彼の2度目の事故は思いがけない出会いをもたらす。   作:充電器

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どうも、充電器です。

少し早く書けました。

楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ。


第7話 彼女は自覚する。

「いよいよ明日だね、退院」

「そうだな。あぁ…後1ヶ月ぐらい入院してたい」

「ダメだよ、そんなこと言っちゃ。退院したくても出来ない人だっているんだから」

「いや、まぁ、そうなんだけどさ」

「そうだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは学校に行きなさい」

「へーへー。わかりましたよ」

「わかったらよろしい」

 

 相変わらずこの兄妹は仲が良い。

 

 明日で比企谷くんは退院だ。私の所為で比企谷くんが入院して、治療の為の約3週間、私は毎日比企谷くんの病室に通いつめた。

 ノートを見せて、数学を教えるだけだと思ったら、比企谷くんについて色んなことがわかった。

 

 国語が得意で、数学が極端に苦手なこと。数学は私が教えた所だけでも出来るようになってくれたらいいな。

 

 一度他人に心を許したら、その人にはとても優しいこと。偶に来た、戸塚くんと材木座くんがいい例だろう。戸塚くんは言うまでも無いんだけど、材木座くんにだってそうだ。小説のダメ出しを、毎回なんだかんだ言ってもちゃんとやる。これが小町ちゃんから教わった、所謂捻デレという奴だろうか。

 

 わかりにくいけど、本当は誰よりも優しいこと。自分のことを省みないで他人を助けれるなんて、普通は出来ないと思う。

 

 一番印象に残ってるのは、彼は本物が欲しいこと。本物、これは彼にもなにかわからない。ここまで彼に踏み込んでしまったからだろうか、私も知りたい。彼の欲しがっている、本物が。

 

 本当に色んなことを知ることが出来た。

 日が経つにつれ、ここに来るのが楽しみになってきていた。

 それがもう終わりなんて……嫌だな。

 

 どうにかして、学校でも話せないかな。私は彼と一緒に居られる理由が欲しいのだ。

 

 どうしよう。ここでアクションを起こさなかったら、もう終わりな気がする。それは嫌だ。だから、勇気を出せ。頑張れ、私。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「ひ、比企谷くん」

「どうした」

「す、数学…どうするの?もう…やめる?」

「そうだな…」

 

 梓さんがお兄ちゃんに声を掛けた。声はとても震えていて、表情は凄く思い詰めているように見える。

 

「なんかコツを掴んだ気がするからな…。う〜ん、大吉がよければ、引き続き教えてくれないか」

「も、もちろんだよっ」

 

 少しビックリした。なぜなら、梓さんが急に大声を出したからだ。さっきとは打って変わって、安堵したような、嬉しそうな表情をしている。

 もしかして…もしかして…。

 

「じゃあ、いつどこでやる?」

「そうだな…大吉は希望あるか」

「私は特にないよ。いつでも、どこでもいいよ」

「じゃあ、昼休みにしよう」

「じゃあ、どこにする」

「俺が昼ご飯を食べてる所にしよう。そこで教えてくれないか」

「わかった」

「助かる。詳しいことはその時連絡するわ」

 

 えっ、お兄ちゃん、梓さんの連絡先知ってるの。これは驚きだ。

 あぁ、違う違う。今はこれよりも重要なことがあるんだ。お兄ちゃんのお陰で、いいパスも出たし、少し探りを入れてみよう。

 

「梓さん、その時にお兄ちゃんにお弁当、作ってもらえませんかね?」

「ええっ」

「小町、なに言ってんだ」

 

 そりゃ、小町だってこの質問はすごく厚かましくて、訳のわからないことを言ってるってことはわかってる。けど、こう質問して、その時の反応を見るのが多分一番手っ取り早い。

 

「どうですかね、梓さん?」

「小町、度が過ぎるぞ。大吉、悪いな。断ってくれて構わない」

「比企谷くん、大丈夫だよ。後、お弁当の話なんだけど、私は作ってきても構わないよ。あ、もちろん、比企谷くんがいいならね」

 

 やっぱり、この話を受けたか。予想通りだぜ。

 梓さん、平静を装ってるつもりでしょうけど、顔が少し赤いですよ。

 

「いや、いいよ。なんか悪いし」

 

 あぁ、その言い方はあんまりよろしくない。

 

「ひ、比企谷くんは私にそういうことされるの…迷惑……?」

 

 目がとても潤んでいて、少し泣きそうだ。そして、上目遣い。

 

 今の梓さんはとても魅力的で、色っぽい。男の子的にはとても庇護欲を唆られることだろう。

 

 さて、ここからお兄ちゃんはどう切り返すのか。これは見ものだ。なんか楽しくなって来た。

 

「いや…別に迷惑っていう訳でもないけど……お前、大変だろ」

「大丈夫だよ、それくらい。私、毎日自分でお弁当作ってるから全然大変じゃないし、一人分も二人分も対して変わらないよ」

 

 おぉ、案外素直に申し出を受け入れた。少し意外だ。

 後、お兄ちゃん、人と話す時はちゃんと相手の顔を見ようね。梓さんの上目遣いが可愛くて赤くなるのはいいけど、だからってそっぽを向かない。

 

「本当にいいのか?」

「何度も言わせないで。私が良いって言ったら良いの」

「わかったよ。じゃあ、数学と昼ご飯、頼んだ」

「任せといてっ。あ、じゃあ、お昼ご飯食べながら教えてあげるよ」

 

 あ〜、凄い幸せそうな表情だ。

 これはもう確定だね。

 

 あ、雪乃さんと結衣さんどうしよう。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「じゃあ、そろそろ帰るね」

「小町も帰ろっと」

「あぁ、確かにいい時間だな。気を付けて帰れよ」

「うん。またね、比企谷くん」

「バイバイ、お兄ちゃん」

「おう。今日も来てくれてありがとうな」

 

 そう言って、私は小町ちゃんと一緒に病室から出た。

 

 比企谷くんは入院生活が一週間を過ぎた辺りから、お見舞いに来てくれた人に対して、きちんとお礼を言うようになった。彼曰く、お見舞いに来てもらえるのは、凄く嬉しいらしい。

 

 はぁ〜、と安堵の息が漏れる。

 なぜなら、勇気を出したお陰で彼と一緒に居られる理由がまた手に入ったからだ。凄く緊張したな。

 

「梓さん梓さん」

「どうしたの?」

「先程は無理を言って、すいませんでした」

 

 小町ちゃんに呼ばれて振り向いてみると、急に頭を下げられた。え、頭を下げるってなんで?

 

「ええっ、どうしたの、小町ちゃん?」

「お弁当を作ってくれ、なんて急に言ってごめんなさい」

「頭を上げてよ。別にいいんだから」

「本当ですか?」

「大丈夫だよ。気にしてない」

 

 気を悪くしたりするもんか。むしろ、あの発言には助かった。あの発言がきっかけで、合法的に彼と一緒に昼食を摂れる。

 

「じゃあ、もう一ついいですか」

「何かな」

「梓さんって、お兄ちゃんのことどう思ってますか」

「えええっっっ、なな、なんでそんなことを聞くのっ?」

「梓さんはお兄ちゃんのことをどう思ってるんだろう、そう思ったからです」

「私がっ、比企谷くんのことをっ」

「どうなんですか」

 

 小町ちゃんの顔を見てみると、さっきまではしおらしかったのに、今はニヤニヤしながら私を見てくる。

 

「どうなんですか」

 

 ニヤニヤしながら言ってくる。

 

 私は考える。私は彼のことをどう思っているのかを。

 

 まず、間違いなく好感を持っている。私は、今まで男の子に対して好感を持つことはあっても、それでお終い。一緒にいたい、友達以上の関係になりたい、そんなことは思わなかった。それが彼にも当てはまるのか。全く当てはまらない。さっきだって、私は彼と一緒に居られる理由を探していた。

 

 つまり、私は……。

 

「好き、なのかな」

 

 あぁ、きっと私の顔は赤くなってるいるのだろう。いや、きっとじゃない。絶対だ。自覚していく内に、恥ずかしさが込み上げてくる。次に彼と会う時に、私はどんな顔をしていればいいんだろう。

 

 

 




いかがだったでしょうか。

早く八幡を退院させたい。今回で退院させるつもりだったのに。

ご指摘、ご要望があれば教えて下さい。

それでは、また。

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