個性:心を読む程度の能力   作:波土よるり

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[注意]
今回は一人称ではなく、三人称(厳密には三人称一元視点)です。
この方がさとりんの恐ろしs… ゲフンゲフン さとりさんの可愛さが伝わると思ったからです。

[前回のあらすじ]
USJでヒーロー基礎学。
しかし、ヴィランが現れてさとり達はワープの個性で散り散りにされてしまう。




No.11 雪崩エリア(☆)

 視界が明け、黒い霧から放られると、さとりは辺り一面真っ白な場所にいた。足元は雪で覆われ、少し先には天井近くまで続く急な斜面が見える。

 

 USJは様々な災害を想定した訓練施設。つまるところ、ここは『雪崩(なだれ)』のエリアなのだろう。

 ただ、足元の雪はさほど積もっているわけではなく、歩くのにも支障はないので、今日のヒーロー基礎学では雪崩エリアを使う予定は無かったのかもしれない。

 

「うぅ…… 寒いですね、ここは……

 みんなを()()りにするなんて言ってましたが、ここに来たのは私だけみたいですね… 寂しい限りです」

 

「随分と余裕じゃないか、お嬢ちゃん?」

 

 雪崩エリアに来たのはさとりだけだが、ヴィランも同じというわけにはいかないようだ。さとりに向かうように十人前後のヴィランが歩いてくる。

 

「内心は結構焦ってるかもしれないですよ? 私って表情に出にくいですから」

 

 あっけらかんと答えると、リーダー格だと思われる男はニタリと気持ち悪い笑みをさとりに向ける。

 

「そうかい。まあ取りあえずは…… 死んでもらおうか。

 野郎ども、相手はお子様とは言え雄英生だ! 油断すんなよ! さあ、派手にぶっ殺せ!」

 

「「おお!」」

 

 リーダー格の男が大きな声を上げ味方のヴィランを鼓舞。

 斧を持った男や手にナックルをはめた者、個性を使って生み出した剣を携える者、様々なヴィランがさとりに殺到する。

 

 ここでふと、さとりは気が付いた。

 

 リーダー格の男以外のヴィランは各々その手に得物を持っている。それはつまり攻撃範囲は異なれど、さとりが得意とする近接戦闘の者ばかり。

 

 黒い霧の男はさとりたち生徒を(なぶ)り殺すと言っていた。

 だとするならば、さとりの苦手な範囲攻撃を得意とするヴィランがここに配置されていてもおかしくない。むしろ道理だろう。

 

「ヴィランにかなりの情報が洩れているのかと心配しましたが、意外とそうでもないのかもしれないですね……

 まあ、なんにせよ――」

 

「何ぶつぶつといってやがる! 死ねぇ!!」

 

 ヴィランはさとりの身長ほどもある大きな斧を振り下ろす。

 

 肉を断ち切り、骨をも砕き、その何とも言えない感覚が()を伝わる。

 

 

 ――そうなるはずだった。

 

 しかし、斧の刃は地面の雪にクシャリと刺さるだけ。

 

「な?!」

 

 ヴィランは驚きを隠せない。

 斧というと、鈍重な武器というイメージを持つ者もいる。確かにそれは多くの場合正しい。しかし、男の繰り出した攻撃は矢のように速かった。

 

 なぜだ、なぜ避けられた?

 なぜ(かす)りもしない?

 

 ありえない。高校生ごときが避けるなど、それこそ攻撃の前から避け始めねば(・・・・・・・・・・・・)無理だ。

 男はそんな風に言いたげだ。

 

「――想起『(てのひら)の衝撃波』」

 

 男の攻撃を避けると同時に相手の(ふところ)に潜り込み、鳩尾(みぞおち)掌底(しょうてい)打ちを放つ。想起した個性も相まって男への衝撃は相当なもの。

 

 衝撃で男の足は無理やり地面から引きはがされ、男は(きり)もみしながら後方へ吹き飛ばされた。

 (はた)から見ても男の意識を刈り取るには十分すぎる威力だ。

 

「ふむ、朝のマスコミ騒動でたくさん読み取っておいて正解でした。私好みの良い個性です。

 あれ……? 怖気(おじけ)ついちゃったんですか?」

 

 さとりが他のヴィランとの戦闘に移ろうとするが、先ほどの場面を見たヴィランたちは吹き飛ばされた男の方を見て唖然(あぜん)としていた。

 

「弱っちいですねぇ…… 個性使わないんですか?

 

 ――ああ、あなた達のほとんどは個性が増強系なんですね。何ともバランスの悪いパーティですね、嘆かわしい」

 

「ぐっ、言わせておけば…… みんな、一斉にかかれ!」

「お、おう!」

 

 問いかけてヴィランたちの心を読んでみれば、増強系の個性ばかり。拍子抜けだとヴィランを(あお)る。

 

 先ほどの一幕を見て少数で戦うのではダメだと判断し、一斉に多数で仕掛けるようだ。多勢に無勢、なるほど理にかなっている。

 

 しかし、

 

「馬鹿正直に来るとはアホな人たちですね」

 

 次々とくるヴィランの攻撃を余裕をもって回避。そして、先ほどの男のように急所を狙って衝撃波を伴った掌底打ちを放つ。

 

 一人、また一人。

 ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 

 さとりはダメージを負うこと無く、フィルムのコマ落としをした映像のように十人余りのヴィランを早々(はやばや)と倒していく。

 

「さて、あなたで最後です。おやすみなさい、よい夢を」

 

「グァッ!!」

 

 襲ってきたヴィランをすべて倒し、さとりの周りは死屍累々(ししるいるい)といった有様。もっとも、手加減をしているので死んでいるわけではないが。

 

「……ふぅ、数が多いと大変ですね」

 

「ククッ…… 何だいお嬢ちゃん、もう疲れちまったのか?」

 

 さとりがため息をつくと、男が応じる。

 

「まさか、まだ中ボスが残ってますからね。まだまだ頑張れますよ」

 

「そう来なくっちゃなぁ!」

 

 そう、まだ一人ヴィランが残っている。

 雪崩エリアに来て最初にさとりに話しかけたリーダー格のヴィラン、彼が残っている。

 

 先ほどからこの男の事も気にしていたが、曲がりなりにも仲間なのに、仲間がやられても腕組みして見ているだけ。

 サードアイを向けて覗いてみると、どうやらこの男はさとりと一対一で戦いたいらしい。

 

「私と一対一で戦いたいようですが、お仲間と一緒に攻撃したほうが良かったんじゃないですか?」

 

 男がさとりと戦いたいことは心を読んで分かったが、その理由までは読めなかったので質問してみる。

 

「ククク…… 察しが良くてたすかるねぇ。そうだ、お嬢ちゃんと戦いたい。

 俺はなぁ、今日ここに来たのは楽しむためなんだ。日本屈指の将来有望なガキと戦えるし、下手すりゃ雄英のプロヒーローとも戦える。

 

 で、お嬢ちゃんは俺の手下をいとも簡単に倒した。お嬢ちゃんは強い。そして、強いやつとは一対一でやりあいたい性分でね。あぁ、楽しみで仕方ねぇなぁ」

 

「そうですか。相澤先生の言葉を借りるとすれば、不合理な人ですね」

 

「クク… 不合理で結構! 人生は楽しむためにあるんだぜ!」

 

 男が屈み、()つん()いになったかと思うと、服から見える肌や腕がどんどんと黒い毛におおわれていく。さらに、一癖ある顔がネコのような獣の顔になっていく。

 

「変身する能力ですか。黒ネコでしょうか?」

「クク… そんな可愛いもんじゃないぜ。俺の個性は黒ヒョウに変身して身体機能を大幅に上げるものだ。舐めてかかるとすぐ死んじまうぜ?」

 

 黒ヒョウに変身した男はそのギラついた目でさとりを捉えると、先ほど倒したヴィランとは比べ物にならないほどの速さで肉薄(にくはく)し、一瞬で距離を詰める。

 

(まずっ……!)

 

 男が攻撃してくることは読んでいた(・・・・・)が、この速さは予想外だった。

 さとりの顔めがけて男の手から伸びる鋭利な爪が迫るが、間一髪上体を逸らし回避。すぐさま後方へ距離をとる。

 

「相変わらず良い反応するねぇ、お嬢ちゃん。これじゃあ致命傷は難しいなぁ。

 まあ、もっとも――」

 

 さとりの頬を、涙のように血がつたう。

 攻撃を回避したように思えたが、左頬を爪がうっすらと裂いていた。

 

「消耗は避けられなさそうだな、お嬢ちゃん?」

 

「まったく、レディに対してなんてことするんですか。

 ……はあ、扱いが難しそうだったので止めておきたかったのですが、まあ良いでしょう。

 

 ――想起『雪の竜』」

 

 さとりが勢いよく足元の雪を踏みつけると、ごうと地響き、雪の中から()えるように純白の竜の首が現れた。

 

「なっ…… こいつは予想外だ…」

 

「さあ、ドラゴンさん。あの手癖の悪いネコさんを捕まえてください」

『了解だ。……なあ、ご主人。殺しても構わないか? その方が早いし良いだろう?』

 

 地面の雪から生える首を傾け、そのまま食べてしまいそうな距離までさとりに顔を近づける。

 

 そんな竜をさとりはジト目で見つめ、やれやれと思わずため息を漏らす。

 やはりこの個性(・・・・)は扱いが面倒なようだ。個性で発現する竜に自我があるし、あまつさえ人をすぐ殺そうとする。

 

「……生きたまま、なるべく無傷で捕まえてください。

 明日の朝刊が『雄英生、個性を使い殺人』とか嫌ですよ私」

 

『チッ、しょうがねぇな。ご主人がそういうなら殺さないでおくぜ』

 

「お願いしましたよ」

 

 会話を終えると、竜はヴィランをその双眸(そうぼう)で見つめ、恐ろしいほどのスピードで喰らわんと襲い掛かる。その速さは先ほどの男の攻撃よりも(いく)ばくか速い。

 

「チィ…!」

 

 しかし、流石(さすが)というべきだろうか。

 ヴィランは本能的にその攻撃を紙一重で(かわ)す。

 

「残念だったな! まだ対処できる範囲だぜ!」

 

 それは半ば負け惜しみのようなものだった。

 心を読んでみれば、焦燥感で心が埋め尽くされている。

 

 ギリギリだ。

 そう何度も躱せない。

 何か打開策はないか。

 

 ヴィランの動揺が伝わってくる。

 

 “動揺”はさとりの大好物だ。自然と()みがこぼれてしまう。

 

「ふふっ、何か打開策を考えているようですが、無意味ですよ?

 ドラゴンさん、予定変更です。骨の二,三本は構いません、とっとと捕まえてください」

 

『了解、ご主人』

 

 さとりが竜に指示を出す。

 

 すると、再び地面がごうと響き、雪の中から竜の頭が生えてくる。

 

 一体だけではない。

 一体、また一体と地響きとともに現れる。

 

 先ほどまでの竜と合わせてその数は五体。

 

 

 ヴィランは思った。

 こんなものどうすればいい。どうしようもないだろう?

 

 ――ああ、負けた。

 

 

 

***

 

 

 

「さあ、黒ネコのヴィランさん。情報の提供をお願いしますよ?」

 

 五体の竜が殺到し、ヴィランは直ぐに捕まった。

 

 現在は、胸のあたりまで雪で覆われ、身動きが全く取れない。

 それもそのはずだ、竜が雪を操ってヴィランをガチガチに拘束しているのだ。

 

「ああ、もう何でもいいよ…… 完敗だ。俺が知っている情報なら包み隠さず教えよう」

 

「では、端的に聞きます。脳無(のうむ)はどこにいますか?」

 

「!! ……あいつを知ってるとは流石だね、お嬢ちゃん。あの気持ち悪いやつは中央の広場にいるって聞いてる。

 悪いことは言わない。あいつとは関わらない方がいい。詳しくは聞いてないが、あいつには得体のしれない何かがある」

 

 ヴィランは真剣な声色で話す。

 それほどまでに脳無は恐ろしいのだろう。

 

 しかし、オールマイトを殺してしまうかもしれない存在だ。見過ごすわけにはいかない。

 自分が敵うとは思わないが、なにか有用な情報は得たい。

 

 となればこの目で確かめる必要がある。

 

 それに―― 

 

「心配ご無用です。私は簡単に死にませんから」

 

「はぁ……

 あれ……? お嬢ちゃん、俺が顔につけた傷(・・・・・・)は…?」

 

 ヴィランはおかしなことに気が付いた。

 先ほどの戦闘中にヴィランがさとりの左頬につけた傷跡がないのだ。

 

 たしかに、傷は深くなかったし血は止まっていてもおかしくない。しかし、これはどういうことだろう。傷跡はなく、元の雪のように綺麗な肌があるだけ。

 

「ふふ、なぜでしょうね」

 

 そんな風に心底不思議そうな男を見て、さとりは少し得意げに微笑(ほほえ)んだ。





【挿絵表示】

さとりんの制服姿もみたいというコメントもあったので、描いてみました。

梅雨ちゃんがいるのは、私が好きだからです。
私は貧乳派ですが、巨乳であることを差し引いても梅雨ちゃん大好き。(結婚しよ)


[補足]
さとりんが使った個性『雪の竜』は雪が相当量ないと使えない超限定的な個性、という設定です。

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