個性:心を読む程度の能力   作:波土よるり

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[前回のあらすじ]
 転生したら超能力のある世界で、自分の姿が『古明地さとり』でビックリ。ヒーローになるため雄英を受験。遠目で緑谷君の超パワーを目撃。



No.2 個性把握テスト1

 雄英高校の入学試験から一週間が経った。

 そして、私の目の前には雄英からの封筒がある。

 

 管理人さんが雄英からの封筒を慌てた様子で持ってきたときには意外と冷静だったが、いざ開けるとなるとめちゃくちゃ緊張する。

 筆記の方は自己採点で合格ラインの少し上くらい、戦闘試験の方も合格ラインは超えていると思うがやはり不安は(ぬぐ)えない。

 

 管理人さんは気を利かせて私を部屋に一人にしてくれた。まあ、扉の前でそわそわしているのが丸分かりだが。管理人さん、本当に良い人。

 

「さあ、いい加減開けますか。……ん? これは?」

 

 封筒を開けると円形の機械が入っていた。投影機……かな? とりあえず、電源っぽいスイッチを押し机の上に置いてみる。少しすると鈍い電子音が鳴り、映像が映し出された。

 

「私が投影された!!!」

「……オールマイト?」

 

 画風違うのは相変わらずだけど、何でオールマイトなんだろう?

 雄英とオールマイトの接点なんてオールマイトが雄英のOBってことくらいだけど……

 

「さて、古明地少女! 私が映されたことに驚いているだろうが。まずは結果を話そう。……文句なしに合格だ! おめでとう!!」

 

 合格。合格だ……!!

 

 やった、合格だ!

 雄英って求められる個性もそうだけど、学力も偏差値高いから特にこの一年は勉強頑張った。よかった、報われて。

 

「筆記もなかなか良くできていたし、実技の方も69Pで文句なしだ。

 実は言うとね、実技の方には通常のポイントの他に、『救助活動(レスキュー)P(ポイント)』っていうのもあるんだけど、こちらは残念ながら0Pだ。まあ、これから人助けに励めば問題なし! 頑張ってくれたまえ! HAHAHA!」

 

 救助活動Pなんてのもあったのか。まあそりゃそうだ、人助けするのがヒーローなのだから。

 試験の時に女の子を助けていたあの男の子のような人が評価されないなんておかしいもんね。

 

 まあ、私はほら、通常Pだけで四位に食い込んでるし、これから頑張れば向かうところ敵なしだよ、たぶん。

 

「おっと、そうだ。私が投影されている理由は他でもない。雄英に勤めることになったんだ。君のクラスにも先生としていくと思うからその時は宜しく頼むぞ!」

 

 オールマイトが先生?! まじですか。そうですか。

 

 いやあ、これは周りの人から(うらや)まれますねぇ。

 生でもう一度本物のオールマイト見れるし、これは僥倖(ぎょうこう)だ。ラッキー。

 

「さあ、古明地少女! 雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ! 学校でまた会おう!」

 

 テレビやネットの動画で見るのと変わらず、熱血な人だ。さすが、ザ・ヒーロー。

 早くこの目で見たいなー。入学式が楽しみだ。

 

 投影された映像が終了したので、そのあとすぐに扉の前で待っている管理人さんに報告した。

 管理人さんは泣きながら、まるで自分の事のように喜んでくれて、こっちまで泣きそうになってしまった。ほんと、管理人さん良い人。

 

 さらに、ささやかながらパーティーも開いてくれて、施設の皆もお祝いしてくれた。私はあんまり感情を表に出さないんだけど、この時ばかりは泣かずにはいられなかった。もちろん嬉し涙。

 管理人さん含め、この施設には、ほんと心が綺麗な人しかいない。全人類が施設の皆みたいに良い人ばっかだったら私の能力があっても住みやすいのになぁ。

 

 

 

 時は流れて世間はすっかり春模様。店先にツヤツヤ光るイチゴが並んだり、ぽかぽかとした陽気が気持ちい季節だ。春は比較的好きな季節なんだけど、虫が出てくる季節でもあるから、その点はマイナスかなぁ。

 

 んで、私の高校生活の始まりでもある。今日は雄英高校初日、否が応でもテンションが上がるのだ。先日購入したばかりの制服に身を包み、気分はさらにウキウキ。まあ、私の場合はあんまり表情に出ないから、他人からみたらテンション高くないだろうけど。

 

「えっとー、私のクラスは1-Aでしたね。1-A… 1-A… ああ、ありましたありました」

 

 教室の扉でかくない? 気のせい?

 あ、あれか、遠近法か。

 

 ……でかいなぁ。あー、ユニバーサルデザイン的な?

 

 まあいいや、入ろう。

 

「まったく、何度言ったら分かるんだ! 机に脚をかけるなと言っているだろう!」

「あぁ?! うっせーんだよ、カス!」

 

 不良っぽい生徒とメガネをかけた委員長キャラの生徒が何やら言い争っている。

 入った途端にこれだよ。さすが雄英に受かった人たちだ、キャラが濃いねー。

 

「ハッ!」

 

 やばい。メガネの方と目が合った。

 うわわわああ、なんか気持ち悪い早歩きみたいな動きでこっちに来てる。

 

「やあ、おはよう! 俺は飯田(いいだ)天哉(てんや)だ。よろしく! ……そういえば、実技試験の時に君を見た気がするな。電気を使った華麗な動きだったね!」

「ああ、はい、たぶん私です、どうも。えっと、私は古明地さとりです。以後お見知りおきを」

 

 すごいカクカクした動きで変だけど、まあ悪い人では無いみたい。

 

「ん? 君は……! やあ、俺は飯田てn……」

「聞いてたよ! あ…っと僕、緑谷(みどりや)。よろしく飯田君、それに古明地さんもよろしく」

「よろしくお願いします、緑谷君」

 

 お、後ろからきていたのはあの時の男の子だったか。ふむふむ、緑谷君ね。気が弱そうだけど、素直でいい子そうだ。オールマイトみたいな超パワーだったし、仲よくしよう。そうしよう。

 

「緑谷君…… 君は、あの実技試験の構造(・・)に気付いていたのだな。俺は気付けなかった……!! 君を見誤っていたよ!! 悔しいが君の方が上手だったようだ!」

 

(気付いてなかったよ!?)

 

 サードアイで覗いてみたけど、緑谷君気付いて無いみたいだよ、飯田君?

 まあ、私も全然気づいてなかったしね。アッハッハッハ。

 

 ん? 何かすごい殺気が…… さっき飯田君と言い合ってた不良君か? ちょっと読んでみようかな。

 

 ……ふーん、あの不良君と緑谷君は一緒の中学だったのか。

 んで、不良君はその中学で史上初めての雄英進学者になりたかったのに、緑谷君も合格しちゃったもんだから憤っている、と。

 

 なんともまあ器が小さい男だ。

 というか、緑谷君をイジメてたっぽい?

 

 ……あんまり深入りするのは()そう。他人の心を覗きすぎるのはよくない。

 

「あ! そのモサモサ頭は!! 地味目めの!!」

 

 今度はショートヘアの女の子が入ってきた。“ふわふわ”とか“ぽわぽわ”とか、そういった擬音語が似合いそうな子だ。カワイイ。

 

 緑谷君と知り合いなのかな。

 あらー、緑谷君ったら照れちゃってる。初々しいねぇ。

 

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 うわぁ、なんかいる……

 今度は寝袋に入った変なオジサンが教室に来た。通報しようかなぁ。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね。 担任の相澤(あいざわ)消太(しょうた)だ。よろしくね」

 

 えぇ、担任なの……

 

「早速だが体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 先生が寝袋からモゾモゾと取り出したのは体操服。今日って入学式とかガイダンスとかじゃないんですか?

 

 

 皆あんまり状況が理解できていないようだが、“さっさとしろよ”という先生からの御触れにより取りあえず言う通り着替えることにした。女子は教室で、男子は廊下で着替えだ。

 

「先生はどういうつもりなんでしょうか」

「良く分からないけど、言う通りにするしかないんじゃないかしら。あ、私は蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)。梅雨ちゃんと呼んで」

「私は古明地さとりです。よろしく、蛙吹さん」

 

 この子もなかなかカワイイな。

 

 というか、基本的に1-Aの女子ってカワイイ子しかいなくない? もちろん、私も含む。……客観的事実に基づいており、社会通念上相当として是認できる事実です。異論を言うやつは漏れなくトラウマでボコボコにしてやる。

 

 

 

 ところ変わってグラウンド。春のぽかぽか陽気が気持ちいい。

 

「個性把握…テストォ!?」

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出る時間ないよ。雄英は『自由』な校風が売り文句。そしてそれは『先生側』もまた然り」

 

 だそうだ。教室の言動からも分かるけど、この先生はとことん合理主義なのね。

 

 どうやら個性を使った体力測定をするようだ。あの不良君、爆豪(ばくごう)君が個性を使って投げていたがソフトボール投げで700メートルもの記録を出していた。すごいな、あの個性。爆発起こせるとか目立っていい感じだなー。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分にしよう」

 

「はあ?! んだよそれ?!」

「入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても理不尽すぎる!!」

 

「今日の日本は理不尽にまみれている。理不尽を覆してこそヒーローだ。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。Plus(プルス) Ultra(ウルトラ) さ。全力で乗り越えて来い」

 

 まじですか…… この先生本気か? にわかには信じられないな。サードアイで視てみるか。

 

 ……本気だ。最下位除籍っていうよりむしろ見込みなしと判断した場合には問答無用で除籍するつもりだ、この先生。逆に考えれば、見込みありならば誰も除籍にはされないということでもあるが。

 

 何はともあれ全力でやらねば。

 

 くそう…… 今日は何も個性を読み取ってきてないから素の体力で勝負しなくちゃいけないのか。まあ、今世の身体ってばかなり運動能力良いし、個性なしでも大丈夫そうだけど、一か八か念には念を入れよう。

 

 そのためには緑谷君に手伝ってもらわなくては。

 何だか緑谷君、すごい緊張した面持ちだ。あんな凄い個性が使えるんだから何の心配もないだろうに。

 

「緑谷君。私の個性は一人では100%を出せないので、ちょっと協力してくれませんか?」

「え、うん……?」

「緑谷君は爆豪君と昔からの知り合いのようだけれど、爆豪君の個性ってあなたの印象にすごく残ってる?」

 

 教室で視た(・・)感じ、緑谷君と爆豪君は昔からの知り合い。加えて、爆豪君は緑谷君をイジメていたみたい。なら、『想起』できるくらい爆豪君の個性が印象に残っているかもしれない。

 

「え、まあ、うん。結構印象に残っているよ。かっちゃんとは幼馴染なんだ」

「そう、それはよかったです。すいませんが彼の個性を心に強く思い浮かべてもらえませんか?」

「うん、いいよ」

 

 やっぱり緑谷君は見た目通り、素直でいい子だ。

 

「それじゃあ、すみません。読み取らせてもらいます」

 

 よしよし、鮮明な記憶で想起できそうだ。ん? これは…… いくつかイジメられている情景が視れる。やっぱりイジメられていたか。いやなこと思い出させてちょっと悪いことしたな…… 機会があったら埋め合わせしよう。

 

 ……読み取り完了。

 

「終わりました。ありがとう、緑谷君」

「あれ、何かしたの? 気が付かなかった」

 

 よし、これで爆発君の個性が使えるようになった。自滅の危険性は……っと。

 うーん、ちょっと反動が強そうな個性だなぁ。一応、私も鍛えてるし、まあ大丈夫かな。……腕折れたりしないよね?

 

 何はともあれ、除籍にならないように頑張りますか。




2017/04/06 緑谷出久から爆豪勝己の個性を読み取った際の描写を少し変更し、反動を少し危惧する描写を追加。
2017/04/08 前書きに前回のあらすじを追加。制服を着ている描写の追加。
2017/08/29 軽微な修正

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