ネメシスエイト≫cross≪   作:星々

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03:Rebellion〜反逆の戦士たち〜

連邦軍の航空戦艦がユーラシア大陸北東部を巡航していた。

その艦は独立部隊スペシャルズの母艦であり、その特性上単独行動がある程度容認されている。

レジスタンス等の危険分子対策のために設立されたこの部隊を率いるのは、エリック・ノヴァ中将。

将官でありながら前線での指揮を望み、また多くの人間との馴れ合いを好いてはいない変わり者だ。

 

「中将、こちらが未確認IADのデータ解析結果です」

 

ブリーフィングルームの大モニターに表示されたのは、涼波・ハルト大佐が回収したネメシスクロスのデータ解析結果だった。

しかしその大部分は解析不能の文字が占めていた。

 

「ネメシスタイプか……素体は全て返還されたはずだ、それが何故…?」

「………まさか…ね」

 

エリックの傍らに立つ、スペシャルズ副司令、E2が声をもらした。

まだ20代半ばのような見た目をしているが、それはかつてネメシス関連の研究で自らを被験体として実験を行った結果に得た紛い物の身体だ。

彼女は状況予測に優れ、今回の場合も、既にひとつの可能性を見出していた。

 

「人工………」

「なるほどな。しかしあの膨大な粒子量を人工的に実現できるとは考えにくいが…」

 

素体、リリスあってこそのネメシスタイプ、リリスあってこその大出力。

それを人の手によって実現したとなれば、一種のオーバーテクノロジーと言っても過言ではない。

この機体を誰が作ったのか、どう作ったのか、全くわからない。

それが恐怖感を漂わせていた。

 

「あの粒子兵器の解析、至急お願いできるかしら」

「E2、何か思い当たるものがあるのか?」

「いえ、完全には……ただ、ひとつの可能性として、調べておきたいだけよ」

 

エリックは直ちに解析班へ、粒子兵器(マント)の解析を始めるよう指示した。

E2の言うひとつの可能性、そのヒントがあのマントに隠されているというその根拠はどこにもない。

ただ、彼女の勘がそう言っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームの外、扉の横にもたれかかって内容を聞いていた男がいた。

涼波・ハルト大佐、実際にネメシスクロスと対峙した男だ。

 

「にわかには信じがたい話だが…」

 

ハルトは手のひらに乗せたメモリスティックを見つめ、それを強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マザークロス

ローゼフ率いるレジスタンス組織"NEXA"の拠点であり、IAD隊の空母である。

ヴェーガス級から派生したアリア級の航空巡洋艦だ。

その外見は大航海時代に大海原を旅した海賊船のようであり、その独特な形状はもはやアリア級に分類されるかも怪しいほどだった。

しかしこの形状は防御面での無駄が少なく、強度に優れるという特徴がある。

結果正面からの砲撃戦ならば並みの艦隊ならば突破が可能だ。

そして艦体上部には、主に戦闘態勢時に展開される粒子帆(イミュニック・セイル)発生器であるマストがあり、ちょうど粒子帆を展開した真後ろにブリッジがくる構造になっている。

粒子帆はネメシスタイプのナンバリング機の特徴である光のマントと同じ原理で、高密度の粒子を展開することでまるでそれが布のように見える現象だ。

ビーム遮断壁として機能するほか、空気中に放出された粒子を再度回収するレセプター、また出力を一点に集中させてエネルギー兵器として放つグランブルーキャノン機能も搭載と、正に攻防一体のシステムになっている。

消費エネルギーの関係で軍の航空戦艦には正式採用されなかったホーミングビームも搭載されており、その攻撃力はかつて単艦でゴースト抗戦を戦いきり、最新鋭艦隊を退けたオーバーテクノロジーの塊、巡洋艦ヴェーガスに匹敵するとも言われている。

 

 

 

 

 

「こいつがあんたらの搭乗機だ。名前はレイゼル。従来機の5倍のエネルギーゲインとそれを最大限に活かす大出力ブースター、そしてそれに耐え得るフレーム強度。どれを取っても高水準にまとまった機体だ」

 

そんなマザークロスのハンガーで、1人の中年の男がパイロットと思しき4人にそう説明していた。

彼はRE社のレイゼル開発計画技術顧問をしており、今は彼自身の希望でNEXAに参加している、シンジ・アンカーだ。

元連邦軍人で、軍を去った後は個人で工房を営んでいたがそれをRE社が買収し、シンジ自身も社員としてRE社に流れたという経歴を持つ。

彼のメカニックとしての技量は折り紙つきで、現にレイゼルのカタログスペックは量産機の域を超え、軍エースの特注機並まで高められていた。

 

「さすがは天下のRE社製IADか………いや、それとも元アポカリプス隊員だからなのかな?」

「昔の話だ。ネメシスタイプには何かと縁があるが、それも偶然だ」

「そういう意味では、アンタも選ばれてたのかもね、ネメシスタイプに」

「冗談を言え、ヤツが選ぶのは超越者(エクシーダー)だけだ」

 

シンジと会話をするのは、傭兵組織ブルースカイの女隊長、アリアナ・ウィザーだ。

少数精鋭のブルースカイを率いてきた彼女は、その隊員たちを死なせないために情報収集は徹底していた。

そのため、ただの傭兵とは違い、仕事を選ぶ能力に長けていた。

もちろん、機体を見る目にもだ。

 

「へぇ、じゃあ必然ってことね」

「いちいちいやらしい言い回しをする女だな」

「それはどうも。でも嫌味じゃないさ、この機体の出来を見てきちんと判断してる」

「そのくらい分かっている」

「流石ね」

「お前もな」

 

非常に淡々として流れた会話。

お互いがお互いの技量を測るような立ち回りだった。

アリアナの一歩後ろにいる残り3人のパイロットはあえてその会話に入ることはしなかったが、彼らもまたシンジの技量を推し量っていただろう。

 

「話していても仕方ない。最終調整をするからコックピットに着いてくれ」

「あいよ。いくよ、アッシュ、トロン、ウル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マザークロスのとある一室。

ローゼフのプライベートルームだ。

必要最低限の家具と壁に掛けられた1枚の写真に囲まれ、ローゼフはベッドに座り込んでいた。

 

「電気も付けないで、また1人で考え事?」

 

その部屋に入って来たのは、ローゼフが最も信頼を置く人物、アヤメだ。

アヤメはローゼフの隣に腰掛けた。

 

「私たちは走り出したの。私たちがね。だからもうローゼフだけの道じゃない…」

 

アヤメはふと壁に掛けてある写真に目を向けた。

まだ幼い頃のローゼフと、彼を抱きかかえる1人の女性が写っていた。

姉にしては歳が離れているし、母親にしては若いように見えた。

しかしアヤメはこの女性がローゼフの母親だということを知っていた。

そして彼女の運命も。

 

「大丈夫。ローゼフはしっかりやってるよ。お母さんの願いもちゃんと背負えてる」

「……違うんだ」

 

アヤメの言葉をただ黙って聞いていただけのローゼフが小さく口を開いた。

そして顔を上げ、アヤメの目を真っ直ぐ見つめる。

 

「俺は()に見える…?」

 

真剣な眼差しでそう問いかけた。

奇妙な質問だったが、アヤメは迷うことなく答えた。

 

「ローゼフはローゼフだよ。超越者(エクシーダー)になっても何も変わらない、変わるわけない」

 

迷いのないその言葉には強い説得力があった。

ローゼフ求めていたものがあった。

 

「ありがとう。お前の言葉を聞くと安心する」

「そう?まぁこれくらいしかできることないからね」

「いつも助かってるよ」

 

アヤメは、ローゼフがこの組織を立ち上げるその前から彼の隣にいた。

辛い時は支え合い、ローゼフの目指すものを共に目指していた。

間違いなくそれは愛であり、それは絆であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXA主要メンバーがブリーフィングルームに集められた。

ディスプレイになっている床全面に世界の勢力図が映し出されていた。

その上にマザークロスの現在位置が表示され、点線でこれからの予定進路が示された。

 

「先の戦闘で我々NEXAの存在は世界に強く認知された。しかしまだ、両軍における位置付けは十分でない。我々は世界の最優先事項にならなければならない。そのために、明後日、イスダルン領地中海海上基地の軍事演習場を強襲する」

 

地中海に浮かぶ巨大な軍事基地。

マルタ島とクレタ島の中間点に位置する地中海IAD研究所はイスダルン軍の中でも特に高性能機の試作開発が多く行われており、先の戦闘で遭遇した騎士風のIAD、エペイストもそこで開発されたものだ。

それゆえ最先端技術や機密事項が多く眠っており、それを守るための警備が強固であることが知られている。

そこへ飛び込むのは地理的にも無謀と言えるが、ローゼフはそれをやってのけることで世界へ衝撃を与えようとしていた。

 

「地中海研究所か…また大胆なことを思いついたもんさね」

「今回はレイゼルの配備が完了しています。そのテストも兼ねて」

「それと、ウチらの腕前の見定め…だろ? わかっているさ、期待に応えてあげるよ」

 

アリアナがそう言うと、シンジがディスプレイの画面を切り替え、4機のレイゼルの詳細を映し出した。

 

「各個人の適正に合わせて最適なチューニングをしてある。それと作戦の長期化を考慮してプロペラントタンクの装備も進めているところだ。問題は弾薬だが、補給用のコンテナユニットを随時投下できるよう高速無人輸送艇も用意してある。本体さえダメにならなければ3日は戦えるさ」

「中々のブラックね」

「そこまでは長引きはしないだろうが、ありがたい考慮だ。今回の目的は研究所の破壊だ。防衛網を突破できればその先は早いだろう」

 

現在旧ベトナム領上空を南方へ飛行しているマザークロスを一度インド洋まで南下させ、弾道飛行へ移行し大気圏外から地中海上空域まで移動、直上から強襲するプランが組まれた。

数ある拠点の索敵範囲から外れて移動するには、超高性能艦であるマザークロスにとっては合理的な方法だった。

 

「今回のプランでの関門は2つあります。基地の防衛網の突破はもちろんですが、それ以前にそこに辿り着かなければなりません。そのために、宇宙要塞フロンティアの監視網を潜り抜ける必要があります」

「知っての通りフロンティアはイスダルン軍最強の要塞であり現首都だ。地球の裏側にいるタイミングを狙って作戦を決行するつもりだが、あの要塞の目はどこにあるかわからない。こちらのアクティブジャマーが破られることはないだろうが、光学的に観測されたら厄介だ。そこで、まずは哨戒機としてロケットブースター装備したネメシスクロスが宇宙へ先行する」

 

宇宙要塞都市フロンティア

元は連邦軍の研究施設だったが、それをイスダルン軍が攻め落し、改造し、宇宙要塞として完成させたものだ。

その優秀なレーダー類や、常に一定の距離を保ちながら移動する小型ユニットと指向性の強いレーダー通信を用いた索敵網"エリア-Z"が、フロンティアの目として宇宙空間に広がっている。

対抗する連邦軍の第2宇宙基地"ギャラクシー"の存在が抑止力となり、宇宙空間での戦力図は地上に依存する形になっている。

またこれは、宇宙戦闘技術の開発がまだ両勢力とも未熟であり、宇宙での戦争は起きていないことも一つの要因となっている。

 

「エリア-Zは単純なレーザセンサーと同じ原理だ。レーダーよりも広範囲をカバーでき尚且つ反応も早いが、逆に穴ができやすい。マザークロスが通れる穴を見つけられれば、それでフロンティアは突破できる」

「随分と面倒な道の駅を通らなきゃならないみたいね。ま、アンタの自信には乗らせてもらうよ」

 

同意の声が多く上がった。

組織が活動を開始してさほど長い時間が経ったわけではないにも関わらず、メンバーたちはローゼフの実力を認めていた。

パイロットとしても、指揮官としても、そして先導者としても。

圧倒的信頼を短期間で獲得するカリスマ性が彼の最大の強みなのかもしれない。




どうも星々です!

引きこもってたモチベも少しずつ顔を出して来たのでなんとか投稿できました(汗
今後もまだ時間を空けての投稿になるとは思いますが、失踪はしないのでそこはご心配なく!

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