ソードアート・オンライン~紅葉きらめく双刃~   作:セウト

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一万文字達成(ギリ無理でした)です  ゼィ ゼイ

楽しいかはわかりませんが、頑張りました。
良ければ読んでください。




一層~攻略~

 β時代、初めてのボス攻略にパーティーというものを作った。その中にはβ当初から仲良くして貰っていたプレイヤーがいたのを覚えている。彼は今何をしているのだろうかと考えたことがあった。一応、はじまりの街の石碑に気紛れの確認しに行ったことがあるのだが、彼の名前はなかった。つまり、彼はこのSAOに捕らわれずに運よく現実に意識を置いてるのだと、そう思っていた。でもよく考えれば違う可能性も残っている。現実と混同しがちだが、この世界で呼ばれるプレイヤーネーム、またはアバターネームは現実の名前ではない(そうじゃない人もいるけど)。ゆえに明らかにゲーム大好き星人だった彼がこのSAOにログインしていないのではなく名前を変えてこの世界にきっと生きているんだろうと結論付けた…のだが、正直なところ気にするわけでもなく、本当に暇だったから探偵の真似事みたいなことしたその時の俺。では、今どうして思い出すことになったのかというと…少しだけ心に引っ掛かった覚えがあるのは攻略会議の日。そういえば、彼の口癖は―――

 

 

 

 

「そう、で今のがスイッチを使った連携戦闘の流れだ」

 

「何か言った?」

 

「イエ、ナンデモ」

 

(あいつら昨日の夜に何かあったのかな?)

 

朝一から見事な会話の連携を見せてくれたのは我がパーティーメンバーのキリトとアスナだ。それにしてもアスナから送られる目線は実に冷えている。それをしり目に俺とシノンも連携を再確認した。彼女が先日俺に相談してくれた「自分の目指すべき戦闘スタイル」に沿うように、シノンはスイッチ後の正確無比な短剣裁きを今日も見せてくれる。

 

「ナイスクリティカルだね、シノン」

 

「ええ、ありがとう」

 

会話終了。うーん、実にこちらの関係も冷めているでやんす。昨日あんなことやこんなこと、とにかく色んな事があって暫定的パーティーメンバーとして秘密を共有しあった仲という、この上ない進展を見せたのだが、どうにもこの一日でリセットされてしまったかのような冷え込みだ。というか、気まずい。

 

 連携はこの上なく仕上がっているのだが、この気まずさから会話のキャッチボールが困難となると不便…というか嫌なのでこの後はまた親睦会でも開いて…

 

「だから、昨日のお風呂の件は事故だから!」

 

「嘘っ!じゃあなんでアルゴさんが開ける前に止めなかったのよ!そこからして、あなたの下心が丸見えだわ!」

 

「そんな下心ねぇええ!」

 

「うるさいよ!そこのつがいども!!」

 

「「つがいじゃないっ!」」

 

 ほらね、息ぴったりジャン。今日は俺とシノンがこんな調子なのでこの二人をいじる回数が必然的に増えるのであった。

 

 

 

 

 何やら、先ほどドロップしたレイピアの強化に行くことにしたらしいアスナとキリト。今日のところのレクチャーは終了なのでシノンも短剣の強化に乗り出すことにした。その行き道で

 

「そういえば、片手剣使いの二人は同じ剣を使ってるけど、実はその剣って何かのクエストの報酬だったりするのかしら?」

 

とシノンから質問が

 

「正解。≪森の秘薬≫っていう我ながら超めんどかったクエストがあってだな~。ま、ちゃんと最後まで強化できれば3層くらいまで持つ逸品だよ」

 

うん、ちゃんと答えられた。えらい、俺。シノンの質問に答えだけで自らを褒めるというボッチここに極めしものがひとり。その先にはそのボッチ(=アキ)をあり得ないと凝視する者ひとり。ボッチこの時、自らの失言に思ひ及ぶ。あ、βテスターであると隠すことを忘れていたなりと。

 

「タイム」

 

「タイムって!お前、まさか…!」

 

しかし、キリトの声はそこで何かに気づいたかのように途切れる。おそらく俺が元テスターであることをアスナとシノンにバレないようにしようとしたからだ、と思う。この少年が今のアクションを起こしたことで優しい心の持ち主であることが分かったが、どうやらこの状況を変えられたかというとそういうわけでもない。とうに先を歩いていたアスナからじろっとこちらを睨みつけている様子がうかがえる。

 

「なに、あなた元テスター出身だったの?」

 

その言葉にはらんでいる感情が怒りなのか、悲しみなのか、違う感情なのかは分からないが嘘を許容されそうな雰囲気ではない。そもそも今隣にいる暫定的相棒はその事実を知ってなお、構わないと言ってくれたのだ。ならば俺のとるべきことはちゃんと誠意をもって喋ることだ。

 

「そうだよ、俺は元βテスター。多くのプレイヤーから見れば初心者のヒト達を置いていった卑怯者かもしれない。それは否定できないし、もし君がそんなプレイヤーとは一緒のパーティーでやっていけないと言うのなら俺は速やかにこのパーティーから抜けるよ」

 

少々早口ではあったが思いの内を吐き出した。少なからず昨日のキバオウによる演説はβテスターに対する溝をみんなに築かせてしまうには十分すぎるほどのものだった。今まで特に気にしていなかった者も、きっと「そうなのではないか」と懸念しただろう。

 

「…ひとつだけ聞かせて。なぜあなたは直ぐに隣町までいったの?その理由は?」

 

効率のいい狩場がある。片手剣のクエストがある。それらを集約させた俺の動機としては

 

「すまない、俺には人の命を背負えるだけの背中がないんだ。俺にとっては自分の命すら…」

 

失くなってもどうでもいいのに…。そこからの声は出せなかった。この答えはアスナにとってどう感じただろうか、やはりこれは逃げなのだろうか。卑怯なのだろうか。

 

「そう、ならいい。自分の命は誰かに預けるためにあるわけではないんだし、自分の身は自分で守る、なんて当たり前のことだわ。あなたは当然のことをしたまで、謝ることなんて一つもありはしないわ」

 

「はやく鍛冶屋にいきましょう」とアスナは踵をかえす。そのあとを「お、おい。ちょっと待てよ」とキリトが追いかけ、俺は暫くその場で動けないまま。

 

 どうやら、アスナからもお咎めはないようだ。俺は棒になった足で立ち尽くしながら、困惑していた。俺が生きていた世界とはこんなにも優しいものだったか?いつも俺の外から聞こえるのは自分に対する恐れ、罵詈雑言、そして虚無。俺に居場所なんてないことは自他ともに認めていたはずだった。

当然、今のような告白をすれば返ってくるはずの言葉はいつだって罵声だったが…これはゲームの中だとは言え本当に現実なのだろうか?何者かが見せている温かい嘘であるのならば誰か早く、冷たい現実に返してほしい。こんなすぐにでも消えてしまうような夢を見せられるのなら、いっそのこと見せないで欲しいと心が叫んでいるが、不意に誰かの手が俺の手を握ってきた。温かいその手の主はずっと隣にいてくれたシノン。……どうかこの手と温かさだけは嘘でありませんように、と祈らざるを得なかった。

 

 

 

 

フロアボス攻略前日の夜。結局は武器強化を終えた後、各々別れて準備することになり壮行会とかは開かれることなく一日を終えようとしていた。のだが、一通のメールが…アルゴからだ。

 

 

 

アルゴに指定されたとおりにフィールドの中を探索していると、見つけた。見つけたのは明日のボス戦で俺の相棒として立ってくれるはずの少女、シノンだ。午後11時を過ぎてなおモンスターと戦っている。遠目から見るに危険な戦い方をしているわけではなく、肩慣らしと言った方がしっくりくる様子だ。

 

「本当は明日のボス戦までゆっくり休んでほしいんだけどなぁ…」

 

 彼女の戦闘が大事にいたることはなさそうなので様子見は終了。半分ストーカーみたいなことをしてしまっていたので、そそくさと踵を返して宿に帰ろうと振り返ると…

 

「あら、お喋りはしていかないの?そこのソードマンさん」

 

「どわあ!」

 

いきなり後ろ首を引っ張られながらそんなことを言われたもんだから変な声が漏れてしまった。もちろん相手はシノンさん

 

「い、一体いつから気づいていたんだ?」

 

「そうね強いて言うなら、あなたが私を観察し始めたときから?かしら」

 

「最初からじゃないですか、やだー」

 

「そういうことよ」

 

 軽いウィンクをして言ってくる。今は夜更けであり、隠蔽スキルを持つ俺に気が付いたという事は…

 

「もしかしてシノン…。索敵スキル上げてるの?そうじゃないとこの景色じゃ普通見つからないって…」

 

「索敵?いいえ、私は何のスキルも使っていないわ」

 

「え、じゃあどうやって気づいたん…ああ、そうか」

 

 さっきからニコニコとこちらの話を聞いて上機嫌なシノンさん。どうやら俺は嵌められたようだ。今日、今ここに誘導された原因を作り出した元凶と言えばあいつしかいない。

 

「いつからアルゴと知り合いになったの?」

 

「ご明察。ま、知り合いになったのはほんとに偶然だけどね。私がフィールドの雑魚に苦戦してた時にあの例のガイドブックを手渡しされたのが出会いだったかしら?」

 

 てことは結構付き合い長いじゃあないですか、やだー。近々にでも両者を紹介しようと思っていたのだが、どうやら必要なかったらしい。その際二人とも初対面だから、軽い冗談でも言ってうまい橋渡しが出来ればな~とちょっとした計画を考えていたのは内緒である。

 

「で、アルゴを使ってまで俺を呼び出したその心は?」

 

「使い方違うわよ、それ…。ん、今日はそっけない態度して今更ながら悪かったな~と思ったから、謝ろうかと思って」

 

「……え、それだけ?もっとこう大事な話でもあるのかな~と思ったんだけど…。それだけ?」

 

「そうよ。これを言うためだけに呼び出したんだけど…。迷惑だったかしら?」

 

上目づかいでそんなこと言ってくるもんだから対応に困る。正直、夜で美少女と二人きりの状況とか現実では地球が崩壊しても俺には無縁の現象だと思っていたので脳内シュミレーターが処理に追いつかない。なので俺は、ほんっとうにつまらないことしか言えないのだ。

 

「だったらインスタント・メッセージで言えば…ああでもこれじゃ短すぎて伝えられないか…。じゃあフレンド・メッセージで…そうかフレンド登録して…ないか」

 

ブツブツ言ってようやく彼女が俺を誘い出したもう一つの理由が分かった。そう、まだシノンとはフレンド登録していないのだ。俺がそれに思い至ったことがシノンに伝わると、策士がうまくいったときの様な笑みでこちらに向けてきた。彼女はあの微笑みの裏でこう言っているに違いない。

 

「場は整えたのだから、最後はあなたが決めなさい」

 

と、その期待に応えるには少々我が身では荷が重い…とても重い…のだが(なぜなら俺のリアルのスマホには連絡先を保存している女子はいないからだ)、ここまでされてのUターンは、この場でパーティーメンバーを解除されることにもなりかねないので、小学校低学年以来の言葉を発する。

 

「ふ、フレンド登録しませう…」

 

「ふふっ、いいわよ。送っといたからちゃんと確認するのよ」

 

語尾はかっすかすになりながらも言い切った。今日はもう快眠間違いなしの成果を上げた俺はウィンドウを確認してフレンド欄の二番目にシノンの名前を刻みこむ。

 

「明日はよろしく頼むわよ相棒、頼りにしてるんだからね」

 

「おーう、任しときぃ!」

 

最後のは空元気。キバオウみたいな返事を返したがシノンは微笑みながら「じゃあ明日ね」と言い残して宿に帰っていった。俺もかえって寝よう。明日には死んでも仕方ないかなと思っていた心には、ほんの少しだけ「誰かと一緒にいるために生きてみようか」と思う気持ちが芽生えていたのは誰も知らない。

 

 

 

 

「他のMMORPGっていうの?やってると移動の時ってこんな感じなのかしら?なんていうか…遠足みたいな」

 

不意にアスナからそんな言葉が漏れる。今現在トッププレイヤーたちの集団の真後ろに並び、ボス部屋に向かっている最中だ。その問いにキリトは

 

「はは…遠足はよかったな」

 

と、そこから短く笑いながらアスナの疑問にオチャラけていながらも真面目に答えていく。

 

「でも確かに、ここまでリアルなゲームだと伝説の勇者様とかの気持ちとか分かってしまいそうよね」

 

今度はシノンからも声が漏れる。

 

「確かにね、でもどんな勇者であれ大きな戦いに挑む前は俺たちの今のこの光景とそう変わらないものだと俺は思うな」

 

「あら、どうして?」

 

「だってさ、そいつらにとってみればその戦いそのものが日常であって、その日常の中で雑談とか、今日の午後何しようかとか考えてるわけじゃん?俺たちにだってリアルで過ごすにも合間を見つけては誰かとしゃべったり、ゲームしたりするもんだろ(俺はボッチだけど)。きっとさ何を日常とするかの違いだけで基本、気持ちの持ちようとか、思いとかそういうモノに違いはないんだよ。勇者様だって思うことあるはずだぜ?この戦いが終わったらT〇UTAYAにDVD返さないと~、とか」

 

「もしそんな勇者がいて救われる世界があったとしたら、世界全体に優しくなれそうな気がするわ、私」

 

「ふふーん、だろ?」

 

「なんで、あんたが得意げなのよ…」

 

きっと、今の自然な会話をボス戦前にできるようになれば嫌でもこの非日常が日常に変わるだろう。そこまでの過程は遠くあり、何年もかかってしまうことになると思うが絶望を絶望で上書きするのではなく、絶望を希望で上書きできる日が来てほしい、そう願わずにはいられない。少なくとも…

 

「今日だけは俺の目の前で誰も死にませんように…」

 

「何か言ったかしら?」

 

「いや、何でも」

 

この目の前にいる少年少女たちだけでも…今日パーティーを解散するまでは誰ひとり欠けないでいられるように祈るばかりだ。

 

 

 

 

ボス攻略はとうとう目の前の扉を開くことによって始まろうとしていた。そのまえにディアベルからのありがたい言葉があったのだが、昨日の攻略会議の後の合同演習をサボったせいか妙な疎外感を感じつつ締めに入る。

 

「みんな…俺から言えることはもうたった一つだ!……勝とうぜ!」

 

そこまで言いきって、ここに集まったプレイヤーたちの士気は最高潮までに高まった。

 

「「「おおおー!!」」」

 

「…私、スポーツとかやったことないからこういう時どうしたらいいのか分からないわ」

 

「…」

 

「アキ?」

 

「…ん?あ、何でもない。ここはとりあえず周りに合わせとけばいいんじゃないか?」

 

「どうせそんなこと思ってないんでしょ?」

 

 うぐっ、読まれたか。得意げな顔でこちらを見てくるシノンに

 

「まあ、今回の作戦は撤退することは考えてるのかな、とね。士気が高いまま成功するのと、指揮官を亡くして一気に崩れるのは実のところ紙一重だからさ」

 

「そのときは覚悟決めたら?」

 

その先の言葉をシノンは口に出さなかったが、おそらく「β出身として、あなたが導きなさい」と続くのだという事は分かった。

 

「はっ、簡単に言ってくれるね」

 

それが冗談なのか、本気で言ったことなのかは分からないが、それだけは勘弁したいものだ。

 

「そろそろ、扉が開くわ。じゃあよろしく“相棒”」

 

もし、本当に危険だと判断したときはこの隣にいる少女だけでも…

 

「ああ、後れを取るなよ」

 

そして、とうとう戦闘が始まる。敵の名前は≪イルファング・ザ・コボルドロード≫。ま、俺たちは基本その取り巻きしか触れさせてもらえないけどね。

 

 

 

 

 戦闘はガイドブックの攻略法が存分に役立ち、心配が杞憂になるほどのスピードで攻略が進んだ。ボスの体力もイエローゾーンがレッドに突入するのにも時間の問題だ。そして取り巻き担当の俺たちH隊は

 

「シノン!スイッチ!狙うところは…」

 

「鎧じゃない首元…でしょ!」

 

突進系ソードスキルを正確にセンチネルの首に命中させる。その様はまさに正確無比の女王。これまでに戦闘を何回か共にしたが、今日はその中でも一番集中できている。これだけ正確にソードスキルを発動できるなら、この間みたいに多数同時撃破も夢じゃないと思ったが、担当は取り巻きなので全くMobが来ない。

 

「ナーイス」

 

「ふむ、やっぱり手応えないわね。コボルド王に勝負吹っ掛けようかしら」

 

「ま、今回ばかりは我慢かな。どうやらこのまま終わっちゃいそうな雰囲気だし。それに、シノンの活躍の場は十分伝わったはずだぜ?」

 

周りを見渡すとH隊をちらちら見やるプレイヤーが多い。見世物じゃないが、俺たちの連携は確かに良かった。キリトとアスナに限ってはどちらも単独でセンチネルを撃破している。注目はこれでもかと言うほど集めたので、第二層ではシノンの念願ボス攻略に入れるパーティーが出るのではないだろうか。そこまで考えて少し

 

(その時は隣にいるのは、俺じゃないんだろうな)

 

と、考えてしまい剣が鈍ったように感じたのは気のせいだろう。

 

「そろそろ、パターン変更ね」

 

「おう、だからって行くなよ~」

 

「わ、分かってるわよ。て、あのプレイヤー…攻略本ちゃんと見てないのかしら?ボスを一定以上の距離で囲まないって書いてあったのに…ちょっと私、伝えてくるわ。ちょっとの間よろしく」

 

「あいよ」

 

そういうとシノンはボスの後ろ側に陣を取っているプレイヤーに近づいていった。ボスは取り囲むと強力な範囲攻撃を放ってくるので“囲まない”がセオリーなのだ。

 ここで、ひときわ大きな声でボスが悲鳴を上げる。ボスの剣が大剣から曲刀(タルワール)に変わる合図だ。シノンは曲刀に変わってからのボスの攻撃パターンは熟知しているはず、ボスもこのままトッププレイヤー隊にまつりあげられて今日の攻略は死亡者0人で終わるだろう。

 

――?あのボスが後ろにぶら下げている剣は…曲刀ってあんな形していたっけか?――

 

その形は明らかに曲刀ではない。どちらかで言うと“刀”だ。

 

「みんな、下がれ!俺が出る!」

 

俺の心に生まれた疑念をよそにディアベルがボスの前に出る。一気に片を付けるつもりだろうが…

 

「ここは一気に畳みかけるのがセオリーのはず…あいつ何やって…」

 

「まずい!ディアベル下がれ!モーションに入るな!」

 

アスナと一緒にセンチネルを片付けていたキリトから咆哮が飛ぶ。そこで俺に電流が走る。キリトが叫ぶ理由、ディアベルが前に出る理由、そしてこのまたたきの間に俺がシノンのもとに走り出す理由がつながる。

 

「あれは…勘違いなんかじゃない。βと違うんだ!シノンそれ以上は近づいちゃだめだ!」

 

残念ながら士気が最高潮にまで達しているこの状況では俺の声が届かない。そんなのはとっくに気づいている。だから俺は走っている。あと、五m。

 

「アキ!?ちょっと危ないわよ!どうかし…」

 

「シノン避けてくれ!!」

 

 間に合う。俺はその勢いのままにシノンにタックルをかます。

 

ゴウッ

 

擬音でも何でもない音を発して俺たちが立っていた箇所をコボルド王のソードスキルが通過する。その事実に戦慄するが、それを直に受けてしまったディアベルがフィールド中央から端まで吹っ飛ぶ。

 

「うわぁああああ!」

 

「ディアベルはん!」

 

「ディアベル!」

 

 キリトがディアベルのもとへ走っていく。が、数秒のうちにディアベルは綺麗なエフェクトと共に四散した。彼は…そういう事か。俺はここで心にとどめていた違和感の答えに気づくが今気にしている場合ではない。

 

 ここまで来て初の死者、そして指揮官を失ったという事実がトッププレイヤーたちの間に感染していく。

 

「うわあああああ」「逃げろおおお」

 

「もう、ダメかもな…シノンここまでかもしれない。君だけでも逃げて」

 

 俺はボス戦前に考えていたことをシノンに伝える。なんでか分からないけど彼女だけには死んでほしくないのだ。

恐怖は瞬く間に伝染していき陣形はバラバラになり、勝機はもうない…かのように思われたのだが、ここで立ち上がるものが二人。キリトと隣に並び立つアスナだ。

 

「あいつら…」

 

「アキ…私逃げないわ。ここで逃げてたら私いつまでたっても変われないままだもの」

 

今まで沈黙を続けていたシノンから言葉が漏れる。彼女の顔には決意の表れが見てとれる。あの二人と寸分違わない顔つき、この決意が揺らぐことはないとそう言っている。ならば、俺が取れる行動はもう決まっている。俺はシノンを…

 

「ふーっ、じゃあ俺も行くよ。俺は君を守る騎士だからね」

 

「はっ、冗談が言える力がまだ残っているなら十分ね。あと、私は守られる側じゃなくて守る側の人間だわ」

 

「へいへい。じゃあ行くぞ!シノン!」

 

立ち上がった俺たちの見据える先にたたずむのはコボルドの王様。レッドゾーンにHPを落としてなお荒ぶる様はまるで嵐のようだ。先行してその嵐と激戦を繰り広げている二人のもとへ駆けつけてから言葉をつなぐ。

 

「おい!勝手に二人で話進めんてんじゃねえぞ!このリア充どもがっ!」

 

「悪いな!あとリア充じゃねえ!」スラント パリィ

 

「リア充って何よ!?」リニアー

 

「気にしないで、オタクどもの敵のことよ」

 

 キリトは威勢よくコボルド王のソードスキルを跳ね上げ、そこをアスナが見逃さずに叩く。基本にして最大の攻撃手段。ここでの跳ね上げミスは死に直結する、最大の集中力を発揮して臨む。

 

「おおお!シノン!スイッチ!」

 

「はぁあああ!」

 

相変わらず正確にボスの急所を狙っていく。ここまで女性陣にアタックを任せていたがHPはちょっとずつ確実に減ってきている。曲刀よりも軽い分“刀”は速い。だが受けるダメージはその分少ない。ボスが曲刀のままならばパリィ時にわずかのダメージが通るのだが刀ならば全力のソードスキルで0のままキャンセルできる。

そんな計算を頭の中で組み立てパーティー内でローテを回していると、先行していたキリト組の方に先に限界が訪れた。それは限界とは言いにくいが、ボスのソードスキル≪幻月≫はランダムに切る方向が変わってくる。

キリトは衝撃のままにアスナを巻き込んで吹っ飛ぶ。

 

「キリト!」

 

「シノン、目を離すな!」

 

隙ができると、まるで意思があるかのようにシノンに襲い掛かるコボルド王。実際攻撃を続けていたシノンにタゲが残っただけであるのだが、今はどうでもいい。シノンに覆いかぶさるようにスキルを打ち込もうとコボルド王が刀を振り下ろした刹那

 

「お…らぁああああ!」

 

見た目だけで筋力補正がかかっているかのような容姿を持つのエギル氏のソードスキルがコボルド王の攻撃をパリィしてくれた。

 

「あんたらが回復するまで俺たちが持ちこたえて見せる!」

 

「サンキュー、エギルさん!とにかく今はあいつを取り囲まないように注意してくれ」

 

 サムズアップで答えるエギルさん。彼らはもともと壁要因なのでHPも防御力も高いが、相殺ではなく、防御なので敵の攻撃を受けきるたびにじわじわHPが減っていく。内心ひやひやしているが、彼らの間をHPに余裕のあるキリト以外のH隊で軽やかに動き回り攻撃をボスに与えていく。

 しかし、タンクの一人が転倒寸前で立ち止まった先がボスの後ろだったことは不運以外の何物でもない。

 

「そこのヒト!早くそこから動くんだ!」

 

だが、遅い。全方位攻撃≪ツムジグルマ≫がエギル組と俺たち三人を襲う。

 

「ぐぅ!」

 

HPはギリ、イエローゾーン。だが追撃が来る!

 

「危ない!届っ…けぇええええ!」

 

回復を途中で投げ出してきたキリトが滞空しているコボルド王の腹に向かってソニックリープをかます。空中に向かって放つなんていう離れ業をみて瞬間唖然とするが、落ちてきたコボルド王はなんとHPをわずかに残し、“転倒”判定を示している。

 

(間に合うかッ)

 

「アスナ!最後のリニアー、一緒に頼む!」

 

「了解!」

 

「シノン、お前も突っ込め!」

 

「分かったわ!」

 

ここで倒せなければ仲良くボスの餌食、ここからはパーティーメンバー全員の全力フルアタックが必要だ。

 

キィイン!

 

「セイッ!」

 

最初にキリトのパリィからアスナの最速リニアーが

 

「はぁあああ!」

 

ボスがのけ反りを終えてシノンに切りかかるが

 

「ハッ!」

 

キィイン!

 

俺は全力バーチカルを刀の真横に当ててはじいて見せる。ボスの体力はシノンの攻撃を耐えきり、残り数ドットだ。最後は

 

「お…ぉおおお!」

 

キリトのバーチカル・アークが締める。が、ここでまたしても先ほどキリトを薙ぎ払った幻月が襲い掛かる。キリトは一瞬モーションをあきらめるかのような表情を見せたが

 

「止まんな、キリトぉおお!そのまま突っ込みやがれ!」

 

今日一の声を張り上げて叫んで見せた。ここで終わらせるなんてとんでもない!終わらせてなるものか!

 

俺が先ほど放っていたのはバーチカルではない。垂直切りの二連、今キリトが発動しようとしているバーチカル・アークのそれだ。キリトが来るまでの数瞬、システムアシストが切れるギリギリまで引きつけて二連撃目を発動しようと考えていたのだ。それが、今だ!

 

キィイン!

 

幻月のパリィは成功。

 

「決めてくれ!キリト!」

 

「おおおおおお!」

 

キリトのバーチカル・アークは見事にボスの腹を切るようにヒット。そしてボスの巨躯は部屋いっぱいに広がるほどの爆散エフェクトを散らした。

 

≪congratulation!≫

 

その表示を見てようやく、戦いが終わったことを理解するのだった。




戦う描写はやはり難しい…そう感じるました。


出来ればまた一週間後までには投稿したいです。
また頑張ります。

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