脱落者の生理現象   作:ダルマ

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第二十話

 激しい戦闘を経て新たな朝を迎えた頃、ツルギは借りた無線機でプロジェクターに駐留するタロンに連絡を入れていた。

 運よく無線に出たのがデニスであった為、彼の計らいですぐさま至高のロード・ミロンへと直接報告を行えることになる。

 

 ウェルキッドでの惨劇やその惨劇を作り出した者達の素性、そしてそんな惨劇を前にして自分達がいかにしたか。

 それらを報告し終えると、至高のロード・ミロンは直ぐに部隊を送ると伝えてきた。

 

 こうして連絡を終えたツルギは、戦闘での疲れを少しでも癒すべく、アンバーと共に少しばかりの仮眠を取る。

 勿論、ポクには見張りとして頑張っていてもらう。

 

「何か来たよー!」

 

 だが、そんな仮眠の目覚めは、ポクの慌しい報告によるものであった。

 ツルギ達がいる管制塔の外から音が聞こえると、ポクが報告してきたのだ。

 

 寝ぼけ眼もそこそこに、スライス・ザ・リッパー率いるあの集団が戻ってきたのかと気を張ったが、実際は杞憂であった。

 ゆっくりと管制塔の外へと出て様子を窺うと、そこにいたのは見た事のある黒を基調とした防護具に身を包んだ集団であった。

 

「待て! 動くな! そこで止まれ!」

 

 それは紛れもなく、タロンの社員達であった。

 

「ん? もしかして副課長が言っていた連中か? おい、確認の為副課長を呼んで来い!」

 

 その後はとんとん拍子であった。副課長ことデニスも部隊と共にウェルキッドに足を運んでいた為、彼の一声でツルギ達に対する警戒は解除される。

 そして、いつの間にか増えていたポクの存在に触れる事も経て、ツルギ達は報酬の受け取りなどの為にデニスと共にプロジェクターへと戻る事に。

 

「では、頼んだぞ」

 

「は!」

 

 部隊の指揮官と思しき社員と敬礼を交わし、デニスはツルギ達を連れてウェルキッドの入り口近くに止めているジープへと乗り込む。

 因みに、初めてジープ、と言うか車に乗り込むアンバーは何処か小動物のように。そして、ポクは興奮しながらと、対照的な反応を見せながらもジープは発進する。

 

「ひゃっはー! 風が気持ちいい!! チョーイイね!!」

 

 プロジェクターまでの道中は、ポクの興奮を隠そうともしない言葉の数々によりある意味楽しい移動となった。

 

 こうして行きよりも大幅に時間を短縮しプロジェクターへと戻ってきたツルギ達は、至高のロード・ミロンの執務室で、至高のロード・ミロンから報酬を受け取る。

 

「ありがとう。やはりお二方にお願いしたのは正しかった、お陰で部下の社員達に血が流れずに済みました。その礼と言ってはなんですが、少々色を付けさせてもらいました」

 

 借りていた無線機を返還し、報酬の硬貨が入った袋を受け取ると、ツルギはそれをバックパックへと入れる。

 

「所で、そちらのロボットは……」

 

「ほいほーい! ぼくちん、ポクって言います! ツルギさんとアンバーさんの新しいお仲間ちゃんなんで、どうぞよろしくで~す!」

 

 なお、ポクの自己紹介でポクがどういったロボットなのかを察した至高のロード・ミロンは、その後特にポクの話題には触れないようにしたのであった。

 

 こうして全ての手続きが終わった終わったツルギ達は、その後プロジェクターを後に、その足で西を目指す。目指す場所は、あの村である。

 太陽が傾き、大地が暁に染まる頃。ツルギ達一行は、再び村に到着した。そして、その足で酒場の扉を潜る。

 

「あら? あららっ! 二人とも、無事だったのね!!」

 

 酒場に姿を現したツルギとアンバーの姿を見るや、ノエリアは安堵の声を挙げた。

 ゲッコー肉のパイを届けるだけの簡単な依頼であったのに、翌日になっても戻ってこない二人に、どうやら途中で何かあったのではと心配していたようだ。

 

「兎も角よかったわ、無事で……。所で、後ろのロボットは何なの?」

 

 無事を確認できて一安心したノエリアが、ふと二人の後ろにいるポクの存在に気がつく。

 行く時は連れていなかったロボットの事が、気にならない筈がない。

 

「どうも! ぼくちんポクって言いま~す。よろしくで~~すっ!」

 

 が、ポクの自己紹介を聞くや、何かを察してなるべく触れないようにしようと心に決めるのであった。

 

 こうして新たな仲間が増えたツルギ達一行に、ノエリアは無事にゲッコー肉のパイを届けてくれた報酬を手渡すと。更に約束通り、感謝の一杯を用意しご馳走する。

 

「あの、ぼくちんの分は?」

 

「えっと、貴方ロボット、よね? ごめんなさい、ロボット用の飲み物はないのよ」

 

「がーん! です」

 

 当然と言えば当然だが、ポクの分の一杯は用意されておらず。声に出してその悲しみを表現するのであった。

 

 

 その後、何故か酒場にやって来た他のお客達の人気者になったポクを他所に、ツルギとアンバーは夕食を取り。

 それが終わると、あの村のホテルで部屋を借り、一夜を過ごすのであった。

 

「ねぇ、ツルギ」

 

「どうしたの? アンバー?」

 

「聞いてもいい?」

 

「うん」

 

「グー、スピー。グルル、スピーッ!」

 

 部屋の隅で器用に立ちながら寝言を発し眠っていると思われるポクを他所に、ツルギとアンバーはベッドで二人だけの内緒話を始める。

 因みに、ポクもいる手前、今回は特にベッドを揺らさず。純粋に睡眠を取る為に使用している。

 

「ウェルキッドを襲った連中の事、ツルギは知ってたの?」

 

「……うん、知ってたよ。彼らは、奴隷商人、その中でも異端と呼ばれる『肉屋』、と呼ばれる者達さ」

 

「肉屋?」

 

「そう、奴隷商人は生きた人間を捕らえて売りさばくけど。彼らは違う、彼らは捕らえた人間を肉として売りさばくんだ」

 

 奴隷商人、呼んで字の如くウェイストランドに住む者達を捕らえ、使い潰せる安価な労働力を欲する者達に売りさばく者達の総称である。

 彼らは捕らえた人間を自ら殺すような事はない。何故なら、彼らにしてみれば、捕らえた人間達は大事な商品だからだ。

 なので、捕らえられた人間が自ら命を絶ったり不慮の事故などに巻き込まれるなどの事が起きない限り、自ら商品の価値を落とすような真似はしない。

 

 だが、奴隷商人の中でも肉屋と称される集団は、その限りではない。

 肉屋は捕らえた人間の生死をあまり気にしない。何故なら、彼らは人間と言うよりも人の肉を商品として売りさばく集団であるからだ。

 

 ウェイストランドには現在、様々な動物の肉が流通している。その中には、人間と言う名の動物の肉も、名称を誤魔化し出所を誤魔化し、流通されている。

 それに、ウェイストランドにはレイダーと呼ばれる進んで人間の肉を食べる者達も存在している。

 

 需要があれば供給が生まれる。そうして生まれたのが、肉屋と呼ばれる異端の集団なのだ。

 

「人間は家畜じゃない。例えどんなに自堕落な者であっても、家畜のように扱われ、殺されていい命なんて、ないんだ」

 

 ツルギは、小さくそう呟くと、再びアンバーに対して言葉を続けた。

 

「でも安心して、例え肉屋が襲ってきても、アンバーの事は守るから」

 

「う、うん」

 

「それじゃ、もう寝よう」

 

「うん」

 

 内緒話を終えると、互いに目をつぶり夢の世界へと旅立つ。

 

「ぼくちんは守ってくれないのね、トホホ……」

 

 なお、盗み聞きしていたのか、ポクが小さく呟いたのはここだけのお話。




読んでいただき、どうもありがとうございます。

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