東方蟹怪談   作:夜鯨の町長

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約束を破るような大人はろくな大人にならないらしいですが、
私もその仲間入りみたいですね。
今後不用意にミステリーに手を出すのはやめにしようと思いました。

更新遅れた上に駄作とは救えない奴ですが、
ともかく、チャレンジ的な作品になりました。
宜しくお願い致します


バンザイおじさんの話(怪談編)

 

 

 

 

 

 

幻想郷の神無月(かんなづき)

今は日本中の神様がいなくなる月である。

いなくなるというが、厳密には神様が出雲大社に大集結する月であるから、日本中の神様が島根県に出張することになり、結果的に神様不在の状態になるから神無月である。

ちなみに島根県は例外として同時期には神在月と呼ばれるらしい。

 

忘れられたとはいえ神様が集うこの幻想郷で神無月があるというのは少し面白いが、秋もそろそろ終わるこの季節。燃えるように赤かった木々は、燃え尽きたように黒く痩せ細っていく。

 

いよいよ雪が降り出してもおかしくない程に重苦しく分厚い雲が空を覆うこの日、怪談屋にも暗雲が立ち込めていた。

 

 

 

 

饅頭「殺人事件〜?」

 

いつからここは探偵事務所になったんだ。

 

??「そーなの!だからさっさとで答え教えろって言ってんのよ!」

 

背中に6本の氷柱のような羽を浮かべた氷の妖精が、唾を飛ばし激しく身振り手振りしながら私にまくし立てる。

 

饅頭「えーっと...チルノだっけ?なぜ私が答えを知っていると思うのかな?」

 

チルノ「おまえは最近ウワサになってる『かいだんや』なんだろ?だったらハンニンわかるんでしょ?」

 

主語が見当たらない滅茶苦茶な説明だが、何やら盛大な勘違いをしているということは理解できる。というか、きっとこの子は頭が悪いのかもしれない。

生き物は知能指数(IQ)が20も違うと会話が成り立たないと言われている。まぁ別の生物と話していることになるというのは言い過ぎだろうが、今の会話からすると、きっとこの子と私とでは知能指数には大分なハンデがあると思われる。ということはつまり、この子と対等に話すのは難しいということだ。

 

 

饅頭「ごめんね、この子の話をまとめてくれないかな?えっと、大妖精さん?」

 

チルノの隣に立っていた大人しい緑髪の妖精の大妖精さんは、如何にも常識人な話し方をしてくれてわかりやすい。学校ではきっと優等生だろう。

 

大妖精「は、はい。チルノちゃんは、人里に遊びに来ていたチルノちゃんの友達が、両腕を千切られるという痛ましい事件にあって、それがお化けの仕業だと聞いてこちらに駆け込んだそうなんです」

 

なんて痛ましすぎる事件なんだ。

聞くところによると妖精は怪我をしてもすぐに元に戻るらしいが、それにしたって凄惨な事件だ。相手がお化けならそれこそ霊夢や魔理沙の仕事じゃないか?

 

それで、話をまとめてもらったところで、

チルノに視線を戻す。

 

チルノ「ほら!お化けのことならおまえたちがくわしいんでしょ?早く答えなさい!」

 

なんて横柄な客なんだ。

近頃の小学生はお店ごっこはやってもお客さんごっこはやらないんだ。

まぁ私もした事ないが。

まずは勘違いを正すところから始めなくてはならない、だがこの子相手にはそれだけでも骨が折れそうだ。

 

チルノ「おいおまえ!ムシするな!」

 

饅頭「あー、待ってなさい。すぐにおまえをムシしない優しい人を連れて来るから」

 

ここはおもてなしの遊柳に任せよう。

私はこの優等生、いや優等精の話を聞いておけば、今回の話の理解が進むだろう。

 

遊柳「優しい人って私のことかな?」

 

饅頭「ほらおいでなさったぞ」

 

会話を聞いて店の奥からやって来た遊柳に、チルノは駆け寄っていく。

 

チルノ「お前があたいにハンニンを教えてくれるのか?」

 

遊柳「あら、犯人は簡単には出てこないわよ?向こうにお菓子があるから、それを食べながら待たない?」

 

チルノ「なるほど、いちりあるな!なら早くお菓子を食べに行こう!」

 

これは遊柳が凄いのかチルノがどうしようもないのか。

何というか長生きしそうな子だ。

 

大妖精「妖精は自然の子なので不老不死なんですよ?」

 

と、大妖精さんからありがたい解説をいただいた。つまりチルノは天然なんだな。

 

饅頭「で、今回は怪談の買取りの依頼でいいんだね?」

 

大妖精「そういう事になります。何からお話ししましょうか?」

 

饅頭「そうだね。とりあえず君達が買取りを依頼したいという怪談のあらましを始めから終わりまで説明してくれるかい?」

 

大妖精さんは、わかりましたと頷いて、流れるように説明を始めた。

 

 

 

 

『バンザイおじさん』

 

 

 

 

子供たちの間で噂が広がっているお化け。

その名も「バンザイおじさん」。

 

突然子供たちの前に現れて、バンザイを要求してくるおじさんらしい。

 

バンザイおじさんの見た目は、上と下がつながったような着物を着て、黒い眼鏡をかけ硬い帽子を被っていて、無精ひげを生やしているらしい。

 

 

 

そして、そのバンザイおじさんに出逢った時のルールというものがある。

 

そのルールは3つで

 

①バンザイおじさんが「バンザイ」と2回口にしたらい、「バンザイ」と自分が3回目を言う。

 

②それ以外の返事を返してはいけない。

 

③背中を向けてはいけない。

 

 

これを守らないと、バンザイするように腕を上に引っ張られてそのまま引きちぎられる。

 

バンザイおじさんは数里を一瞬で移動できるほどに素早いので、逃げようとせずにバンザイをしてあげること。

 

バンザイおじさんは里のどこにでも現れる。

それも子供の前にしか現れない。

今もこの里のどこかで、次の子供を狙ってどこかを彷徨い歩いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大妖精「それで今日、私たちの友達の妖精が腕をちぎられて負傷しているところに運良く私とチルノちゃんが通りがかって、友達を永遠亭に運ぶことができたんですが...」

 

饅頭「バンザイおじさんは既にそこには居らず、仇討ちってことで私のところに転がり込んで来たということだね」

 

いい友達じゃないか。賢くはないようだが。

 

それにしても面白い話もあったものだ。

噂話、それも対処法付き。都市伝説じみていて、子供たちの間で跋扈する大人には見えない魔の手。

怪談のスタート地点というか、原点と言うべきものだ。

 

饅頭「あいわかった。この話には断然興味が湧いてきたよ。しかし私はこの通り埃に淀んだ大人になってしまっている、君たち子供の協力があれば心強いのだけど」

 

チルノ「そこまで言われちゃしょうがない!このサイキョーのあたいが子分にしてやるよ!」

 

と、いつの間にか戻ってきていたチルノが大声でそんなことを宣った。

遊柳に手を握られている姿は保育園のお散歩の時間のようだ。

 

饅頭「その懐に大量に詰め込まれていると思われるお菓子はなんだね?」

 

台所にあっだと思われる遊柳厳選の来客用お菓子だ。なぜこの子の懐にぎゅうぎゅうに詰め込まれているんだ。

 

チルノ「これはお見舞いの品だ!これからじっきょーけんぶんをしに永遠亭に行くんだ!」

 

おぉ?この子の口から実況見分なんてI.Qの高そうな言葉が出てくるとは。

さては遊柳に吹き込まれたな?

 

饅頭「それなら事情聴取が正しいんじゃないか?まぁ何れにせよいい考えだね。じゃあ早速案内してくれないか?」

 

チルノ「こいつも連れてっていいか⁉︎」

 

チルノが自分の手を握っている遊柳を指差す。

私の仲間をなんだと思っているのだろうか。

まぁ同行してもらうつもりではあったが。

 

遊柳「えぇ、私も行くわよチルノ。一緒に頑張りましょう」

 

チルノ「おぉー!」

 

バカな子ほど可愛いとは言うが、もう遊柳はすっかり懐かれている。可愛がるだけじゃ成長しないぞ?

 

遊柳「あ、チルノちゃんがお菓子全部持って行くみたいだから、皆無に新しいお菓子のおつかいでも頼んどこ」

 

遊柳は空いている方の手で、近くに落ちていた紙切れにおつかいを依頼する旨を書いて、机の上に置いた。

 

饅頭「全部持って行くな」

 

チルノ「ちゃんと食べきれる!」

 

食べ切られちゃ困るんだ。

 

 

 

 

 

出かける算段が立ったので私は寝室のクローゼットに向かった。秋も中程で風が冷たくなっているこの時期だ、遊柳がどこからともなく手に入れてきたダッフルコートの出番だろう。

厚手のダッフルコートに袖を通しながら、次は蔵書庫に立ち寄った。

 

バンザイおじさんは初耳であるが、参考までに関連性のありそうな怪談を洗っておこうってことだ。目欲しいものを何冊か手に取り、背負っている鞄に詰め込む。

この鞄は皆無が行きつけの青果店の店主から譲り受けた舶来の品らしい。仲間の謎のコミュニティに感服しつつ、外で待っている三人の元に急いだ。

 

 

 

魔理沙「お?今日は珍しく遠足みたいな装備じゃないか。どっか行くのか?」

 

外に出ると、常連来訪者の霧雨魔理沙が妖精の間に立ってこちらに手を振った。

 

饅頭「遠足ってほどの大袈裟じゃないだろ」

 

魔理沙「そうか?なんか物珍しい上着を着込んで重そうな鞄背負って、一山越えて隣町にでも行くみたいじゃないか」

 

ここは人里以外に集落はないはずだ。

隣町なんてものはない。

見たところ遊柳はまだ準備をしているようで、この場にいない。女の子の準備には相応の時間がかかるようだ。ということは、もう少し魔理沙の相手をしてやらなくてはならないということだ。

 

魔理沙「話はそこのチルノと大妖精から聞いたぜ。何やら大変(おもしろそう)な事件が起きてるみたいじゃないか。私に黙ってるなんて水臭いぜ」

 

蟹相手に水臭いとは。蟹はどちらかといえば香りのいいことで有名なはずだ。水棲生物が総じて生臭いとは限らない。

 

饅頭「そういや。魔理沙も霊夢と同じで、正規じゃないが異変解決の請負人だったな」

 

魔理沙「正規じゃないとか区別的な発言はよくないぜ。私は真面目だからいいんだ。霊夢なんて正規でも片手間で異変解決してるんだ」

 

この幻想郷の命運が巫女の片手間に懸かっていてはたまったものではない。

しかし真面目だって迷惑になることもある。

何事も程々に、柳に風で生きて行くのが実は一番賢い生き方の一つだったりする。

 

遊柳「あら?私を賢いって言ってくれるなんて、そういうのは正面向かって言ってくれても構わないわよ?」

 

いつの間にか準備を終えて出てきていた遊柳が話の中に飛び込んできた。それも背後から。

 

遊柳「相変わらず荷物の多いことね。話をまとめることは出来ても荷物をまとめるのは出来ないのね」

 

そういうことは影で言って欲しいものだ。

いやダメか。

しかし、自分が心配性なのは多分に自覚しているのだが、どうも私は昔から荷物が多い多いとよく言われている。もう今では荷物が重くないと落ち着かない体質になってしまいこのザマ。自虐的な蟹である。

 

と、遊柳が出てきたことに気づいた妖精二人がパタパタと駆け寄ってきた。

 

大妖精「用意はできたみたいですね?」

 

大妖精は前屈みに皆の顔を見渡して確認を取り、全員がコクリと頷いたところで、元気いっぱいな氷の妖精の号令が轟いた。

 

チルノ「よーし、永遠亭にしゅっぱーつ!」

 

魔理沙「いや私らだけで向かうのは無理だろ」

 

 

魔理沙は流れを断ち切るのが早い。

狂い始める前に断つというのは、いつ何時も正しく合理的な判断でありなが、いつ何時も理不尽なものに見える。

 

 

 

 

 

 

 

結局、魔理沙の言っていたことは正しかった。

 

妹紅「そう言った事情があるなら仕方がない。知らない顔じゃないし、案内してやるよ」

 

永遠亭という病院は、迷いの竹林という広大かつ錯視を利用した奇天烈な地形の竹の海の中に建っているのだという。

それにそこは幻想郷唯一にして絶対無敵の病院なのだと聞いている。ここの時代背景を鑑みるに、医療技術は麻酔さえないほどのものだと思っていたが、どうやらこの医師というのが月からやってきた天才らしい。

月というのは地球より遥かに文明の発展した星だと言われているらしく、この幻想郷の時代から見て遥かに発展した文明というのは、限りなく私たちのいた現代に近いのではないだろうか?

 

チルノ「治らない病気は無いって言ってたぞ」

 

饅頭「でも馬鹿につける薬は無いんだな」

 

完全に治る薬なんてものは存在しない。

現代でさえ、完全な風邪薬を開発できればノーベル医学賞ものの発展となるというのに。

人間の医療には限界がある。

限界があるべきである。

 

饅頭「しかし、病院がこんな迷路みたいな竹林にあるっていうのは考えものだね」

 

これじゃあ妹紅さんがいなければ肝心な時に役に立たない病院になってしまう。運が悪く妹紅さんに会えなければポックリ逝っちまうなんてこともありうるのでは?

というのは考えすぎだろう。

 

妹紅「あぁ、隠れてるんだとさ」

 

隠居か。

いや、この高度な医療技術を狙う不遜な輩がいるのかもしれない。そんな007な状況下にあるなら、この迷惑な竹林も立派なバリケードに見えなくも無い。

木の葉を隠すなら森の中。

病院を隠すなら竹の中ってことか。

 

人の価値観というものは一瞬で一転する。

しかも多面式である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チルノ「サニー!お見舞いに来たぞー!」

 

障子に囲まれた畳間のような場所に案内されると、この時代には似合わない硬質なベッドの上に、胴体部分が包帯でぐるぐる巻きにされている明るい子供がいた。下半身はベッドの毛布の中にあり上体を起こした状態で、お日様のようなニコニコ笑顔で見舞いに来た友達と談笑している。

 

胸の横にあるはずの両腕は見当たらず、包帯で巻かれて断面は隠されている為、見た目はこけしのようだ。惨たらしい光景である。

 

私は遊柳をそのまま部屋に残し、この永遠亭唯一の医者にして月の天才と呼ばれている八意永琳の元へと足を向かわせた。

 

永琳「あら、ここは関係者以外立ち入り禁止よ?」

 

永琳が居ると教えてもらった六畳ほどの部屋に入ると、その真ん中には椅子に座った女性がこちらを睨めつけるように座っていた。

赤と青の奇妙なツートンカラーのワンピースに、赤十字をあしらったナース帽のようなものをかぶり、目を奪われるような美しく長い銀髪と、遥か昔から生きてきたと言わんばかりの鋭く賢そうな目、これが永遠亭の経営主にして幻想郷の五大有力者の一人、八意永琳である。

 

饅頭「月の天才という方に興味がありましてね?もしよければお話しをお聞きしても?」

 

永琳「あら、年寄りの話は長くて細かいわよ?」

 

饅頭「自然の摂理にとやかく言うほど私は心の狭い蟹じゃありませんよ」

 

永琳「ふふ、あなたの噂はうちの優秀な弟子から聞いているわ。それで、何が聞きたいのかしら?」

 

永琳先生は机を挟んで対面に椅子を置き、向かい合うようにして部屋の真ん中に座った。

 

饅頭「この部屋、珍しいものがたくさんありますね」

 

私の触りの話題は、部屋四方の壁に取り付けられた薬棚についてのことだ。

この部屋は永琳がとある筋から頂いているという外の世界の薬らしく、幻想郷では見ることのないと思っていた薬品が所狭しと並んでいた。

 

永琳「そうね、ここには幻想郷で採れる薬草とは他の外の世界の薬品で、どれも薬の材料になるものよ。人里でも医者を生業にしている人達がいて、私達がこれらを売るなんてことも稀にあるわ」

 

なるほど。聞けば永琳先生は医療の中でも薬剤師に分類されるものに秀でているようだ。

 

饅頭「それで永琳先生、ここからが本題です。私は直接被害者の手当を見たわけではありませんので教えて欲しいのですが、あなたの目から見て、あの怪我をどう見ていますか?」

 

無論、両腕の無くなった子供の治療ができるほどなのだから、優れた外科の技術も持ち合わせているとも思える。

今回の事件に関わらず、怪談話は基本既に事後報告なのである。となれば、このように過程を見てきた者から裏を取ることが必要なのである。

 

永琳「そうねぇ。確かにひどい怪我ではあったわ。でも大怪我だったことにさして違和感は感じてないわ。これよりひどい怪我の患者が来ることもあるザラなのよね」

 

幻想郷がそんなに危険の満ち満ちた地だとは思わなかった。壮麗な見た目に油断していた。

 

永琳「それに、その腕をちぎるっていうお化けの被害はあの子で4件目。さすがに4回目ともなれば治療も手馴れたものよ」

 

これは初めて聞く情報だ。

被害者がもう四人も出てきているのでは、流石に里が騒ぎになっていてもおかしくない。私の耳に入って来なかったのは何故だろうか?

 

永琳「ただまぁ、妖精の言葉だから対して気にしないことにしていたのだけど....」

 

さらに永琳先生には永琳先生の疑問があるようで、顎に手を当てて病室がある方に目配せしながらこう言った。

 

 

 

 

永琳「妖精たちが口を揃えて言っているような、引きちぎられた、ような傷じゃなかったのよね。どちらかと言うと、切断された、ような断面だったわ。骨が関節からではなく途中から無くなっていたのよね」

 

 

 

饅頭「................」

 

嫌な予感がしてきた。

チルノや大妖精の話では、腕が「引きちぎられた」との事だし、実際跋扈している噂も「引きちぎられる」である。

しかし、切断されているともなれば話は変わってくる。

切断というものは引きちぎることとは圧倒的に違うのだ。これが意味することはすなわち...

 

遊柳「蟹さ〜ん?お話終わった〜?」

 

部屋の入り口から母親のような呼び声が飛んできた。遊柳が戻ってきたようだ。

濡れた手拭いを片手に持っていることから、おそらく見舞われていた妖精の体でも拭いてあげていたのだろう。母性に溢れる遊柳さんである。

 

饅頭「あぁ、たった今終わったよ」

 

遊柳「ん〜?もしかしてお邪魔だったかしら?」

 

遊柳は自分が来たことで話が止まったものだと思ったのかそんなことを言った。

 

饅頭「そんなことはないよ。気になっていたことは聞けたし、後は人里の情報収集だ。博麗神社に向かいがてら里で聞き込みをしよう」

 

遊柳「ふーん。わかったわ。じゃあこれを片付けてから出るから外で待っててちょうだい」

 

饅頭「がってん」

 

遊柳は濡れた手拭いを持って別の部屋へと向かって歩いて行った。

私も部屋を出ようと椅子から立ち上がり、永琳先生に一礼をする。

 

永琳「期待してるわよ、噂の怪談屋さん?今度はお客さんとして遊びにきてちょうだいね?」

 

永琳先生は見送り言葉に付け加えてそんなことを言ってくれた。

怪我してこいってことなのだろうか。

年寄りの冗談はたまにキツい時がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の私たちの足取りはというと、

妖精二人を永遠亭に置いたまま、魔理沙だけを連れて永遠亭を発った。

里で聞き込みをしながら博麗神社に向かうも霊夢がまさかの不在。同居人の萃香によると、どうも妖怪退治の依頼を受けて魔法の森に行っているとのこと。

仕方がないので一度怪談屋に戻ろうかと考えていたところで、遊柳の甘い物を探知する第六感に掛かった甘味屋に立ち寄ることになり、今こうして3人で卓を囲んで茶菓子に頬を緩ませている。

 

饅頭「で、聞き込みしたことをまとめると...」

 

魔理沙「バンザイおじさんを見た事がある子供は多数。その大多数は寺子屋の帰り道だったぜ」

 

遊柳「あ、女将さーん。お茶のおかわりお願いでしますか〜?」

 

饅頭「そして大人は目撃はおろかバンザイおじさんの噂話すらも聞いたことがない者が多かった」

 

魔理沙「今のところ被害者は妖精や妖怪のみ」

 

遊柳「女将さーん。黒蜜団子追加でー」

 

饅頭「そして霊夢も今回の件で動いているようには見えない」

 

魔理沙「4人も被害者が出るまで蟹のところに話が来なかったのも不思議だ」

 

遊柳「女将さーん。この柚子餅お土産用に梱包してもらえますかー?」

 

饅頭「おいコラ」

 

遊柳の手首をむんずと掴み、菓子への手を止める。

 

饅頭「遊柳は収穫無しだったのかい?」

 

遊柳「あ、ごめんね?じゃあ私からも」

 

遊柳は口元をおしぼりで拭って菓子から手を離した。

 

遊柳「私が聞いたのは一つだけ。バンザイおじさんに遭っている里の人間の子供も居たわ。でも揃って大したことなく助かっているみたい」

 

そんな大事なこと聞いてたなら早く言いなさいよ。バンザイ未遂の件があるとなれば話が進みやすくなる。

うーん。確かに嬉しいし有益な情報なのだが何かが足りない。

 

魔理沙「しかし、霊夢は何をしてるんだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私に手柄を譲ってくれるってことなのか?いや、もう解決しちまったのか?」

 

黒蜜団子の串を前歯で齧りながら、つまらなそうに魔理沙が呟いた。

そしてその瞬間。

 

饅頭「っ!」

 

遊柳「っ!」

 

私と遊柳が事に気づいたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妹紅「一体全体何があったんだよ!?」

 

遊柳「ちゃんと説明してあげるから、今はお願い、急いでまた永遠亭まで案内してちょうだい」

 

急遽、永琳に話を聞かなくてはならなくなった私達は、妖精達を竹林の外に案内した直後の妹紅さんの元へ駆け込み、再び永遠亭への道案内を頼んだ。

ちなみに妹紅さんにはお詫びの品として、遊柳厳選の柚子餅のお土産を手渡した。

 

妹紅「あら、これすっごく美味しいわ」

 

魔理沙「走りながら食ったら喉に詰まるぞ?」

 

妹紅「死なないから問題ないさ」

 

饅頭「食べながら喋らないの!」

 

妹紅さんの案内のお陰で、大した時間もかからずに永遠亭に2度目の来訪を果たした。

玄関前にいた小さな兎が不思議そうな顔でこちらを見ていたので、丁度いいとそのまま永琳の元へと案内してもらった。

 

 

 

 

永琳「あら?次はお友達をたくさん連れて来たのね?今度は何かしら怪談屋さん?」

 

永琳先生はあまり動揺した様子もなく。

診察室で騒がないようにと目で注意をしながら私達を迎えた。

 

饅頭「永琳先生。つかぬ事をお聞きしますが」

 

秋だというのに汗だくになっていた私は深呼吸をして、先ほどとは違い単刀直入に本題を切り出した。

 

饅頭「最近人里から薬品の発注はありませんでしたか?」

 

永琳「.............ええ、確かにあったわよ」

 

私の質問に驚いた顔をした永琳先生は、どうしてわかったの?と聞いてきた。

そしてその発注された薬品の名前を聞いた私と遊柳は、私達の考えた恐怖のシナリオを決定付ける証拠となった。

 

遊柳「.....やっぱり、そうだったのね」

 

饅頭「そういうことだったらしい....」

 

魔理沙「蟹と遊柳が何言ってるのかさっぱりわからないぜ」

 

妹紅「すまん。私もよくわからなかった。説明してもらえるか?」

 

慌てて連れて来た魔理沙と妹紅が、私の反応を見て恐る恐ると言った顔で尋ねる。

 

饅頭「いいかい魔理沙。今回の怪談の真実はね、かなり簡単な話だったんだけど、かなりやばい話だったんだよ」

 

魔理沙「はぁ?」

 

遊柳「私達の鑑定が正しければ。恐らく...」

 

 

これが、今回の怪談の本筋、本来のシナリオ、そして、

 

 

 

 

 

饅頭「バンザイおじさんは2人いる」

 

 

 

 

 

最悪の結末を迎える事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つづ)

 

 

 

 

 




まさかの続く。
しかもかなり収まりの悪い方向に....

毒を食らわば皿まで という言葉があります。
この意味お分かりいただけますか?

次回に期待です!

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