香霖堂を離れてしばらく歩き続けていたら人里が見えてきた。人里は江戸時代風の建物が多く立ち並んでいた。非常に活気にあふれたところだと思う。外ではここまで活気にあふれたところはないだろう。
さて、人里に来たはいいがどうしようか。などと考えつつとりあえず小腹がすいたので茶屋に入る。
「すいませーん、団子くださーい」
「あいよ、団子だね」
茶屋のおばちゃんは俺が出した声よりもさらに大きな声で答えた。さすがに少し驚いてしまった。
「お兄さん見ない顔だね、はい団子だよ」
「ええ、最近こっちに来たので」
「そうかい、なら一度寺子屋に行くといい、そこに住んでいる先生がこっちの事いろいろ教えてくれるだろうからね」
「ありがとうございます」
「そう思ってくれるならこれからもうちを利用しておくれ」
そういうと茶屋のおばちゃんは店の中に入っていった。正直、こっちの事は賢者の式に聞いたので問題ないのだがせっかくだからその寺子屋によってみよう。そう決めると団子をすぐに胃の中にしまい込み寺子屋を探す。
十分程かかったが目的の寺子屋についた。しかし、今はお昼は過ぎたとはいえ寺子屋である以上、学校とさほど変わらないのだから人里の子供たちが授業をしている時間帯である。少なくとも夕方になるくらいまでは待っていなければならない。
今は、よく晴れたお昼過ぎ風も吹いてはいるが心地よい程度。つまり、絶好の昼寝日和である。ここで昼寝をしないやつは人間ではない。
なので、寺子屋の少し離れたところに寝転がり昼寝をする。あとは睡魔に身を任せるだけだ。ほら、やってきた…。そこで俺は意識を手放した。
…………、一時間ほど寝ていただろうか。何やら騒ぎ声が聞こえる。というか騒いでいる。しかし、完全に寝るつもりはなかったのにまさか一時間も無警戒で過ごすとは…。
もし、ここに姉さんがいたら斬り殺されていただろう。これは比喩ではないし誇張しているつもりもない。俺の姉というのはそういう人間なのだ。人が気持ちよく寝ていたかと思うといきなり竹刀で頭をはたいてくるし。今では寝ていても常に周囲の警戒だけはしているのでよけることはできるが、昔はよく竹刀ではたかれていた。最初のころは多分はたいても手加減をしていたのだろう。今では俺がよけるものだから本気で撃ってくる。しかもその竹刀斬れ味が本物と同じなのでいろいろおかしい。
なんて、どうでもいいことを考えながら目を覚ます。すると、目の前で野を駆け回って遊ぶ子供達…ではなく、子供達より一歩前に出て俺の様子をうかがっている女性がいた。
その女性は腰まで届こうかというまで長い、青のメッシュが入った銀髪で頭の頂に赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せている。
服装は胸元が大きく開き上下が一体になっている青い服で袖は短く白。今は春だが少し肌寒くはないのだろうか。襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っていて胸元に赤のリボン。
スカート部分には幾重にも重なった白のレースが付いている。イメージとして一言でいうなら清楚が最も当てはまるだろう。
「お前は何をしにここに来た?そして何者だ」
返答次第ではただでは済まさないというのが感じることが出来る、女性の言葉に少々詰まる。何をしにと言われても暇をつぶしにとしか言えないし、何者と聞かれてもつい最近というか今日来たばかりのただの半妖だとしか言えない。
「ほう、つまり暇をつぶしに子供たちを襲いにきた、半妖と言う事か」
あれ、どうやら口から洩れていたようだ。
「ならば問答無用、覚悟しろ!!」
そういうや否や、銀髪女性は何やら紙を取り出すと宣言をする。それと同時に子供達も距離を取り銀髪女性を見守り応援をしている。
「スペルカード!産霊「ファーストピラミッド」」
すると、彼女の周囲に三角形に布陣を組んだ魔法陣から丸弾を撃たせ、さらに俺めがけて大玉を三方向に発射してきた。
「ちょ、ま」
当たりそうな弾幕は刀で切り落としよけていく。なんとかすべての弾幕をかわし切り、体勢を立て直す。
『春夏冬流 閃華』
使いなれた技である春夏冬流閃華、刀を正眼に構えて撃ちだすこの技は連続で敵に向けて斬り付ける。それはまるで一瞬の間に咲き乱れる華の様に。俺はそこに霊力を込めて弾幕として撃ち出した。
銀髪女性は避けようと動こうとするがそうはさせない。閃華を撃つ順番を変えて外から左右への退路を断つように弾幕を放ち一瞬遅れて真ん中への斬撃が飛ぶ。
よけられないとわかるとスペルカードを取り出し宣言をする。
「スペル、野符「将門クライシス」!!」
左右にそれぞれ三つの魔法陣を配置して回転させ、そこからの弾幕と自身も弾幕を放ち相殺する。
「待ってくれ、別に子供たちを襲うつもりでもないし、ここに来たのは人里の人にこちらの事を聞くといいと言われたから来ただけだ」
「なに!?」
そういうと銀髪女性は立ち止った。
「つまり子供達を襲いに来たわけではないのだな」
「ああそうだ」
「そうか」
そういうと、彼女は戦意を収めた。なので刀を鞘に納める。
「先ほどはすまなかったこちらの早とちりだったようだ。私の名前は
「いや、こちらも疑われても仕方のないことだから。俺の名前は
「蒼矢か今はまだ授業が残っているから話はあとでもいいかな」
「ああ、構わないここで待っているよ」
「そうか、ではあと二時間ほど待ってくれ」
そういうと銀髪女性基上白沢慧音は寺子屋の中に子供達を連れて戻っていく。さて、あと二時間どうしようか。
瞑想でもしてるかな。そうきめて、さっそく瞑想を始めて上白沢女史の授業が終わるまでの時間をつぶす。
暇つぶしに来たけどまあまあ楽しめそうだな。
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