主人公がヴィランになりきって性格悪いことします。ご注意ください。ちなみに私は書いていてとっても楽しかったです(^q^)。
[前回のあらすじ]
戦闘訓練ヤッター。でも対戦相手は三人チーム。しかもエンデヴァーの息子の轟君いるじゃないですかーヤダー。
訓練開始の指示を聞いてすぐに『核兵器』の置いてある部屋を出る。向かうところは二階の小部屋。三か所ある階段全てから少し離れているので、急いでいけば砂藤君が上の階に行く前に戦闘できるかも。
『核兵器』の部屋から出て少ししたところに階段があり、そこを一段飛ばしで下の階へ降りていく。
「障子君、三人の様子はどうですか?」
《砂藤は結構慎重に動いているようだ。このまま砂藤がいた部屋に最短距離で向かえば、二階の廊下で遭遇することになる。他の二人にはたぶん遭遇することはない。
葉隠は砂藤とは対照的に全速力で進んでいるが、自身が見えないことを生かして早々に探索をしようという腹積もりだろう。轟は相変わらず落ち着いているというか、ゆっくりと進んできている。余裕の表れだろうな》
「分かりました。何かまた状況が変化したら知らせてください。砂藤君を倒したら、すぐに戻ります」
通信を終えるのとほぼ同じくらいに、二階に着いた。ここからは障子君に教えてもらったように砂藤君が最初にいた小部屋まで最短距離で向かう。廊下の幅はそれなりにあるが、戦闘をするには少し狭くて回避しづらいかもしれないのでその点は気を付けよう。
「……?!」
「……! 見つけましたよ!」
ちょうど曲がり角で砂藤君と遭遇した。バックステップをして、少し距離をとる。こんなにも早く敵と
「――想起『テリブルスーヴニール』」
サードアイを中心として放射状にレーザーが射出され、そのレーザーで対象を判定。大小さまざまな、色鮮やかな淡い光の玉が私の背後に展開される。そして、光の玉が十分に展開され、淡い光から一転、強烈な光を放つ。
その光は一瞬目を閉じざるを得ないほどの光量。
砂藤君は突然の光に動揺を隠せないでいる。
何を企んでいるのか、この光は何か有害なものなのか、そういった砂藤君の懸念や恐怖が手に取るように
この『
『古明地さとり』の能力は私と同じ『心を読む程度の能力』であるが、この能力だけでは相手のトラウマを読むことはできない。というのも、『さとり』や私は相手の今考えていること、つまりは心の表層しか読めず、トラウマの眠る心の奥底までは読めない。そこで『テリブルスーヴニール』の出番だ。
先ほど私がやったように、テリブルスーヴニールは強烈な光を放つ技であり、この強い光を相手に当てて動揺させ相手の心にトラウマを思い出させるのだ。
――さあ、砂藤君。あなたのトラウマ、見せてもらいますよ?
……うーん、微妙。トラウマなのか良く分からないが、砂藤君の一番心に残っている個性は、物理攻撃を吸収する個性。一度この個性を持つ子と喧嘩したようで、その時にカルチャーショックのような大きな衝撃を覚えたようだ。
まあ、一応読み取っておくけど、欲を言えば轟君の対策になるような個性が欲しかったなぁ。……うわぁ、しかもこの個性、たぶん使い終わった後に、頭痛くなる感じだ。大方、吸収した攻撃に比例して頭が痛くなるのだろう。
さて、テリブルスーヴニールから読み取りまでそう時間はかからないが、砂藤君はすでに臨戦態勢になっている。まだ目をパチパチさせているので、完全ではないようだが。
「ちょっとびっくりしたが女子だからって、手加減はしないぜ、古明地さん!」
「ふふ、頑張って
言葉を交わし終えた瞬間、砂藤君は距離を詰める。
さすが増強系だ、瞬発力も並のものではない。
そのまま勢いを殺さず私に拳を食らわせんと腕を大きくふるう。
増強系の個性である彼の拳は、一般のそれとは比にならない威力。かすっただけでも命取りだ。
勿論、当たってあげるつもりはない。
胴を狙ったその拳を、余裕をもって横に避ける。
「……!」
標的を捉えることが出来なかった彼の拳は
全くもってチョロイ。
全くもって愚直。
お返しに、強烈な回し蹴りを背中に見舞う。
前のめりになった体勢に後ろから衝撃を加えられたことで、彼はバランスを保てない。このまま地面と仲良くしている彼に追撃することも可能だが、私の近接戦闘は基本的に深追いはしないスタイルだ。
回し蹴りなんてしたら、スカートの中が丸見えだろうが、ドロワーズを
「くそっ…!」
「あらあら、私を差し置いて地面と戯れるなんて、よっぽど地面の事が大好きなのですね。とっても無様で滑稽なヒーローさん?」
平静を保とうとしているが、私に挑発されて心の中は穏やかでない様子。
直ぐに起き上がって再び攻撃を仕掛けてきた。
戦闘では常に冷静に、ですよ。
そんな短絡的な行動はご法度だ。
次は顔を狙った攻撃。
しゃがんで回避し、
鳩尾は急所の一つ。鍛えられた筋肉に覆われる彼の肢体にダメージを与えるのは容易ではないだろうが、急所を重点的に狙えば十分なダメージを稼げる。
カウンターを食らい よろけるが、彼は懲りずに拳をふるう。
何度やっても結果は同じだ。
「くそっ…… なんで」
「“なんで攻撃が当たらない”、ですか?」
にやりと笑って嘲笑うかのように告げる。
「そうそう、測定テストの時に私はあなたに“他人の個性を真似られる”なんて言いましたが、私の個性の本分は心を読むことです。どこに来るか分かっている攻撃を避けるだけの簡単な作業。
力に任せた単調な攻撃しかしてこないなんて、もう少し頭で考えることをお勧めしますよ? ああ、あなたは個性を使いすぎると頭が回らなくなるんですね? 長期戦が苦手なようですが、糖分を使うことでパワーを五倍ですか、面白い個性です。
――さてさて、個性の強みも弱点も相手に筒抜け。加えて
「っ……!!」
「……っといけません。つい楽しくて短時間で終わらせることを失念していました」
今度は私から距離を詰める。
砂藤君は“こんどこそ!”なんて考えているが、全く無意味。
次は“右の蹴り”か。
タイミングよく見切って避け、空を切った右足をつかみ引き上げる。
そのままバランスを崩して背中から倒れた砂藤君に馬乗りになって、手のひらを顔に向ける。
「――想起『刃の個性』」
事前に障子君から読み取っておいた個性を使う。さすがに殺してしまうわけにはいかないので、砂藤君の文字通り目と鼻の先で刃を止める。
「さて、砂藤君。降参して捕獲テープで巻かれるか、この刃に貫かれるかどっちがいいですか?」
「……降参だよ」
「賢明です。では、失礼して……」
馬乗りをやめて砂藤君を起こし、テープを腕に巻き付ける。
そういえばどう巻き付ければいいんだ? テープで拘束しなくても巻き付けるだけで良いのかな。まあ、どっちでもいいか。
危ないし、砂藤君には建物から出てもらえばいいのかな? オールマイトに聞くか。
「オールマイト先生。聞こえますか?」
《………》
「先生?」
《ハッ! すまない、思ったよりも えげつないやり方だったのd… ああ、いや、何でもない! 用件は何だったかな?!》
「危ないので、砂藤君には建物から出てもらえばいいですか?」
《あ、ああ……》
「了解です。ありがとうございます」
先生、取り繕ってたけど“えげつない”なんてことはないでしょう? ヴィランを全力で演じきった結果です。……あれ、もしかして超性格悪い女になってたかな。そういえば、皆がいるモニタールームにインカムを通じて音声も聞こえてるはずだから、クラス内の私の株って大暴落してる? そ、そんなことないよね?
ま、まあいい。今は訓練に集中しよう。
砂藤君には先生の指示を伝え、そのまま建物から直ぐに出てもらった。
「障子君、すいません少し遅くなりました。佐藤君は処理しましたので、残り二人の動向を教えてください」
《いや、十分に早い。葉隠は今四階の部屋を順々に調べている。轟は相変わらずゆっくりとしているが、今は古明地が通った階段とは別の一階の階段の近くだ。こっちに戻ってくるときは行きと同じ道で大丈夫だ》
「分かりました。すぐに戻ります」
障子君との通信を切り、来る時に通った階段で五階の『核兵器』の部屋に急いで戻る。障子君から教えてもらった通り、この道ならば大丈夫だとは思うが、一応あたりを警戒しつつ道を急ぐ。
無事、部屋までたどり着いた。
「戻りました、障子君」
「古明地、ちょうどいい時に来た。少し状況がよくない」
「と、言いますと?」
「今、葉隠が四階を調べ終わって五階の部屋を調べ始めている。加えて轟なんだが、どうやら他の階層に目もくれずに五階に向かっているようだ」
「なるほど、ちょっとまずいですね……」
何がまずいかって、このまま何も対処せずこの部屋にいると、葉隠さんと轟君が同タイミングでこの部屋に来るかもしれない。葉隠さんは戦闘能力こそあまりないと思われるが、轟君と闘っている間に気づかれずに『核兵器』を回収される、なんてことになるかも。
轟君と戦闘しながら葉隠さんの位置を探って葉隠さんの対処をしてもらうのは、障子君の負担が大きいし、難しい。出来れば一緒に葉隠さんを処理しに行きたがったが、致し方ない。
「障子君、あの二人がこの部屋に同時に来るのはちょっと分が悪いので、別々に対処しましょう。私に葉隠さんの捕捉が出来るのかは怪しいので、葉隠さんをお願いできますか?」
「分かった。すぐに向かおう」
「この部屋を無防備にするわけにはいかないので、私はここに残りますが、轟君の相手を一人でしたくありません。葉隠さんの対処が終わったら直ぐに戻ってきてください」
「了解だ、多少手間取るかもしれないが、なるべく直ぐに葉隠を拘束する」
「ご武運を」
走って出ていく障子君を見送る。
なんとか轟君がこの部屋に来る前に戻ってきてね。彼を一人で相手にするのは厳しそうだ。
障子君が出ていってからどれくらいたっただろうか。1秒のようにも、1時間のようにも思えたが、インカムのスピーカーから障子君の音声が聞こえてきた。
よかった、轟君が来る前に終わったみたいだ。
《古明地、聞こえるか?》
「ええ、聞こえます。終わりましたか?」
《……すまない、まだだ。予想以上に捉えにくくて時間がかかっている。それともう一つ悪い知らせだ》
悪い知らせ。その言葉が障子君の口から紡ぎだされたのとほぼ同時だろうか、私がいるこの部屋の扉がキィーと甲高い音を立てて、ゆっくりと開いた。
《――轟がそっちに向かってる》
2017/04/16 誤字脱字の修正