オラリオの黒騎士 作:コズミック変質者
それとこの話から、短編から連載へと変えます。
いつまで続くか分かんねぇけど。
ダンジョン56階層。
この階層で最も多いモンスター、オーガと呼ばれる体色がバラバラで個体差によっては三mはあるモンスターが、何十体もいる。
彼らはこの階層に侵入してきたたった『一人』の冒険者を相手に戦い続けている。
本来であれば冒険者にとっては絶望的な状況だろう。だがモンスターが相手取っているのは、誰にとってもの『怪物』だった。
「フンッ!」
「GGGGAAAAAAAAA!!!」
「ムンッ!」
「GEEEEEEEEEE!!!」
男が放つ一撃に、一体づつ魔石へと変わっていく。オーガ達は思う。可笑しい、目の前にいるたった一人のちっぽけな人間が、さっきから仲間達を『一撃』で仕留めている。
男———ミハエルはモンスター達に囲まれながらも、頭では別のことを考えている。ミハエルのオラリオに来る前からの親友である『ロートス・ライヒハート』との最後。
ミハエルとロートスは同じ村で育った、というものの、ミハエルは農家、ロートスは貴族に近いそれなりに裕福な暮らしをしていた。
ミハエルは子供の頃から無口で無愛想、いつも家の手伝いばかりしていた。それに対してロートスは村で唯一の裕福な暮らし。村の子供たちはそんなロートスを侮蔑していた。
二人が仲良くなったのは、偶然だった。たまたま出会って、仲良くなっただけ。
二人は成長すると、ロートスの提案でオラリオに向かうことになった。その時、ロートスは代々家に伝わる家宝の断頭台『正義の柱』をミハエルと協力して持っていった。
それからロートスを先頭に、様々なファミリアに参加の表明をしたが、ロートスには声がかからず、当時から体格がよかったミハエルには声がかかった。
だがミハエルは、ロートスも共に入るのならと条件を付けていた。
ファミリアが人員不足でもない限り、無駄に子供を二人も入団させることはない。そんなことを何日も続けていると、ある日ロキから声がかかった。
ロキはミハエルとロートス、二人を一編に入団させた。ロキいわく、面白そうだったとのこと。
ミハエルとロートスは先輩の団員に基礎を学びながら、基本コンビでダンジョンを攻略していった。ロートスはミハエルと真逆で自由奔放。やれると思えば自分達のレベルに合わぬ階層でも進んでいった。
するといつもギルドにバレ、ロートスはアドバイザーに怒られる。アドバイザーはミハエルにも何故止めなかったと聞くが、ミハエルが止めてもロートスは諦めないと言うと、ミハエルはお咎めなしになる。
その度にロートスはミハエルのことを恨むような視線を向けるが、ミハエルは尽く受け流す。
半年ほど経つとロートスとミハエルは同時にレベル2へと上がった。その時に二人に付けられた二つ名がミハエルは【戦車】、ロートスは【処刑人】。
二つ名は珍しく二人の戦い方から来ていた。ミハエルはその大きな体を利用して大剣をもって『盾役』を引き受ける。ロートスは自慢の敏捷性をもってギロチンの様な武器で首を刈り取るスタイルから付けられた。
ミハエルとロートスは順調に日々を過ごしていった。だが二人がレベル2になって二ヶ月後、今のミハエルを作り出した事故が起きた。
ダンジョンの崩落。とあるレベル5の冒険者がイラついてミノタウロスに向かって極大の魔法を連発。だが適当に狙いを定めていたため、何発も床や壁に当たり、大規模な崩落を起こした。
その時ダンジョンにいたロートスとミハエルは不幸なことにレベル5の冒険者がいた階層の真下にいた。二人は崩落に巻き込まれ、階層主がいるゴライオスがいる階層まで流されていった。流れ落ちたロートスとミハエルは体の至る箇所を負傷。特にロートスは腹部に傷を負っており、直ぐに18階層のリヴィラの街で治療せねば不味い程に出血が酷かった。
ミハエルはロートスを担ぎゴライオスにバレないようにリヴィラの街を目指そうとした。だがミハエルも重症とはいかなくとも、それなりの傷を負っている。
加えて崩落のせいで足場は悪く、人一人を背負っているため、ミハエルの体力を確実に奪っていった。
さしものミハエルも傷を負った状態では長続きせずに地面へと倒れる。倒れた時の音でゴライオスは二人に気付き、襲いかかる。
ミハエルはロートスを担いで立ち上がり、自身のステイタスを全開まで使い何とかゴライオスと距離を取ろうとする。
だがゴライオスは巨体。ゴライオスは二人にすぐに追いつき、襲いかかる。ゴライオスが拳を振るう。ミハエルは念のために持っていた大剣の腹でガードするが、耐えきれずに壁際まで弾き飛ばされる。
地べたに這いつくばり、体を引き摺りながらロートスの方へと向かう。ゴライオスはいたぶるようにミハエルへと攻撃を仕掛け用とする。
だがそれは叶わず、異常を聞きつけてやって来たリヴィラの街にいたレベル5冒険者二人が駆け付けてくれた。
運がいいことにその内の一人がドワーフで、ロートスとミハエルを担ぎあげ、一人を囮にしてリヴィラの街まで運んでくれた。
この時点でミハエルはほとんど意識がなく、気合いだけでどうにか繋いでいる状態だった。
隣に寝かせられたロートスに向かって手を伸ばす。少し動かす度に傷が痛むが、そんなことを気にする余地はミハエルにはない。
ミハエルの手がロートスに届こうとする。
だがミハエルの手はロートスに届かず、途中で力尽きたように地面につく。
次に目が覚めたのは【ロキ・ファミリア】の本拠である黄昏の館。ミハエルは上体を起こそうとするが、痛みで叶わない。
それからミハエルが起きたことが本拠に広がり、団員の殆どが駆けつけた。ミハエルはロキやフィン、リヴェリアにあれからのことを聞くと、ミハエルは絶望した。
団長であるフィンから言われた、
『ロートスは死んだ』
という声と共に。
思えばミハエルの人生はロートスによって大きく変えられていった。タダの農民として死んでいくはずが、ロートスと出会ってからは冒険者になった。冒険者になってからも変わらずロートスに振り回されていた。
レベル1の頃から10階層まで行き、命懸けの鬼ごっこをした。休日はロートスのナンパに付き合わされた。ロートスの悪ふざけでリヴェリアに監督不行届で共に怒られた。レベルアップした時に共に酒を飲んで喜びあった。
ミハエルは涙を流した。今までずっと一緒にいた『戦友/親友』が、死んだから。自分の人生を変えてくれた恩人がいなくなったから。
ロートスの遺物は焼却されたものが多いが、一つだけ、ロートスが実家から持ってきた『正義の柱』だけは燃やさずにミハエルが引き取った。親友/戦友と共に死ねなかった、後悔とともに。
それから一週間後、ミハエルのステイタスにスキルと魔法が出現。そこからミハエル・ヴィットマンは始まった。
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「随分と懐かしいことを思い出していたな」
「GUGYA!!」
ミハエルの拳が最後のオーガの胸を貫く。ミハエルの周りにはとんでもない量の魔石が転がっている。これらは全て一撃で仕留められたオーガ達の魔石。ミハエルの体に傷は一つもなく、黒い鋼の腕は元の黒い手袋に戻っている。
ミハエルは魔石を一つずつ拾っていく。そのスピードは信じられないほど早く、ステイタスの無駄遣いにしか見えない。
最後の魔石を拾い上げると、何かの気配がしたので後ろを振り向く。だがそこには何もなく、壁が広がっていた。
「まあいい」
ミハエルは魔石の入ったバックパックをヒョイと担ぎ、上の階層へ行く階段へ登っていった。
発展スキル
【永劫破壊】*%#..「#@.!!:!?**.
【渇望】渇望が強い程ステイタス補正?
【一撃】一撃で倒すと経験値上昇。