Metal Gear Fate/ Grand Order   作:daaaper

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し、新年明けましておめでとうございます。

そしてごめんなさいm(__)m
今年初の投稿で謝罪する作者がいるだろうか、いやここに居る。
というわけでお久しぶりです。
ひとつ前の話をタップすると9月という文字が見えるでしょうが機能性です。

嘘です、本当です、本当にお待たせしました。
大学生活が急激に忙しくなり、執筆・投稿するタイミングを完全に失ってました。
詳細については今日の18時頃に活動報告をあげようと思いますのでそちらをご覧ください。

とりあえずまずは本編をどうぞ。





邪竜百年戦争オルレアン:11

()邪竜ファヴニール を倒したその夜、一行はボルドーにいたメンバーを車に乗せリヨンの街へと戻っていた。昼過ぎにボルドーを発ったため、リヨンに到着した時には夕御飯を食べる時間にとっくになっていた。

 

「・・・ニャァ」

 

「・・・残念だったな」

 

「・・・ニャァ」

 

「……こいつらいつまでため息吐いてんだよ」

 

そして行きと同じように5時間ほどのドライブだったわけだが、その5時間をかけて2匹のネコとヘビはひたすらため息をついていた。どうやらトレニャー曰く、モンスターの肉は攻撃すればするほど美味しくなるらしく、爆破に叩きつけ、挙句にジークフリートの宝具を喰らったファヴニールはさぞ美味しいハズ……と思ったものの、実際にはファヴニールはモンスターではあるが幻想種であり、倒されると血肉は残さず、幻として消え去ってしまうのだ。

この点はサーヴァントでも似ている部分があるが、サーヴァントの場合は魔力によって体が形成されてはいるものの血は出る、ただし体がある程度傷害されたり脳や心臓をやられると霊核が破壊され消えてしまう。

そんなわけで、どっちみち幻想種のお肉を味わうことなんて出来ないわけだが何故かこの2匹は本気で残念がっている、それこそ5時間ほどずっと。

 

「スネークさん、そんなに食べたかったの?」

 

「……いや、食べることが出来ないのはわかっている、所詮仮初めの体に過ぎなかっただろうしな」

 

「それなら——」

 

「だが食べてみたら!あれだけ攻撃すれば!!とてつもなく美味かったかもしれないだろう!!?」

 

「……そう、ダネ……」

 

《どうしよう……藤丸くんの目が……!》

 

人である藤丸もそうだが、幾多の戦場を駆け抜けた英雄や革命の渦中に放り込まれた王族も思った、

この眼帯の男は一体なにを言ってるのだろうかと。

 

そも、攻撃すればするほど美味しくなるなど誰も聞いたことがなかった。無線を通じて他のサーヴァントにも聞いたが、エミヤやマルタ、カルデアにある本を読み漁ってるマシュでさえもそんな話を聞いたことが無いという。エミヤに至っては『そんな肉叩きじゃあるまいし……』とのこと。

 

「そんなに落ち込んでどうすんのよ!明日はあの女の城に攻め込むんでしょ!」

 

「そうですよマスター。この清姫、美味しいお肉が食べれないのは残念ですが……」

 

「あんたまで何言ってんの!?」

 

そしてなんか爬虫類がみたいなのが2人街のなかで藤丸に話しかけているが、そのうちの尻尾が出てるチビッコいピンク色の髪をした方が言ったように、明日カルデア一行は現地で仲間になったサーヴァントとともにオルレアンへ進撃することを移動中に決定した。

 

理由は2つ、1つは極めて巨大な邪竜であるファヴニールが倒されたこと。どうやらワイバーンと同様にジャンヌ・オルタが召喚したようだが、召喚されたワイバーンをある程度使役していたのはファヴニールだったらしく、ボルドーからリヨンに戻るときも混乱しているワイバーンの個体や一匹で孤立しているものが多かった。

(ある意味で)専門家であるトレニャーが(落ち込みながらも)言うには、大声で指示を出していたのがファヴニールだったらしく、その大声が消えたため個体ごとに好き勝手に動いていると言う。

 

そしてもう1つはオルレアンに戻ると、ジャンヌ・オルタが言ったこと。

スネークが報告したジルとは、ジャンヌがいうには向こうからすれば軍師のような役割をしているだろうとのことで、そのジルの言葉なら私は聞くだろうとのこと。そのジルからの言葉をうけてオルレアンで態勢を立て直すと言ったなら明日は確実にオルレアンにいるだろうとジャンヌ自身が強く断言したこと、この2つをもって藤丸は正面突破を選び、ほかのサーヴァントたちも同意した。

 

つまり明日が決戦である。

 

「……そんな訳で夕飯な訳だが、そこの落ち込んでいるペアはワイバーンのお肉は口合わないかね?」

 

「「食べる(ニャ)!!」」

 

「あいつら、食い意地がはりすぎで単純すぎるだろう」

 

そう言うのは黒き騎士王である。

 

「……片手にワイバーンの肉ともう片方にパン抱えて口を膨らませてる君に言われてもな」

 

「(モッキュモッキュ)…………一体なんのことだ」

 

「一口全て食べきった……だと……!?」

 

訂正する、めちゃくちゃよく食べる暴食王である。

彼女にかかれば両手いっぱいの肉とパンなど一口で食べ終わる、それをしないのは何となくであって、理由があれば速攻どころか神速に迫る勢いで食べることなど、紅い弓兵の瞬きも許さずに実行可能なのだ(なお盗み食いはバレる模様)。

 

「アレかな?君たちって大食い選手の団体なのかな?」

 

「アマデウス、あなたが言うの?」

 

「え、なんでさ?」

 

「あなたよく飲むでしょうに」

 

「……さて、僕は飲もうかな」

 

「ダメよ」

 

そしてそんな英雄達とは本来は縁もゆかりもない音楽家にも、こと酒飲みという点で勝るとも劣らないことを知っている王妃様は事前に手を打つため、やり取りをしていた。そのやり取りには別も思惑もあったりするが。

 

「はぁ、全くもって賑やかね、これでも明日攻勢かけるっていうんだからビックリだわ」

 

「ふふ、けど楽しく賑やかです」

 

「……そうね」

 

そして聖女2人組みはそんな一行の騒ぎを聞いているうちに、自分たちも楽しみたくなったのかゾロゾロと出てきた街の人々を見ながらそんな言葉を投げかける。もっとも、街の人たちは酒と軽食を片手にジークフリートやマシュに話しかけ、同じ街の人たちと話しているだけで、ドンチャン騒ぎをしているわけではない。まだ人に迷惑をかけるほど夜も遅くない、幸い月も満月ほどではないが軽くお酒を飲んだ程度でこけるほど暗くもない。

 

「さて、私も少し参加しようかしら」

 

「そうですか……」

 

「あら、あなたは参加しないの?」

 

「アハハ、何というか……」

 

「……良い?あなたは彼女とは違うわ、それも根本から」

 

「・・・エッ?」

 

「だって彼女……若い頃の私とそっくり過ぎてヤバい」

 

「……え」

 

「なんであんなにそっくりなのよ……だから召喚されちゃったのかしら」

 

「えっあの……え、マルタ様ってあんなに口が悪かったのですか?」

 

「そうじゃないわよ!!……っあ、いやっ、そうわけでは、いやそういう面もそうなのだけど……」

 

「……ふふっ、すいません、ついイジワルを」

 

「っぁあもう……その様子なら大丈夫そうね」

 

「ええ、私はマルタさんと似たような町娘です」

 

「……そうね」

 

それだけ言うとマルタは街の人ごみへと向かっていった、どうやらオロオロしているマシュを助けるようだ。

一方でジャンヌはワイバーンの肉のおかげですっかり元気になった2匹がいるカルデア一行の方へ歩いていった。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

同時刻:フランス、オルレアン城にて

 

城の窓辺でただ外を眺める女が一人。

満月では無いものの、足元を照らすには十分な月光がその窓辺を照らす。

 

彼女が漆黒の鎧を纏っているからなのか、聖女だからなのか、竜の魔女だからなのか、“彼女だから”なのか

確かなのはその姿はとても綺麗だった。

 

だがその姿を正しく見ることできる者がこの場には誰もいなかった。

 

「……ジャンヌ、ジャンヌよ」

 

「ああジルですか……何です?」

 

「恐らく、明日カルデアの者たちは攻めて来るでしょう、ファヴニールが倒されましたからね」

 

「そうね……ですが」

 

「ええ、間に合います。幸い触媒は事前に用意してあります、それに“縁”も。どれもこれも貴女の幸運の賜物です」

 

「……あなたが幸運と言いますか」

 

「ええ、ええ!もちろんですとも!!なぜなら神はおらずとも個々にあなたが居る!そしてここに存在している!!……それだけで十分奇跡でございましょう?そしてそんな貴女自らが手繰り寄せたのです、これを幸運と言わずなんと言いましょう」

 

それが当たり前のことだと、当然であると疑わずジル・ド・レェは竜の魔女にただ事実を伝える。

内容は側から見れば狂信者のそれでしかないが、それこそが彼が考え、感じ、信じている事実だからだ。

 

「……そうね、私がバカだったわジル」

 

「そんなことはございませんジャンヌよ。

……もし貴女(竜の魔女)がバカだというのなら、それは貴女(ジャンヌ・ダルク)です、救おうと尽力しその身を捧げ、そして裏切ったこの国を守ろうとする貴女(聖処女)でしょう」

 

それが、それだけが彼にとっての事実である。

 

そう言い切ってジル・ド・レェは、自身が持つ本から一枚の紙切れをジャンヌへと手渡す。

それを受け取り、目を通し……軍師であり、生前から頼れる相方である彼に竜の魔女は言う。

 

「……わたし、文字読めないんだけど……?」

 

「ええ、ですから事前にジャンヌには音読で覚えていただきました」

 

「ならこの紙はいらないのでは……」

 

「いえ、いえいえ。

その紙は重要な触媒なのです、そしてその紙には歌詞が書かれている。歌詞の書かれた紙は手に持ち歌うために存在します。たとえ歌詞を覚えていたとしても手に持ち、書かれた歌を歌うことで意味をなすのです」

 

「そう……では私は召喚を急ぎます。例え竜殺しがいようと、騎士王が居ようと、わけのわからない奴が居ようと……全て無意味よ」

 

「ええ、そしてそれこそ貴女が目指す境地、ワイバーンや竜種による楽園をこの地に築くこと!

竜の巣となり不毛の地と化したフランスを破綻させること!!」

 

「そうね……竜同士が際限なく争い、そして世界を破綻させる。

そのために最適な状況を作った私はたしかに幸運かもしれません、やはりあなたに助けられて、ですが」

 

そう言いながら竜の魔女は唄いはじめる

 

その歌はジルがかの盟友から受け取った本とは“別に”新たに受け取ったと言うとある歌詞

 

宝具ではないが召喚に使う祝詞であるという

 

そんな歌が書かれた紙をもち、竜の魔女は歌詞を読み上げ始めた

 

 

 

「数多の竜を駆逐せし時

伝説はよみがえらん

数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時

彼の者はあらわれん

土を焼く者

鉄を溶かす者

風を起こす者

木を薙ぐ者

黒炎を生み出す者

喉あらば叫べ

耳あらば聞け

心あらば祈れ

天と地とを覆い尽くす

彼の者の名を

天と地とを毒で覆い尽くす

彼の者の刀自をも

 

数多の竜を駆逐せし時——」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「……ニャ?」

 

「ん、どうしたトレニャー」

 

「………オイラ、わかったニャ、ここに来た理由」

 

「……なんだ、言ってみろ」

 

「・・・その肉くれニャー!!」

 

「だと思った」

 

シュバッという音を立て、一瞬でスネークが手に持つ皿のにあるお肉へと飛び立つトレニャー。

だが相手は歴戦の傭兵、団体で食べていればそんな輩が沸くのは世の常である……もっとも、総司令官であり自分たちのBOSSでもあった彼の皿にあるものを取ろうとするのは古参の幹部連中かいい感じのバカ(研究開発班)くらいではあるのだが。

そんなわけでトレニャー の奇襲作戦はあっさり躱され、コロコロと体が転がっていく。

 

「おいおい、まだ食べるのかね?」

 

「そうニャー、明日はオイラも頑張るニャー!」

 

「……バカにできない事実だからな、ならこれも付け加えてやろう」

 

そう言ってエミヤはトレニャーに追加でソーセージをあげる。じつはリヨンのソーセージはこの地の郷土料理として有名なのだ。そも、フランスにおいては14世紀に屠殺方法から紹介されたソーセージの作り方が紹介された本が出版されているほどである。当然うまい。

 

「ンニャ!……それでオミャーさん、お願いがあるんだにゃ」

 

「ん、俺にか?」

 

「とりあえずコレをあげるニャ」

 

「ならそのソーセージもくれ」

 

「どうぞなのニャ」

 

「なん……だと……!?」

 

あまりのトレニャーの行動に驚きを隠せず、

 

アルトリアは刮目した

 

まさか野生のネコ(というには色々無理がある)が

 

他のものに食料を分けるとは思いもしなかったからだ。

 

だって自分はしないから。

 

……そんな姿を見つけたエミヤは追い討ちをかける。

必死に心の中の動揺を隠している(気でいるが何だかんだ縁のある人間にはバレバレな)彼女にスタスタと近づく。近づいて来る彼に気付いた黒き冷酷な騎士王は顔を地面に伏せスッと目を閉じる。

 

反抗の構えである。

 

「さて、騎士王よ」

 

「…………」

 

「そこに子供達がいるわけだが、君のもつソーセージを見ているわけだが?」

 

「……………………」

 

「ちなみにマスターも君の様子を見ている——」

 

「!?」

 

「——かもしれん」

 

「…………食べたいか?」

 

コクコクっとものすごい勢いで頷く子供達。

 

 

数秒後、彼女の分とは別のソーセージが藤丸やエミヤによって提供された。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「フゥ〜」

 

「食い過ぎたか、マシュ」

 

「あっスネークさん、スネークさんも大丈夫ですか?」

 

「当然だ、俺がそう落ち込むと思うか?」

 

「ハハハ……5時間ずっと落ち込んでた気がするのですが」

 

「気のせいだ、気にするな」

 

1〜2時間後、そこそこのお祭り騒ぎになっていた街も子供達が眠くなって来たと家に帰り始めるのを切っ掛けに、お母さんやお姉さんたちが帰り始め、残っていても意味がないと思ったのか男たちも帰り、リヨンは再び静かになった。いま街で起きて活動しているのはジークフリートと見張っているサーヴァントや、今こうして街中を歩いているマシュと言った具合だ。

 

「……しかしお前たちが仲間にしたあの2人、随分と特徴的だったな、まぁどっちも竜絡みだったが」

 

「そうですね……スネークさん、清姫さんが竜だとご存知なのですか?」

 

「知ってるも何も、清姫って名乗った時に清姫伝説の清姫だろうと思ったからだが」

 

「……なぜ日本の説話を?」

 

「ん、傭兵ってのは意外とジャンルを問わず情報を仕入れられる所だからな、俺の部隊が特殊だったのもあるだろうが部隊の中に日本人がいたからな」

 

「では、その日本人の方に聞いたのですね?」

 

「……まぁそうだな」

 

実際は色々と違う。

1つ、スネークの部隊は傭兵部隊ではなく諜報・兵站・武力等が統合され運営されていたため、一国の軍隊レベルだった。そのため様々な情報が入って来るし、そんな部隊の長であるスネークのところには自然と報告や雑談という形で情報が入っていたりする。トレニャーやモンスターに関する話の情報源はコレだ。

 

……清姫伝説は、とある金髪グラサン野郎があまりにも女関係でひどすぎるので、少し懲らしめるための警告のために嫉妬や色物の怨念伝説的なのを調べた時にたまたま出て来たのだ。なお、その金髪グラサン野郎はそんなささやかな警告を無視し、金髪グラサン野郎自身が隊員のためと言って作ったサウナで隊員の女とおっぱじめたので制裁を受けた。やはり説話を無視してはダメなのだ。

 

だがそんな話、少女であるマシュに聞かせる気は毛頭なく、一応日本人に教えられたというのも間違いではないのでスルーした。

 

「そろそろ寝ておけ、明日は早朝から移動、そこからは一気に攻め込む、攻めてる途中でお前が倒れたら一大事だからな」

 

「大丈夫です、先輩は守り切ります、それに守るのは私だけじゃなくジャンヌさんやマルタさんもいますから」

 

「そりゃな、だが体調面だけはどうしようもできんぞ」

 

「それもそうですね」

 

そう言うマシュの顔はわずかに下を向いていた。

伊達に部隊メンバーの全員の顔と名前を覚え続けていた男ではない。他人の心の変化には敏感だ。

 

「……いいかマシュ、怖いのは当然だ」

 

「・・・わかりますか?」

 

「まあな。ほかの連中はどう声をかけたもんだか悩んでたようだが。エミヤはお前にオマケをしてたようだが」

 

「そういえば……欲しそうだったので少しアルトリアさんにあげましたが」

 

「そういえばトレニャーをみて驚いてたが……まあいい、でだマシュ」

 

「……怖いです、だってあれだけの人があっさり死んで、しかもあんなに大きいドラゴンも出てきました」

 

ロマンが無茶だと言ったのはクー・フーリンに担いでもらい移動することもそうだが、マスターである藤丸自身が戦場のど真ん中に突っ込むという行為そのものを危惧したからだ。もっともそんな親心的心配はアイルランドの大英雄が一蹴した『俺らのマスターの願いにケチつけんな』と。

 

「幸い相手がファヴニールだった、ジークフリートを仲間にできてなかったら正直危なかった。

それに大急ぎで来てくれたお前の先輩のお陰でな」

 

結果として令呪を使うことで自分のサーヴァントを退避させるのではなく、増援の、しかもドラゴンスレイヤーという最適な剣士を呼び出すことで、相手の最大戦力であろう巨大な邪竜を倒すことができた。コレに関しては誰も避難することもない、あの状況で考えられる最大の成果であり最適解であろう。

 

「俺があのファヴニールを倒した後にトレニャーにC4を仕掛けさせたお陰で竜の息吹(ドラゴンブレス)を吐かせることはなかったが……一度でも吐かれていたらマズかった。あそこまで妨害がうまくいくとも思ってなかったからな」

 

あの時、ボルドーの街には邪竜のブレスを完全に防ぐ術をもつサーヴァントはいなかった。ジャンヌの宝具で減衰はできただろうが、それでも被害は確実に出ていただろう。マシュがいれば話は別だっただろうがそのマシュは別行動の藤丸と共にしていた。それに時間稼ぎも当初は2時間だったが結局1時間で相手の援軍が来てしまった。

 

同時にこちらも大軍宝具持ちの援軍が来たとはいえ、あのままクー・フーリンの援軍も来なかった場合、召喚された海魔によってそれこそ押し切られていたかもしれない。

 

「だが藤丸は、俺たちのマスターは来た、早まったタイムリミットに間に合ってな。それにファヴニールをあの場で倒せた」

 

だがそれを藤丸は変えた。

猛スピードで駆けつけたクー・フーリンの存在を感知した相手は海魔とファヴニールを囮として逃げ、その囮に苦戦を強いられるところを一方的に倒せたのだ、その功績は勲章ものである。

実際に勲章をあげる者はいないが、少なくともマスターの勇気ある行動として彼の後輩もカルデアに召喚されたサーヴァントも認めている。

 

「……ですが私は戦っていません」

 

だが当の本人は認めていない。

 

「そうだな」

 

自分を英雄だとは考えない

 

「…………あの時、私は…………先輩についていけませんでした」

 

「移動手段がなかったからな」

 

「……違うんです……あの瞬間…………怖くなってしまったんです」

 

「…………」

 

「…………先輩が行くとおっしゃった時、私は…………どうしたらいいかわからなくなりました」

 

マスターの盾になるという役目を一度果たせなかった、それはマシュにとって大きな壁となっていた。

 

「先輩を守るのが私の役目だと言うのは分かっていますっ!けど…………それでも…………」

 

 

恐怖のあまり体が、声が出せなかった『私もついて来ます』と

 

 

「…………こんな、こんな怖いという感情だけで何もできないサーヴァントを——」

 

 

 

マスターは必要としない

 

 

「それは違うニャ?」

 

 

それは違う

 

 

 

「・・・え?」

 

「おミャーさんは頑張ってるニャー」

 

「と、トレニャーさん……?」

 

「おミャーさんはここにいるニャ」

 

「…………はい」

 

「おミャーさんは逃げて無いニャ、あの男の子もそうニャ。怖くてもここにいるニャ」

 

「……………………」

 

「それ以上にすごいことがあるかニャ?」

 

通りすがりのアイルーは知っている、力ないモノは逃げると。

 

そして同時にトレニャー は知っている、逃げてない彼女は英雄の証をもう持っていることを

 

「………………」

 

「……いいかマシュ、怖いと思っていない奴はここに1人もいない」

 

「それは……スネークさん、も、ですか?」

 

顔を下に向けているが、それは声音が震えていることからなんとなく悟ったスネークはやや顔をそらし、月明かりが出ている方へと向けた。誰にでも、見られたくない顔くらいある。そしてスネークは質問に答えた。

 

「俺だけじゃない、この場にいる誰もが感じていることだ」

 

「で、ですが——」

 

「人が心に思ってることが全部お前にわかるのか?」

 

「そ、それは……」

 

「わかる訳がない、わかりようが無いからな、だが全部じゃなくとも理解することはできる」

 

そう言って葉巻を取りだ——そうと思ったが、彼女に葉巻の煙を吸わせるわけにもいかないと思い、ヒゲを触るだけにとどめた。

 

「理解……ですか?」

 

「ああ、言葉や表情を通してな。

俺やほかの連中も、お前も含めて、全員恐怖は感じていたし感じている。だがもしお前がそう見えないなら見えないだけだ」

 

「それは……皆さんは見せないように努力しているということなのでしょうか」

 

「……俺たちは英霊だ、そしてお前もそんな英霊の1人の魂を宿している。

たとえ怖いと感じようとやれることを、やるべきことをやってるだけだ。乱暴な言い方をすればやせ我慢してるだけだ」

 

「そ、そんな風にはとても……」

 

「見えないだけだ、それにトレニャーも言っていた通りこの場に居るだけで十分だ。

……それでも足りないと思うならやれる事を増やせばいい、そのくらいの手伝いを惜しむ奴はカルデアにはいない」

 

「……私は、皆さんや先輩の迷惑をかけてまで、旅をしていいのか不安です。先輩のサーヴァントとして頑張ろうという一心でこのフランスに来ました。けど実際にはアルトリアさんやスネークさんを始め、ほかのサーヴァントの方々に頼ってばかりで……」

 

「それは、そう思えるならお前にとってはそうなんだろうな」

 

「…………」

 

「だが実際にお前の行為を評価するのはお前自身じゃない、他のやつだ。

仮に……そうだな……ジャンヌのお前に対する評価を上げれば『一生懸命頑張っている』だったか」

 

「……え」

 

「彼女が合流した日の夜の話だ、確かに彼女はそう言った。

仮にお前がサーヴァントとして三流で、この場に居る誰よりも弱かったとしても、だ。お前が頑張っていることは少なくともフランスの救国の聖女は知っている、もちろんほかの連中もだ。だれもがお前を未熟だと知っている、誰もがお前が頑張ってることも知っている。知らないなりに、怖がっているなりに、慣れてないなりにな」

 

「……………………」

 

「お前はまだ世界を知らないし慣れてないだけだ、そう焦るな」

 

「……私は先輩のサーヴァントになれるでしょうか……?」

 

「・・・ハァ」

 

そんなマシュの出した声にため息を吐くと、スネークはマシュの方へと振り返りパチンっと彼女の頭を叩いた。

 

「アタッ!?」

 

「バカ言うな、お前は最初の、藤丸のサーヴァントだろ。冬木で俺が召喚される前からあいつを守っていただろ」

 

「そ、それは……」

 

「明日は決戦だ、こっちも全力で攻めるが向こうも抵抗するだろう。

俺たちが攻撃している間はどうしてもマスターへの意識は薄まる、その間お前がいるだけで俺たちは遠慮なく戦えるんだ、そうは今のお前には思えないだろうがな」

 

「…………」

 

「意味ない事はこの世に1つもない、お前がここに居る意味も、俺がここにいる意味も、だ」

 

「そしてオイラがここにいる意味もあるニャ!」

 

スネークの言葉にトレニャーはスワッと立ち上がり片手を空へと突き上げた。

結構カワイイ。

 

「そうだな」

 

「…………ふふ」

 

そして結構シュールである、だって格好がヘルメットとピッケルにリュックサックを背負った猫なのだから。

 

「お前がここにいる意味を見出すのには時間がかかるだろう、だがそれでも充分時間はある。

ここで旅を終わらせる気もない、とにかく明日は決戦だ、緊張も怖いと言う感情もあるだろうがあんまり気負い過ぎるなよ、今日はそろそろ寝ておけ」

 

「……ありがとうございますスネークさん、なんだか気持ちが楽になりました」

 

「それなら上々だ。もう一度言うがお前が感じている事は何の不思議でも異常でもない、普通のことだ。

怖いと感じているなら、それを自覚し、その上で自分がどうしたいかを考えればいい。怖いと感じてる事を俺に打ち明けた時点で、お前はその恐怖という感情に飲み込まれる事は無い。気張っていけ」

 

「……ハイッ!マシュ・キリエライト、頑張ります!!」

 

「いやっそう気負わなくて良いんだが……まぁいい」

 

「じゃあオイラ、音楽の人のところに行くニャ!」

 

「?アマデウスさんのところにですか?でしたら私もご一緒します、ついでに案内も」

 

「ニャ!お願いするニャ!」

 

「ならトレニャーは頼む、ならまた明日な」

 

「はい、お任せください、行きましょうトレニャーさん」

 

「ハイニャー!」

 

こうしてスネークは町の外へと、その反対方向へとマシュとトレニャーは歩いて行った。

明日はこのフランスでの最後の日、決戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてトレニャーとマシュが歩き去って行く背中を見て、やっと葉巻を吸えると思ったスネークは胸ポケットから葉巻を取り出し、ライターに火をつける——-前に立ち止まり、通り過ぎた脇道へ振り返らずに声をかける。

 

「……ところで、いい加減葉巻を吸いたいんだが、いつまで俺を見ている気だお前は」

 

「フン、別になにもない、ただあの小娘に貴様が何かしないか気になっただけだ」

 

「……随分とわかりやすい、不器用な王様だ」

 

「おい待て、私は完璧な王だぞ、一体どこの誰の意見だ」

 

「評価をするのは自分自身じゃなく自分以外の誰かであり時代だ、自分の身内を心配するが声を掛けるのを戸惑う上司は十分不器用だろうと俺が思ったまでだ。わかりやすい、というか単純ってのはエミヤの話だが」

 

「よし貴様には情報提供の見返りにこの聖剣のサビになるか私の拳のサンドバックになるかを選ばせてやろう」

 

「お前に俺は殴れん」

 

「ならミンチにしてやろう、この聖剣でな」

 

「そう簡単に宝具を抜くな、それと街中では勘弁してくれ、それかやるならエミヤな」

 

「……それもそうだな」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

同時刻:リヨン郊外にて

 

「!?いまとてつも無く理不尽な目にあわされた気がするのだが……?」

 

「そんなもんいつもの事だろうが?俺らは大体不幸な目に合うだろうに……まあ俺は何か起きたら逃げるがな」

 

「……その矢避けの加護はいつまで持つかな?」

 

「待て、あの女の宝具(ルールブレイカー)を構えるな、そいつは俺に効く」




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
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次話投稿はすぐにでもできるのですが話の流れの関係上、来週の日曜日に投稿するのを予定しています。

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