幻想神刀想〜その刀、神に至りし者〜   作:梛木ユー

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【冥符】いざ白玉楼へ

 伊吹萃香の異変は後に稗田家が幻想郷縁起に霧の鬼異変と名付けられた。これは博麗の巫女がそうするように言ったようだ。当初稗田家としては三日起きに宴会を起こす異変と名付けるつもりだったようだが首謀者の伊吹萃香が博麗の巫女を初め数人の人間を霧の空間に閉じ込めてきたからとのことらしい。また何故か首謀者である伊吹萃香は博麗神社に住み着いたらしい。本人曰く本当は違うところがよかったんだけどねー、とのことである、違うところとは一体どこに住み着くつもりだったのだろうか…。

 

 ────

 「納得がいかねぇーなんで私の名前がまたないんだよ!」

 

 

 「知らないわよ、書いたのはあの天狗なんだから文句があるなら言ってくればいいじゃない。」

 

 

 文々。新聞を片手で掴みながら振り回す魔理沙と特にどうでも良さそうな博麗。異変が終わってから数日が経ち三日起きに宴会が行われることはなくなった。首謀者である萃香(そう呼ぶように言われた)は博麗神社の屋根の上で昼間からだというのに酒盛りをしている。あの異変からは考えられないほどおとなしくなっているが本人は満足しているのか博麗も特に気にせず萃香の居候を黙認している——————————様に見える。本音は多分いちいち追い出そうとするのが面倒になったのだろう。

 

「よし、蒼矢も一緒についてこい!あの天狗に文句言いにいくぞ!」

 

 

「え?っておい引っ張るなって、それに射命丸がどこにいるかなんてわからないだろ。あと天狗なんだから追いかけっこしても追いつけるかわからないだろ」

 

 

「そんなの飛んでいれば見つかるって。いいからいくぞ」

 

 

「わかった!わかったから引っ張るな!」

 

 

 もはや俺がついて行くことは抗えないようで仕方なく魔理沙の後を追うようにして飛んで行く。おかしい、俺はただ単に姉さんに言われて博麗に菓子折りを届けに来ただけのはずなのにおかしい。それにあの天狗は少し————いやかなり苦手だ…この間の事のせいなのかもしれないし、ただ単にあの雰囲気が苦手なのかもしれない。あんな姿でもかなりの年月を生きてるっていうんだから不思議だ。妖怪という存在が精神的な存在だからと言われてしまえばなにも言えなくなるけど——————————俺もいつか歳をとっても今と変わらない姿のままいるのだろうか…。

 

 

 

 博麗神社からとりあえず人里の方向を目指し射命丸が現れそうな場所を回って行く事になった。白玉楼→紅魔館→人里という経路でとりあえず探すことにした魔理沙は善は急げと言わんばかりの速さで白玉楼へと飛んで行く、もちろん俺もきちんとついて行っている。もちろん道中も一応は探しながら進んでいく。

 魔法の森を越えしばらくすると冥界への入口が見えてくる。何気に冥界に逝く————じゃなくて行くのは初めてなのでどんなところなのかとても気になっている。以前魔理沙は二刀流の庭師—————魂魄と異変で戦ったらしくいずれは一度どこかで手合わせしたいと考えてしまうのは剣の道にいる者としては仕方がないのではないだろうか。

 

 

 

 冥界に入ると外とは違い気温が少し低いのか涼しくなっている。魔理沙の後に続き飛んでいると和風の大きな門が見えてきた。魔理沙はまるで自分の家の様にどんどん進んでいく。しばらく白玉楼の中を歩いていると台所の方から何やら物音が聞こえてくるので魔理沙にもそのことを伝え近づいていく。台所には何やら料理をしている魂魄とたくさんの魂?がいた。

 

 

 

「よ!お邪魔してるぜ」

 

 

「勝手に入ってごめんな」

 

 

「魔理沙さん!?どうして平然と当たり前のようにここに居ることを聞いてもいいですか?蒼矢さんも…」

 

 

「ん?どうしてといわれてもなぁ。門が開いていたから入ってきただけだぜ。あ、これ少しもらえるか?お腹すいちゃって」

 

 

「実は魔理沙が天狗…射命丸を探していてな、いそうなところを探しているんだよ」

 

 

「なるほど…でしたらここにはいませんよ。特に今はね。後つまみ食いはだめです」

 

 

 魔理沙の答えに飽きれるように溜息を吐く魂魄、こうして料理をしていたのだから今はおそらく忙しいはず。そんな中こんなのが現れたらそれは溜息の一つや二つは出るわな。そんな魂魄には同情が禁じ得ない。しかしここにはいないのか…それになんだか魂魄は確実にいないことを知っているような口ぶりもしかして何か知っているのだろうか。

 

 

 

「なあ、何で今ここに射命丸がいないと断言できるんだ?何か魂魄は知っているのか?」

 

 

 

「私にはどこにいると言う事は言えませんが恐らく今の白玉楼には近づくことはありません。というか近づけません。何故なら——————————。」

 

 

 

『よぉぉむぅぅ!!!まだなのー!!』

 

 

 

「幽々子様がとてもお腹を空かせているからです。」

 

 

 

「な、なるほど」

 

 

 

 家にも同じような(大食らい)がいる為一瞬で理解できてしまった。仮に似たような状態の姉さんがいて今ここに天狗がいたら羽根に齧り付くぐらいは姉さんでもやらかしそうだしとても納得が出来てしまう。そうなるともう白玉楼には用はないのだが此処にはもう一人空腹を訴える魔法使いがいる。さて、どうしようか。

 

 

「いいんですよ、魔理沙さんと蒼矢さんの分が今更加わったとしても作る量からしたら誤差の範囲内です。ふふふ…」

 

 

 

 ま、まずい。あまりの量を作っていたからなのか魂魄は悟りの境地に達してしまっている。とても申し訳ないがお言葉に甘えていただくことにするが、せめて片付けくらいは手伝おうそう決めた俺だった。そうと決まると魂魄はお手伝いの魂達と共に追加の料理を瞬く間に作っていった。その光景に既視感を覚えてしまったのは仕方がないと思う。ただ違いを言うならば千秋の場合今の魂魄のような忙しさをあまり感じさせないところではないだろうか。

 

 

 

 「なあ蒼矢…」

 

 

 「なんだよ…」

 

 

 「妖夢って大変なんだな…」

 

 

 「ああ…」

 

 

 何がとは言わなかったが恐らく俺が思っていることと同じ事だろう。私には永遠にできそうにないぜ…なんていっている魔理沙だったが少しほんの少しだが羨ましそうに見えたのはきっと魂魄の立ち位置ではなく単純に料理の腕の上手さについてだろう。そうでなかったら俺は魔理沙との付き合い方を少し考えないといけなくなってしまう。

 

 

 作られた料理は魂達によって運ばれていく、途中手伝うべきか迷い魂魄に聞いたが一応客に当たるので手伝わせては幽々子様の顔に泥を塗ってしまうことになるからと断られた。普段食事をしているだろう部屋に行くとそこには目の前に御馳走を置かれお預けをくらっている西行寺幽々子がいた。目をまるで餓えた獣のように輝かせ待ってる姿はどこかの駄姉を彷彿とさせた。

 全ての料理の配膳が終わり運んできた魂達が去っていくと西行寺幽々子はこちらに気が付いたのか震える手をもう片方の手で押さえると顔に笑みをたたえ俺達の来訪を歓迎する。簡単なここに来た経緯を説明しようとすると手で制するようにした後、とりあえず食べ終えた後でもいいかしら?といった。それはきっと早く食べたいからではなくて冷めてしまう前に食べないともったいないという事だろう、きっと。

 従者である魂魄もいた方が食べ終えた後も話が早く進むと思い主である幽々子(そういうように言われた)に確認を取る。幽々子は気にしない様だったので魂魄も交えて昼食を頂くことにした。食事風景については普通だったと言う事にしておく、そうしないといけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
二章は魔理沙のお陰でもう少し続くようです。

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