夏とも言えず春ともいえないこの微妙な時期。世間的には初夏らしい。
由比ヶ浜の誕生日パーティから早くも一週間が過ぎ、奉仕部の部室の光景はいつもどおりになっていた。
「由比ヶ浜って姉っているのか?」
何気ない一言だった。その一言で、由比ヶ浜は目に見えるほど動揺し、雪ノ下にいたってはこっちになに言ってんだこいつと言わんばかりの目線を送ってくる。
「この前さ、部室の前の廊下でな、なんか由比ヶ浜夕紀って人と」
「それ私のお姉ちゃんだね」
俺の言葉に被せる由比ヶ浜。こいつわざとやってんじゃないよな。
「そうか」
「どうかしたの?」
由比ヶ浜は心配そうに声を掛けてくるが、べつにどうって事はない。
「いや、お前の姉ちゃんのわりには性格全く違うんだな」
素直な感想を出すと、由比ヶ浜は頭の上に?を浮かべている。
「そう?」
「少なくとも、お前じゃなくて雪ノ下よりの性格だな。ピンポイントで当てるなら陽乃さんってとこかな」
「それはどういう意味かしら」
どうやら雪ノ下よりの性格ってとこにお怒りらしい。実際のところ由比ヶ浜よりも雪ノ下の姉と言われても普通に信用できるからまたなんとも。
あ、でも胸のことを考えると、雪ノ下より由比ヶ浜かなー。
「失礼するよ」
唐突にここにいる三人以外の声がした。声音的には由比ヶ浜に一番近い、しかし由比ヶ浜よりも幾分か大人じみている声音だ。
間違いない、あの人だ、そう理解するまでにそんなに時間は要らなかった。
「依頼しにきたんだけど……いいかな?」
声の主の方向を向くと、昨日見たときと全く変わっていない由比ヶ浜姉がいた。
「お姉ちゃん!」
由比ヶ浜の声で由比ヶ浜姉は由比ヶ浜のほうを見る。
「結衣、今朝ぶりかな?」
慈愛に満ちた目で由比ヶ浜を撫でる。なんかすごい似合っている。
雪ノ下がさっきから全く喋っていないと思い、雪ノ下のほうを見ると固まっていた。いや固まっていたと言うよりは臨戦態勢に入っていたと言うほうが正しい。まぁ陽乃さんみたいな性格してるとこあるからな。
「君が雪乃ちゃんだね、妹がお世話になっています」
由比ヶ浜を撫で終わったのか、由比ヶ浜姉は雪ノ下のほうを向き、丁寧にお辞儀をした。
「え、ええ。こちらこそ」
雪ノ下は若干戸惑いつつも、由比ヶ浜姉にお辞儀を返す。
「比企谷君も先日振りかな?」
にこやかな顔でこちらに視線を移す由比ヶ浜姉。どうやら俺の
「………どうも」
俺の常時発動系個性の「ステルス」も由比ヶ浜姉には通じないらしい。何なら伐刀絶技も効かないまである。そういうとこはつくづく、陽乃さんっぽい。
「改めて自己紹介するよ、私は由比ヶ浜夕紀、総武高校の三年生。つまり君たちより年上、先輩だ。私を敬え、尊敬しろ、そして崇めよ!と、忘れるところだった、そこの結衣の姉でもあるのでよろしく」
「忘れるなんてひどいっ!」
由比ヶ浜姉………面倒なので夕紀先輩は、どうやら三年生らしい。………いや想像ついてたけどね、ただこの人、ワンチャンコスプレからの学校潜入とか平気でしそうだし、ほら陽乃さんと性格似てるから。ていうか、大学生でも普通に通るぐらい大人びている。その大人っぽさを少しばかし由比ヶ浜にあげることは出来なかったんでしょうか………
「雪ノ下雪乃です」
夕紀先輩の自己紹介に倣って雪ノ下も自己紹介をする。名前しかいってねぇけどな。
てか、俺もしたほうがいいのかしら?
「あ、比企谷君はいいよ」
俺が答えを見つける前に夕紀先輩が制止する。なんだ、やっぱ言わなくていいやつか、助かった。
「比企谷君のことは結衣から全部教えてもらっているから大丈夫だよ、八月八日生まれの比企谷八幡君」
「わー!わー!わー!」
由比ヶ浜があわてて止めようとするが、ときすでに遅し。夕紀先輩はすでに言った後だった。
「あの………そろそろ依頼のほうを」
「ん?あぁそうだったね。すっかり忘れていたよ」
それはダメだろ。仮にもあんたここに依頼しに来てんだから…内心、そんなことを思ったが多分この人は、ここに来るのが目的で、依頼なんて二の次だったじゃないのだろうか、そう考えてしまう。
「私も気になるよ、お姉ちゃんの依頼」
由比ヶ浜も気になっているのか、夕紀先輩を急かす。
「じゃあ、改めて言うよ。私の依頼それは」
次回、由比ヶ浜姉の依頼編!乞うご期待