Metal Gear Fate/ Grand Order   作:daaaper

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邪竜百年戦争オルレアン: 14

「ハハハ!勝った!勝ったわジル!!ついさっきまではどうなるかと思ったけれどコレは勝ったわ!こんなの相手にして倒せる奴なんていないわ!!」

 

「ええ、エエ!そうですともそうですとも!我々が、ましてやコレほどの竜を召喚できるあなたが負けるはずなどありません!」

 

現地時刻 11:45

かの竜らが地上へと現れた瞬間……彼女たちが言うところの竜の王を召喚した時点で彼らの中で勝敗は決した。彼ら2人はステータスの幸運がともにEランクである。逆にここまで思い通りに進んだのは、ジル・ド・レェの狂気に満ちている発言の通り、奇跡の賜物といって過言ではなかった。何より召喚した竜の王は竜の魔女からみても最強の竜だった。なにせファヴニールと比べても数倍強く、さらに竜の息吹(ドラゴンブレス)のみならず多彩な攻撃ができて、しかも動きが早いのだ。

 

コレを上回る生物なんていないわ!とジャンヌ・オルタは満足し、これらを召喚しさらに支配下に置いた私すごい!!と完全に舞い上がっていた。

 

 

 

時間を少し遡り、ジャンヌ・オルタらがあの嵐をどう凌いだのか。

早い話、スネークが見つけて推測を立てた通り、オルレアン城の地下に空間を作り魔術的な工房を作っていた。なぜそんな大それたことをしたかといえば、先の竜の王の召喚を行うためだった。

『そんな儀式めいたことをして……』と思ったジャンヌではあったが、先に説明した竜に関するサーヴァント等の魔力を触媒として、地下にそれらの触媒を供え、竜の魔女である彼女が事前に用意された歌詞を歌い上げ、竜の王を喚ぶという行為は儀式以外の何物でもない。邪神やら眷属やらを召喚するのと決定的に違うのは、完全に自分の制御下に置くことができると言う点くらいで、まさに儀式である。

 

話を戻して。

ジルの指示によって事前に目立つ場所……彼女は屋根の上を頑なに譲らなかったりしたが……で待機。敵であるカルデア一行が通ってくるであろう場所に自身の支配下にあった3体のサーヴァントを配置し、遠距離から宝具(エクスカリバー)を撃たせないために遊撃に1人を当てさせた。

 

そして『あいつらに倒されて死ね』と命じた。その理由とともに。

 

結果として4体のサーヴァントは見事に勤めを果たし、純度の高い燃料と触媒となった。

想定外だったのは初動の段階で遊撃を任せていたサーヴァントが計画通りに動けず、斥候2名を相手する羽目になったことだが、斥候が先にこちらに来ようとしていたため、護衛に控えさせていたワイバーン全てをそちらに回した。どうせ全て倒されるなら、召喚する時間稼ぎのついでにその倒されたワイバーンたちすらも燃料にすれば良い、それによって私たちは詩の通りの最強の竜を呼べる。ジルのその判断に従った。

 

結果としてこちらが2人だけだと踏んでカルデアは宝具をぶっ放すことも無くノコノコと城に近づいてきた。本当なら屋根の上で最期の詠唱をする予定だったが、カルデアのマスターが令呪を切り宝具の同時使用というキチガイ染みたことをやってくれたせいで、本来は空気穴のために開けておいた大きめの穴に飛び降りることで嵐からは避難した。

 

こうして書き上げると運が良かっただけではあるが、運も実力のうちである。地上で召喚しなかったおかげで、未だカルデア側は召喚した竜の王の正体が正確に把握できていない。もし地上にいたならば専門家によってすぐに正体を見破られていただろう。……見破られても苦戦することは必死の竜を召喚したのも事実だが。

 

「そうよね!そうよねジル!?……これで本格的にこの国を、フランスという名の愚かな土地を沈黙する死者の国へと変えることができるわ、そうよねジル?」

 

「そうですとも我が聖処女よ……これほどの竜を従えられる貴女が間違っているはずがない!この奇跡はまさしくジャンヌ・ダルク以外に起こせるはずがない!!」

 

「そうね、今だけは私を褒め称えることを許します。……ですがまだ終わりではありません」

 

「おや、それはそれは私としたことが。しかし連中も呆れ目が悪い、もはや勝ち目などないと言うのに」

 

「ハッ!それはそうでしょう、彼らはまだチャンスがあると信じているのですから。向こうにかつてファヴニールを屠った竜殺しがいるんですもの、頼り甲斐も勝機もあると言うもの。……もっとも、頼られた方はその期待に答えられるとも、見えているのが全てとも限りませんが」

 

「全く嘆かわしい……このまま逃げれば命はまだ助かると言うのに」

 

「英雄様ですもの?逃げるなんてできないでしょう、それにここで逃げたところで何も残りませんが。もっともこちらに向かってきたところで私が何も残しませんが」

 

そう言うと距離を取り、カルデアのマスターを乗せて外周を走っていた箱型の物体が急速にこちらに向かってきていた、どうやら最後の攻勢に出てきたらしい。なんて無駄なことを……そう思いながらも竜の魔女は、黒い鎧を太陽で光らせながら召喚した竜の元へと近づく。それを目にしたジルは、その後ろで跪き、指示を乞うた。

 

「では……竜の魔女よ、ご指示よ」

 

「……私の理想を否定するものたちを皆殺しにしなさい!特に私そのものを否定する私を徹底的に!!」

 

彼女は指示を出した。

自分の理想である死者の国を作り出すために皆殺せと、まるで自分の理想であるかのように。

 

「・・・承りました、我が聖処女よ」

 

そう答えたのを確認した竜の魔女は、後ろを振り返り確認することもなく召喚した竜の王にさらに近づき指示を出し始めた。そしてジルは立ち上がり、おもむろに魔道書を取り出しページをめくる。

 

「……ああ、やはり私は間違いではなかった……間違いではなかったのだ……!」

 

彼女の前では、竜の魔女の前ですら見せたことがないような顔を浮かべる。それは狂気に飲まれた顔でも、狂喜からきた破顔した顔でもなく、ただただ泣きじゃくった様なクシャクシャにさせた顔だった。

 

「私の願いは果たされた!さあ我が主よ!!我々に御身の祝福を!!さすれば私は貴方が望む世界を実現しましょう!!!」

 

時はきた。狂喜はすでに満ちた。

希望は此処にあり、望みは叶い、後は彼女の道を邪魔する愚者どもを殺すだけ。

……かの竜を、詩にあった通りの“彼の者”を本当に召喚できた、これこそ神の祝福であり彼女の奇跡である、ならばもはや負けるはずがない。ジルは何度もその奇跡を確認し、満足し、確信していた。

 

 

 

普通なら考えそうな、ここまでの偶然への見返りや報いというものをまるで考えることもなく

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

例の竜は現在身動きせず、ただ居るだけだが、召喚された竜の王はファヴニールと同様に翼があるが“デカい”。実際には体長が20m以上はあるもの、大きさそのものはファヴニールよりやや大きい程度。

しかし、紫がかった黒を全身に纏っているという見た目とその場にいる誰もが感じ取れる程のあまりにも巨大な生命力がデカさという印象を生き物全てに印象付けている。

 

「全員準備はいいな?特に坊主とマシュ」

 

「よっしゃー!もう当たって碎けろ!」

 

「ダメです先輩!?そんなに興奮したら血圧が上がります!それに砕けちゃダメですって!!」

 

《ふざけてる場合じゃないよ?》

 

軽口を言える程度には回復した藤丸とカルデア一行は最後の攻勢を開始した。

ある意味で、ここで止められなければもうどうしようもないと言う状況が藤丸を壊したともいえるが、発狂しているわけでも、混乱やパニックに陥ってるでもなく、武者震い的なもので触発されて少しおかしくなっているだけで、話も聞いているし言動も……言動はおかしいが、問題ない。

 

「元気そうで何よりだ……ここでいい、止めてくれ」

 

「わかった」

 

車はかの龍がやや大きく見える場所、仮に標的が急に向かってきても藤丸だけでも逃がせるだけの猶予を持たせたところで停車した。逆に言えば他のサーヴァントがどうなるかはわからないわけだが、これ以上距離を空ければ致命的な致命傷を与えられないと竜殺しの直感は告げていた。

すぐにジークフリートは降り、藤丸やマシュ・ジャンヌも降りると、霊体化していたサーヴァントたちも一斉に実体化し周りに現れる。車に乗っているのは運転しているスネークとマルタのみ。

 

《……藤丸くんのバイタルは安定してるけど、いつ悪化するかわからない。だから極力魔力の消費は控えて欲しい。もっとも藤丸くん自身の身に危険が及ぶようなら別だけど……》

 

「ご安心を、守護聖人として彼を守り通しましょう」

 

「マスターがヤバくなる前に仕留めろってこった、まぁ化け物倒すのはアレだが速攻は得意だしな」

 

そう言いながら朱槍を軽く振り回し、トーンと音を鳴らすランサー。

車に乗っているよりも自分で走った方が早いため車には乗っていないが、スネークらとともに龍を追撃。いや、正しくは追撃するクー・フーリンにスネークらが車でついていき、サーヴァントである竜の魔女や魔術師を仕留めるのがスネークらの役割だ。どちらにしろ、クー・フーリンが龍を仕留めるのに重要な役割を果たすことには変わりない

 

「確認するね、ジークさんが最後の令呪で宝具を撃つ、その後にクー・フーリンの刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)であの竜に留めを刺す。あとはさらに召喚される前にあのジャンヌと変なのを倒す」

 

「安心しろマスター、あれだけ的がでかけりゃハズしはしねぇよ。こいつがぶっ放して俺がここで終わらせる、それだけだ」

 

「……本当なら私の手で仕留めたいところだが、私では終わらせそうにない、よろしく頼む」

 

「そう言いなさんなって、俺だけだと骨が折れんだ、お互い確実に効率よくやろうや」

 

なんてことを言って笑いながらジークフリートの肩を叩くクー・フーリンに気負いは一切見られなかった。考えてみれば絶対絶命なんて状況は、彼からすれば日常の一部に過ぎなかったのだろう。仲間が全滅しそう程度なら不安になることもないのだろう。その姿にハッとしたのか、エミヤが顔を見上げゆっくりと近づいて行く。

 

「ランサー……お前……」

 

「あァ?どうしたそんな深妙な顔して・・・らしくねぇぞ?」

 

「いや…………まさかお前の口から効率だとか確実だとか建設的な言葉が出るとは思いもしなかった」

 

「テメェは俺を煽る以外の言葉はねえのか!?」

 

「いや、本当に純粋な驚きなんだが……」

 

「だったら尚更タチ悪いわ!!」

 

そう言いながらもこの2人の言葉からは心から嫌悪している感じは無い。……互いに嫌いな節はあるが、相手の嫌味を言い合える距離にあるのがこの2人の関係性であるとも言える。

 

「……今更だけど、エミヤさんってクー・フーリンだけ態度が違い過ぎない?ていうか知り合いなの?」

 

「・・・腐れ縁、と言うべきかわからないがそこのランサーとはいつも会っているといだけだ」

 

「……会う機会なんてそんなあるの?」

 

「それについてはまた今度語るとしようかマスター、いまは目の前のことが先決だ」

 

エミヤは弓を投影すると剣のようなものを軽くつがえ、竜の王がいる方を見据える。

この場にいる誰よりもいい目(鷹の瞳)をもつ弓兵の目には、今から相手取るモンスターの側に同じく黒い魔女がいるのが見えた。

 

「向こうもこちらを相手するようだ、ジャンヌ・オルタはあの龍の隣にいる。叛逆されないかと期待したが……どうやら完全に手なづけているようだ」

 

「わかりやすくて良いこった……そっちの宝具が合図だ、ぶっ放したら俺が走り始める」

 

「後続のことは気にするな、速攻で仕留めてくれ」

 

「言われるまでもね、っうか早くしねぇと俺が全部仕留めるからな?」

 

「それだと助かる、坊主の体調的にもな」

 

「……おまえさんを煽っても意味ねぇか、なら遠慮なくやらせてもらおうかねぇ」

 

朱槍を一度回転させクー・フーリンは一行の先頭に立ち、穂先を下へ向け、構える。それは同時に姿勢を低くし、重心を下げ一瞬で最高速度を得るための瞬発力を得るための姿勢。この体勢から生み出されるスピードが決して狙いを外さず、ただ一刺で仕留め切る所以でもある。

 

「……こっちはいつでもイケるぜ、始めなマスター」

 

「・・・ジークフリートに命ずる!宝具を解放!俺たちの道を切り開いてくれ!!」

 

最後の令呪が藤丸の手から消え爆発的な魔力がジークフリートに流れ出す

 

同時に竜殺しの聖剣から天を貫く青き光が溢れ出す

 

「……いいだろう、その願い、俺が叶える!」

 

1度目の生では願いを持たず、それ故に自身も周りをも破滅させた。

 

それ故に、だからこそ彼は、サーヴァントとして生を受けたなら、

 

「邪悪なる竜は失墜し」

 

自身が生前に唯一望んだ正義のためにその剣を振るう。

令呪によってジークフリートに満ちた魔力が全てブースターとして宝具に使用され、天を貫いていた青い光の輝きが増したのを合図に、青装束の槍兵の構えが解かれる。

 

「世界は今落陽に至る!!」

 

「ッ」

 

「撃ち落とす!『幻想大剣・天魔失墜』バルムンク!!」

 

大地を断つかのように黄昏の剣が振り下ろされ、土を弾き飛ばし大地を抉り空間を裂きながら光線が、ガレキと化した城に召喚された竜へと一直線に突き進む。だが、宝具を用いて攻撃しているにもかかわらずこちらの狙いである黒龍は回避することもなくその場で佇んでいる。実際にジークフリートが繰り出した宝具を黒龍は認識しているがそのまま受け止めること決めたらしい。

 

瞬間、

 

大地ごと抉りとばし来た青い光は1匹の黒龍を捉える

 

黒い体躯ごと切り裂かんと辺りに光が弾け飛ぶ

 

一方の黒龍は宝具の効果から抗うかのように叫び、光を浴び続けている

 

 

ヴィイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

「「・・・ん(ニャ)?」」

 

《効いてるぞ!あの竜の魔力が弱まっ——》

 

「すまない!やはり仕留めきれないようだ!!」

 

《ええ!?そんな?!》

 

「いいや本当さ、殺しきれてない」

 

 

黄昏た空はやがて夜を向かえる。

青い光が途切れ始めた途端、黒龍が羽ばたかせたかと思うと叫びは咆哮へと変わり、土煙が凄まじく舞い上がりその漆黒の姿を城の瓦礫ごと隠したのを鷹の目が見届ける。その壁の様にも見える砂嵐は魔術によって目を強化することもできない藤丸でもみることができた。

 

ただその場に在り続けるその龍は、なるほど確かに幻想種であるドラゴンでありとてつもない化け物だろう

 

竜殺し1人では有利を取れても殺しきれないのは確かだ

 

なにせ竜殺しは一匹の竜を相手にしたが化け物を何匹も相手にしたわけではない

 

ましてや“竜”殺しであって“龍”殺しではない

 

 

だからどうした

 

 

「穿つは心臓、謳うは必中……!」

 

何も一人だけで化け物を相手取る理由はない、使えるものはなんでも使えば良い

 

協力する、と言えば恰好が悪いなら共闘とでも言えばいい

 

一帯に舞がっていた凄まじい黒い土煙のカベに朱槍の光一閃の軌跡が描かれる

 

青装束を身にまとった槍兵の得物は、例え対象物が直接見えなくとも的を外さない

 

真名解放によって砂の壁を貫通した一閃はただ砂嵐の中にある心臓を穿つ

 

 

「刺し穿つ死棘の槍『ゲイ・ボルク』!!」

 

 

呪いの朱槍は確かに1つの心臓を穿ち、その感触をクー・フーリンへと確実に伝えた。

 

《おうさぁ!》

 

「ッ!」

 

同時に無線に流れた“音”で仕留めたことを把握したスネークは、車を急発進させる。車に同乗するのはジャンヌとマルタの聖女2人である。

 

「あの竜は仕留めたわね」

 

「……だが、どういうことだ」

 

「どうしたのよ?」

 

「まだ確証はない……無いが、明らかにおかしい」

 

「さっきからおかしいって、一体何がよ」

 

シフトチェンジをしながら3人と一匹を乗せた4WDの車両は龍の元へと迫っていくが、運転するスネークは明らかな違和感を感じていた。なぜそんな違和感を感じるのか、トレニャー にスネークは尋ねた。

 

 

「・・・さっきのあいつの咆哮、いや声だが……」

 

「だから一体何よ」

 

「アレが砂を巻き上げる直前にしたあの咆哮・・・俺は聞いたことがある」

 

「・・・はあァ !?」

 

「き、聞いたことがあるってどういうことです!?」

 

突然トンデモないことを言い出したスネークを聖女2人が身を乗り出して問いただす。

だがスネークはあくまで端的に事実を確認するように言葉を続けた。

 

「そのままの意味だ。もっとも聞いたことがある気がする、と言った方が正しいが……!」

 

その時、スネークは鋭い視線を前方の砂嵐の中から浴びた。ハンドルを思いっきり左に切り当然ながら車に乗っていれば慣性の作用で右に体が振り回される。

 

「ちょっ、もう少し優しく運転しなさいよ!」

 

「ッエミヤ!クー・フーリン向かって範囲攻撃できるか!?」

 

《……なに?》

 

「早くしろ!アレはまだ倒せていない!!」

 

《——I am the bone of my sword!》

 

スネークからの後方支援要請に対してエミヤは投影魔術によって応えた。

無線からながれてきた詠唱の数瞬後、走らせている車の後方から数射の剣が砂嵐の中へと飛翔し、爆発する。

 

「だ、大丈夫なんですか!?あの中にはまだ——」

 

「味方のFFに当たるような奴じゃないだろうそれに・・・捕まっていろ!!」

 

ジャンヌがクー・フーリンの心配をするが、構うことなく砂嵐の中を注視していたスネークは再びハンドルを切る、それも先ほどよりもデタラメに。そのせいでリアタイヤは滑り車はドリフトの様な状態で急激にスピードが落ちる。

 

それによって——嵐の中から飛来してきた火球が車の右側で炸裂した

 

「ッアツイな!」

 

「ちょっと何いまの!?」

 

「竜からの攻撃だ、竜の息吹(ドラゴンブレス)じゃないが——来るぞ捕まれ!!」

 

スネークが説明する暇もなく、すかさずギアを変えて車を急反転、今度はタイヤを滑らせずに全ての摩擦をタイヤに伝えスピードを上げ始める。

直後、今度は三つ連続で火球が車の方へと飛んで来た。それらは車が加速していなければ確実に直撃していたコースであり、的確に前後の逃げ場を塞いでいたが、スネークらが乗る車には熱だけが届くだけに留まった。

 

《今の火の玉なに!?》

 

《悪りぃ!肝心なところでトチッッたぁ!!》

 

マスターの声が無線越しに聞こえてくるが、同時にクー・フーリンの声も届いた。そしてどちらも声に余裕がない。

 

《ッ!?トチッたってどう言う——》

 

「クー・フーリン、2匹いたな?」

 

《ああ、1匹は確実に当てたが俺が当てたのは1匹だけだ、もう1匹はジークフリートのが当てたが仕留め切れてねぇ》

 

「2匹もいるってわけ!?」

 

「そうなる・・・しかも最悪なことに単なる竜じゃない」

 

《・・・ニャー》

 

わずかに無線から悲しそうなトレニャーの鳴き声が聞こえてきた。

その意味をスネークは悟ったが、ほかのサーヴァント達は先ほどジークフリートやクー・フーリンが宝具を放った場所から膨れ上がる魔力に反応する。

 

《ッなんだこの反応!?もはや生命反応どころじゃない、もはや魔力そのものだぞ!?しかも聖杯とまるで違う!!》

 

「“竜”だ、ワイバーンの意味でのな、それも——」

 

《うん間違いないね、その上で確認するけど君は最悪な竜と言ったミラボレアス 、だったかな?それじゃない個体、しかも二体いるわけだけど、検討がついているわけだね?》

 

「ああ、ほぼ間違いない、あの色合いは初めて見るがな」

 

“黒龍”の予想通り、漆黒の体ではあるものの、記憶を遡ればあの咆哮は確かに“竜”である。

そして記憶通りの“竜"であり、さらにもう1匹ここにいるというならば、『チコ』の話でしか知らなかった夫妻だろう。それも黒いというのであれば……二つ名だろうと。

 

「簡潔に言う。あれの名前はリオレウスとリオレイア、番のワイバーンみたいな竜だ、しかも通常個体じゃない」

 

《通常個体の定義も気になるけどね!?》

 

ドクターがもっともなツッコミをするが、スネークは当然のように反論する。

 

「いいや、あれはその中でも特殊な個体だ、色も違うが強さが段違いだろう。その強さに畏怖を込めてあの個体には二つ名が付いてるらしい」

 

「二つ名……?」

 

「そうだ」

 

「ハハハハハ!勝ったわ!!これであなたたちに勝ち目はないわ!!!」

 

砂嵐の中から声高々に竜の魔女が宣言する。

その声音は一切の疑いもなく自分自身の勝利を信じており、実際にその通りの存在が彼女の側にはいた。宣言直後に砂嵐は晴れ、先ほどの紫黒色の個体が・・・黒いナニかと共に現れた。

 

「本当に2体もいる!」

 

「あれほどの力を持った竜が2体、なぜ争わない……!?」

 

「ッ先輩は我々の後ろに!」

 

その巨体は離れた場所にいる藤丸たちからも確認でき、ジークフリートは驚きを隠せなかった。なにせ彼が知る竜とは欲望の権化となった悪竜であり、そんな存在が仮に同時に出現したのなら仲間割れをするのが当然だと経験から知っている。

だが、今出現している竜は彼の知っている、いや、この場に召喚され現界しているサーヴァントたちの常識からはかけ離れた世界からやってきている。それを知っているのは……

 

「間違いないニャ!あれはリオレウスとリオレイヤに違いないニャ!!」

 

「……道理で聞き覚えがあるわけだ」

 

《スネーク、手短に教えておくれ・・・あの竜は何なんだい?》

 

かの万能の天才はあくまで冷静に、しかし声音からは好奇心とそれ以上の危機感が混ざった焦りがたしかに伝わってきた。そしてスネークは言葉を返した。

 

「『黒炎王』リオレウス、『紫毒姫』リオレイアだ」

 

 




まさかのこっちの方が先に書き上がりましたので、投稿させていただきます。
けど、中途半端に終わりそう、本当に申し訳ない。

何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。

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