Metal Gear Fate/ Grand Order   作:daaaper

7 / 29
どうも、2日ぶりの作者です。
……いつの間にかお気に入り登録者が400に到達するらしいのですが、なんかもう……言葉がありません。

とりあえず、こんな試作品に興味頂きありがとうございますm(_ _)m

えぇー、明日から私は始業式という名の受験生が始まってしまうため次回の投稿を終えますと、
次回の投稿は来年になるのは確定しました(数学がヤバい)

こんなにも多くの方に興味を持って頂けただけでもありがたい事なのですが、私用で申し訳ありませんm(_ _)m
ただ、想像以上に反響がすごいので、受験が終わって“無事”に合格できましたら投稿を再開します。
それまでは気楽に、何か他の作品でも読みながら待って頂けたら幸いです。

まだもう一本だけは来週までに投稿できると思いますので、本編も含めてお楽しみ下さい。



※4/12現在、前話のステータス紹介が最新話です、ご了承下さい。



幕間:戦力増強(訓練)

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと彼女は目を覚めた

 

 

 

 

 

 

 

だが居場所がわからなかった

 

別に彼女は頭を打ったとか、麻酔銃を撃たれたとかそう言うものでは無い

 

あたり一帯は木が生育し、足元には水が張っていたのだ

 

明らかにあのあたり一面火の街となっていた冬木でも、病院の様に綺麗なカルデアでも無い

 

ましてや洞窟の中でも無い

 

 

「……一体ここは何処なの……?」

 

 

彼女……オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは戸惑った

 

 

「死んだ……の?」

 

 

そう思えて仕方なかった

 

何せ辺りに木があるとは言え全く色味が無かった

 

言い方を変えれば生気が無かった

 

さらに言えば水辺で寝ていたのにもかかわらず服が濡れてなかった

 

だが足には水の感触は確かにある、そのため走るのは難しい

 

加えて道はただ一直線に続いていた、ただ水が張っている通路とも言えるが。

 

 

「死んで……るの?」

 

 

だが感触は随分と生々しいというか、はっきりとしている

 

少なくとも宙に浮いている様な感じはしない

 

「そういえばこの木……マングローブ?」

 

気付いてことと言えば辺りにあった木がマングローブであること

 

であれば恐らくこの水は海水であろうということ

 

 

それ以外は全て不明。

自分自身が生きているのか死んでいるのか、ここは何処なのか、いつの間にここに来たのか

そう云えばレフはなぜあんな事をしたのか、あの後どうなったのか……わからない事が多すぎた。

 

「はぁ・・・この後どうすれば良いのかしら」

 

とりあえず彼女は冷静だった。

確かに不安ではあるし、意味不明だし、何よりレフが意味不明だったがとりあえず自分はここにいる。

彼女はカルデアの所長であり、当然ながらレイシフトの仕組みも知っていた。

自我を消失しなければ意識のサルベージが可能だ、であればいつかカルデアに戻れるだろう。

 

それを知識として知っていた彼女はそれが楽観視だと気付くこともなく、とりあえず安堵していた。

 

「通信は……できるわけ無いわよね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「なに!?」

 

その安堵はあっさり崩れた、何がしかの気配を彼女は察した。

だがあたり一帯を見回しても誰もいない、

 

誰一人

 

いない

 

「……一体だれ、答えなさいよっ!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・悲しい」

 

 

 

だが確かに存在はしていた

 

 

「えっ……」

 

「・・・・・・・・・・・・・・哀しい」

 

「っ誰!?」

 

「・・・・・・・・・・この世は、悲しい」

 

そして“奴”は現れた

 

出てきなさいと言っていた彼女は虚勢を張っていたために驚いたがすぐに持ち直した

 

もっとも彼女は至って冷静なままだった

 

「……あなた、敵なの?」

 

「・・・この世は悲しい、哀しみで満ちている」

 

「……あなたは誰なのかしら?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「無視しないでくれるかしら?」

 

「・・・お前の心には哀しみで満ちている」

 

「っ…………」

 

「だがお前には声も上げられない者たちの声を聞く必要は無い・・・お前は何のために生きる」

 

「………………」

 

「・・・そうか・・・あの男の目は確かだな」

 

「あの男って……?」

 

「・・・この先を“いけ”、人の礎を担う少女よ、そこがお前の居場所だ、ここはお前の居場所ではない」

 

「……この先を行けばいいのね」

 

「・・・そして頼れ、私の・・・」

 

「頼れって……えっ?」

 

 

それだけ言い残して消えた

 

それもいつ消えていたのかまるでわからなかった

 

そしていつの間にか一人になっていたオルガマリーは呆然としていた

 

……が、それもほんの少しの間

 

 

「……この先をまっすぐ行けば良いのかしら」

 

 

人が目の前から消えたのにもかかわらず、至って冷静に道沿いに歩き始めた

 

その姿を見ている人間は誰もいなかった……ただ彼女を待つ場所へ戻るためにひたすら歩いた

 

 

 

この先を“生く”ために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フンッ!」

 

一方カルデア内にて、

 

そろそろ目が覚めるであろうマスターを待つ一人のサーヴァント。

そこは、いわゆる訓練ルームと呼ばれるもので本来はマスター達が基礎鍛錬・サーヴァントとの連携を鍛える目的の随分と広いスペースだが、つい24時間ほど前にレフ教授による爆弾によってこの部屋を使う対象であるマスターはたった一人になってしまった。

 

当然ながら他の職員達は現在復旧作業に追われており、そもカルデア職員は訓練ルームを使う理由がない。

だがそんな場所があると知ったこのサーヴァントは、疲れない体を良いことにひたすら鍛錬に勤しんでいた。

 

もちろん一人で

 

「……うーむ、さすがに一人では体の軸のズレと重心移動しか確認できんな」

 

まず自分一人だけで体幹のズレと重心移動を客観的に確認する術が彼にはあるらしい。

だが付け加えると、サーヴァントは生前の最盛期の状態でこの世界に召喚されるため例え体を鍛えたとしても身体的なスペックは変化しない、召喚された時点で筋力:Dなら魔術によるバフ等が無ければ変化する事はない。

 

そのためサーヴァントが例え体を鍛えたとしてもあまり意味がない。

その時間があればマスターとの関係や連携を築いた方が良いのだ……が、このサーヴァント曰く

 

 

「良いか?例え筋力がこれ以上強くならないとしてもだ、体の動き・姿勢・状態をコントロールするためには身体を動かす以外に方法は無い。

今のところマスターや他のサーヴァントもいないとなれば自分自身を鍛えないでどうする?

例え霊体化だかステータスだか知らんが身体は動かすもんだ」

 

 

と語り、訓練ルームに入り浸っている。

……だからと言って1日近くナイフをひたすら振り回し身体を動かすと言うのはどうなのだろうか?

そして誰も止める術、というより暇が無いこのカルデアの状況は危機的な意味でも思考的な意味でも深刻だとここに付け加えておこう。

 

 

「おはようございます、スネークさん」

 

 

そんな訓練ルームというより鍛錬場となった場所に新たに一人の、しかも少女が入ってきた。

しかし彼女は一般的な少女とは違い、サーヴァントと憑依融合したデミ・サーヴァントと呼ばれる存在であり彼女がカルデア唯一のマスターとなった藤丸 立香の最初のサーヴァントだ。

 

スネークから見れば彼女はまだ経験則も力も実力も足りて無いが、力はある。

そして彼のもつ知識と記憶ではサーヴァントとしてもカルデアにいる時間からしてもある意味では彼女の方が先輩だが……スネークが下に見られる事はまず無いだろう。

 

「おお随分と遅い起床だな嬢さ……いやマシュか、思ったより元気そうで何よりだ」

 

「はい、先ほどドクターに診てもらいました、目立った怪我も無いですし、何より先輩も無事だそうです。

所長もじきに目覚めると伝えられました……って、スネークさんの方が知ってますよね」

 

「まあな、だが本人から直接元気だと言われた方が確実だ、とりあえず安心した」

 

「はい……ところで、一体何をしてるんですか?」

 

「……見てわからないか?」

 

「えっと……鍛錬をしているようには見えますが」

 

「そうだが」

 

「本当に鍛錬をしてるんですか!?」

 

「……何をそんなに驚いてるんだ」

 

「だってスネークさんは先輩に召喚されたサーヴァントです!鍛錬の意味は——!?」

 

 

「・・・おいマシュ」

 

 

「………………」

 

「……マシュ・キリエライト」

 

「……はい」

 

「お前は……鍛錬をなんだと思ってる?」

 

この時マシュ・キリエライトは思った

(あっ……わたし、まずいことを言ってしまった)と

純粋な彼女は相手がどう思ってるかはわからなくても、相手がどう感じているかは本能的にわかる。

 

スネークはこの時怒ってはおらず、彼女があまりにも理解していないことに呆れていたのだ。

……が、その呆れは彼女をビビらせるには十分だった。

何せ純粋無垢な少女にとって、お父さんから呆れられると言うのは見捨てられる……とまではいかないが、淋しさと不安を感じるものだ。

少年だとしても、だいぶ歳のいっているおじさんやおばさんから呆れられたら

(自分は何かしてしまったんだ)と感じてしまう。

 

マシュもこの例に漏れず、何か自分がやらかしたと考え次の発言で挽回しようとしていた。

……別に間違えてはいないのだが、発想的な意味で方向を間違えていた、そのため最初に彼女が発した言葉は

 

 

「すいませんでしたっ!」

 

 

という謝罪だった。

 

 

「……いや、俺は謝られる事はしてないぞ?」

 

 

そして待ったをかけるスネークだった。

 

 

「私はスネークさんに鍛錬の意味は無いなんて言ってしまいました、けどそれは人の自由ですし私が口を出すようなことじゃありませんでした……」

 

「……何か勘違いしてるぞ、お前」

 

「いえ、間違えてません、私はまだ先輩のサーヴァントとして未熟なのに——」

 

「待て待て待て、何か勘違いしてるぞ?

俺は別にサーヴァント化した今でも鍛えることに意味があると言いたいだけなんだが。

別にお前が未熟だとか、それだから口答えするなとかそういう意味は無い、むしろ意見を出してもらわなければ困る」

 

「・・・え?」

 

「いやまぁロマンの奴にも言われたがな、確かに今更鍛えたところでステータスは変わらんだろう。

だが俺から言わせてもらえば、ステータスはあまり重要じゃない」

 

「えっ?それは……どういう意味ですか?」

 

突然、自分が言ってることが違うと言われ、今度はステータスは重要じゃないと言い出した。

……一体この人は何を言い出すのかと彼女は思ったが、その言葉をあしらうことを彼女には出来なかった。

 

「そりゃあスキルは重要だ、一体何が出来て何が出来ないかを周りが知るのは戦術としても仲間との連携での意味でも重要だ。

……だがな、筋力だとか俊敏さだとか耐久っていうのは少なくともあまり意味がない、運と魔力に関しては俺の専門外だからなんとも言えんがな」

 

「どうしてですか!」

 

「どうしてだと思う」

 

「えっ?……それは…………」

 

「考えてみろ、一兵卒だろうと下士官だろうと将軍だろうと頭で考えて動けなければ自分が死んで仲間たちが死んでいくだけだ、頭も使え」

 

「………………………」

 

マシュは考える。

それこそ彼女はデミ・サーヴァントになる前は運動が苦手だった、代わりに本から大量の知識を仕入れた。

そしてその知識を繋ぎ合わせるくらいは出来る少女だった、だからスネークからの問いも簡単に答えられた。

 

「……例え力が強くても、早くても、硬くても、最低限の力があれば対処できるから、でしょうか?」

 

「ほう、何故だ」

 

「“柔よく剛を制す”という言葉があります、これは日本の柔術の根幹となっている理法ですが言葉通りなら柔

つまり柔術というのは勇ましさというのを制するという意味だと解釈できます。

私は書物からでしか知りませんが、柔術は徒手をもって相手を制する物です。

しかし日本人は……今はガタイの良い方もいますが昔はそうでもなかったハズです、それでも身長差やパワー差に関係なく相手を制することが出来たのはそういう術があるからじゃ無いでしょうか?」

 

「まぁ概ね間違えてはいない、ただ日本人とかは関係無いな。

例え相手の方が力が強くとも相手のその力を利用すると言った方が正しいな、ジュウドーでは重心移動のみで重力を制することが理想形だとも言われてるしな」

 

「確かにその様な話も聞きます……ですがそれでもサーヴァントにとっては重要なものでは無いでしょうか?」

 

「そうかもしれん、少なくとも楽に戦うには必要だな」

 

「はい」

 

「……だが相手のパワーとスピードが圧倒的ならそれにあった対応をすれば良い」

 

「……具体的にはどうするんですか?」

 

「相手の力が強く、抑えきれるもので無いなら受け流すなり弾くなりして利用すればいい。

相手が自分の2倍・3倍早く動くなら、自分は相手の2倍・3倍の間合いとタイミングを計れば良い」

 

「それは……確かにそうですが……」

 

「難しい、か?」

 

「違うんですか?」

 

「そりゃあ口で言うよりは難しいだろうな、だが実現不可能なことじゃ無い」

 

「……実現するにはどうしたら良いんですか?」

 

「おいおい、それだけ頭が回るならすぐに答えは出るだろう」

 

「……鍛錬、ですか」

 

「そういうことだ、世の中訳のわからん奴は多い、それこそ剣から魔力を放出する様な奴とかな」

 

「……そうですね……」

 

「だが全く手が付けられない訳じゃない。

相手が撃ってくる前に牽制し邪魔をする、相手の内側に入り決定的な一撃を加える、アウトレンジから一方的に攻撃する、他にも色々と発想だけは出てくる」

 

「ですが、あの聖剣の射程圏外からの攻撃と言うのは無理では?」

 

「かもしれん、だが世の中5kmからスナイピングするスナイパーなんざ五万といるぞ」

 

「50000人もいるんですか!?」

 

「……物の例えだ」

 

「あっなるほど……って5kmって大体人が見たときの地平線までの距離じゃないですか!?」

 

「そうだがいる奴はいるからな、俺の部下に」

 

「そうなんですね……」

 

実際、しっかりした装備と弾薬が用意されればこの男もその位やってのけるのだが。

何よりそんな狙撃を10kmマラソン(100mを16秒台)で走ったあとすぐにやってのけるのだが。

 

「だがあの時そんな芸当ができるやつはその場には居なかった。

それに加えて敵は洞窟の中に籠っていた、アウトレンジからの攻撃は不可能だった……が他は出来た」

 

「……確かにそうですね」

 

「俺は発想したことを実現できる様にするために訓練はあると思っている。

さっきも言ったが鍛錬は重要だ、例えステータスは変化の仕様が無いとしても経験は積める、想定外の事態も経験があればそれなりの対応ができる、それなりの対応ができればベストは無理だとしてもベターな結果は残せる、少なくとも一方的な失敗は犯さない」

 

「なるほど……」

 

「おそらくマスターが起きれば現状説明のあと、戦力の増強に移るだろう」

 

「新しい英霊の召喚ですね」

 

「そして、そいつらのほとんどは俺より強いだろう……が、俺はそいつらに一方的に負ける様な姿は晒したくは無いからな、こうして相手をイメージしながら体を動かしてる」

 

「そうだったんですね……」

 

いくら現代の英雄とはいえ、アーサー王と比べればスネークの身体的スペックは劣る。

神秘が濃かった時代の人間は、現代の人間よりも平均的に身体能力は高く、魔術的な意味でも強いらしい。

であれば当然、今後もスネークより強い英霊は当然現れるだろう……だが、蛇は存外しぶとい。

 

少なくとも一方的に攻撃され、蹂躙されるのを良しとするほどお人好しでは無い

 

 

そしてそんな彼の言葉は様々な面で未熟な少女には十分すぎる刺激だった。

 

 

「……スネークさん」

 

「それなら強くなれ」

 

「えっ?」

 

「大方、精一杯頑張ると言うんだろう?

生憎だがただ頑張ったところで報われない奴は報われない、それに結果はすぐには着いてこない」

 

「………はい」

 

「だが弱くなることは無い、どんな奴も最初は赤子だ。

それが運命とやらで選定の剣を抜いたり、マサカリを担いでクマを倒したりはするだろうが最初は弱い。

だが体を鍛え、経験を積み、そうして力を得てまた経験を積むことで強くなっていくもんだ」

 

「………………」

 

「幸いお前さんに力は最低限ある、体も経験を積めば勝手に変わっていくだろう、だがお前には圧倒的に経験が足りていない、多少の経験くらいなら俺でも与えられるが……どうする?」

 

「………はい!よろしくお願いします!!」

 

「良し、良いだろう、ならすぐに戦闘服にでも着替えるんだな」

 

こうしてスネークは格好の訓練相手を確保した。

 

……付け加えると、スネークとしては自身の訓練相手確保の目的もあったがそれ以上にこのマシュという少女を直接鍛える意味も十二分にあった。

スネークがマシュに言ったことはスネークの観察眼から得られた事実だ。

 

人はまず、戦うための最低限の力を必要とする。

ここでいう力とはいわゆる基礎体力であり、銃を持って走る・構える、戦闘を行うための強靭な足腰、

集団の場合ではこれに加え団体行動も加わるが、そう言った前提条件が必要になる。

この点に関しては、マシュはデミ・サーヴァント化したことで十分にクリアしていた。

 

だがそれだけでは強くは成れない

 

今度は経験を必要とする。

そして様々な経験から、どの様に相手を撃つのか・仕留めるのか、どの様に立ち回れば相手より優位に立てるのか、劣勢の状況とは一体どういう時か、その場合どうすればいいのか等々……とにかく知ることは多い。

 

こうした経験が“力の糧”となりやがて“強さ”として反映される。

だがその経験を強さに反映させるのは一つだけ絶対の条件がある。

それをまず彼女は覚えなければいけない。

 

 

「………着替えました」

 

「一瞬で着替えられるのか!」

 

「はい、私のこの服装は魔力が固まってできた様な物ですから、自分の意思で簡単に着替えられます。

もちろんこの盾もそうですけど……スネークさんは出来ないんですか?」

 

「そうだな……今は、出来ないな。

ただロマンやダ・ヴィンチが言っていた霊基の強化がある程度の物になれば不可能じゃ無さそうだ」

 

「そうなんですね」

 

「まぁそれは それとしてだ、早速やるが……準備は良いか?」

 

「ハイッ!」

 

「良いだろう、ならまずは準備体操からだ」

 

「あっはい」

 

「返事は?」

 

「ハイッ!」

 

……その前にマシュが軍隊の基本をしっかりと覚えてしまいそうだが

 

 

 

 

 

ーーー体操中……体操中……体操中……完了ーーー

 

 

 

 

 

「よし、体操は終わったな」

 

「はい……なんかもう疲れた気がしますが」

 

定番であるラジオ体操第一・第二(ただし1.5倍速)をし終えて、2人は向かい合っていた。

マシュの服装と装備は冬木で見たように、大きな盾と随分と露出が多い紫色の格好だった。

 

「まあ最初はそんなもんか」

 

「頑張ります……それで、まずは何をやるんですか?」

 

「簡単だ、とりあえず俺と連続で戦えばいい、宝具を使っても構わん」

 

「はぁ・・・はいぃ!?」

 

「良いか?まず強くなるのは死なないことだ。

どんなに力の糧となりうる経験を経ても死んでしまえば何の意味も無い。

故に素人がまず強者となるには早い話、生き残る術を知れば玉石混交であれ強くはなる。

そのため最初の訓練では走って逃げる方法を教えると老兵までになれたりするものだ」

 

「そんなもの……なのでしょうか?」

 

「所詮そんなものだ。

強敵、ましてや英雄なんて呼ばれてる奴らはそこに天性の才能だったりそれこそ運命的な何かがあったりするがな、だがそういった才能とか言われるものも膨大な経験があって活用できる。

……まぁ中には僅かな経験だけでものにする奴もいるが、そういう奴は天才とよばれる。

ここにも1人いるだろ、天才が」

 

「ダ・ヴィンチですか……確かに。

言われてみれば人間の寿命の中でも科学、数学、工学、博物学、音楽、建築、彫刻、絵画、発明、兵器開発、木工、解剖、自然科学、等の多数の分野に功績を残してますよね……」

 

「……お前の知識の豊富さには俺は賞賛に値すると思うがな。

だがこれから先、逃げ場など無いに等しいだろう、俺が身を置いていた戦場も、隠れる場所はあっても逃げ場など無かった、そして戦いは早々避けられないだろう、であれば何が必要だ?」

 

「逃げる訓練……ではなく、生き残る訓練、ですか?」

 

「そういうことだ、だが俺がお前に求めるのは別に高度なことじゃない。

とりあえず俺の攻撃を捌ききれ、それこそキャスターを相手に散々やっただろう?

今回はマスター無しに、お前と俺の1対1でひたすら戦う、どんなにVRが発展しようが体に叩き込むのが一番てっとり早い、俺の訓練にもなるしな」

 

「縛りは無いんですか?」

 

「俺の部下に徹底させていたのは《仲間にナイフと銃口は向けるな》だけだ。

基本的に攻め手も受け手もない、相手を完全に仕留められる状況に持って行ったら仕切り直しだ。

手加減の仕方や情けをかけずに徹底的に叩きのめすための訓練もあるが、基本的には自分の実力を全力で出せ

俺も容赦なくお前さんを投げる、お前も遠慮なく盾で殴ってこい、くれぐれも殺すなよ?」

 

「こ、殺しませんよっ!」

 

「まあ殺す気でかかってこい、そうでなければ訓練にならんからな、何時でも来い」

 

「……わかりました、マシュ・キリエライト!これより戦闘に移行します!!」

 

「かかってこい、容赦はしないがな」

 

双方の掛け声で2人の訓練は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアァァァァァァ!!」

 

マシュは盾を正面に構え一気にスネークに向かって突っ込む

 

同時にスネークは後ろに後退しつつ模擬戦用のゴムナイフを取り出す

 

そしてマシュは速度そのままに思いっきり盾を正面に突き出した

 

「確かにそれが基本だな」

 

「!?」

 

だが既に正面にスネークは存在せず

 

自身の真横に普通に立っていた

 

「っ!」

 

「そうだ、基本的に盾は相手の正面に構えろ」

 

当然攻撃が躱されたわけだがそれで終わりではない

 

すぐさま盾を真横に振り、スネークの方に向ける

 

「だがまだ無駄が多いな」

 

今度はマシュに向かってスネークが駈け出す

 

それはマシュの真横を取るものだというのは明らか

 

 

であれば

 

 

「・・・ここ!」

 

 

その進路上で盾ごとぶつかれば良い

 

相手が来るであろう完璧のタイミング

 

マシュは一瞬でその進路上に立ち今度は軽く盾越しに押し出した

 

タイミングは完璧で盾越しに押し出した手応えもあった

 

だがマシュは状況を確認せず一旦後退した

 

 

(キャスターさんも、あのアーサー王も欺いたんです、今の手応えも偽物だと考えれば……)

 

 

マシュの予想は正しかった

 

距離を取り盾越しにスネークが立っているであろう場所を見た

 

そこには・・・

 

 

「まぁまぁだな」

 

「!?」

 

「動くな、動けば首が飛ぶぞ」

 

「……いつの間に後ろに立ってたんですか?」

 

 

当然、スネークの姿はおらず

 

彼女の真後ろでナイフを構えていた

 

 

「完璧なタイミングでお前が盾で妨害してくるのは予想ついたからな、突き出してきた所でお前の盾ごと飛び越えた、人間の真上は死角、しかもお前が肩でその盾を押したからな、俺の姿は見えんだろう」

 

「……参りました」

 

「だが油断せず、すぐに距離をとったのは正しい。

相手に一撃を当てたらお前はすぐに敵から距離を取れ、追撃は周りにいる仲間がやってくれる」

 

「……真後ろに飛んだのも予想通りだったんですか……」

 

「いやっあれには驚いた、とっさに俺も後ろに飛んだが危うく下敷きになる所だった、中々やるな」

 

「全く嬉しくないです……」

 

「そう言うな、ホレッ、次行くぞ」

 

一切のインターバルなくスネークは再びマシュの正面に距離を取って立ち構えた

 

反省の時間は与えない

 

なぜなら体に経験を染み込ませるためだ

 

反省点をあげればスネークにだってある

 

だがそんな暇があれば体を動かし最適な動きを探しだせば良い

 

訓練が終わった後でも覚えている反省事項が重要だからだ

 

覚えていなくとも相手が第三者の目線で指摘してくれるからだ

 

そして彼女の訓練相手は人材を育てる点においては他の英霊より遥かに優れていた。

 

 

「……行きます!」

 

「ああ、かかってこい」

 

 

再び彼女は盾を構えスネークに接近する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると今度は盾ごと吹っ飛ばされていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「よし、一旦休むか」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……あの……はぁ……はぁ……どう……はぁ……して……はぁ……」

 

「とりあえず休め、ほらマテ茶だ、飲んでおけ」

 

「はぁ……はぁ……ありがとう……ございます……」

 

「うーむ……デミ・サーヴァントになっても生身であることには変わらない、か。

サーヴァントだろうが生身だろうがあまり関係ないだろうが……オーバーワークには気を付けた方が良いな」

 

「グビッグビッグビッ・・・ぷはぁ!あぁ〜生き返りますねぇ!!」

 

「……随分と豪快だな」

 

豪快ではなく親父くさいとスネークは言いたかったが、珍しく遠慮し言い方を変えた。

彼はまだ知る由もないが、彼女と彼女に憑依したサーヴァントは父親が苦手、というより毛嫌いしている。

 

「はぁ〜……あっ、お茶ありがとうございます」

 

「気にするな、俺の装備の一部だ、幾らでも出せるしな」

 

「そうですか……ところでスネークさんは疲れてないんですか?」

 

「何を言っている、たかが3時間突き合っただけだろ」

 

「たかがって、生前もこんな風に訓練をしてたんですか!?」

 

「そうだな……さすがにそんな盾は使って無かったが組織を作った頃は丸一日相手にしていたこともあった。

だいぶデカくなった後も時折連中の訓練をしていたがな、それでも突き合うだけならまだ軽い方だな」

 

「……具体的に他に何をしていたか聞いても?」

 

「基本的にCQCと射撃訓練だ。

5km走ってすぐに突き合い、その後また走って今度はセーフハウスで突入訓練、また走って、その繰り返しだ

それ以外にもサバイバル・戦術的な座学と実戦、ヘリや装甲車を用いた物に紅白戦もやったか。

他にも色々だな」

 

「はあ・・・すごいですねぇ」

 

「ある程度の練度に全員がなるには必要だからな」

 

ちなみにスネークは言っていないが走って突き合い、走って突入し、の繰り返しは総重量15kgの“標準装備”を着用し、さらに自分の得物……つまり突撃銃や狙撃銃を携行しながら1日行う。

端から聞けば《マジかよぉ……》とドン引きするような内容だが、スネーク達からすれば当然のことだ。

何せ戦場ではそれなりの装備を背負い、1日どころか何日も通して活動する、もちろん銃を抱えて。

 

この訓練はスネークがかつて、組織した所では新米兵士に課せる訓練で、肉体と精神を鍛え上げる訓練でもあり、戦場での銃の扱いと環境に慣れる為の訓練でもある。

 

マシュにはこの手の訓練を必要としない……が精神と肉体が疲弊することには慣れる必要があった

 

“そういう経験”をする必要があった

 

「……さて、ひと休憩としては十分だろう、続きをやるぞ」

 

「ハイッ!」

 

「あーいたいた、2人とも管制室に来てくれ!」

 

「あっドクター、どうしました?」

 

「立香くんが目覚めた、それに所長もね、これから話があるから——」

 

「先輩が目覚めたんですね!?」

 

「……マシュ、お前さんは先に着替えて行っておけ、俺は少ししてから行く」

 

「ハイッ、今度また訓練をお願いします!」

 

「俺は基本暇だ、声をかけてくれれば何時でも相手してやる」

 

「ありがとうございます!ではまた後で!」

 

そう言って丁寧にお辞儀をした後、マシュは一足早く、そして一際早くトレーニングルームから出て行った。

それを見届けたロマニはその後ろ姿をみて頷いた後、スネークに声をかけた。

 

「スネークも来てくれよ、全員に重要な話だからね」

 

「もちろんだ……だがしばらくは若い連中が話していれば良いだろう、そこに首を突っ込む気は俺にはない」

 

「そうかい」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「……あのお嬢さん……所長に言い……説明する内容を考える必要があるからな」

 

「あっ……うん、僕はじゃ……先に行って時間を稼いでおくよ」

 

「まあすぐに行くが…………頼む」

 

その言葉に対して強く頷くことで返したDr.ロマンは管制室に向かって行った。

スネークは何もない天井を仰ぎ、ため息を吐き……葉巻に火を付ける。

 

「……面倒なことは勘弁して欲しいんだが」

 

書類仕事や報告といったものは口頭で済ませていた

 

久しぶりに思える面倒な案件にふと金髪サングラスを思い出した

 

 

「……さすがに虫が良すぎるな」

 

 

そう思いつつスネークはゆっくりと葉巻を吸いながら言い訳を考えていた

 




何かご意見・ご感想がありましたら、作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想聞にて教えてくださいm(_ _)m

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