第十一話
ウェイストランドには大きく分けて四つの地域がある。
先ず一つが山脈や砂漠等が存在しコロッサスシティがある西部、次いでかつては大草原が広がり現在では不毛な大地が止め処なく広がる中西部。
そして次に不毛とされるウェイストランドにあってはまだ自然が少しばかりは残っている南部、もっとも残っていると言ってもお察しする程度ではあるが。
そして最後に、かつてはこの星の全ての中心地とも言っていいほどの繁栄を誇っていた、今はもう高層廃墟と言う名の墓標がかつての繁栄の片鱗を見せるに止まる光景が広がる東部。
この四つの地域がウェイストランド内には存在し、更にそれぞれの地域にはそれぞれ名が付けられた地域が細かく存在しているが、それら全てを地図に纏めている者は果たしてこの星にいるのだろうか。
少なくとも、ウェイストランドに住む者達の中にそのような者がいない事だけは確かであろう。
さて、西部の数少ない人間社会が残る場所コロッサスシティ、そこより北東に六百キロ以上も離れた場所にコロッサスシティよりも小さいが人々が暮らす村が存在していた。
乾いた大地の中にある乾いた山の麓に存在するその村は、コロッサスシティとは異なる雰囲気を醸し出していた。殺伐ともせず、何処かのんびりとした時間が流れているようでもあった。
そんな村の外れ、巨大なタンクが設けられた給水施設の近くにツルギとアンバーの姿はあった。
ツルギはガスマスクこそ被っていないものの相変わらずあの充実した装備を身に付けている。そして一方のアンバーも、ツルギの相棒として月日が経過したからか、その身に纏う装備品を一新していた。
オリーブドラブの戦闘服を着込み、女性特有の身体的特徴からかチェストリグをまるでコルセットのように装着している。
また腰周りにもポーチを装着し、太ももにはレッグプラットフォームを使ってホルスター等が取り付けられている。
ツルギと比較すると軽装にも思えるが、十分すぎるほどの充実振りといえよう。
そんな二人の手には、各々の相棒たる銃器の姿があった。ツルギはライフル、アンバーはあのカスタムMP5Kである。
二人が今いる場所は給水施設の近くにある岩場の一角、そこから二人は給水施設の近くを我が物顔で歩いている野生生物の様子を窺っていた。
二足歩行でぺたぺたと歩くその姿は、まさに巨大なヤモリそのものであった。
巨大ヤモリことその野生生物の名は『ゲッコー』と言い、何処か愛嬌のある姿とは裏腹に、ウェイストランドの野生生物の大半に言える事だが攻撃的な性格で、村の医者に言わせればゲッコーの噛み傷や引っかき傷が治療で一番多いらしい。
そんなゲッコーが複数体、給水施設の近くを闊歩している。
「準備はいい? アンバー?」
「もちろん」
そしてそんなゲッコー達を狩る事が、今の二人の目的であった。
ゲッコー達を狩る為に二人は作戦を立てていた、と言っても簡単なものであったが。
「それじゃ、頼んだよ」
「任せて」
概要は至って簡単、ツルギがこの岩場からライフルで狙撃しゲッコー達が混乱した所を接近していたアンバーが不意打ちすると言うものだ。
作戦に従ってアンバーは姿勢を低くしつつ、岩場を後にゲッコーに気付かれないように給水施設の近くへと向かっていく。
一方のツルギは、狙撃の為の準備に取り掛かる。ライフルに取り付けてあるスコープの微調整を行いつつ、アンバーが配置に付くのを待つ。
やがて、アンバーが給水施設の近くの岩の陰へと身を潜めたのを確認したツルギは、構えたライフルの銃口を動かし始める。
スコープのレティクル越しに、クロスの中心点を闊歩する一体のゲッコーの、その頭部に合わせる。
息を整え意識を集中しトリガーに指をかける、そして、狙いを定めたゲッコーが不意に立ち止まった瞬間、ツルギはトリガーを引いた。
「ギャ」
発砲音よりコンマ数秒後、放たれた弾丸は吸い込まれるように狙いをつけたゲッコーの頭部を貫いた。
「ゲー! ゲーッ!!」
「ホゲーッ!!」
突然仲間が一体やられた事に対して驚きの雄叫びを挙げるゲッコー達、しかし、何処から攻撃されたのか分からないのか雄叫びを挙げながら周囲を見回している。
その隙を見て、アンバーが岩陰から飛び出すと、手にしたカスタムMP5Kのトリガーを引きゲッコー達目掛けて弾丸の雨を降らせる。
その後、飛び道具を持たないゲッコーが二人に一太刀浴びせられる事はなく、ツルギの狙撃とアンバーの近接火力で瞬く間にゲッコー達は乾いた大地の養分と化した。
「お疲れ様、アンバー」
ゲッコー達を狩り終わり、アンバーと合流したツルギは彼女に労を労う言葉をかける。連射性能の違いから、倒した数で言えばアンバーの方が多いからだ。
「ツルギもお疲れ」
もはや慣れた手つきでマガジンを交換するアンバーを他所に、ツルギはとある事に気が付く。
「あぁ! 大変だ!!」
「どうしたの?」
「ゲッコーが一体、給水機に……」
撃たれた時の反動からか、給水施設に隣接して設けられていた給水機に、一体のゲッコーが頭部から突っ込んでいた。
と言っても、この給水機は人間用のものではなく、家畜等の為に設けられたものである。
しかし、ツルギにとっては人間用だろうが家畜用だろうが関係ないようだ。
「どうしよう、大事な給水機にゲッコーの体液が……」
「大丈夫よ。少しくらいゲッコーの体液が混じった水を飲んだくらいでバラモンやビッグホーナーは死にはしないし。それに、そんな水を飲んだ家畜の肉を食べてお腹を壊すような人(ウェイストランダー)はいないでしょ」
困った表所を見せながらゲッコーの死骸をどかせるツルギを見かねてか、アンバーが気にするなと言わんばかりに言葉を漏らす。
「そうかな?」
「そういうものよ」
優しいが故に色々と心配が生まれてしまうツルギに、そんな事まで心配しなくてもいいと諭すアンバーは、目的を達したので早く戻ろうと提案する。
「そうだね、それじゃ、ゲッコーの肉を剥いだら村に戻って報告しよう」
互いに銃からナイフへと持ち替えた二人は倒したゲッコーの肉を剥いで麻袋へと詰めていく。
ゲッコーの肉は当然ながら生で食べれば美味くはない、しかし、火を通し調理することで、この美食と言う概念がなくなって久しいウェイストランドにおいてはかなりの美味となる。
その美味さから、ゲッコーの肉の味を知ると他の肉が食えなくなる、なんて話があるほどだ。
そんなゲッコーの肉を詰めた麻袋を担ぎ、ツルギとアンバーの二人は村へと戻っていった。
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