個性:心を読む程度の能力   作:波土よるり

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(*・・)ノ ⌒{10話}トウカッ


[前回のあらすじ]
 雄英高校の高度なセキュリティシステムを突破してなぜか雄英高校にマスコミが侵入。さとりさんはその騒動に乗じて、個性を読み取る。
 そして、午後。ヒーロー基礎学が始まる。




No.10 未知との遭遇

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!!」

 

 いつものように飯田君が元気よく指揮を執る。紆余曲折(うよきょくせつ)を経て飯田君が委員長になりましたが、存外ピッタリな役職の様です。

 

 まあ、バスは飯田君が想像していたような作りではなくて、長椅子が対面になるような形でしたがね。どんとまいんど、飯田君。

 

「私、思ったことを何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

 

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 ふと、蛙吹さんが緑谷君に声をかける。

 

「あなたの『個性』、オールマイトに似てる」

 

「!!! そそそそそうかな!? いや、でも僕はそのー……」

 

 おっと、これは予想だにしない爆弾発言です。緑谷君もあまりの事に、寝ているときにいきなり氷水を掛けられたかの如く驚いています。

 

 オールマイトから緑谷君に『ワン・フォー・オール』が譲渡されたことは、公にはできない秘密中の秘密。私はオールマイトの心を読んで既に知っていますが、読心を使わず核心を突くとは、蛙吹さんなかなかやりますね。

 

 今、私に与えられた選択肢は、

 

 ①緑谷君をそれとなく助ける。

 ②知らないふりして、行く末を見守る。

 ③あたふたする。

 

 

 ……よし、ここは蛙吹さんに加勢しましょう。

 

「そういえば、そうですね。蛙吹さんの言う通りです。オールマイトと同じ個性(・・・・)と言われてもあまり違和感ないですね」

 

「ええっ!? そそそそそそそそんなこと無いと思うけどなー……」

 

 目に見えて動揺してるね、緑谷君。

 私の個性である『心を読む程度の能力』の影響か、他人の動揺を見るのが楽しくてついついイジメたくなってしまう。

 

 いやー、私の個性のせいで申し訳ない緑谷君。

 

 ……まあ、イジメるのはこれくらいにして助け船を出しましょうか。

 

「ああ、でも。オールマイトは怪我しませんから、やっぱり同じ系統の個性という域を出ませんね」

 

「そうそう、古明地の言う通り似て非なるアレだぜ、梅雨ちゃん。

 しっかし、増強型のシンプルな個性はいい、派手で! 俺の『硬化』は対人じゃ(つえ)えけど、如何せん地味なんだよなー」

 

 お、切島君も援護してくれましたね。ついでに話題も変えてくれました。グッジョブです、切島君。

 

「そうですか? 私はかっこよくて好きですよ?」

 

「!? え、今古明地さんが切島のこと好きって言った……? 切島てめぇー、羨ましすぎるぞ!! 今晩枕を高くして眠れるとは思うなよォォオオオ!!」

 

「……峰田君、私は切島君の個性についての感想を言ったんですよ……?」

 

 まったく、峰田君は相変わらずですね……

 

 彼からエロ思考を取ったら何が残るんでしょうねぇ? ……頭についてるブドウくらいかな?

 

「もう着くぞ! いい加減にしとけよ……」

 

「「ハイ!!」」

 

 相澤先生の慈悲深き(怒気のきいた)ありがたいお言葉に、それに震えて(元気よく)応えるクラスメイト達。うん、今日も1年A組は平和です。

 

 

 

***

 

 

 

「すっげー!! USJかよ!!?」

 

 本当にすごい、圧巻です。

 私はUSJに行ったことはないが、テレビなんかで見た事はある。ヒーローになって、稼げたら施設の皆と一緒に一度は行ってみたいものです。

 

 それはそうと、ここの敷地は何坪あるんでしょうね。やはり雄英高校の資金力は不思議ちゃんだ。

 

「あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も…… ウソ(U)災害(S)事故(J)ルーム!!」

 

 ええ…… 完全にUSJじゃないですかヤダー。

 その、会社法とか、商標権とかいろいろ大丈夫ですか……?

 

 まあ、問題ないとは思うけど。

 

 クラスの皆も《USJだった!!!》と私同様のツッコミをしていることでしょう。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

「わーー! 私好きなの、13号!!」

 

 相変わらず緑谷君のヒーローオタクっぷりは凄いですね。自分の個性はまだまだ使いこなせてないけど、その知識量は確かなものです。

 

 

 ……ん?

 

 何やら相澤先生と13号が真剣な面持(おもも)ちで話している。小声でここからだとあまり聞こえないなぁ。

 

 何かトラブルでも発生したのだろうか。そういえば、USJに来る前に相澤先生が、オールマイトも今日のヒーロー基礎学に来るようなことを言っていたけど、オールマイトの姿が見えない。

 

 んー、まあ覗いて(・・・)しまいますか。

 

 あんまり覗くのは良くないのだけれども、今日のヒーロー基礎学ではトップの成績を(おさ)めると、私はひそかな野望を抱いているのです。

 戦いにおいて、情報は基本。情報収集バンザイ。

 

《まぁ、オールマイトらしいですが…》

 

《通勤時に制限ギリギリまで活動して授業に出られないとか、不合理の極みだな。

 まったく…… まあ、念のための警戒態勢……》

 

 あー…… 大体事情は把握できた。

 

 通勤時に立て続けに事件が起こって、オールマイトは逐一事件を解決して回った。で、筋肉ムキムキを維持できる限界ギリギリまで活動した、と。

 

 13号も心の中で言ってますが、オールマイトらしいですね。

 

 んで、さらに相澤先生によると、オールマイトを含め、先生3人体制で授業する予定だったのは今朝のマスコミ騒動を受けてのことのよう。

 確かに、雄英の高度のセキュリティシステムを突破されたとあっては警戒せざるを得ない。

 

 おっといけない。授業を始めるようです。

 

「さて、皆さん。ご存知だと思いますが、私の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その個性でどんな災害からでも人を救いあげるんですよね」

 

「ええ… しかし、簡単に人を殺せる力でもあります。皆さんの中にもそういう個性を持つ人もいるでしょう。一歩間違えれば人を殺してしまう、そのことを忘れないでください。

 

 この授業では、心機一転! 体力テストや対人訓練とは変わって、人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう!

 皆さんの個性は人を助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

 13号、紳士的でオールマイトとはまた違ったカッコよさがありますね。

 

 そういえば、13号は男性か女性か知りませんね…… 今度聞いてみましょうか、気になりますし。拒むようでしたら、最悪13号のコスチュームを剥ぎましょうか。

 

 

 

 

 ……!!

 

 なんだアレ……?

 

 USJの中心にある広場に黒い霧のようなものが現れたと思ったら、霧の中からドス黒い感情が伝わってきた。それだけで分かる、アレは良くないものだ。

 

 少しすると、ずるずると一人、また一人と黒い霧の中から人が出てきた。

 

「先生!」

 

「ああ、分かってる! ひと塊になって動くな!! 13号、生徒を守れ!」

 

 私が声をかけるまでもなく、相澤先生はあれが良くないもの、もっと言えばヴィランが来たとわかったようだ。

 

「何だアリャ、また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」

 

「切島君、違いますアレは…… ヴィランです……!」

 

「ヴィラン?! ヒーローの学校に入り込んでくるとかバカすぎだろ!?」

 

 侵入者用のセンサーは反応せず、ヴィランの中に何らかの方法でセンサーを無力化する個性がいる。校舎と離れた隔離空間、そこに少人数が入る時間割。

 何らかの目的があって用意周到に用意された奇襲。バカだが、アホじゃない。

 

 轟君がヴィランを冷静に分析する。

 

 ここからだと距離があって読めない(・・・・)から詳しくは分からないけど、私も轟君の意見に賛成だ。

 日本屈指のヒーロー高校に攻め入るのだ、相当の用意をしているはず。特に先生、つまりはプロヒーローに対する用意もしているだろう。

 

「13号、避難開始しろ! あと、学校に電話も試せ! 上鳴も個性使って連絡試せ!」

 

「ッス!」

 

 相澤先生はゴーグルをつけてすでに臨戦態勢。

 

「先生は!? 一人で戦うんですか!?

 イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」

 

 緑谷君が悲痛な声を上げる。

 そう思うのも無理はない。今なお黒い霧からぞろぞろとヴィランが出てきているのだ。あの数を1人で相手するなんて、プロヒーローとは言え正気の沙汰とは思えない。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ!」

 

 相澤先生は緑谷君の方を一瞥(いちべつ)すると、瞬く間にヴィランへと駆け降りる。

 するとどうだろう、相澤先生は体力テストのときに爆豪君を捕縛するのに使った、特製の捕縛武器を駆使して次々とヴィランを倒していくではないか。

 

 さすがプロヒーローだ。自分の強みと弱みを把握して弱点を補う(すべ)をちゃんと持っている。

 

「皆さん、ここは先輩に任せて早く避難を!」

 

 さすがに長期戦は分からないが、この分なら応援を呼ぶまで相澤先生がヴィランを食い止めてくれそうだ。13号の指示に従ってここから離れよう。

 

「させませんよ」

 

 避難しようとするや否や目の前に現れたのは黒い霧のヴィラン。十中八九ここに多くのヴィランを運んできたのは彼だろう。

 

「はじめまして、我々はヴィラン連合。僭越(せんえつ)ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、

 平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして…

 

 彼は何と言った? オールマイトを殺す?

 バカバカしい。できるはずがない。最強のヒーローを殺せるはずがないだろう?

 

 ――そう否定したかった。

 

 でも、否定できない。

 

 オールマイトは確かに強い。しかし、それは周知の事実。用意周到に奇襲してきたヴィランがそのことを知らないわけがない。

 だとするならば、何らかのオールマイトの対策を持っているはずだ。

 

 それに…… 私は知っている。オールマイトが弱体化していることを。

 

 もし、オールマイトが弱体化していることがヴィランに漏れていて、その隙をついてオールマイトを殺しに来たとしたら…… 本当にオールマイトが殺されるかもしれない。

 

 なら、それを阻止しなければ。差し当たっては情報だ。

 

「あら、用意周到なヴィランかと思ったら、そうでもないのですか? いくら数が多いとはいえ、あなた方がオールマイトを殺せるとは思いませんが?」

 

「おや? こんな状況で随分と落ち着いているお嬢さんだ。

 もっともな疑問ですが、我々はオールマイトを殺せる力があります。もちろん、詳細は言えませんがね」

 

 幸か不幸か、顔にあまり表情が出ないおかげで平静と、まるで知り合いと世間話をするように問いかけることが出来た。黒い霧のヴィランもほんの少し驚いている様子。

 

 黒い霧のヴィランは詳細は言えないと言っているが、心の中でバッチリと言っていることには気づいていない。

 そして私に読まれている(・・・・・・)ことも。

 

 これは…… なんだ?

 

 脳無(のうむ)

 

 脳無の『ショック吸収』でオールマイトの打撃に耐え、『超再生』で負傷した箇所を治す?

 さらにはオールマイトに匹敵するほどの腕力?

 

 良く分からないが、どうやらこの脳無というヴィランがオールマイトを殺すための重要人物(キーパーソン)らしい。

 

 原則一人の人間に一つの個性だから、この脳無とやらが個性を複数所持していることは有り得ないし、一つの個性でここまで様々なことをできるとは思いにくい。

 となると、私みたいに誰かの個性をコピーして使うことが出来るのかな。

 

「死ね、クソが!!」

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったのか!?」

 

 思考にふけっていると爆豪君と切島君が飛び出して黒い霧のヴィランに殴り掛かった。と同時に黒い霧のヴィランとの会話も中断する。

 もう少し情報を得たかったが、仕方がない。

 

 

「危ない危ない…… 生徒とはいえど優秀な金の卵たちですからね…」

 

 ん? 危ない?

 

 ああ、なるほど、モヤモヤした霧で身体が構成されていて、物理攻撃無効かと思ったけど違うらしい。黒い霧に覆い隠された実体部分には物理攻撃も通るのか。

 

「さて、では残念ながらあなた方には死んで頂きますので、ここでお別れです。散り散りになって頂き、嬲り殺されてもらいます」

 

 お遊びは終わりということだろうか、黒い霧のヴィランから発せられる威圧感がより一層強く、重くなった。

 瞬間、ヴィランの黒いモヤモヤが瞬く間に広がり、皆を覆いつくす。

 

 視界が覆いつくされる前に私が最後に見たものは、黒い霧のヴィランがニタリと笑う姿だった。




前回の更新から約2か月。
ニーアとペルソナ5とドラクエ8(3ds)を積んでおり、マリオの新作が今日発売ですが、私は元気です。

次話はもうほとんどできてるから、1週間以内に更新できるな!(白目)

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