幻想神刀想〜その刀、神に至りし者〜   作:梛木ユー

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【陰陽】春夏冬家の知恵所の前に本来入る予定だった話でした。普通に忘れていました。すいません。


【夢符】あの日の記憶

   夢を見た…いつ頃のだろうかまだ父様がいて母様も生きていたころだ。千秋も今よりは柔らかい表情だった。あの時は幸せでいっぱいだった。朝早くに起きて父様、姉さんと一緒に朝の訓練をする。秋と母様で朝ごはんの用意をしていてくれて家族全員で食卓を囲んでいた。毎日が幸せだった。

 

   あの日が来るまでは……

 

 

 

 

 

 そう、あの日はいつものように変わらない日でいつもと何処か違う一日だった。

 

 例えば、千秋が何処か暗い表情だったり。母様もどことなく何かを憂いているようなそんな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 夜になって、いつもの様に寝ようとしたところそいつはやって来た。縁側から侵入したのかいきなり現れたと思ったら俺を庭へと蹴り飛ばし道場へと向かって行った。反応出来なかった、何よりもそのことを悔いながら意識を失った。

 

 

 

 気が付くと目の前で父様とナニカが戦っていた、父様はすごい勢いで攻撃するもすべてがいなされていた。きりがないと思ったのか刀を構えさっきよりも速い速度で斬りかかった。しかし、それさえもナニカはいなしそして父様の持つ刀を弾き飛ばした。そしてナニカは一瞬で距離を詰めると父様の胸元に刀を向け心臓を狙い貫いた。

 

 

 

 

 その間俺は見ていることしかできなかった。まるで身体が一本の刀になってしまったかのように。そしてそのナニカが持つ一振りの刀が父様を貫く瞬間を。「父様!!」声をかけるも届かないことはわかっていた。いくら半妖とは言え心臓を疲れたらひとたまりも無い。ナニカは俺を一瞥すると直ぐに姿を消した。父様は倒れてからもわずかに意識があった様でこちらを見つめて手を伸ばすとそこから柔らかな光が俺に向けられ身体を包んだ、すると段々と意識が薄れていき気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

そして気が付いた後知ったことだったが…母様もその日死んでいた…正しくはナニカに殺されたと思われる。父様の元へ行く前に殺されていたのだろう。姉様は千秋と共にいたようで無事だった。警察は何もしなかった。結局二年で捜査を打ち切りにして去っていった。

 姉さんは頑張った。春夏冬の当主として、たった一人の家族として、姉として…。俺も頑張った…もし、もう一度ナニカが現れても彼奴が現れても…そう、一瞬で殺せる様に。姉さんを奪わせはしない。姉さんだけは奪わせてはならない。

 

 

 

 「蒼矢…蒼矢…起きて蒼矢…」

 

 

 

 なんだい姉さん…朝起きるのは五分待つっていう約束だろ…

 

 

 

 「おきろ!蒼矢!!」

 

 

 

 再度呼びかける声とともに額に衝撃を受け意識が覚醒する。

 

 目を覚ますとそこにいたのは姉…ではなく心配そうにこちらを見る上白沢女史であった。では、先程の額への衝撃はなんだろうか…。それと微かに女史の額が赤い気がする。

 

 

 

 

 

 「ああ、大丈夫ですよ。それより上白沢…女史は大丈夫ですか?」

 

 「ああ、大丈夫だ、これでも半妖だからな。それに上白沢なんて他人行儀ではなく慧音とでも呼んでくれて構わないのだが…」

 

 「え?はい、上白…慧音がそういうならそれでもいいで…いいけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 ダメだ先程の衝撃のせいなのかまだ頭がフラフラする。だからか口調も安定しないな。

 

 しかし、見た限り…慧音の様子も問題なさそうなのでよかった。しかし慧音の額が赤いのは何故だろうか…知らない方が幸せな気がする。

 

 

 

 

 

 いつまでも地べたに寝転がっていても良くないので起き上がる。その時に足に激痛が走るも我慢できないほどではないので我慢する。しかし、慧音に気づかれたのか慧音は、怪訝そうな顔つきでこちらを見てくる。

 

 

 

 

 

 「ほんとに大丈夫か?何やら足が痛そうだが」

 

 「ああ、大丈夫、大丈夫。いつものことだから暫くしたら治るさ、い、痛!」

 

 

 

 立ち上がる際に激痛が走る。

 

 

 

 「やはり、足を痛めているのだな!それならそうと無理をするな!全く…」

 

 

 

 

 

 どうやらカマをかけられたようだ。バレては仕方ないので大人しく慧音に支えられる。因みに慧音に起こされてからは時間の断ち切りをすでにやめている。後は慧音に軽く治療をしてもらったら、さっさと家に帰らねば、姉さんに小言を言われてしまう。

 

 

 

 「慧音いろいろとありがとう、このお礼はまたする」

 

 「別にかまわないさ、無理にお礼はしなくても」

 

 「そうはいかない、近いうちに必ずお礼がしたい」

 

 

 

 

 

 本当にいいのだがな…と慧音は困った様に笑った。少ししつこいだろうか、本当に感謝しているのだがな。どうしたらいいだろうか。慧音は一つ思いついたように、それなら、明日にでも私が人里を案内するから、代わりといっては何だがそこで一つおごってもらう、というのはどうだろうか。

 

 彼女の妥協案なのか、人里の案内の代わりにおごってもらうという、それではお礼をしたいこちらとしては本末転倒な妥協案だった。

 

 

 

 

 

 

 

 それでは、意味がないのに。いやでもこれが幻想郷の人里の守護者の姿なのだろう。普通であればそんなことはしないだろうに、会って初日の男に傷が残らないとはいえ弾幕ごっこの練習につき合わされたというのに…。

 

 それでも、慧音が納得するのであれば別にお礼としては及第点だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わかった、じゃあ明日ここに来ればいいのか?」

 

 「ああ、明日はちょうど寺子屋も休みだからな、時間はそうだな…なるべくたくさん見てほしいから朝早めに来てもらえれば構わない」

 

 「わかった。一応事前に式を一つ飛ばそう場所は覚えたしな」

 

 「そうかそれは助かる」

 

 

 

 

 

 

 

  それじゃあ、というと同時に我が家に向けて飛翔する。行きと違うのは、そろそろ晩御飯が出来るから早めに帰らねばならないという問題があるから。仕方なしだ、仮に歩いて帰って晩飯にあり付けなかったなどというのは勘弁してもらいたいし。

 

 一気に速度を出して家へと急ぐ。千秋が今日は少し豪勢にした晩御飯を用意すると言っていた、早くしないと姉さんがすべて食べてしまうかもしれない。それだけは阻止しなくてはという謎思考に包まれたまま家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 晩御飯に間に合えたかどうか、そこはどうでもいいので語らない。ただ四季亭でその日ひとりの男の泣く声が聞こえたそうな。

 

 


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