あたり一面の山、山、山。もうなんか山しかねぇな。
草木が生い茂っているためなのか都会の空気よりもおいしい。これなら病気の人も直るんじゃないかな。
車を降り、やや空けた場所に目を移すと、他数台のバスを見つけた。なんか嫌な予感がするな。
ワンボックスカーから雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚、夕紀先輩の順で降りる。
「おお、山!」
「そうね、森に来ているのだから当たり前じゃないのかしら」
相変わらず、由比ヶ浜は頭の悪そうな感想を述べていた。本当に総武高校に実力で受かったのだろうか、と若干だが気になる。
一方、夕紀先輩はいつの間にかに消えていた。あなたは幻の
ウォルトディズニーも言っていたからな、『好奇心はいつだって新しい道を教えてくれる』ってな。だから俺はその草むらへ好奇心で入ってみた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
草むらを抜けると、小さな川の小道に当たった。
所々聞こえる水の音が妙に聞き心地がいい。
「比企谷くん、どうしたの?こんなところに」
突然の声に俺は驚く。
「っ!夕紀先輩……」
声の方向を見ると、夕紀先輩がいた。いや、夕紀先輩を追ってここまで来ているのだから、ある意味というか普通にいて当然なのだが。
夕紀先輩は対岸の岸辺に座って、足を水に浸していた。その姿はとても優雅でなんていうのか俺はその姿に見とれていた
「で、比企谷くんもう一度聞くよ?どうして君はここに?」
有無を言わせぬ威圧感。俺が先ほどまで抱いていた甘い感情など消し飛ばすような声音。
その言葉に俺は少しの間、黙ってしまう。
心なしか川の流れる音が大きく聞こえる。風のざわめきや、鳥のさえずり、それらが俺の耳の中のなかへ入っていく。
この夕紀先輩の雰囲気は最初にあったときと類似している。まるで敵を全力で潰すがごとく、まっすぐと俺に視線を向け、俺の一挙一動を逃さず見ている、そんな感じがする。
そんな状態がしばらく続くと、不意に夕紀先輩の雰囲気がふんわりと和らぐ。
「なんてね?私は君がここに来た理由には興味はないよ。君は君が思ったことをすればいい。それは誰にもとめられる権利なんてないんだから。だから私は君がここに来た理由には興味がない」
やんわりと微笑む夕紀先輩。
「ほら、そろそろ戻らないとみんなが心配するよ。さあ戻った戻った」
俺を後ろに向かせると、夕紀先輩は俺の背中をとんっと押した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん?あれは……」
俺が戻ると、俺たちが乗ってきたワンボックスカーのほかにもう一台ワンボックスカーが止まっていた。その横には、ここ最近よく見るようになった面子、葉山、戸部、三浦、海老名さんと葉山グループがいた。あれ?童貞風見鶏の大岡はどこだ?
「ヒキタニくん、君もいたのか……」
「んだよ、俺は居ちゃわりぃのかよ」
「まあ、居ても居なくても変わらないのだから、迷惑ではないわね」
葉山に言ったはずの俺の皮肉は、どうやら氷の女王こと雪ノ下雪乃が答えていた。
「ん?そこにいるのは夕紀先輩か?」
葉山が指した方向を見ると、いつの間にか夕紀先輩が帰ってきていた。いや、いつ戻ってきたんですか?
「葉山くん」
「はい、葉山です。夕紀先輩お久しぶりですね、陽乃さんが卒業して以来ですかね」
「…………そうだね」
葉山のその言葉に顔をしかめる夕紀先輩、それとその会話を偶然聞いていた雪ノ下。
雪ノ下が顔をしかめるのはなんとなく分かるが、なぜ夕紀先輩もしかめるのか俺には分からない。
だが、ひとつだけ分かることはある。もっともなんとなくだが。
きっと夕紀先輩は過去に陽乃さんとなにかあったのだろう。
「ともあれ、夕紀先輩。林間学校の間よろしくお願いしますね」
葉山のなんともない発言にこれまた顔をしかめる。いや、しかめるというより葉山の言葉に苦笑いをしているようにも感じる。
「陽乃さんとなんかあったんすか?」
俺が突然声をかけたせいなのか、夕紀先輩が驚いたのか肩を少しビクつかせる。
「君か……比企谷くん」
夕紀先輩が後ろを向き、俺と所謂対面している状況だ。
「………そうだね、陽乃先輩とは色々あったんだよ」
そう言う夕紀先輩からはなんだか空虚なものを感じた。
「比企谷くん、どうやら小学生たちの前で自己紹介をするみたいだ、私が」
いや、言わなくてもいいです。あと紛らわしいので倒置法を使うのはやめてください。一瞬俺もするのかなとか思っちゃいましたから。
「じゃあ、行ってくるよ」
夕紀先輩はそれだけ言うと小学生の前に歩いていった。
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