 

「疲れたな。今日はかえんべ」

 

生徒の1人がそう漏らす。古市はまだ何もしてないだろ!と心の中で突っ込んだ。が、彼らにとっては朝起きてここにこれただけでも大金星。重労働と呼べるものなのだ。緩い空気が伝染していき、1人、また1人と帰る準備をし出す。

それを良しとしないのは邦枝 葵だ。彼女は聡明で、自分たちの置かれた立場をよく理解している。ここにきてなお不真面目な石矢魔がどのように見られるのか彼女はわかっているのだ。

 

「ちょ、ちょっとあなたたち!」

 

葵が生徒を止めにかかる。と、その時だ。

 

ガラガラ。

 

教室の扉が開かれる。男子の平均身長より少し高い程度の扉ではそのまま入ることができずに、首を少し傾けながら入ってくる人物。その人物はゆるりとした足取りで教卓に向かい、持っていた教材を教卓の上に置いた。

 

「さて、そろそろホームルームだが、立っている奴らはトイレか?」

 

そして、唖然とする生徒たちに向けて男は、佐々木はそう言った。

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

シンと静まり返る教室。物音一つ立てず、誰かが固唾を飲む音さえもうるさいほど響く。

立っていた者たちも動き出さない。いや、動き出せない。それはそうだ。件の男が伝説とわかった日から転校騒動で少し間が空いたものの、まだ1週間も経っていない。殆どのものについてはあれは現実だったのかすら懐疑的だ。それ程までに彼らにとってその伝説は偉大であり、信じ難いことなのだ。

 

「なんだ?トイレはいいのか?じゃあ席につけ。そうこうしているうちにトイレ行く時間なくなったからな」

 

なのに、この男は以前と変わらぬ調子。それが逆にリアリティがある。もともと彼らにとって佐々木に逆らうことがいかに愚であるかはこの3年間で嫌と言うほど教えられた。だが、ことここに至っては従うのに恐怖とは別の感情が宿る。

 

『はいっ!!!』

 

立っていたものは声を揃えて着席した。教室のほとんどが先程までのだらけが嘘のように、優等生のような出立ちになった。

特に問題児とされている何名かの生徒も、その態度に緊張が走っている。

 

「おう」

 

と、ここで開始の号令が鳴る。

 

「んじゃまあ、ホームルームを始めるわけだが、今日は初日ってのもあってな、いきなり授業は開始しないらしい。まあ、うちに至ってはルール確認やらなんやらだな」

 

他の生徒ならともかく、石矢魔生徒は今季からの転入になる。つまり校則などの一通りの確認が入るわけだ。

 

「じゃあまず校則の一条目だが」

「すみません!佐々木殿!」

 

佐々木が手元のノートを開いて喋り出そうとした瞬間、手を挙げ立ち上がり、それを止めるものがいた。まるで囚人のような振る舞いだった。

 

「あ?んだよ」

 

「い、いえ。あの…」

 

不特定多数の視線が注目する。その視線には『い、行くのか?』という意味が込められていた。

 

「何もねえなら続けるが」

 

「いえ!」

 

佐々木が再度ノートに目を落とそうとする寸前、男が続けた。

 

「あの、つかぬことをお伺いしますが、佐々木殿は、その、かの神龍(ナーガ)で、あっておられますでしょうか」

 

全員の間に緊張が走る。別に疑っている訳ではないが、それでも本人から聞くのは、彼らにとってとても大きな意味を持つ。

 

少しの沈黙。質問者と佐々木の視線が交差する。緊張から見つめられたものの喉が鳴る。

 

「ああ、そんな名で呼ばれたこともあったな。昔のことだ」

 

やはり、と全員の表情が強張った。半信半疑、いや九信一疑くらいではあったのだが、それが10割になった。目の前のこの男は、いやこの人は、()()伝説のドラゴンヘッドなのだ。数多の伝説を残した彼は、全ての石矢魔生の、いや、全ての不良の憧れ。

 

「じゃ、じゃあ!!」

 

「んな話今はいいんだよ。確認事項やらでやる事が沢山あんだよ。もう始めんぞ」

 

「うっ」

 

勢いよく今度は寧々が立ち上がったが、佐々木によって切り捨てられる。寧々は普段の血の気の多さが鳴りを潜め、大人しく着席した。もう質問者はいない。ただ、殆どのものがソワソワしていた。

 

 

________________________

 

「つーことで、まあ確認事項やらその他の連絡事項は全て伝えたな。今日やる事は全て終えた訳だが、何か質問あるやついるか?」

 

あれから割と長い連絡事項が多々あり、生徒は大人しく聞いていたわけだが、それどころではなく大抵のものは頭を素通りしていった。そしてきた、公式質問タイム。正直、聞きたい事はいくらでもある。だが、何を聞いていいのか。ない頭を絞って必死に考える。と、そんな時、

 

「はいっスー。征天の戦いについて聞きたいんスけどー」

 

本当に頭がない故に、何も考えず直球勝負できる由加が先陣を切った。脳内お花畑の彼女には、烈怒帝瑠の面々は度々困らせられたものだが、今回ばかりはその能天気さが頼もしかった。

 

「征天の戦い?んだそりゃ」

 

「ほら、あれっスよ。河原で行われたとされる喧嘩っス!なんでも佐々木先生と対等に喧嘩できる奴がいたとか!」

 

征天の戦い。ドラゴンヘッドの、いや佐々木の数ある伝説の中で、一際異彩を放つ伝承である。他の伝説は基本佐々木の尋常離れした武勇伝だが、この話が異質たる所以は、その佐々木に唯一対等に渡り合えた者が存在するという点。この話だけが、佐々木以外の者も常軌を逸している伝説なのだ。

故に、憧れの人に会った少年の如く、聞きたい武勇伝で山ほどある中でも、彼らが一番聞きたい事はこの征天の戦いについでだった。

心の中で烈怒帝瑠の面々は『ナイス由加!』と賛辞を送った。

 

「それか。んな呼ばれ方してんのかよ」

 

「ウチらの中でも特に有名な話っス!覚えてっスか!?」

 

「ああ。日にちまで完璧にな」

 

「うおぉ。どんな感じだったんスか…」

 

いつかも完璧に覚えている佐々木に、ある層では『ドラゴンヘッドに対抗できるものがいるわけがない』と眉唾物として扱われていたこの話が一気に信憑性を増した。本人から伝説を語られるこの瞬間に、流石の由加も緊張が増した。

佐々木は周りを見渡し、興味深々に聞いている面々にため息1つ吐くと、気怠げに話し始めた。

 

「2000年の8/31だ。当時高1の夏休みの最終日だった。んな時河原で唐突に喧嘩売られたんだよ。俺は売られた喧嘩は買う主義だったからな。二つ返事で了承した」

 

本当に日にちまで覚えている。佐々木にとっても印象的な相手だったのだろう。全員はその相手とやらが気になった。まごう事なき最強がここまで記憶に残すのだ。あの東条ですら居眠りする事なく静かに聞いている。

 

「相手は、誰だったんスか」

 

あのドラゴンヘッドと対等に渡り合える人物だ。相手方が聞いた事がある不良でもおかしくはない。だが、そんな伝説的な存在は彼らの知る限りいなかった。東条は1人思い当たる節があるのか、興味深げに聞いていた。

だが、次の佐々木の回答は予想の斜め上だった。

 

「それがな、なんも知らねえんだよ。向こうは俺を知っていたみてえだが、自己紹介も何もせずに始めちまったからな」

 

拍子抜けな答え。だが、最強らしい。相手が誰かなどどうでもいい。喧嘩を売られたから買っただけ。それがどうしようもなくドラゴンヘッドのイメージ通りだった。

 

「だがまあ、年齢は近かったと思うぜ。眼鏡してコートを着ていたせいであんまわかんなかったけどな。妙な力を使う奴だった」

 

妙な力。全員は頭にハテナを浮かべたが、まあ佐々木自体よくわからない強さだし、そんなもんなのだろうと納得した。馬鹿故の飲み込み速度である。

しかし男鹿はそれに心当たりがあった。

悪魔の力。悪魔と血の契約を交わした者のみが使える異質な力。身体能力は大幅に上昇し、それどころかエネルギーの放出など、当事者の男鹿も原理がわからない力を授ける。

なるほど、と男鹿は得心がいった。確かに、相手がもし悪魔の契約者であるとしたら、あの佐々木にも対抗しうるだろうと。

 

「今まででもあのレベルは5人もいなかった」

 

高1の佐々木といえば、高校3年間の中で1番荒れていたと言われる時期だ。それは逸話の量から推測できる。実際は2年、3年と時が経つごとに異名が広がり、嘗てほど考えなしに挑むものが減っただけなのだが。

 

「ほへー…」

 

話終わり、聞いた由加も半ば呆然としていた。あの伝説が本当で、しかも憧れて止まないその本人から聞けたのだ。他の者も目を輝かせ、男泣きするものまでいた。

 

「つか、連絡事項の質問じゃねえのかよ。他にねえならこれで終わるが」

 

「じゃ、じゃあ私!あの、烈怒帝瑠(レッドテイル)初代総長と神龍の爪痕(ドラゴンズクロウ)でやりあったって聞いたことあるんですけど!」

 

せっかくの機会だと、寧々が続いて質問する。この質問ラッシュは、佐々木が「いい加減にしろ」と注意するまで延々と続いた。




毎度の如く感想もらっては意欲上がって書いての繰り返しで完成しました。この作品がなんだかんだ続いているのは、気長に待ち続けてくださる皆様のお陰です。
暖かいお声にいつも支えられております。これからも励んでいきます。
次は何年後だ!(懲りない)

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