佐々木龍一の日常は非日常   作:ピポゴン

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ほぼ3ヶ月ぶりお久。
すまない、低クオですまない。
まだ忙しい波が終わりそうにないのだ。
適当で済まない。


家庭訪問in姫川&邦枝宅

「おい、これは一体どういうことだ」

 

広々とした室内にやけに重みのある声が響く。その声を姫川は額に大量に汗を浮かべながら受け止めていた。

夏休み2日目。大半の学生がエンジョイしている中、何故自分だけと姫川は思う。場所は某所のタワーマンション。その一室にて、姫川は佐々木と一対一で対峙していた。

机を1つ挟んで向かい合う。両者の距離は1メートルもない。当然、佐々木からの圧がダイレクトで伝わってくる訳で。

 

「…………」

 

姫川は目を合わさず佐々木の顔のやや下に焦点を合わせていた。

 

「はあ。お前趣旨理解してんのか?家庭訪問てのは生徒を交えて親と三者面談することを言うんだよ。わざわざ学校に来てもらうのが申し訳ないからこっちから出向くんだよ。」

 

「………」

 

「それがお前、親どころか保護者も同席しねえって……、これじゃあ学校でお前と面談するのと一緒じゃねえか。」

 

そう、今この室内には、いや、この家には佐々木と姫川の2人しかいない。姫川にとっては地獄のような状況であり、佐々木にとっては無意味な状況である。即ち、誰も得をしない。

しかしこれは当の姫川からしても想定外のことであった。というのも、元々は姫川の父親もこの日はフリーにしていた。しかし、流石は大財閥の統括。その身はもちろん多忙を極める訳で、前日の夜に姫川に「すまないが明日は行けそうにない」という旨の電話が入った。

所謂ドタキャンというやつである。普通の社会人ならばかなりの粗相だが、なにぶん姫川の両親は普通とはかけ離れているため、しょうがないといえばしょうがない。

 

「っち、まあいねえもんはしょうがねえ。うだうだ言うのはやめにするが。」

 

「親父から謝礼金を渡すようにと言われた。好きな額を言ってくれ」

 

言うと同時に姫川はテーブルの上に20センチはあろうかという札束を乗せる。姫川のなんでも金で解決しようとするところは明らかに親譲りであった。そこらのサラリーマンの平均年収を優に凌ぐ額。公務員とは言っても年功序列制の教師で、なおかつ若手の新人とくれば喉から手が出るほど欲しい額。さらに要求すればこれ以上の額を出すと言う。なかなかない、いや一生に一度もないその機会を佐々木は

 

「いらねえよ」

 

一瞥しただけで断った。これは『金が全て』を信条としている姫川には理解できないものであった。たまらず姫川がソファから立つ。

 

「はあ!?い、いらねえって、いくらあると思ってんだ!いや、いくらでも出すって言ってんだぞ!」

 

「関係ねえよ。世の中には金で買えねえもんがある」

 

そんなものはないと、姫川は声を大にして言いたかった。しかし、こちらの目を真っ直ぐと見据える佐々木の眼光に一瞬怯む。

 

「だ、だとしてもだ!あって困ることはねえだろ!」

 

佐々木の意見を肯定したとしても、イコールで目の前の金がいらないと言うことには繋がらない。ゆえの反論。

 

「確かにな。だがそれは、その金が自分のしたことに対する対価ならの話だ」

 

「……っ!」

 

「俺の働きに対して付けられた値が高すぎる場合には喜んで受け取るさ。それが相手方が示した俺の価値だからな。だが、今回の場合はどうだ。こんな押し付けられたに等しい金、俺はいらねえよ」

 

きっと佐々木は、これまでもそう生きてきたのだろう。その瞳には揺るぎない意志を感じた。これには流石の姫川も口を閉じた。当然である。全く価値観が違うのだから理解できはずもない。姫川は()()金で買えないものなど知らないからだ。

戸惑う姫川に佐々木はそれにと付け加える。

 

「金なら昔やってたバイトのおかげで腐るほどあるしな。あれがなかったら流石に俺の給料だけで石矢魔の修繕費は補うことはできねえ。」

 

「……バイトやってたのか」

 

姫川にとって佐々木がバイトをしていたというのはかなり意外だった。制服を着てコンビニバイト、ファミレスバイト、喫茶バイト、色々考えてみるがどれもこれもが全く佐々木のイメージと合致しない。というかまず接客業は無理だろう。今教師をやっているわけだし、バイトも家庭教師とかだろうかとも思ってみたが、一対一で佐々木のこのプレッシャーを受けきれるものがいるわけないのでそれも却下。

 

「なんだよ。俺がバイトしてたのがおかしいってツラに書いてあるぞ」

 

「……いや…」

 

いや、とは言ったものの態度から滲み出る明らかな肯定。佐々木はそれを瞬時に見抜く。

 

「俺にあった割りのいいバイトだった。別に人と接するのは苦手でもねーし嫌いでもねーが、四六時中笑顔振りまくような仕事は俺には向いてねえ。」

 

これには姫川も全力で同意する。四六時中笑顔を振りまくどころか、笑ってるところさえも見たことがない。そんな佐々木が最低限の笑顔を必要とする仕事など、できるはずがない。

 

「………の割には、身につけてるものはあんま高価に見えねえが…」

 

金は腐るほどあるとは言うものの、見た目にそれが反映されていない。お家柄ブランド類にはだいたい精通している姫川から見ても、佐々木が身につけているものはいたって普通の庶民的なものであった。

 

「まあな。もともと服装やらなんやらは気にしねえタイプだからな。金はいざって時しか使わねえよ」

 

金はあるのに良いものを着ない、身につけない。何故……とはもう考えるまでもない。つくづく姫川と佐々木の考えは正反対だが、もう姫川はそれを心の中で頭ごなしに否定しようとはしなかった。

 

「そういう考えも………あんのか…」

 

初めて触れる概念。まだまだ姫川には理解できないことだが、それでもそういう考えもあるということだけは知っておこうと姫川は思った。

 

それからは特に雑談することもなく、ある程度の時間が過ぎた。

 

「んじゃ、長居しても仕方ねえし俺はそろそろ帰るぞ」

 

「あ、ああ」

 

時計を見れば1時間も経っていない。その割には姫川には濃密な時間に感じられた。

 

「これじゃあお前と学校で面談すんのと同じだ。とんだ無駄足だったな。」

 

確かに佐々木からして見れば無駄な時間だったが、決して自分にとっては無駄ではなかったと、終わってから姫川は思う。決して口には出さないが。

帰ろうとする佐々木に、形式上玄関まで見送る。そして佐々木が玄関の扉に手をかけたと同時に、それと、と言ってつけ加える。

 

「今日は見逃すが、お前夏休み明けまでに敬語覚えとけよ。」

 

「…………は…い」

 

最後にとんでもないプレッシャーをかけられたのち、姫川は解放された。

 

 

 

 

_______

 

 

 

「葵。わしは言ったな。やりたいことをやりなさい。レディースなんやらも認めると」

 

「………はい…」

 

「だが同時に注意もしたはずだ。覚えとるか?」

 

「………学業は疎かにしないこと」

 

「そうだな。その通りじゃ。なら問うが、今日行われる家庭訪問とやらは、一体何について話すんじゃ?」

 

「…そ、それはちょっとな〜、私にもわからないかも…」

 

「ほお、葵にもわからんか」

 

「…………」

 

現在時刻は12:30。某所にある神社内を沈黙が支配する。山の上に建っているだけあって蝉の鳴き声がやけに多く、沈黙した室内にこれでもかと響く。

 

「………ごめんなさい…」

 

「うむ」

 

やがて沈黙を破ったのは、申し訳なさそうな葵のそんな一言だった。気まずそうな顔をしながら、それでも目は逸らさず謝るその姿勢に葵の祖父の一刀斎もしかりと頷く。

 

「まあしかし、2年のこの時期まで特に何もなく、成績も上位を取り続けてきたことは事実じゃ。家庭訪問での内容がよほどひどくもない限り、責めはせん。」

 

それに対し葵は少なからず安堵する。確かに今回結果的には家庭訪問を受ける形にはなったが、それは別に成績が悪かったからと言うわけではない。欠席日数はだいぶ増えていたが、というか2年1学期はほぼいなかったが、それでも受けた期末考査では1年生の時と比べても遜色ない程度には取れている。他がやる気ないのも大いに関係あるが、それでも学年1位である。

 

なにより、2位に寧々が続いているものの、そこから3位への差がとんでもなく離れている。というのも、偏差値底辺の石矢魔のテストが、ここ最近難化し始めているのだ。

理由は問うまでもなく、佐々木である。

佐々木が着任してからは、少なくとも佐々木が教えている教科とクラスにおいてはテストの難易度が上がった。"誰もが解ける問題"から"しっかり勉強すれば難なく解ける問題"へと傾向がチェンジしたのである。

故に、真面目にやった人間とやっていない人間でだいぶ差が開く。

その結果が葵と寧々のダントツぶりである。

 

「しかし話を聞いている限りでは大した教師のようだな。教え方も上手いのだろう?」

 

「うん。質問したことにはちゃんと答えてくれるし、普通に学習する上で困ったことはないわ」

 

「今日もわざわざこんな辺境の地へ来るとは…。ふむ、なかなか見上げたやつじゃわい」

 

ピンポーン。

 

と、ちょうどそのタイミングでインターホンが鳴る。時計を見れば、確かに予定の時間になっていた。

 

「噂をすれば何とやら、だな。」

 

よっこらせと正座をといた一刀斎は、そのまま玄関へ向かう。鍵付きのスライド式の扉。

それに手をかけ、ガラガラと開ける。

 

「わざわざご苦労じゃ…………った……な…」

 

「……ああ…」

 

そして、顔を見合わせ、互いの時が止まる。

 

「おじいちゃん?どうしたの?」

 

しばらくの沈黙。それは、不審に思った葵が居間から顔を出してくるまで続いた。

 

「かあっ!!」

 

弾かれたかのように一刀斎が動き出す。葵ですら久しく観ない攻めの姿勢。もともと心月流の無手は関節技や投げ技に特化しており、もっぱらが受身の姿勢だ。しかし葵や、それこそ一刀斎程の達人ともなれば、それはもはや型を選ばない。

掌底、襟を狙った掴み、足払い。怒涛の攻めが佐々木を狙う。還暦をゆうに過ぎた老人とは思えないほどのスピード。それに極限まで洗練された技術が乗っかってくる。

1つでもヒットしてしまったら一気に形勢が決まるそれを、相反する男は見事にかわしていた。

 

「………すごい…」

 

それは、自身でも意識したわけではない葵の呟きだった。葵も心月流の後継者ということで多くを一刀斎から学んだ。いくつかの技なら極めたと自負できるくらいに昇華させて来た。

 

しかしこの域には、まだまだ届かない。

それ程までに洗練された動き、技、技術。

確信できる、あの場に自分が立っていたらきっと3分も……いや、1分ももつかわからない。

が、同時に違和感も覚える。

 

(おじいちゃんが武術を使うのは当たり前だけど、佐々木先生の捌きも、若干テクニックを帯びている?)

 

葵だけでなく、石矢魔全員の総意として佐々木は強い。もちろんそれは喧嘩におけるものだが、"喧嘩が上手いか"と聞かれれば、これまた全員が首をかしげるだろう。

佐々木の強さを裏付けるのは、その圧倒的なまでのフィジカル。どんな攻撃も真正面から無傷で受け止めるタフネスと、どんな防御も戯れとばかりにねじ伏せる圧倒的暴力。テクニックなど垣間見たことすらない。

故に葵は今のこの光景をみて不思議に思う。

佐々木の捌きは明らかに技術を伴っていたからだ。

 

(どういうこと?佐々木先生は身体能力頼みじゃなかった?)

 

では何故いつもあんなパワーでねじ伏せるような方法をとるのか。

頭のキレる葵だからこそ、1つの考えが浮かぶ。

 

(もしかして佐々木先生は、今まで喧嘩すらしていなかった?)

 

あくまで仮定だが、一番しっくりくる。佐々木は喧嘩が下手なわけではない。ただ、喧嘩に相当する人物が、技術を使うまでに至る人物が1人もいなかっただけ。なんの工夫もない、ただの身体的スペックだけで全てが事足りる。

今技術を駆使しているのは、一刀斎が相手をするに相当する人物だったから。

 

(わからない。だけど、確信を持って言える)

 

ーー私達は、佐々木先生の実力の一端も知らない。

 

そこまで考えて、葵は一度自分の中で整理をつけた。そして、次にどうこの争いを止めるかについて考え始めた。

 

 

 

_____________________

 

 

「龍一!貴様いったいこの7年間何をしとったんじゃ!!」

 

「色々ってやつだ。ある程度忙しかったんだよ」

 

「なら連絡の一つでもよこさんか!」

 

「携帯手に入れたのが最近でな。つかあんたも携帯持ってねーだろ」

 

「他にも方法はいくらでもあるわ!それに目上の者に対して"あんた"なぞ使う者ではないわい!」

 

「ああ悪かったな一刀斎」

 

「さんをつけんか」

 

「のじいさん」

 

「そういうことではないわ!!」

 

とりあえず葵の努力は功をなし、居間に2人を連れてくることには成功した。が、お茶でも出そうとするまもなく今の問答が始まった。

 

「というか、じゃあ何故突然現れたんじゃ。心月流を真剣に学ぶ気になったか」

 

「そうじゃねえ。あんたんとこの孫について、家庭訪問しに来たんだよ」

 

「む…………?まさか、お主……今現在葵の…」

 

「ああ、教師だな」

 

普通に発した佐々木の言葉に、一刀斎が再度固まる。ゆっくり葵の方を見ると、葵も肯定するようにこくりと頷いた。

 

「お、お主が教師じゃと!?」

 

「何かおかしいか」

 

「おかしいことだらけだわい!あの喧嘩バカのクソガキが……よもや教師とは…」

 

「失礼な野郎だ。」

 

「お主にだけは言われたくないわ」

 

「あ、あのー、佐々木先生とおじいちゃんって、どこに接点あったのかなーって」

 

そこで、今まで目を白黒させていた葵がそろりと手を挙げる。佐々木と一刀斎の会話では、過去にこの2人になんらかの関係があったのは明らかだった。

 

「まあなんじゃ。昔の教え子という感じだな。」

 

「お、教え子!?佐々木先生が!?おじいちゃんの!?」

 

「全然ちげーだろじじい。一方的にこのじいさんから喧嘩売られてただけだ。」

 

「あれは稽古みたいなもんだと毎回説明したじゃろ」

 

「あれのどこが稽古だ」

 

「ぶつくさ言う割には、お主も毎回相手になったでないか」

 

「売られた喧嘩は買うのが俺の主義だ。……昔はな。」

 

「ほう?今は違うと?」

 

「たりめーだ。今の俺は教師だ。いちいち生徒からの喧嘩を買ってりゃきりねーだろ。」

 

「まあ本来はありえんことだが、お主の学校ならありえるな」

 

「まあ、そういうわけだ。……この話はもういいだろ。だいぶ時間が過ぎちまったな。さっさと始めるか」

 

結局葵はこの2人の関係を良く知ることはできなかった。が、知り合いというには近く、友達というには遠い。そんな奇妙な関係であることは理解した。

 

 

 

「それで、一体どういう事情で家庭訪問に至ったのかの。成績表を見た限りだと葵は一応優等生の枠に入ると思うのだが」

 

お茶を一飲みして、一刀斎がそう切り出す。

 

「優等生っつか、学年主席だわな。一年の頃から邦枝はずっと学年一位をキープしている。まあ、1年生の最後と、2年生のはじめのテストは受けてねーんだがな。」

 

ギクリと葵の肩が跳ねる。思い当たる節がバリバリあるが故の反応だろう。

これには一刀斎の眉もピクリと動く。

 

「どういうことじゃ?」

 

「それが今日ここにきた主な理由の一つだ。一刀斎、あんたの孫、このままじゃ卒業できねーぞ。」

 

「なんじゃと!」

 

「うぐ」

 

一刀斎の目がくわっと開かれたのを見て、葵が思わず声を出す。

 

「まあ少し語弊があるがな。正式にはこのままこのペースで好き勝手やってると、普通に出席日数が足りねえ」

 

「1年の最後から2年の最初というと……、北関東に遠征していた時期とかぶるの」

 

「まさに理由はそれだろうよ。期間でいうと丸々1学期ってとこだ。3年間で合計1年分。まあ、卒業は無理だわな」

 

その事実に葵はさらに気まずそうに、一刀斎は手をワナワナ震わせる。

 

「葵!いくらいい成績をとっていようと、卒業できなくては意味がないではないか!」

 

「うっ……すみません……」

 

「もしこれからも遠征だなんだで度々学校を休むようなら烈怒帝瑠は解散させるし、メンバーの稽古も今後一切する気はないぞ!」

 

「も、もう大丈夫だから!勢力争いも一区切りついたし、今後は長期休みの時とかに行くようにするから!」

 

「………ふむ…。とりあえずそういうことなら延命処置じゃ。暫くは様子を見ることにしよう。」

 

両手をアタフタと動かし、なんとか一刀斎をなだめようとする葵。その甲斐あってかひとまず一刀斎は納得したようだ。そしてそれは、対面で座ってた男も同様。

 

「話がそれでまとまったんなら俺から言うことはねえ。まあ今回は忠告みたいなもんだ。気をつけろとな」

 

「とりあえず今は葵を信用するとして、それで龍一よ。わざわざそんなことを言うためだけに来たわけでもあるまい。まだ何かあるのだろう?」

 

言うと同時に室内の空気が若干重くなったと錯覚する一刀斎。重圧の元はもちろん目の前の男から。

 

「ああ。というか俺からすりゃこっちの方が問題だ。邦枝が学校に戻ってかなり短期間で、既に二ヶ所の校内破損がおこっている。それもどちらも大破と呼べるほどの壊れっぷりだ。もちろん原因はあんたんとこの孫だ」

 

佐々木から伝えられた事実に、今度は一刀斎は「ふむ」と言って腕を組む。

 

「なるほどな。つまりはその修繕費の話をしに来たというわけだな」

 

「いや、金のことはいい。幸い使い道のない金なら腐る程もってるからな。」

 

「!?お主、まさか学校の修理費に自腹を切っておるのか!」

 

もしそうだとしたら、一刀斎としては示しが付かない。話を聞いただけでは破損の規模は具体的には想像できないが、"大破"と言っているのだから相当なものだろう。それを壊した当人ではなく、その担任が修理費を払っているのだとしたら………、とてもスルーできる事実ではなかった。

 

「そいつは今どうでもいい。」

 

「どうでもよくないわ!大人の世界では"ケジメ"というもんがある。孫が犯した馬鹿な行動を、その保護者が責任も取らないとあっては示しがつかんじゃろ!」

 

「生徒の責任を負うのも教師の役目だ。」

 

「だとしてもお主のはやりすぎじゃ。教師の負う責任とやらに今回のは含まれんじゃろ」

 

なかなかに引き下がらない一刀斎に佐々木は小さく溜息を吐く。そして数舜の沈黙後、再び口を開いた。

 

「ならじいさん、こうしよう。あんたは孫がこれから学校を破壊しないように厳重に注意しとけ。次また大破なり何なりをやらかしたら、そん時は責任を負うのはあんたの番だ。それでどうだ?」

 

お互い目を合わせて黙る。葵はこの間どうしようもない居心地の悪さを感じていた。

 

「………ふん、頑固さは昔から変わらんな。だいぶ甘い処置じゃの。だがわかった。引き下がる様子もないし今回の件は納得するとしよう」

 

一刀斎のその一言で室内の重圧が霧散する。

 

「葵がまさか学校でそんなに問題を起こしていたとは…」

 

「………ごめんなさい…」

 

「まあ石矢魔だからな。多少のことには目をつむる。だが関係のない生徒にまで迷惑をかけるような行為は控えろよ。つかやめろ。」

 

「は、はい…」

 

余程一連の話し合いが効いたのか、葵はすっかり意気消沈モードである。

 

「………だがまあ、それを抜きにすればお前は

石矢魔でもトップクラスの優等生だ」

 

「……え?」

 

普段の佐々木からは想像もつかない、まるでフォローのような発言に葵が顔を上げる。

 

「授業も真面目に聞いてるしリーダーシップもある。あとは学校での振る舞いは気をつけることだな。」

 

「あ……は、はい!」

 

佐々木が誰かを褒めるという行為を目にするのは、葵にとっては初めてのことだった。余程珍しいことなのか一刀斎ですら目を見開いている。

 

「んじゃあ今日のとこはそれで終いだ。俺は帰るとする」

 

胡座の状態から立ち上がると、礼もせずに玄関へと向かう。

 

「あ、あの、ありがとうございました」

 

それは修繕費を肩代わりしてくれたからか、甘い処置で済ませてくれたからか、はたまた褒められたからか。自分でも思考がまとまらないまま、それでも感謝の意を伝えようと葵は頭を下げた。

それに何の反応も示さないまま、佐々木は玄関から出て行く。

 

「まったく、親しき仲にも礼儀ありという言葉も知らんのかアイツは。」

 

その後すこしの沈黙が室内を支配する。

 

「葵」

 

「ん?何おじいちゃん」

 

が、唐突に発せられたその声に、葵はすぐさま反応した。

 

「わしは常々言っておったな。お主の婿は強くなくては認めんと」

 

「うん」

 

一刀斎はすこし遠い目をすると、どっこいせと立ち上がり退室しようとする。

 

「んん!?ちょっとおじいちゃん!?何でこのタイミングでそんなこと言った訳!?ねえ!!ちょっと!!」

 

境内に響くその声を、多数の蝉の鳴き声が搔き消した。

 




なにげ佐々木初めてのデレ。

一刀斎は原作初登場時は「〜じゃ」と「〜だ」が混在した喋り方をしていましたが、後半に出てきた時にはほぼほぼ「〜じゃ」口調だったので、この話では「〜じゃ」8割、「〜だ」2割くらいを意識してます。

どうでもいい設定集。
一応設定はあるけど本編で気付きにくいこと。

佐々木の人の呼び方について
通常時「お前」
イライラ時「おめー」
半ばキレ時「てめー」

実はこんなどうでもいい設定がありける。

次回は東条と男鹿なんだけども、どっちも長くなったら1話ずつ切るわ。



あー、早く聖石矢魔編いきてーなあー。崩落編飛ばしてーなー

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