脱落者の生理現象   作:ダルマ

15 / 22
第十四話

 こうして楽しく激しい夜を経て朝を迎えた二人は、荷物を整理しチェックアウトを済ませ、酒場で朝食をとる事にした。

 村の酒場同様にそれほど大きくもない酒場ではあったが、やはり駐留するタロンの社員たちと言う存在が大きいのか。閑古鳥が鳴いている村の酒場と異なり、カウンター席もテーブル席もある程度の稼働率を誇っていた。

 

 そんな酒場で何とか二人分座れるテーブル席を確保すると、早速朝食を注文する。

 暫くして、リスの角切りやイグアナの串焼きなどの朝食が二人のテーブルに運ばれてくる。

 

 そして、朝食に手を付け始める。

 

「なぁ聞いたか、昨日の爆発、ありゃどうやら本物だったようだぞ」

 

「何? そうなのか?」

 

「あぁ、今朝ウェルキッドの方から黒煙が上がってるのが確認されたらしい」

 

 朝食を食べ進めていると、不意にタロンの社員達のそんな会話が耳に入ってくる。

 どうやら二人の隣の席に座る社員達が、昨晩の爆発の件について話しをしているようだ。

 

「ウェルキッドの馬鹿どもが派手な花火でも打ち上げたか?」

 

「さぁな。ただ、あそこの連中は馬鹿だったりジャンキーだったりどうしようもない連中が多いが、連中だって進んで危険を呼び寄せるほど命知らずの馬鹿じゃないだろ」

 

 危険がそこらかしこに転がっているこのウェイストランドにおいて、コロッサスシティやプロジェクターのような安全が確立されている場所はそう多くはない。

 村のように奇跡的に周囲に危険が少ない場所もあるだろうが、大半は何の策もなく一晩を過ごせば翌朝には最悪死体になってるような大地だ。

 

 そうした中でウェルキッドが、自ら中から崩壊を招き入れるような行為を行うとは到底思えない。

 そんなタロンの社員の考えに聞き耳を立てていたツルギは共感する。

 

「なら、あの黒煙は何だって言うんだ?」

 

「さぁな、だが、それを確かめるには人を送る必要があるのは確かだ」

 

「でもよぉ、送るって言っても今はバッファロー・プリムの件で人手を割いてるから、送れるような人員はいないんじゃないか?」

 

 だが、どうやらバッファロー・プリムでの一件にタロンが関わっているらしく、人手不足で確認の為の人員を割けないらしい。

 

「ねぇ、気になるの?」

 

 と、そんなタロンの社員達の会話に聞き耳を立てていたツルギの様子を見ていたアンバーが、不意にツルギにそんな言葉をかけた。

 

「いや、まぁ、その」

 

「気になるって顔に書いてる」

 

「うっ!」

 

「ツルギって本当に、困ってる人の前になると分かりやすいよね」

 

 何とかしてあげたいと思うツルギの善意は、どうやら隠しきれていないようだ。その為、簡単にアンバーに見抜かれてしまう。

 

「でも、そこがツルギの良い所だよね」

 

「アンバー……」

 

「私はツルギの後について行く、だってツルギの相棒だから」

 

「ありがとう」

 

 だが、アンバーの後押しもありツルギの気持ちが固まると、二人は残りの朝食を素早く食べ終え、酒場を後にする。

 そして二人が向かった先は、昨夜至高のロード・ミロンとコーヒータイムを楽しんだあの建物であった。

 

 昨晩と同じ数対のMr.ガッツィーがふわふわと浮きながら警備をしているが、昨晩と異なるのは出入り口に慌しく人の出入りがある事だろうか。

 そんな出入りの中に、ツルギは昨晩知り合った顔があるのに気がつく。

 

「あ、すいません! デニスさん」

 

「ん? 君達は」

 

 声をかけたのは、昨晩共にコーヒータイムを楽しんだ内の一人、デニスであった。

 

「何だ? まだ課長に何か用か?」

 

「はい、実はウェルキッドの件で協力できないかとお話を……」

 

 ウェルキッド、ツルギの口からその単語が出た瞬間、デニスの表情が強張る。

 

「駄目だ! この件は我々タロンの問題だ。部外者である君達には関係ない!」

 

 一応顔見知りとは言え、ツルギとアンバーは部外者である事に変わりがない。デニスは当然の反応を見せる。

 

「あの、少しでも……」

 

「駄目だ駄目だ、君達には関係ない!」

 

 その後も頼み込むも、デニスは頑なに拒み続ける。

 すると、デニスの声に気がついたのか、誰かが声をかけてきた。

 

「デニス、どうかしたのですか?」

 

「は! これは課長……」

 

 建物の中から現れたのは、誰であろう至高のロード・ミロンであった。

 

「おや? あなた方は昨夜の?」

 

「ツルギです、こちらは相棒のアンバー」

 

「あぁ、そうでしたね。それで、お二方はどうしてここに? もう僕への配達は終わったと思ったのですが?」

 

「今日はお届け物ではなく、至高のロード・ミロンさんにお話があって来たんです」

 

「僕に話ですか?」

 

 デニスが何やら制止しようとする素振りを見せるも、至高のロード・ミロンの前だからか、結局ツルギを制止する事はなかった。

 

「実は、ウェルキッドの件で協力できないかと思いまして」

 

 ウェルキッド、ツルギの口からその単語が出た瞬間、至高のロード・ミロンは少しばかり眉をひそめた。

 

「協力、ですか……」

 

「はい。人手不足で現地での情報収集が困難と聞きました。ですから、自分達が現地に行って情報収集の協力を出来ないかと思いまして」

 

「ふむ……」

 

 ツルギの口から協力の為の内容を聞かされ、至高のロード・ミロンは目を閉じ考えを巡らせる。

 程なくして、考えが決まったのか目を開き、自身の考えを伝える。

 

「分かりました。これもやはり何かのご縁、そこまで言うのなら、是非とも協力をお願いいたします」

 

「ありがとうございます!」

 

「か、課長! よろしいのですか!!」

 

 笑顔を見せるツルギとは対照的に、至高のロード・ミロンの考えにデニスは納得できないのか声を荒げる。

 

「彼らは部外者ですよ! そんな彼らにこの件の重要な部分を任せるなど……」

 

「確かにお二方は部外者です。ですが、僕には分かりますよ。僕も伊達に長年このウェイストランドで様々な人々を見てきた訳ではありません。僕には分かります、お二方は、特にツルギさん、貴方は相当優秀なようだ。それに、お二方に外部委託する事は双方にとって利になる」

 

「し、しかし……」

 

「デニス、僕の決定がそんなに不服ですか?」

 

「い、いえ! そんな事はありません!」

 

「よろしい。ではデニス、情報は一分一秒でも早く欲しいのでツルギさんに現場から直ぐに連絡を取れるように無線機を一台、用意して下さい。それと、ちゃんと報酬の方も忘れずに」

 

「は!」

 

 こうしてデニスは用意の為に建物の中へと消えていった。

 

「ではお二方も、委託契約書の方にサインをして欲しいので、付いてきて下さい」

 

「はい」

 

 そして残りの三人も、準備の為に建物の中へと消える。

 その後、委託契約書へのサインや無線機の受け取り、報酬内容やウェルキッドへのルートの確認等など。滞りなく行われ。

 

 ツルギとアンバーの二人は、ウェルキッドを目指し、一路プロジェクターから南を目指して歩み始めた。




読んでいただき、どうもありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。