幻想神刀想〜その刀、神に至りし者〜   作:梛木ユー

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【陰陽】春夏冬家の知恵所

 慧音に弾幕ごっこの練習の相手をしてもらった翌日、いつもの様に日の出とともに起きて日課の鍛錬をする。そしてちょうど鍛錬が終わるころに千秋が朝食の準備をしてくれる。いまだに寝ている姉を叩き起こし、朝食を食べる。

 

 ついでに出かける前に我が家の頭脳ともいえる…言いたくはないが、頭脳の陰陽師(ニート)の下へと行く。そんな憂鬱な感じになりつつも屋敷の奥一つの扉の前へと来る。

 

 

 

 

 

 あいつにノックなどというものはいらないので思いっきり扉をあけ放つ。部屋の中は薄暗く本来幻想郷(こちら)ではあることはないだろうはずの精密機器やテレビなどが置かれている。こちらでも意味があるのかわからないがルーターなどもおいてありコンピューター系統の物はほぼすべて置いてある。部屋の隅の方には本棚が置かれており様々な本が置かれている。

 

 

 

 そんな幻想郷では場違いな部屋の中央に置いてある机の上でPCゲームをしている、少女が一人。ヘッドフォンをして一人の世界に旅立っているようだ。

 

 

 

 少女の肩を叩き様子を見るも反応はない…ゲームに集中しているようだ。何度か同じことを試したが、反応が見られないのでヘッドフォンの元を抜き取る。

 

 

 

 すると、大音量でPCからゲームの音が漏れてくる。全く、いつものことながら少しは学習してほしいのだが…。少女はいきなりヘッドフォンから聞こえていた音が聞こえなくなり代わりにPCから聞こえてくる音に気づきこちらを振り返る。

 

 

 

 緋色のクセのある髪に緋色の瞳。髪は腰に届こうかというほどの長さでどうせ縛るなら全てまとめればいいのになぜか一房だけ縛っている。服装はなぜそのチョイスなのかわからないがセーラー服だ。全体を紺色を基調としスカートにはフリルが付いている。身長はさほど高くはなくその容姿の年齢に対し平均よりやや低めだろう。

 

 

 

 

 

「冬摩…なんどいえば理解してもらえるんだ。お願いだからゲームをするときの音量は気を付けてくれとあれほど言ったじゃないか」

 

 

 

 ニート…基冬摩と呼ばれた少女は、不満げな様子で顔をそらした。

 

 

 

『別によいじゃろうが…ここは(わらわ)の空間じゃ、世界なのじゃ。それに前来た時よりは小さくしておるわ』

 

 

 

「へーそれはどれくらいなんだ?ん?」

 

 

 

 少しすごみを効かせた調子で聞くと冬摩はしどろもどろしだし、また顔をそらした。

 

 

 

『そ、それはじゃな……』

 

 

 

 続く沈黙。それが答えだった。

 

 このダメダメニート少女だが、呪術、陰陽術等の扱いは家でもトップクラスだ。何せこいつは平安時代安倍晴明のライバルとしていた、蘆屋道満の亡霊なのだから。と自身が言ってはいるが俺はそこまで信用していない。何せ蘆屋道満は男のはずだ本人は家の事情でとか言ってはいるが俺からしたら半信半疑だ。

 

 

 

 因みに今は三宅冬摩と名乗っている。なんでもご先祖様につけてもらったのだとか。しかしこんなダメダメニートではあるが家の知識どころだ、俺の式紙もその元をつくってくれたり家の結界の維持などもしてくれている。で、なぜ俺がこんなところに来たのかというと、新しい式紙の為の御札をもらいに来たのだ。今後弾幕ごっこを挑まれることもあるかもしれない。そのためにもなるべく多めに持っていたいのだ。

 

 

 

「まあ、それはまた話すとしていつものくれよ。数は…百は欲しいかな頼むよ」

 

 

 

 『え……。何この間補充したばかりじゃろ、百とか…さすがに妾の在庫でも…』

 

 

 

 「なんだ…もしかしてないのか?」

 

 

 

 申し訳なさそうにうつむく冬摩、もしかして在庫がないとかそういうことなのか?いやきっとあるはずそうやって俺を騙すことなんて今までにも何回かあった。例えば、千秋が作ってくれたお菓子を隠して探させたのに結局お菓子は隠したのではなく冬摩が居間で食べていたというその時の俺と姉さんの怒りの心は今でも忘れない。

 

 しばらく黙って疑いのまなざしを向けているとやがてあきらめ観念したのか冬摩は肩をすくめた。

 

 

 

 『冗談じゃよ、百程度ならいつでも用意しているわ。何なら念をもって五百持って行くか?』

 

 

 

 にやにやと笑みを浮かべ余裕をかましている、正直うざい、とてもうざい。本気と書いてマジとよんで殴りたいこの笑顔。多分殴れないだろうけども…。

 

 ならばいいだろうあえて千頂いて行こうじゃないか。

 

 

 

 「なら、千枚でいいぞ、いや千枚くださいお願いします。かの蘆屋道満ともあろう術師がもしかして千枚の御札程度用意できないとでも?」

 

 

 

 軽い挑発をかましたら見事に釣れたようだ。一瞬固まったかと思うとプルプルと震えだして顔を真っ赤にして冬摩は『ふ、ふふ…この蘆屋道満に不可能はない!!!いいだろう千枚でも万枚でも持って行くがいいわ!!』そういうと同時に俺に向かって御札の束を投げつけてくる。

 

 

 

 それを、軽くかわしつつ必要な数だけ回収していく。五分くらいだろうか、大きく肩を揺らしながら顔を赤くしている冬摩がそこにいた。今回は勝った、その事実が自身に高揚感を与える。

 

 

 

「じゃあ、俺行くから。あとは自分でどうにかしていってくれよ先生」

 

 

 

『…っ!とっとと失せやがれクソがきーーーー!!!』

 

 

 

 冬摩の怒声を背に札が散乱した部屋から出ていく。部屋の外にはまるでこうなることを理解していたのか千秋がいた。その手には冬馬の好きなコーラが注がれているグラスがある。もう片方には部屋に散らかった札を片付けるための道具を持って。

 

 

 

「千秋…すまないな…」

 

 

 

『そうおっしゃるなら冬摩を怒らせないで下さい。なだめるのにも一苦労なのですから』

 

 

 

「ははは。それは無理」

 

 

 

 千秋の溜息が聞こえるが無視だ無視、あれは一種のコミュニケーション(俺がそう思っているだけ)だからな。まあ、ほんとに嫌われたら部屋には入れないし、なんだかんだ言って楽しんでくれているのだろう。さあ、慧音も待っているから早くいかないと。

 

 

 

 蒼矢が出かけたあと、四季亭では壮年の燕尾服の男性が緋色の髪の少女をしばらくなだめるのに時間がかかりその男性が落ち着けたのは昼がすぎた頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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