個性:心を読む程度の能力   作:波土よるり

3 / 14
[前回のあらすじ]
 雄英に合格。相澤先生の最下位は除籍という理不尽な個性把握テスト。除籍が本当かサードアイで視てみたら、割かし本気でガクブル。



No.3 個性把握テスト2

「おーし、じゃあまず50メートル走からだ。まあ出席番号順でもいいんだが、それだと つまらんから逆番号順で走ってけ」

 

 一種目は50メートル走。

 

 何がつまらないのか知らないけど、先生に言われた通り逆番号順だと『古明地(こめいじ)』だから走るのは結構後の方だ。

 さらに、逆からなので爆豪君が走るのを先に見ることが出来るわけだ。読み取ったばかりであまり上手く使え無さそうだから、彼からしっかり使い方を学ぼう。

 

 先生、グッジョブです。

 

 

 最初の走者は凄いちっちゃな子と、すごい美人な子の組だった。

 

 ちっちゃい方は個性を使わなかったようで普通に走っていたが、美人な子は自分の身体から何やら凄そうなシューズを作り出した。ローラースケートのようなそれにはブースターが付いていて、初動こそ少し遅かったがすぐに加速しあっという間にゴールしていた。

 

 身体から機械を生成する個性だろうか。いや、あるいは機械に限らずあらゆるものを作り出せるのだろうか。

 まあぶっちゃけ、覗けば(・・・)詳細が分かるかもだけど、いずれ知る機会もあるだろうしむやみに覗く必要もないだろう。

 

 さて、次の走者はお待ちかねの爆豪君。一緒に走るのは緑谷君だ。

 爆豪君の走りをしっかりと見ておくのはもちろんだが、個人的に緑谷君の走りにも注目だ。試験の時に見せたあの脚力があれば50メートルなんてあっという間だろう。

 

「はいじゃあ次、爆豪と緑谷。……位置について、よーい…… スタート!」

 

「爆速!! ターボ!!」

 

 スタートの合図からすぐに爆豪君は両手から爆発を生み出して走り出した。なるほど、爆風を利用して推進力を得ているのか。

 

 よし、私の順番の時にもパクr……、リスペクトしよう。別にやましいことは何もない。愚者は経験で学んで、賢者は歴史に学ぶからね、仕方ないね。

 

 それにしても緑谷君は何で個性を使わないんだろう。あの超パワーの個性使えば最下位回避なんて余裕でしょうに。体調でも悪いのかな。

 

 測定結果は爆豪君が4秒13で、緑谷君が7秒02。

 

 ふむ、では私は4秒を切るつもりで頑張ろう。

 コピー能力の分際で何言ってんのって? ふっふっふ。コピーはオリジナルを超えられないってのは空想(ファンタジー)じゃ常識かもしれないけど、私が生きているのは現実(リアル)だからね。

 

 その後も順々に走っていき、私の順番が回ってきた。さすが雄英に入学した人たちだ、詳細は分からないけど面白そうな個性ばかり。

 走る前に軽く自己紹介をしあったけど、私と一緒に走るのは砂藤(さとう)力道(りきどう)君。詳しくは聞いてないけど、増強系の個性らしい。爆豪君の個性を使える私といい勝負になるかもしれない。

 

「はい、位置について、よーい…… スタート!」

 

「――想起『爆豪君の個性』!」

 

 爆豪君がしていたように両手を後ろに突き出して、爆発させる。もちろんいい記録を狙っているので、100%の力を出し切るよう個性を使う。

 

「……っ! 痛っ…! なにこれ反動強すぎじゃないですか……!!」

 

 爆豪君の記録を超えようとして100%の力でやったのが間違いだった。爆発の反動が強すぎて、爆発と同時に手首やら腕の関節がギギギと悲鳴を上げた。ちょっと一旦、想起するのはやめて50メートル走を終わらせよう。

 

 ……結果は6秒31。まあ、最初の爆発で多少タイムを縮めることが出来たようで、そこそこのタイム。今世の身体の丈夫さが幸いしてか、手首を少し痛める程度で済んだ。次の種目からは半分くらいの出力でいこう。

 

 結局、コピーはオリジナルには勝てないってことですか…… え? お前、賢者じゃなくて愚者じゃないかって? 私は賢者だ。異論は認めない。まあただ今回の経験はしっかりと()かそうと思う次第です。

 

 今回、露見してしまったように私の個性は強いが、弱点もある。

 

 『心を読む程度の能力』の本分である『読心』については特に問題はないのだが、あ、いや、あんまり使いすぎると人から嫌われるとかはある。『想起』については想起する個性の詳細が分からないのだ。

 ある程度の使い方や危険性は読み取った時点で感覚的にわかるのだが、どう危険かは分からない。なので、基本的に初めて読み取る個性は徐々に出力を上げていくのがセオリーなわけで、今回のようにいきなり100%でやるのは愚の骨頂と言わざるを得ない。いや、今回はたまたまで私は愚者ではない。断じてだ。

 

 調子に乗って読み取った個性の危険性を軽視して出力を上げすぎることは、まあ時々、たまに、稀にある。誤差だよ、誤差。 ……気を付けねば。

 

「すっげー、爆豪みたいな個性なんだな!」

「爆豪“みたい”っていうか、一緒じゃね?」

 

 走り終えてみんなが集まっているところまで行くと、金髪のチャラ男っぽい子と、赤髪の筋肉質な子が話しかけてきた。っていうか、恒例行事といっても良い入学初日の自己紹介をしてないもんだから、クラスメイトの名前が全然分からない。

 相澤先生、グラウンド出る前にせめて自己紹介の時間くらい取れませんでしたか……?

 

「金髪の方が言うように、爆豪君の個性そのものですよ。ちょっとコピーしました。ああ、それと自己紹介がまだでしたね。私は古明地さとりです」

 

 微笑みながら答え返すと、二人とも若干照れている。男子ってほんと分かりやすいなぁ。まあ、私みたいな美少女に話しかけられたらその反応は当然とも言える。……当然とも言える。

 

「俺は切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)。よろしくな古明地」

「んで、俺は上鳴(かみなり)電気(でんき)だ、よろしく」

 

 ふむふむ、赤髪の子が切島君で、チャラ男が上鳴君ね。しっかり覚えておこう。

 

「おい、そこの女ァ!! てめぇ、どういう了見で俺の真似してんだ!!」

 

 切島君たちと話していると、不良少年、爆豪君が爆発を起こしながらこちらに向かって走ってきた。怖い怖い怖い! 爆発もだけど、形相もやばいよ!

 

 サードアイで動きを読みつつ逃げようとしたその時、爆豪君の爆発が消え、ついでに長い布のようなもので捕縛されていた。その布を辿(たど)っていくと、その先には相澤先生の姿。さっきまでのやる気のない眠そうな顔とは打って変わって、髪の毛を逆立てて、目も大きく開いている。

 どうやら先生が爆豪君を止めてくれたようだ。先生、ありがと。このご恩は忘れるまで忘れません。

 

「んだ、この布。固っ……!!」

「炭素繊維に特殊合金の鋼線(こうせん)を編み込んだ『捕縛武器』だ。ついでにお前の個性も一時的に消させてもらった」

 

「消した…!! あのゴーグル… そうか……! 視ただけで人の個性を抹消する個性! 抹消ヒーロー イレイザー・ヘッド!!!」

 

 緑谷君、解説ありがとう。イレイザー・ヘッドか…… 聞いたことないな。それにしても個性を消せる個性か…… 捕縛武器も強そうだし、相澤先生だいぶ実力派っぽい?

 

「喧嘩はやめておけよ。……時間がもったいない。次、準備しろ」

 

 爆豪君に(にら)まれたが、それ以上は追撃してこなかった。良かった良かった。

 

 その後も測定は続き、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げ等々、全種目終えた。

 途中、ボール投げの時に緑谷君が先生から何やら注意されていたが、よくは聞こえなかった。あと、突き指をしてしまったのか右手の人差し指が赤く腫れていた。記録はすごかったが、やはり今日は調子が良くないのだろう。

 

 私はというと、だいたい爆豪君の真似をしていました。残念ながら一種目も爆豪君の記録には勝てませんでしたが。あと、爆豪君を真似るたび、爆豪君から親の(かたき)でも見るような熱い視線をいただきました。いやー、照れますねぇ。

 

「んじゃ、パパッと結果発表。ちなみに除籍はウソな」

「……?!」

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「はーーー!!!???」

 

 ウソだと聞いて驚いている人と、そうでない人がいる。緑谷君や飯田君は見事な驚きっぷりだった。とくに緑谷君はムンクの叫びみたいな面白い顔をしていた。

 

 あんまり驚いていない人たちは、初めから除籍なんて嘘っぱちと思っていたらしい。でもね、場合によっては全員除籍されてたかもなんだよ。皆が相澤先生のお眼鏡に(かな)ってよかったね。

 

 さてさて、肝心の結果の方は…っと。個性の出力を制限したためか、あんまり成績は振るわず、21人中12位という、まあ何とも言い難い順位。大きなけがもしなかったし、良しとしよう。

 

 

 手首がまだ少し痛かったので、帰りに保健室によって湿布をもらってきた。保健室の先生は優しそうなおばあちゃんで、海外のお菓子の『ハリボー』というのもくれた。初めて食べたけど美味しかった。

 

 

 

 意外と疲れていたようで、施設に帰ってすぐに爆睡。そして次の日。いよいよ学校が本格的に始まることになる。午前は英語などの必修科目の授業で、拍子抜けするほど普通な授業だった。まあ、教えてくれる先生は皆ヒーローなのである意味個性的な授業ではあったが。

 

 午後の授業は皆お待ちかねのヒーロー基礎学。担当の先生はオールマイトだ! いよいよ生のオールマイトを見ることが出来る。今日はこのために学校に来たといっても過言ではない。

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 やっぱりすごい……! 画風が違いすぎて鳥肌が…!! 私はオールマイトのファンなので、テンション上がりまくりだ。まあ、外面はテンション上がってないでしょうけど。

 隙を見てサインをねだりに行こう。

 

「早速だが、今日はコレ!! 戦闘訓練!!!  そしてそいつに伴って…こちら!! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!!!」

 

 来ました!来ました……!

 

 私の要望したコスチュームは前世だとただのコスプレにしか見えず、恥ずかしいことこの上ないのだが、今世において、ヒーローはコスチューム・プレイが当たり前なのだ。やったぜ。

 普段は要望に出したようなフリルがたくさん付いた服は()()ずかしくて着られないからなぁ。

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」

 

 コスチューム着るのも楽しみだし、戦闘訓練も楽しみだ。ヒーロー基礎学、最高!

 




2017/04/08 コスチュームに関して少し描写を追加。
2017/08/29 軽微な修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。