鴉か夜叉か   作:鮭愊毘

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さらば死神

朝右衛門に刀が振りかぶろうとする瞬間、銀時が夜右衛門を一時的に退け、その隙に彼女を引き上げようと手を伸ばす。だが、銀時は夜右衛門の後方の鉄砲隊によって左胸を撃たれてしまう。

 

「朝右衛門、その男も先代もお前が護る価値などありませんよ。罪なき者?その男の罪状を教えてやりましょうか?その男は、お前の実の父を殺した罪人です」

 

夜右衛門は話す。10年前攘夷志士だった朝右衛門の父は戦死し、孤児となった彼女は先代に拾われた。だが事実は違う。父親は戦死しておらず生き残り、志士の残党狩りが始まると己の保身のためかつての仲間、その家族の潜伏先を密告。しかし用済みとなった彼も消されてしまう。そのため役人に命だけはと助けを乞う。そして忠誠の証拠に娘をやると。そこに現れたのが銀時。そして先代は銀時を助け、朝右衛門の父の首だけ斬った。いずれにせよ銀時と先代は朝右衛門に討たれて然るべき敵だと。

 

「必要な首は一つだけ。関係のない者の首まで転がしたくはないでしょう?朝右衛門、この男の首を斬りなさい」

 

「……らく~に頼ま」

 

銀時が収監された後、一人の少女がこんな事を言いだした。私が処刑人になったらお兄ちゃんの首を斬ってあげる。上手に斬って痛くしないようにして楽に天国に送ってあげると。この少女というのは幼き頃の朝右衛門である。銀時はこのことを今も覚えていた。

 

彼の言う通り朝右衛門は銀時の首を斬る。しかし、同時に彼女の首に夜右衛門の刀の先端が入ることになった。

 

「朝右衛門、悪く思わないでください。神速の太刀魂あらい。これを避けるには剣先を他へ向けさせ技を撃った後の虚をつくしかない。

 

罪人の子に、罪人を裁く権利があるとでも?」

 

 

「……あなたの言う通り、魂あらいを制するのは虚を撃つしかない」

 

首を斬られたはずの朝右衛門が夜右衛門の刀をつかむ。その掴まれた刀は先端が欠け、さらに彼女の手には先ほどまで持っていた刀がなかった。

 

そしてその刀は銀時の手に渡っており、夜右衛門に斬りかかる。彼も首に傷がついていたがそれは朝右衛門の腰から抜刀するときに峰でつけたものだった。

 

 

ーー届く。私の剣が先に届く

 

誰より近く、あの人の剣を見つめ続けてきた。

誰より強く、あの人の剣に焦がれて来た。

 

なのに……

 

『何も斬れはしない。お前の剣は人の罪など斬れはしない』

 

『消してしまえばいいじゃないか』

 

ーー届く……剣は……あの人に

 

 

「届きゃしねぇ。もう、どこにも」

 

銀時の刀は夜右衛門の刀を折、同時に夜右衛門を一閃する。

 

「そうか……私の剣はもうあの時に……とっくに折れてしまっていたのだな」

 

 

この頃銀平らは船から飛び降り脱出を図っていた。二人もそれに続く。

 

「奴らを逃がすな!」

 

一橋派が迫る。だがそれを夜右衛門がけん制する。

 

「早く、行きなさい。私を表舞台から引きずり下ろした以上誰が池田家を護るのですか。私は父を裁いてでも父が築いた公儀処刑人の家を護ろうとした。お前は、私を裁いてでも父の公儀処刑人の魂を護ろうとした。

だがその剣、愛した剣はともに同じ。それだけです」

 

ーーいきなさい。池田夜右衛門

 

 

「やれやれ。親を殺めてまで手に入れた名。結局返上してしまうとはね。こうなった以上、一体僕はこれからキミを何と呼べばいいんだ?」

 

「親殺し、辻斬り……お好きなように」

 

「そうか。なら」

 

夜右衛門の背後に立った男がこう問いかけ、最後に夜右衛門の首をはねる。

 

「ただの首 なんてどうだい?」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

「そうですか。夜右衛門が……」

 

「死体は見つかってねぇが一橋に始末されたとみて間違いねぇだろう」

 

「いいえ、あの人を殺したのは私です。お家を護るためとはいえ、先代の首を斬りその子にまで手をかけた。こんな私にはもう池田家の姓を名乗る資格はないでしょうね」

 

「その首をもって夜右衛門の名を名乗る。それが首切り役人の宿命なのかもしれねぇよ」

 

ーーーー

 

「囚人番号み32654番。出ろ。処刑の時間だ」

 

真選組に捉えられた万事屋+αが檻から出される。

 

そして朝右衛門が自裁したと聞かされる。

 

 

 

ーーーー

 

 

かつて公儀処刑人池田夜右衛門はある大罪人を逃がした。ならばその責を負い大罪人の首を斬るのもまた、池田夜右衛門の役目だ」

 

処刑場についた彼らを待っていたのは土方と先ほど自裁したと聞かされた朝右衛門。

 

「朝右衛門さん……」

 

「は、もういません。死神はもう、いない。あなたたちが介錯してくれたじゃないですか。私の迷いと死神を。今の私は十九代目公儀処刑人 池田夜右衛門です」

 

「つうことで、池田朝右衛門は切腹ってことで処理しとくぜ」

 

 

「夜右衛門の剣に検分はいらないだろ。この先首が繋がったアイツらを見ても」

 

「首の皮一枚でつながった死体と思っていいんだな」

 

 

「ええ。夜右衛門の剣に迷いはありません」

 

夜右衛門はドクロの仮面を宙に投げ、魂あらいをうつ。それは銀時らの首ではなく、手錠、そして仮面にうたれた。

 

「ここにはもう、裁かれるべき罪人など一人もいません」

 

手錠が外れた彼らは夜右衛門に近寄り始める。銀時はその場から動かず、彼女の表情を見ていた。それは、あの時約束をした時の純粋な"人"としての笑顔にそっくりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、乳首また斬られてるだろうがァァ!!」

 

 

 

~完~

 

 

 

 


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